闇の帝王殺害RTA any% ホモチャート   作:舞空術

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 語録を入れるのに苦労してるRTA、もう始まってる!ババババ

 

 

 画面では勤勉な学校生活を映しつつこれからの行動の方針を大雑把に解説していきます。中盤に差し掛かるころには閉心術の熟達にかかりきりになり、キャラクターを育成する余裕がなくなるので下級生で基礎ステータスの育成を済ませます。

 

 ホモチャートでは基本的に戦闘は発生しないのでステータス上げは一見ロスの塊のような行動です。しかしリドル君とのユウジョウ!を育むのは引き続きプレイを前提として組まれています。成績が悪いと容赦なく切られます。それに将来的に就職する死喰い人も実力がないと闇の魔術に呑まれて死にます。

 

 なので一年次のうちに最高効率レベルの育成環境を整えましょう。リドル君は自分の生まれについて探し回っている期間のみ、友好関係にあると共に切磋琢磨して勉学に励むことができます。貧しいけど優秀な模範生ですからね。たまに選択肢に即死トラップが埋まってますが、そこら辺の教師なんて目じゃないくらいの経験値をゲットできます。リドル君がこの勉強会を通して他者に魔法を教える才能を自覚し、DADAの教師を目指すようになる道もあるくらいです。ですが何もしないと勉強会は4年生を終えたタイミング強制で終了してしまいます。ヴォルデモートとして動くようになるからですね。

 

 そもそも闇の帝王と仲良くする意味は?ってところですが、その説明をする前に闇の帝王殺害RTAの状況を理解する必要がある。少し長くなるぞ。

 

 ぶっちゃけると、どこからが闇の帝王か問題ですね。ヴォルデモートが勢力を拡大する前に——特に分霊箱を作る前に殺害してしまいたいところですが、彼はまだトム・リドルであり、ヴォルデモートと名乗りだしてはいますが厳密にはまだヴォルデモートとは言えません。トム・リドルというホグワーツの生徒に過ぎません。

 

 どこからを闇の帝王とするのかは意見が分かれています。ヴォルデモートと名乗り始めてからという人もいれば、第ニ次魔法戦争をもって闇の帝王の誕生と考える人もいます。

 

 でも今回はRTAのレギュレーションがここって言ってる所さん!?で即座に殺害します。それはダンブルドア校長がヴォルデモートの求職を蹴った時です。

 

 その段階ですと分霊箱は5つです。それでもバリキツいコレ。

 

 ですがナギニ、ハリー・ポッターはまだ作られていませんし、レイブンクローの髪飾りは必要の部屋にない、スリザリンのロケットはまだ洞窟に隠されていない、ハッフルパフのカップはまだ金庫にはない。

 

 分かりますか?分霊箱の存在を知り、探し、破壊するという一連の流れのうち、探す手間が大幅にカットされているんですよ。まだ不死鳥の騎士団と闇祓いにストーカーされてないので積極的に分霊箱を隠す段階にはないんです。

 

 信頼を勝ち取った上で裏切れば分霊箱など恐るるに足りぬ!アホみたいなステータスの闇の帝王を想定したステータスを用意しなくていいんです!もし光の陣営で分霊箱を壊すならまずバジリスクの毒を用意するためにバジリスク討伐とかいうパーセルタングor分霊箱所持必須クソ高難度コンテンツがあるんですが無視出来るんです!

 

 闇の帝王の信頼を勝ち取るのに必要なステータスなら先程述べた勉強会にて好感度を稼ぎながら用意できます。これが同級生の強み。そしてなぜ主人公をホモにするのかと言いますと山より高く海より深い理由があるのですが、まあそれはまた追々。

 

 よし、好感度も充分なので、リドル君一緒にお勉強しようぜ!と誘います。……了承してもらえました!これで屈指の効率を誇るお勉強会が始まります。

 

 寮監のスラグホーン先生に許可を得て空き教室に入り浸りましょう。

 

