幻影戦記~氷と炎の鎮魂歌~   作:ロバート・こうじ

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UA500を突破しました。いつも読んでいただき、ありがとうございます。

今回は初の集団戦闘となります。上手く表現できていればと思います。

ただアンチ・ヘイト要素があります。ご注意くださいm(_ _)m


5話 第一層攻略戦

2022年12月3日

 

迷宮区といわれる道中の黒い石造りの洞窟は薄暗く、青色の炎の明かりが黒石を反射して、より不気味だった。あれから数分ほど経ち、ボス部屋に到着した。

道中はモンスターと戦闘したが前衛が速やかに片付け、目立つ被害はない。扉の前で手役者のディアベルは握りこぶしを胸の前で作り、メンバー全員に向かって叫んだ。

 

「皆、俺から言えることは、ただ一つ……勝とうぜ!!」

 

ディアベルは叫び、皆を激励した。キリトは集団の盛り上がりにディアベルのどこか引っかかる物言いに彼の心中を推し量りながら「盛り上げすぎじゃないか…」と呟いた。僕も同じ意見だ。初のボス戦は怖いしリラックスして戦闘したい者には手厳しいものだ…。

それに――

 

それ以上に敵前で士気を上げる行為は『恐怖心をリーダーのカリスマ性と錯覚させてリーダーの判断は全てと思わせるやり方であり、集団はそれを疑わずに従う』という無意識化を植え付ける。つまり個々の思考を単調にさせやすくして柔軟な対応をしにくくさせてしまう。彼の態度にユズルは怪しむ。皆の喝采で聞こえにくいが隣のアスナは「どうせなら移動中にやればいいのに…」と話し、ユズルとキリトは、声には出さず「「ごもっとも」」と同じことを思った。

 

 ディアベルはゆっくり扉を開く。中は真っ暗だが、辛うじて部屋の奥で鎮座する巨体が見えた。全てのプレイヤーが入り終わると、暗かった部屋に明かりが灯り、玉座に座っているコボルドの王は立ち上がり、その場から高く跳躍しプレイヤー達の前で着地する。

 

牛と馬の声を合わせたような雄叫びを上げると同時に三体の取り巻きも出現し、そのモンスターがボスであることを示すカーソルと名前、四本のHPゲージが出現した。

 

イルファング・ザ・コボルド・ロードの雄叫びはフロアに響き渡り、鼓膜を震わせるようなハウリングは攻略組に恐怖を植え付けるには十分だった。ソードスキル後の硬直状態に似た状況に陥った前衛は動けず、棒立ちとなる。その隙を見逃さないニ体の取り巻きは前衛に向けて襲いかかって――

 

「――ユズル!」

「――キリト!」

――これなかった。

 かけ声と同時に二人の剣がニ体の取り巻きを抑え込む。この戦陣を切る姿に攻略組は動揺する。キバオウは視線を二人に捉え、睨み付けたまま何も言わない。我に返ったディアベルは二人に遅れて号令をかける。

 

「突撃――開始!!」

 

ディアベルの号令と共にプレイヤー達は一斉に突撃した

 

 

 コボルドの王は、右手に持った斧を先頭の前衛に振り下ろした。分厚い盾がそれを受け止め、強烈な衝撃音が広間を揺らす。攻撃を受け止めてもダメージは蓄積していく。体力が半分程度になってくれば、ディアベルの号令で後衛と交代する。これを繰り返していけばコボルトのHPを少しずつ減らし、安全に倒せる作戦だ。

 キリト・アスナ・ユズルのパーティは周りの取り巻きを倒しつつ、ボスを倒すパーティをアシストする役割である。ボスを観察しつつ取り巻きの相手をしていく…

 

「アスナさん、スイッチ!」

「ええ!――ハァッ!!」

 

先制攻撃を仕掛けたとはいえ、取り巻きを倒し切れてはいない。敵の攻撃に合わせて後ろに後退した時に僕はアスナさんに合図を送る。アスナの細剣が取り巻きの喉元に突き刺さる。急所をつかれ、HPを全損した敵はポリゴンとなって消えた。

 

「ナイス!」

「よそ見しないで!次、来るわよ!」

 

彼女は汗の張り付いた顔を払い、周囲を見渡し、死角にいた別の取り巻きの攻撃を防ぐ。僕と同じ初心者であるはずだが、彼女の戦闘センスは頭一つ抜きんでていた。細剣から繰り出される神速のソードスキルの発動に周囲の索敵による情報判断能力。磨けば磨くだけ光り輝くダイヤの原石を見つけたような気さえ起きた。

 

「キリトくん、スイッチ!」

「おう!――おらぁ!」

 

アスナの攻撃を防いだ一瞬のスキを見て、キリトはアスナのいた場所と入れ替わり、取り巻きを切り刻む。急所をついていないが、HPを全損させていた。僕達のパーティはこれを繰り返していく……

 

 

