・オリ主の過去 0
・直葉のトラウマ 1
・恋のABC 1
となりました。
今のところではアインクラッド編一話登場の直葉の過去が優先順位は高そうです。
構想段階ですが、本作の彼女は原作での和人のような心を支えてくれる人はいません。そんな彼女が、何故ひたすらストイックに剣を握るのか、という感じです。
恋のABCは、完全にえっちぃ描写ですね。R-18を前提に書くか、R-15でギリギリの描写で書くかは検討中です(笑)
お時間があれば、ご回答よろしくお願いします( 一一)
巨大なボスモンスターの地鳴りはダイレクトに足に伝わり、興奮による挙動を抑えながらユズルは乾いた唇を舐めて湿らせた。プレイヤーに反応して襲い掛かってきたボスモンスターは日に躍り出た。日陰で見えなかったボスモンスターの全貌を知らしめることに他ならない。
「ディラララアアッ!!」
固有名は≪フィーラル・ワーダーチーフ≫別名は¨野蛮な獄吏長¨――その名前通りに人型のモンスターだ。しかし、同じ人間とは思えない姿をしている。
二メートル強の身体に全身の肌は黒ずんだ赤、異様に太くて長い腕には大きな斧を握り、頭を鋼鉄のマスクの奥では両眼が濁った黄色に発光している。
突進する五人のうち四人はボスを誘導し、レバーとは反対側に引き離す。残る一人は奥の壁に生えるレバーを操作し引き下げた。鈍い音が轟き、撤退組の眼前の鉄格子は上がり始めた。
十人全員が広場に入れば、先頭に立った風林火山の一人が、鉄棍を振りかざして叫ぶ。
「よぉっし、行くぞぉ!」
かけ声と同時にノーチラスとユズルは赤鎧の二人と一緒にボスに目掛けて突進した。ノーチラスはよりいっそう加速し、ボスに向かい突進スキルを発動させる。
「コイツは俺が引き受ける!」
左右四人に分かれた中央を突っ切り、剣先はボスの左足を抉った。膝を折った獄吏長は怒りで怒声を撒き散らして空気を震わせる。全身に凍える恐怖を感じたノーチラスは意識が遠のく気配を押し殺す。
――相手の一瞬のスキを逃さない
野蛮な獄吏長は膝を折ったまま両手斧を高々と振りかぶった。遠目で斧の斬撃の軌道を見据えたユズルは自分の分身を呼び出して交戦に加わる。曲線をえがいた剣は左手首を切り落とし、切り落とされた左手首は斧を握ったまま地面に突き刺さった。ボスの動きは一瞬止まる。その時間を利用して、ノーチラスは戦っていた仲間と合流して指示を出す。
「ボスは俺達が倒す!!だから、取り巻きを処理してくれ!」
「わ……分かった!」
再生した左手で突き刺さった斧を乱暴に引き抜いたワーダーチーフの左右に、合わせて五体の取り巻きを出現させる。ボスを相手にするパーティはノーチラス、ユズル、風林火山のメンバー二人とし、主街区で救援隊に参加したプレイヤーとユナは二人の取り巻きを相手にし、戦っていたプレイヤーと残りは三人の取り巻きを相手取り展開した。
攻略組の三人とレベルの高い彼でワーダーチーフの体力を削り続け、取り巻きは倒すか抑えていれば、安全に倒せる作戦だ。ノーチラスは似た敵と戦った事があり、相手の攻撃パターンは頭に入っていた。再び大きく斧を振りかぶるモーションを確認し、ノーチラスは叫ぶ。
「縦攻撃、来るぞ!回避して地面に突き刺さったら、集中攻撃!!」
直後に両手斧を振り降ろすも先ほどと全く同じモーションに余裕を持って見切る。斧を地面に食い込む。ボスに慣れているプレイヤーはその隙を見逃さない――
「今だ!ユズル、スイッチ!」
「了解!」
ノーチラスはユズルと交代し、一体の分身と一緒に切り込む。砂埃を無視して硬直状態の続く限り何度も切り刻んだ。やがて硬直を解除したワーダーチーフはお返しとばかりにユズルの分身に攻撃を仕掛ける。分身に攻撃した斧は地面に突き刺さり、再び硬直状態となった。
「よし!カル―、スイッチ!」
「おう!よそ見すんなぁ!!」