 勉強会中に老け薬を調合しておきます。素材は学内で手に入るものなので気にしなくて大丈夫です。これはノクターン横丁に入るための薬ですね。純血なら親同伴で入れるのですが、親が忙しかったりそもそも親がノクターン横丁に用事がないと付き合ってくれなかったり、とにかく乱数に左右されてしまいます。もし使わなくても経験値は手に入るので微ロスですが安定を取りました。

 

 リドル君がいると魔法薬の調合にも補正が入るので、確定で作れるのがいいですね。

 

 今回は魔法薬学得意ではないので魔法薬の作成はこれっきりです。二人で覗き込みながら教科書を手に鍋を回す様子は微笑ましいですね。ここだけ見ればただの真面目な学生二人って感じなんですが。

 

 さてクリスマス休暇に入りました。ホモ君はお家に帰ります。じゃあな!

 

 帰ったらクリスマスプレゼントの購入を理由にダイアゴン横丁からノクターン横丁に行きましょ。ん、親は同伴してくれるみたいですね。老け薬を飲んだときに見れる主人公の老人グラフィック割と好きなのですが、今回は見れませんでした。

 

 わざわざノクターン横丁に行って買いたいのは透明マントでもキャビネット棚でもなく、魔法界の脱法モンエナ魔法薬ことバルッフィオの脳活性秘薬です。

 

 ここまで来て魔法薬ってマジ?って感じですが、下級生のうちに必要経験値を稼ごうとしたら必須です。バフはRPGの基本ですよ。これRPGじゃないけど。

 

 経験値を上げるドーピングアイテムは作るより買ったほうが圧倒的に早い、安い、うまあじ。それにノクターン横丁なので違法スレスレのドーピングをキメれます。ダイアゴン横丁で買う奮起薬はデカビタでノクターン横丁のはガチ魔剤です。ここぞとばかりに純血の坊ちゃんの資金力を見せつけてやりましょう。

 

 親はホモ君が買い占めているのを栄養ドリンクを買ってる感覚で勉強頑張ってるのねってのほほんとしてますね。節穴すぎる。そのままの親でいて。

 

 じゃあ本来の目的であるクリスマスプレゼント買いましょ。

 

 ホモ君は魅力のせいでオートにしててもけっこうな人数とクリスマスプレゼントを贈る関係になってます。プレイの都合上同級生より先輩のほうが多いので全力ごますり感が否めないですが、実際半分は当たっている。耳が痛い。プレゼントなんて一括で送ってしまいたいですが、リドル君が選択肢に出るまで地道にプレゼントを選びましょう。ブラック、ブラック、エイブリー、ゴイル……リドルはRだからこういう時面倒ですね……マルフォイ、マルシベール、ポッター……ポッター!?ちょ、かなり珍しい名前が出ました。交友関係の欄を見るにグリフィンドールのフリーモント先輩とは、図書館で本探しを手伝ってもらっただけの関係らしいです。変なフラグ踏んでたことになってなくてよかった。お礼を込めてクリスマスプレゼントとか良い子かよお前。RTAの都合でこんなもの!こんな、蛙チョコなんて!しか送れないのが心苦しいですね。

 

〈今年はトム・リドルに随分と世話になった。感謝の気持ちを込めてクリスマスプレゼントを選ぼう〉

 

 今回は資金に余裕があるので迷わず格別の贈り物を選択。

 

〈彼の好みは……魔法具だろうか〉

 

 趣向を凝らした贈り物だと追加で好感度が入るので手を加えてプレゼントしましょう。変身術得意を利用してプレゼントにラッピングを施しておきます。一方リドル君からのクリスマスプレゼントはありません。苦学生にたかるのはやめようね!