イルファング・ザ・コボルド・ロードはHPバーが一つずつ減るたびに武器を入れ替え、攻撃を繰り返す。前衛にダメージを与えても、すぐに後衛と入れ替わり続ければ攻撃を防がれて体力を減らしても全快となって元通りになる。

 

――直接的な攻撃が通らない。

 

コボルトの王は負けじと、武器を横に大きく振る準備を始めた。

 

「範囲攻撃だ!散開しつつ後退!他はアシストに回れ!」

 

 ディアベルの指示により、パーティは後退していく。途中で取り巻きの退路妨害にあうが、アシストパーティによって難なく後退できた。攻撃は空をきり、スキルを使った代償に硬直状態となる。

 

「敵はすぐには動けない!攻撃をたたみかけろ!!」

「よし――いくぞ!」

 

 ディアベルの指示により、エギルも攻撃に加わりコボルトの体力を大きく削る。敵の硬直状態が回復したのを機に全快したパーティと交代する。コボルトの王はゲージが減るたびに攻撃が大振りになってきたことで、より体力を削りやすくなってきた……

 

 

数十分後、イルファング・ザ・コボルド・ロードの四本あったHPバーも最後の一本となった。コボルトの王は両手に装備していた武器を投げ捨てた。腰に装備していた武器の柄を持ち、それを引き抜こうとする。同時にディアベルは取り巻きを無視し、ボスに突進する。

 

「皆、下がれ!ここは俺が行く!」

 

 キリトはディアベルの様子を見ると同時に、ボスが持ち替えた武器を確認する。βテスター段階とは違い、【野太刀】を装備していた。野太刀は日本では【大太刃】と呼ばれ、ソードアートでは範囲攻撃の威力を増幅させる武器であった。唯一の弱点はその大きさ故に接近戦では小回りは効かずに十分なダメージを与えられない点……だが、今のディアベルの位置は範囲攻撃の射程範囲内だ。ボスは持ち替えつつ、範囲攻撃スキルを発動させる準備もしている。

 

「駄目だ!!全力で後ろに跳べっ!!」

 

悲痛を混ぜたキリトの叫び声もディアベルの全体重を預けた突進は止まらない――

 ここで剣を投げても趣味スキルのひとつ¨投擲¨スキルがなければボスには届かない。ならば走ってディアベルを突き飛ばしてしまおうならば距離が遠すぎて間に合わない……。

――ユズルは賭けにでた。すぐに持っていた剣を二週間前にトールバーナーのバーゲンセールで接近戦用に買った短刀に切り替える。短刀を落とし、ボスにめがけてハンドル部分を右足の甲で思いっきり蹴り上げた。

 

「――行っけぇ!!」

 

蹴り上げたナイフはイルファング・ザ・コボルド・ロードの右目に直撃し、死角からの攻撃に動揺したボスの攻撃は狙いが定まらない。野太刀の範囲攻撃は地面に当たり、その爆風でディアベルと前衛組は吹き飛んだ。

 

「――ぐはぁ!!」

「ディアベルはん!」

 

吹き飛ばされたディアベルはキバオウに受け止められる。直接攻撃を受けていない所が幸いして体力はイエローまで下がるが大事には至っていない。だが疑似であっても¨死¨を体験したせいか、ディアベルは放心していた。今の彼では全軍を任せて立て直すことはできない……

 

「行ける?キリト、アスナ」

「…あぁ」

「…えぇ」

 

 声掛けと同時に三人はコボルトの王に向かって突撃していく。これ以上の被害を抑えるにはボスを手早く倒す――

シンプルで分かりやすい作戦ではある反面、死亡率も高い難しい作戦だ。それでも、取り巻きを相手に前後交代を繰り返して身に着けた勘のおかけで大変とは思えない。何度も反復して生まれた自信があった。

 

「うぉぉぉお!」

「はぁぁぁぁあ!」

 

キリトとアスナはソードスキル発動で硬直状態にあるコボルトの王に攻撃を仕掛ける。ラストゲージで硬直状態も早まったせいか、普段より早く回復して反撃してきた。ギリギリの所で回避したがフードはボスの攻撃で破けてしまい、アスナの顔が見えるようになった。

 

「――くっ!」

 

 明るい栗毛を長く伸ばした、綺麗な少女だった――

アスナは破れたフードを気にせず、攻撃の手を緩めない。キリトもアスナに合わせてコボルトの王を両断する。相手も負けてはいない。二人の攻撃を振り払おうと野太刀を大振りしようとする。

 

「よそ見するな!獣風情が」

「―――ッ!!」

 

 言い捨てて、剣を片手に構えるユズルの身体が宙を舞う。

モンスターの右手首から左足まで駆け抜け、その途中、剣で切れる範囲内はコボルトの王の毛肌を滅多切りにしていく。コボルトの王は足場でチョロチョロと動き回るネズミに気を取られ、キリトとアスナの突進攻撃に気が付かなかった――

 

「「これで終わりだぁぁぁ!!」」

 