すかさず、風林火山のねじり鉢巻きの巨漢はソードスキルを叩き込む。衝撃で後ろに引きずられれば左右から風林火山の刺股使いオブトラとノーチラスのソードスキルが直撃した。青や黄色のエフェクトに合わせてワーダーチーフの二本あるHPゲージは一本まで減少する。ボスのHPを削り切る為に、風林火山の二人とノーチラスはボスに全意識を集中させた。
「これから倒せる…行ける!」
ノーチラスは剣を握り直して自身を鼓舞する。初めは意識が遠のく不安を感じていた。しかしながら、戦闘が軌道に乗ってからはその現象は出てはいない。戦う前にやってくれたユナのおまじないと存在が力を与えてくれていた。ノーチラスは逸る気持ちを抑えてボスと向き合う。だだ、ユズルはボスを睨み付けたまま
一
「…何だ…この嫌な予感は……」
ユズルは分身を戦わせている間にボスに対する違和感について考えていた。フィーラル・ワーダーチーフは大きい巨体のわりには攻撃パターンは斧による縦攻撃だけだ。巨体を活かす攻撃方法としては第一層で戦ったイルファング・ザ・コボルド・ロードの範囲攻撃は有効打となる。しかしながら、ワーダーチーフは単体攻撃のみだ。この程度の敵に助けを待っていた五人は追い込まれるものか、疑問に感じていた。いや、それだけではないか…。ユズルはさらに頭を回転させる。
第四十層のレストランで「助けてほしい」と言っていたプレイヤーは『敵の中に¨沈黙¨のデバフを持つ敵がいた』と話していた。取り巻きを見てもデバフを使う様子は見られない。であれば、そのスキルの持ち主はワーダーチーフかまだ出現していないモンスターの存在の可能性があった。そして、スキルを発動させて五人のプレイヤーに『¨沈黙¨デバブを与えた』と予想できる。だが一番の違和感はレバーから離脱する鉄格子までの距離三十メートルは離れている所だ。
一人では沈黙デバフ状態で追っ手を振り切りながら操作しての離脱は不可能に等しい。もし、一人のプレイヤーを犠牲にすることを前提にしたフィールドであれば、何かプレイヤーを確実に仕留める罠を張っているはずだ。限られた情報での推理をまとめ終えたユズルはノーチラスに話しかける。
「ボスに違和感がある…念のためいつでも状態異常回復ポーションを出せる準備をして!!皆には僕が伝える!」
「――え!?わ、分かった!!」
ノーチラスの返事を待たずにユズルはボス討伐から一旦離脱する。そして、プレイヤー全員に黄色い液体の入った小瓶である状態異常回復ポーションを一人一個あるかを確認する。持っていないプレイヤーには配布して全員持っていると確認できた。確認を終えて『これでどんな状態異常や強攻撃でも対応できる』と僕は安堵する。しかしながら、自分の予想は外れてくれる事を祈りながら再びノーチラス達の戦闘に加わった。
二
「よし!…もう少しだ!みんな、頑張ろう!!」
ノーチラスの声援に、仲間達は力強く応じた。フィーラル・ワーダーチーフとの戦いはノーチラスの作戦通りに推移していた。ワーダーチーフの隙を見付けては左右からソードスキルを撃ち込む。安全を優先して隙の少ない二連撃までに限定させていたので時間はかかっている。しかし、ここまで誰も致命的なダメージを受けてはいない。
無限沸きの取り巻きは、ユナを含めたメンバー同士で連携し合い、ボスと戦っているパーティに近づけさせなかった。順調に過ぎるほど順調に進んでいる。だがユズルの話していた¨沈黙¨デバフを発動する気配を見せない敵や単調すぎるボスの動きにノーチラスには気味の悪い違和感があった。
ボスのHPバーは一本に突入して黄色になっても、ノーチラスの不安は消えない。ボスの放った二連撃の単体攻撃を回避してソードスキルを放つ。ワーダーチーフのHPバーは黄色からオレンジへと変化していく。それを見ていた風林火山のオブトラはノーチラスに顔を向けて叫ぶ。
「赤で攻撃パターンが変わるかもだぜ!いったん離れるか!?」
「――っ!いったん後退!!ボスの攻撃パターンに注意しろ!!」