 

 ホモ君は家族団欒で休暇を過ごしますがどうでもいいので飛ばします。クリスマスプレゼントも好感度が知り合い〜友人程度ならRTAで使えるものはないので無視だ無視。家のしもべ妖精に処理を頼みます。

 

 ん、オート止まったな……?大丈夫か大丈夫か?強制イベントのようです。このタイミングだと家関連ですがなんでしょう。

 

「お前は立派な男に成長した。私はお前なら家宝を任せられるだろうと判断した。受け取りなさい」

〈モシットー家の家宝、【時詠みの懐中時計】を手に入れた〉

 

 家宝イベントを引いたみたいです。ふざけんな!(声だけ迫真)  36秒のロスです。その上捨てられないので手持ちを圧迫する、呪いの装備みたいなもんです。痛いですねこれは痛い。モシットー家の家宝イベントはノータッチだと4%の確率でしか貰えないので運が悪い。家宝イベントは純血の子息だとたまに発生します。モシットー家の家宝はただの懐中時計なので使える要素はありませんが。

 

 家によっては便利なものを貰えるんですが、ポッターの透明マントぐらい便利じゃないと短縮要素にはなりません。家宝というと原作の呪いの子で猛威をふるったルシウス蒐集後マルフォイは無限の可能性を秘めています……が、それをRTAをやるには求められる運とフラグ管理と判断力が人間の域ではないのでTASさん専用です。まず1週目でマルフォイ関連の人間になってそこから家宝を掘り出さなきゃいけないからね。

 

 さ、ホグワーツに帰ってまたお勉強しようぜ。

今度からは買った魔剤をキメて取り組みます。変態魔剤中毒者だとバレないように自室でこっそり飲んでおきましょ。

 

 あぁ^〜たまらねぇぜ。魔剤で経験値がドバーッと入りますね。

 

 ホモ君にはずっと薬漬け勉強漬けの青春を送ってもらいましょう。ホモ君には青春イベントも季節イベントもなにも関係ありません。オート中に可愛い女の子から告白されてますが断ってます。すまないがホモ以外は帰ってくれないか!同性愛だから勝手に断ってくれるのが指の関節にやさしい。

 

 おやリドル君は決闘の練習がしたいそうです。思いっきり校則違反なんですがそれは……。

 

 あ、いっすよ(快諾)

クリスマスプレゼントで好感度が稼げてる証拠です。

 

 決闘はお辞儀が大事。お辞儀をするのだポッター。

 

 肝心の決闘はどうあがいても勝てないので、経験値のために最初は強く当たって後は流れで。善戦すると調子に乗って……

 

サーペンソーティア(Serpensortia)

 

 よし、使いましたね。そのまま命令のためにリドルが使った蛇語を皮切りに戦闘は強制終了。蛇語に驚いて杖を下げてしまい、リドルの勝利に終わりました。ホモ君のあまりのドン引きに自分から使っておいてパーセルマウスは珍しいの?って驚いた顔をして聞いてきます。

 

「やはり蛇と会話できるのは魔法界でも稀なのか?」

 

〈「得難い才能であることは間違いないだろう。かのサラザール・スリザリンも同じ能力を持っていたという」〉

 

 ってことでリドル君のご先祖探しのイベントですね。蛇語は遺伝だよって言ってしまうと早期に秘密の部屋が開きますので、してはいけない(戒め)

 

 道具にされるような間違えた好感度稼ぎをしていると出ないイベントなので一安心です。2年生の末までに出ないならまずオート中にアカン行動をしてるのでリセットです。

 

 

 学年末試験は全部100点を取ります。リドル君に100点以上の点数を出されるので一位にはなれませんが、ご機嫌取りには効率が良いので点を取っておきましょう。トム・リドルもダンブルドアも優秀な人間を好みます。

 

 試験は呪文を使ったり筆記の選択肢を選んだり、珍しくRTAとしての技量が問われます。

 

 画面だと試験の操作が簡単そうに見えますね。学年末の試験は区間走しまくって、それでもやっぱり世界一位兄貴とは実力の差が大きく出ます。世界一位兄貴が闇の帝王殺害レギュを走った時はトム・リドルを抜いて学年一位を取ってますからね。リカバリも難しいリスクに合わない2F入力を安定とか人間じゃねぇよ。

 

 試験も終わり、一年生が終わりました。試験結果は2位でした。操作ミスがないのに表彰台に上がれないならステータス不足なのでリセットです(8敗)