二人の突進攻撃をまともに受けたイルファング・ザ・コボルド・ロードはポリゴンとなって消え、『congratulation』と表示された。数時間にも感じる戦闘はここに終わる……

 

 

表示と同時に奥に現れた第二層への扉が開かれる。周りのプレイヤーも歓喜で満ち溢れていた。エギルは一仕事を終えた涼しい顔をしていた。キリトとアスナはお互いに一息ついたせいか、やりきった表情で地面に座り込む。ディアベルは放心状態から回復してプレイヤーにねぎらいの言葉をかけている。キバオウの方は逆上していた。

 

「ふざけんなや!」

 

キバオウが吠えた。

 

「何でディアベルはんにボスのこと、隠しとったんや!ワレ!!」

 

キバオウはユズルを指さし、大声で喚いた。

 

「…………は?」

「ワレはボスの使う武器や取り巻きの攻撃、知ってたやないか!それに、ボスドロップ目当てでディアベルはんを殺そうとしたやないか!!」」

 

 いったい、かれはなにをいっているんだ。僕自身はドロップアイテムを狙っていたわけではない。そもそも、ボスの武器を見破れたのはキリトのおかげだ。ボスを倒せたのはアスナのおかげだ。考えがまとまらないし、辻褄も合わない。

ユズルの気をよそに、キバオウの言葉は続く。

 

「ワイは見たで! ボスに向かって短刀を蹴り飛ばしたところを!あんなんスキルはβテスター以外はあり得ん!良いところを取りたくて言わなかったんやな!!」

「俺分かったぞ、こいつβテスターだ、だからボスのスキルとかを知ってたのか」

「だから、あんなスキルを持っていたんだ」

「そうかそうか」

 

 キバオウの言葉は伝染し、プレイヤー全体に暗雲が広がる。その内の一人が見当違いのとんでもない事を言い出す。

 

「分かったぞ、あいつはGMだ。奴を殺せばこのクソゲーから脱出できるぞ」

 

…誰かが言ったかは分からない。周囲のプレイヤーはユズルに視線を向ける。獣を狩る目つきに一瞬だけ怯むが何とか気持ちを整理する。ただひとつだけ言えることは―――

ここにいては危ない――感じたと同時に、

 

「そうだ、奴がGMだ!」

「殺せ!殺せぇ!」

 

周囲のプレイヤーに殺意が同調し、しまっていた武器を持ち直した。

 

「皆いったい何を言っているんだ!落ち着くんだ!」

「ふざけるな!ユズルがGMなわけがないだろ!!」

「何を言ってるの!?やめて!」

「皆、落ち着くんだ!!」

 

 ディアベルやキリト、アスナやエギルが弁解をしても、集団の声にかき消されて彼らには届かない……

 

「みな行くで!!ワイらの正義で、奴を殺したれ!!」

 

 キバオウの掛け声と同時に集団で突撃してきた。ユズルは素早く跳躍して第二層の扉に向けて駆け出していく。キリトの近くをすれ違った際に、

 

「絶対、生きる!!」

 

足は止めず、顔は向けず、一目散に走りぬいた。

 

 

「くそ!どこに消えやがった。」

「あっちのほうを探すぞ。」

 

 走り回っていた時に隠れるにはちょうどいい洞穴を見つけ、かき集めた石で入り口を塞いで隠れていた。少しでも動けば気配で見つかってしまう。動かずに敵が遠ざかるまでやり過ごすことにした。やがてプレイヤーの足音が聞こえなくなり、溜息をつく。

 

「…何で、何でこんなことになったんだろうな」

 

 まさか自分にβテスターのアンチを受けるだけでなく、GMという虚像(きょぞう)をも植え付けられた。これから先は、本気で殺そうとするプレイヤーに狙われ続ける。だからといって、僕が正当防衛で殺せば、GM説は濃厚となり、討伐隊を組まれる可能性があった。現時点で状況打破の考えはない。今はできることをしよう――

 

「まずは、クラインに連絡と」

 

最初にユズルはキリトではなく、生還の誓いをしたもう一人の兄貴分であるクラインにメッセージを書き込む。

 

『クライン、いきなりの突拍子もないことをかくけど、驚かないでね。第一層の攻略戦で僕にβテスターのアンチとGMの疑いがもたれている。勿論濡れ衣だけどね』

 

『キリトに至ってはその現場を目の前で目撃している。もしどこかで僕を弁解する発言をすれば、今度はキリトにGMの疑いの目を向けられる。だから、クラインはキリトに直接会って「黙っていてほしい」と話してほしい。攻略組に顔の割れていないクラインだから任せたい』

 

『最後だけど、僕は絶対に生き残る。三人で生還を誓った約束は破らないよ。ほとぼりが冷めてきたら、また連絡するね!』

 

一通りのメッセージを書いた後、一度手を止めて考え込む。その後、『長文、失礼』と付け加えて送信した。

 




無事にディアベルは生存しました。
 お読みいただき、ありがとうございます

エピソードゼロ:投稿優先の期待値調査

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