風林火山のオブトラとカル―は後退する。ユズルは分身に戦闘を任せて後退した。その間に分身の斬撃を受けたボスのHPゲージは赤色に突入する。ノーチラスは盾を、オブトラとカル―はそれぞれの武器を構え直した。目視ではボス自体に変化はない。その代わりに――
――ボス部屋全体に、錆びた鉄を擦る金属音を何重にも響き渡る。やがて壁の鉄格子は全て上にスライドし、その奥に収容されていた小型のモンスターが飛び降りてきた。取り巻きのモンスターとは同系列のではある。しかし、武器は血痕付き包丁を振り回しながら「ケ、ゲ、ゲ…」と口元を笑わせていた。壁の穴から現れたモンスターを合わせた総数は二十体……
「まじかよぉ…」
予想外の出来事にねじり鉢巻きをしたカル―はボスから注意を逸らす。その隙を見たワーダーチーフは身体を横に捻じる。地面を抉る低軌道で巨大な斧を振り回した。
「くうっ……!」
カル―を庇ったノーチラスは直接攻撃を盾で防ぐ。ワーダーチーフは力任せに盾ごとノーチラスとカル―を吹き飛ばした。範囲攻撃は取り巻きを相手にしていたプレイヤーを巻き込み、プレイヤーの身体は天地をひっくり返した。幸いにも即死する者はいない。だが、ノーチラスを含めた五人のプレイヤーに薄い緑色のスパークエフェクトが包み込む。
「(あれはたしか…行動不能……いや、麻痺だ!!)」
ノーチラスはすぐに状態異常回復ポーションを飲み込む。ポーションは飲んでから数秒をかけてゆっくりと回復していく。その間に二十体のモンスターを抑える部隊を編成しなければならない。現状でボスの攻撃を回避して戦えるプレイヤーはユナとユズルの二人だけだった。目の前では、範囲攻撃後の硬直から回復しつつあるワーダーチーフが、身体を起こしていた。残ったプレイヤーを集めても、相手の戦力の半分にも満たない。その上でワーダーチーフとの戦闘――勝ち目は無くなっていた。
ここにいる救援部隊は一瞬でそれを悟り、自分たちの命はここで潰えると思い知らされた。今日まで積み上げてきた自信は崩れ落ち、奮い立たせていた心は絶望に飲み込まれようとする。
「――諦めるな!!」
ユズルは剣を立てて叫ぶ。幻影のローブを解除し、素早さに特化した布装備に切り替える。顔を上げてみれば、長い髪を後ろに束ねた整った顔立ちをしたプレイヤーの姿が見えた。諦めに支配されていたプレイヤーの前で、自分の心を奮い立たせるように、歯を剥きだし、目を見開き、拷問吏を睨み返し、前を見て叫ぶ。
「ユナはノーチラスを守れ!ノーチラスは、ボスを倒せ!!そして――生きろ!!」
他のプレイヤーの声を無視してユズルは拷問吏に向けて走り出す。ただ、一人では全てのモンスターを引き付けられない。よって――
「(開発段階だけど)これでもくらえ!」
モンスターの群れに次々と花火を投げ入れて爆発させる。ユズルの血迷った行動に理解が追いつかない。瞬発的に「何をしているんだ」と全員は思ううちに、新たな驚愕に包まれた。爆発した花火の音に誘われてプレイヤーを攻撃していた拷問吏達は、攻撃をやめて振り向く。フードの奥で小さく光る計四十の目は、ユズルを捉える。二十体の拷問吏は武器を構え直す。中にはワーダーチーフもユズルを追いかけようと足を踏み出そうとしていた。
「行かせるか!」
「お前の相手はオレたちだ!」
大技ガードの衝撃から立ち直った風林火山の二人は、それぞれの武器でボスの両足を痛打する。あまりの痛さに「ディラアッ!」と叫んだボスは、攻撃対象を二人に絞り込む。走る速度を落とさずに花火を投げ続けているユズルに二十体の拷問吏は殺到していく。やがて、拷問吏の揺れ動く槍と包丁に遮られて見えなくなった。
ユナはオブトラとカル―と合流してワーダーチーフの攻撃をあしらい、硬調状態になった隙を攻撃する。しかし、ユズルを気にして精密性を欠いたユナの攻撃は決定打を与えきれていない。眩暈による意識を堪え、心の焦燥感を抑えて、ユナは風林火山の二人に呼びかけた。
「お…お願い!あの人を…ユズルを…助けて…」
二人は顔に不快苦悩を浮かべながらも、その場を離れなかった。
「ダメだ!まずはこっちを片付けないと!」