 

 得意科目の変身術は学年一位を取れたのでダンブルドアからの評価が大きく上がりました。これは嬉しい。学校が再開して早々にイベントが起こせそうです。

 

 次年度の買い物のついでにまた魔剤を補充しておきます。一年生の時はガンマキリでしたが、あんまりキメすぎても肉体が壊れていくので、結果的に購入量はそこそこ止まりです。購入資金が足りない場合は学校で悪戯グッズやらを売って稼ぐこともありますがホモ君は純血の坊ちゃんなんでネグレクトされてない限りは買えるでしょう。ホモチャートではネグレクトされてた場合家の中にタイム短縮に使えるものがないとリセットしてます。

 

 

 二年生が始まりましたがやることは変わりませんね。世間的には二年生に上がって早々に第二次世界大戦が勃発して、マグル生まれの子が騒いだりしてます。なおリドル君は知ったこっちゃないとばかりに過ごしてます。そういうとこやぞ。

 

 

 

 予想通り最初の変身術の授業でダンブルドアに残るよう言われました。ダンブルドアはリドル君とつるんでるホモ君にも疑いの目を持つようになるので、光の陣営に寄せた回答をして疑いを晴らします。こ↑こ↓で最初の時に少しだけ稼いだ光の陣営ポイントがクッソ効いてきます。

 

「スラグホーン先生が嬉しそうに話してくれるんだが、最近よくリドルと勉強してるそうだね。彼は私が入学案内の手紙を渡した少年でね。マグル生まれということもあって——彼にしてみればお節介だろうが——少しばかり様子を聞きたいんだ」

 

〈「そういえば、スリザリンの同級生に生まれで絡まれていることがありましたね」〉

 

「それは大変だ。そんな生徒がいるなんて、こちらでも注意しておこう」

 

〈「ありがとうございます。驕りの過ぎる純血主義は見ていても不快ですから」〉

 

 かなり際どい回答を選択。もちろんホモ君はガチガチの純血主義の子供ですし、ホモ君自体も例にもれず質問の回答には純血主義者らしい選択肢が並びます。しかし先程異色の選択肢が一個現れましたね?光の陣営寄りかつ同性愛者だからこそ選べる選択肢です。お茶を濁すのにぴったり。

 

「リドルに()()()()()()()()()があったら遠慮なく言ってくれ」

 

〈「()()()あれば、その時は報告します」〉

 

「ああ、そうしてくれると嬉しいよ」

 

 

 はい、やり過ごしましたね。ダンブルドア先生のホモ君への警戒度は下げつつ、リドル君への警戒度は上げすぎないけど下げはしないようにコントロールしましょう。

 

 ちょっと早いですが、今回はここまで。

次回はホモ君がリドル君に惚れるところからスタートです。

 

 


 

 

  未成年の魔法使いが学校の外で魔法を使うことはできない。もし魔法の探究を望むのなら問題になるような行動は慎まなくてはならない。新入生としてホグワーツにやってきたトム・リドルは、常軌を逸した演技力によって持ちうる悪辣な本性を隠し通していた。

 

 しかし、努めて優等生らしく振舞うトム・リドルの栄華を邪魔するかのように注目を集める生徒がいた。

 

 その男は極めて勤勉で教師の覚えもよく、朴訥でありながらも抜け目なく自然とスリザリンに馴染んだ。ただ、トム・リドルの並々ならぬ観察力によってのみ、友を作ろうとはしない態度が違和感として残った。

 

 スリザリンの中には彼の取り巻きを希望するような行動を起こすものもいたが、相手にも気づかれぬようにやんわりと煙に巻いて距離を離す。談話室では同学年よりも上級生と話をしていることのほうが多い。当初、彼の秀でた頭脳では同級生と会話をすることに意義を見いだしていないのではないのかという見解を持ったリドルだったが、最終的にその評価は間違いであった。

 

 それを理解したのは馬鹿な人間がリドルに絡んできた時だ。どうやってうるさいハエを処分しようか考えを巡らせていたリドルを遮って、彼は馬鹿を転ばせた。

 

 まるで、僕が助けられたみたいじゃないか。

 

 リドルは能力なら間違いなく自分のほうが優っているという確信があった。彼が使ったウィンガーディアム・レビオーサの発音もまだ甘い。

 

 なのにトム・リドルの持ちえない生まれという一点で、明確な上下関係を敷かれたような瞬間。彼のしたお節介は、一瞬にして燃え上がるような憎悪に近い怒りをリドルにもたらした。

 

 リドルは感情のままに顔を睨んだ。しかし目線は交わることもなく、彼はそのままこともなげに去っていった。去り際に見えた横顔には義憤も憐憫もない。施しに思えた行動だったのだが何の感情も見えてこない冷たい表情に惑う。

 

 別の足音がして、ダンブルドアがこちらへ歩いていたことに気がつく。そこでやっと彼がこちらを見るダンブルドアに気づいていたということを察した。

 

 無視するのは優等生らしからぬ行為だが、本当の優等生ならばなにか説教じみたことを言い出すだろう。

 

 彼の目は空虚でしかなく、他者を慮る心を持ち合わせているようには思えなかった。優等生の上っ面を整えるための一振りに過ぎなかったのだろう。

 

 よくよく観察すれば年上と話す時——たとえ教師を相手にしていようとも、その男の目は冷めていた。同級生に心を開かないわけではなく、最初から誰にも心を許してはいないのだ。

 

 トム・リドルにはその男が孤独ではなく孤高に見えた。自らの成り立ちに他者を必要としない姿が、どこか自分と似通っているように映った。

 

似ていると他者に感じたのは生まれて初めてだ。

 

 一緒に勉強をするようになるとは思いもしなかった。彼の無駄口を叩くこともない静かで真剣な様子は、寮で上辺としてこしらえた同級生や先輩と暮らす姿とは違っていた。もし彼を知る者がリドルと共に勉強をする姿を見れば、表情の無さに驚いただろう。

 

 彼と共に勉強はするが、定型化した友達のような関係ではない。

 

 会えば挨拶を交わすが共に食事は取らないし、雑談もしない。互いの領域に踏み込ませはしないし踏み込むこともない。共に横に並ぶんではなく共に孤立している。

 

 奇怪だが、悪くはない。そう思えることすら意外だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法界で迎えるはじめてのクリスマスはトム・リドルになんの感傷を与えることもできなかった。ただクリスマスプレゼントとして送られてきたものの中にあった一枚の紙だけが、トム・リドルの口の端を吊り上げさせることに成功した。

 

 真っ白なカードからはクリスマスらしさというものが一切感じ取れない。定型的なメリークリスマスの言葉どころか差出人や宛先の名前すら記載されていない。

 

『親愛なる友へ』

 

 短く金色のフラクトゥールで書かれていただけだった。そのくせ誰からのプレゼントかは即座に理解できた。退屈そうな目をした男が考えそうなことは容易に想像がつく。

 

リドルは杖を当てて、小さく唱えた。

 

スペシアリス・レベリオ(Specialis Revelio)

 

 呪文を使うと、たちまちクリスマスカードからは水が染みだした。水はカードの文字を拐い、文字を閉じ込めながら球状に変化した。残ったカードは厚紙から金属製の丸い台座に色と形を変えて、中央にだけ軸を伸ばし、その上に水の球が収まる。

 

 水の中に浮かんだ文字は地名らしく、その証拠にゴドリックの谷やらアメリカ合衆国魔法議会やらの文字がある。やけに凝った作りの地球儀だった。マグルでの一般的な地球儀と比べるとかなり小さい。中央に鎮座しているのは手のひらほどの大きさだ。水の球はボールのように持つことができて、指を入れても割れたりはしない。

 

 アグアメンティを唱えれば水の球は体積を増す。ブラッジャーほどになったのを浮かせて回し、魔法界の地球儀を眺めた。マグルの地球儀と比べて場所も大雑把で地名も少ない。しかし、面白くないわけがなかった。金の文字を浮かべる水の球は美しく、山脈の凹凸を生む細波は光を絶え間なく反射する。