「ボスを倒さなければ、全滅する!」
二人は口々に叫び、ソードスキルを発動させてワーダーチーフを追い詰める。二人の判断は機能的に考えて正しい。ユズルは命を張って全ての取り巻きを遠くに誘導した。彼の繋げた時間を無駄にしてはいけない。風林火山の二人はボスに全意識を集中させる。
やがて、状態異常回復ポーションで全回復したノーチラスもボスに攻撃を仕掛けた。絶望に押しつぶされそうになったユナは風林火山の二人を睨み付けて怒りを抑える。そのままノーチラスと合わせてボスにソードスキルを叩き込んだ。
二人の猛攻を受けたフィーラル・ワーダーチーフは爆音と光を振りまいて爆散した。ユズルはモンスターに包囲されて等身は見えない。だが未だに金属音を響かせている辺り戦っているようだ。
「――よし!後はアイツに加勢すれば…」
「転移!!四十層ジェイレウム!!」
他のプレイヤーは持参していた回路結晶を使用する。ボスと戦って近い位置に固まっていた四人も青い光に包まれて死地を離脱した。ユナとノーチラスの最後に見た光景は、モンスターに囲まれてもなお戦い続ける彼の姿だった。
三
「…皆は離脱したのか」
ユズルは拷問吏二人を倒して転がりながら回避して誰もいない広場に移動する。元々は装備を切り替えなければ勝てない自分の弱さが招いたことだ。無理やりでも『仕方のない』と思うしかない。ゲージがオレンジ色なのを確認してからポーションを飲む。残り十八体と向き合う形で意識を集中させた。
「――さて、ここから先はR-18禁だな……
眼前の殺意、全員生存できた希望、取り残された怒りを全身に染み渡らせる。その間にこれまでの思い出が走馬灯に溢れ出た。
――キリトとクラインで義兄弟の契りを結んだ記憶
――月夜の黒猫団と騒いだ記憶
――ユナと数か月間、歌について話し合った記憶
――ユナとノーチラスで生存を誓った記憶
まだ花となって散るわけにはいかない。生きて必ず、皆と語り合う。心に青い炎を灯したユズルは突進と同時に、六体の分身を出現させる。戦いの場である広場は拷問吏達との乱戦に包まれた。敵を切り裂くうちに体力ゲージは黄色になるも、気にしない。ただ、笑みを浮かべて処理していく。ポリゴンとなって消える敵に快楽を感じつつ、拷問吏を一兵残らず殲滅させていった。
四
2023年10月18日(夕刻)
「ふざけんじゃねぇぞ!!テメェ!!」
四十層のジェイレウムは殺伐とした雰囲気に包まれていた。救出作戦の目的は『ダンジョンに閉じ込められた五人を救出する』故に達成している。しかし目的は達成しているにも関わらず誰一人として喜ぶ者はいない。風林火山のカル―は回路結晶を使用したプレイヤーの襟元を掴んでいた。オブトラは拳を握りしめてプレイヤーを睨み付けたまま動かない。ノーチラスは「なんで…」「どうして…」と両手を地に着けて泣くユナを慰めている。だが、彼の視線は結晶を使用したプレイヤーを睨み付けたままだ。
「まだ戦っている奴がいたんだぞ!!何で勝手に結晶を使った!」
「ふざけているのはお前の方だ!知らないのか!?彼奴は極悪プレイヤーだ!奴を消すということはアインクラッドの為なんだぞ!!助ける必要なんかないだろうが!」
襟を掴まれているプレイヤーはカル―の怒気を無視して答える。相手の皮肉を込めた自分勝手な言い合いにカル―は拳を振り上げる。圏内ではダメージや痛みを与えることはできない。しかし、目の前のプレイヤーを殴らずにはいられなかった。振り上げた拳は彼の頭上で止まる。振り下ろそうと力を入れても誰かに腕を掴まれて動かない。カル―は首だけを動かせば、巨体な大男が手首を掴んでいた。よく見れば彼は救出したプレイヤーの中の一人だ。
「――なにをしやがる…」
「私はコーバッツという。貴様はたかだか一人のプレイヤーの生き死に何故げんこつする。わが軍のプレイヤーを助けてくれたことには協力感謝しよう。だが、アインクラッド解放軍の掲げる正義として奴はいないほうが世のためだ」