 

 憎らしいほどに見事なクリスマスプレゼントすら、他者を踏み込ませないくせに取り入るのが上手い彼らしいのだから憎めない。

 

 水で形作られた魔法世界をその手に納めながら、トム・リドルは友を思い浮かべて薄く笑った。

 

 


 

 

 

 おま○け的画面外過去

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドイツの山間にひっそりと聳え立つ屋敷が、一年に一度の賑わいを見せている。聖夜を前に小さな子供たちは雪の積もる庭で遊んではしゃぐ声を森に響かせた。おもちゃ遊びという年ではない子供たちは箒に乗っていたが、高く飛びすぎないように言いつけられていたので木々の間を縫うように飛んでいた。

 

 親族だけが立ち入ることを許される屋敷は幾重もの魔法で外界と遮断されている。煙突飛行ネットワークにすら登録されていないので、訪れるにも姿現しかポートキーを利用するしかない。

 

 親族で唯一国外に住んでいる夫婦とその一人息子が、案内役のしもべ妖精を伴って遅れて姿をあらわした。荷物を詰めすぎて少し歪んでいるトランクを玄関に音を立てて置く。到着するや否や夫婦は大人たちが集まっている部屋に駆けた。

 

 いつもは過保護なほど息子に干渉してくる両親だったが、屋敷で好きに過ごすようにとだけ言い残して扉を閉める。皆が真剣な顔をして話をしている様子がちらりとだけ見えた。剣呑な空気に違和感を持ち扉に耳を傾けたが、魔法がかけられているのか音はしなかった。もし杖があれば手段があったかもしれないが、未就学の子供にできることはない。突っ立っているわけにもいかないので踵を返すしかなかった。

 

 

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 暖炉に近いソファに座るシワだらけの老人が、重厚な目線で一族を見渡した。会合は時間をかけて過熱している。室内もまた蒸し暑くなっていた。杖を振るまでもなく、黙したまま魔法で暖炉の火を緩やかにしながら話の行方に耳を傾けていた。

 

「グリンデルバルドの才覚は本物でしょう」

「彼はその目で未来を識っている。どこまで正確かは知らないが、世情は彼の話が嘘では済まされないところまで来ている」

「マグルにはほとほと呆れたぞ!世界中を焦土にするほど短慮だったとは」

「予見された戦いは近づいている。今度も無事で済むなどという甘い考えを持てるなら、そもそも台頭しては来なかった」

「考えには反対だわ!魔法界が人間界を支配ですって!?なぜわたくしたちがマグルの世話をしなくてはならないの」

「闇祓いの動向はどうなってる?」

「グリンデルバルドどうこうの状態じゃないですよ。人間界のせいで大混乱……魔法省の弟に説明させましょう」

 

 そう言った男は手にした煙管から深く吸い、密度の高い白い煙を吐いた。煙は人の顔と思わしき形になり、怒りの表現を浮かべる。

 

「くそったれ!穢れた血どもめが!この繁忙期に好き勝手魔法を使いやがって!……あれ?そうだ、その、会合の日でしたね……。失礼、お見苦しいところを」

「いいえ、お気持ちはよく分かりますわ」

 

 話の先を促されると、白煙は混乱したドイツ魔法省の様子をありありと語った。国家社会主義ドイツ労働者党がユダヤ人にした行いは魔法界にまで影響を及ぼしている。たとえ人間界基準でユダヤ人に分類されようとも魔法族のユダヤ人は気にも留めないが、それがマグル生まれだと話は変わってくる。不当な扱いを受ける親族を救いたくてインペリオを使用した、マグル生まれの魔法族を捕らえるために闇祓いが出張している有り様だ。

 

 第一次世界大戦以降、マグル生まれや半純血による、そういった人間界への"正義"の行いが後を断たなかった。マグルと関係のある部署はマグル生まれが希望することが多い。今のドイツでは魔法界の存在を秘匿する誤報局の人間が、立場を悪用して正義に酔う始末だ。その義憤のために魔法族全体が危険に晒されるかもしれないのに。

 

 今や魔法事故惨事部だけでなく魔法省全体がマグルの世界に目を向けざるをえない。闇祓いは本業である闇の魔法使いを追いきれないでいた。

 

 自国の闇祓いはあてにならない。現状を言い表した端的な一言で空気がずんと重くなる。

 

「対抗できるのはダンブルドアだけだ……そっちで情報はあるか?」

 

 もっともダンブルドアに近い場所に住む夫婦に声がかかったが、首を振るだけだった。

 

「そちらに広まっているのとあまり変わらないよ。ダンブルドアは裏で手を回すことはあっても表立っては動く気配を見せない。闇祓いが必死になってるけどね。スキャマンダーには同情するよ」

「グリンデルバルドは賢い。利となれば、これまで通り恩恵は望める」

「そうだろうとも!彼は素晴らしい"闇の"魔法使いだ!」

「恐ろしいことですわ……」

「アレが世を支配してみろ!今は手を取り合う兄弟のようなフリをしているが、すぐにでも権力を振りかざして好きに振るまうぞ!その時になってから嘆いても遅い!」

「レストレンジの娘を見なよ、敵対すれば由緒ある純血でも関係なし、容赦なしだろ?彼がマグルを支配するのに飽いたらどうなるか……おお、恐ろしいね」

「だが彼奴に敵対した者の末路は知っておろう」

 

 会合の始まりから口を閉ざしていた老人がひとたび口を開けば室内は静まり返り、一族全ての瞳が一つに向けられた。

 

「モシットー家はグリンデルバルドに味方する。これは覆しようのない決定事項である。嘆かわしいことに信ずるに値するものは血の結束しか残っておらん。もはや正義だ悪だはクソの役にも立たん」

 

 反対の声はなかった。窓から斜陽が差す。外の子供も屋敷へ帰ってくる時間だ。

 

「……しかし、一つだけの結束では脆かろう。それ、やんちゃな末息子はマグル生まれと結婚したがっていたな?」

「教育が行き届かず、恥ずかしながら」

「よい、よい。この時代にはそこまでの貫く意思が必要じゃて。相手の娘は金に困った適当な純血の家に戸籍を移しておこう。しかし人は話をするものでもある。北米にでも就職してもらおうかの」

 

 老人が杖を振ると絵画が横に避け、金庫が現れた。のっそりと亀のように立ち上がり、持っていた杖を鍵穴に刺す。バターのように金庫の扉が溶けて、古書や羊皮紙の丸まったの、高さや大きさの異なった箱たちが、久々に埃っぽい空気から解放された。老人は中にあった箱の一つを抱えるように取り、末息子に授けるよう言いつけて渡した。それから老人はもう一つの小箱を取って、これまでダンブルドアの動向を渡してきたイギリスの夫婦に身体を向けた。夫婦は聡く、言わずとも察した顔をしている。

 

「そなたら一家はモシットーの中で孤立せよ。グリンデルバルドに与せず、ただブリテンの地にて全てを静観し、息を潜めよ。血を絶やすでない。何を言われてもこちらへ来る時に勘当されたと主張せよ」

「謹んでお受けしましょう」

「さて、儂の持つこれを餞別としようかの」

 

 はこから老人が取り出したのは、鈍く金色に光る懐中時計だった。複雑な魔法を秘めた時計は家宝として扱われるにふさわしいものであり、夫婦はそれを恭しい態度で受け取った。男系を重要視している一族の家系図をなぞると、長子の枝先に2組の夫婦が残っている。うち片方は子供に恵まれなかった。次の世代は、夫婦が繋いだ幼い一人息子が背負っている。血を継ぐに相応しいのはこの夫婦とその一人息子だと、懐中時計をもって密やかに告げられたのだ。

 

 時は限りある財産である、という一族の家訓を表すように懐中時計は小さな音をたてて針を動かしていた。

 


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