コーバッツは『助けてもらうのは当然』とばかりに主張する。その様子に見かねたオブトラとノーチラスは「それが助けてもらった態度か!!」と言い合う。涙を浮かべるユナは「…ふざけないでよ」と低い声で言う。やがてゆっくりと立ち上がる。
「自分の都合ばっかり考えて何が解放よ!何が軍よ!――なにが正義よ!!」
「――フンッ!」
ユナは我慢できなかった。コーバッツの言う正義よりも二十体の拷問吏に囲まれてもなお希望を捨てずに激励した彼の方がよっぽど立派だった。勝手な偏見と倫理観で人を簡単に切り捨てるプレイヤーに胸の怒りを爆発させて叫ぶ。顔を真っ赤にして鼻息を荒くしたコーバッツは同じアインクラッド解放軍のプレイヤーと共にジェイレウムの主街区を後にする。しばらくして、一人のプレイヤーが近づいてきた。ノーチラスはすぐに店内に飛び込んできたプレイヤーと分かった。
「…なんかゴメン…ほんとうに…ゴメン…」
助けを請いたプレイヤーは頭を抱え込んで涙ぐむ。彼はそれ以上慰める言葉を思いつけずに立ち尽くしてしまう。しばらくして足を引きずりながら移動する仲間と一緒に宿屋に姿を消した。
五
「ユナ…落ち着いたか?」
「…エーくん…うん、良くなったかな…」
ノーチラスとユナは近くの宿屋を借りている。ノーチラス本人は本音ではしっかりとした宿を借りたかった。しかし、泣き崩れて立つ気力を失ったユナを支えながら歩くのは骨が折れる。現実世界でも落ち着くまで泣いている時の慰め方をしていた。だいぶ落ち着き、ユナはゆっくりと話せるようになっていた。
「僕はさ、驚いたよ…ユナがあんなに怒っているのは…初めて見た」
「私もだよ…なんであんなに怒ったのかな」
自分でも分からなかった。ただ言わなければ、彼と音楽について話し合った思い出や一緒にいて楽しかった思い出を全て穢されたままのような気がした。コーバッツの言葉で全身に針を刺されたような焼け付く痛みは消えてはいない。思い出しただけで全身を焦がす感覚に支配されそうだった。
「ねぇ…エーくんはユズルのことをどう思っているの?」
「…少し変わった人なのかな……。今日初めて会ったけど、世間が言う悪い奴には見えなかった」
ユナは「そうだよね」とぎこちない笑顔で答える。明らかにユナは無理をしていてもノーチラスは何も言わなかった。これ以上の言葉は幼馴染の心は耐えきれない。そう考えていた。だが幼馴染の心を癒す言葉は思いつかない。ノーチラスはうつむき、ふと自分の小指に結ばれたユナとユズルの髪の毛が目に入る。脳天から雷を討たれた衝撃にかられた。
「ユナ…ユズルは生きているかもしれない」
「……え?」
「ここで死んだプレイヤーは身に着けている鎧や剣も全てポリゴンとなって消える…それなら、小指に結んだ髪の毛は死んでいるなら消えるはずだ」
幼馴染の彼の言葉はじわじわと涙を溢れさせる。いくら拭っても涙は止まらない。目から溢れて頬をつたう水滴は乾いた床に落ちる。
「あぁ…良かった…よかったよぉえーくん」
ユズルは生きている。あの死地を抜けて生きている。それだけでも私には十分だった。
「大丈夫だ…ユズルとはまた会える気がする…その時まで二人で強くなろう」
「うん。――うん!」
二人は髪の巻き付いている小指で指切りげんまんをする。血盟騎士団所属のノーチラスとアイドルのユナ。そしてここにはいない仲間のユズル。立場は全く違う三人。
揃っていなくとも、心には仲間の存在を確かめ、再び廻り会う約束のために決意を固めた。
ユナが髪を抜くシーン、ノーチラスとユナの指切りげんまん
元ネタ:江戸時代に行われた心中願い 内容は色々ありますが、一番マイルドな表現にしています。
実際に二人は髪の毛でユズルの生存を確認しています。原作はフレンド登録画面で消えていなければ生存を確認できます。表現を変えている所はご了承ください。
エピソードゼロ:投稿優先の期待値調査
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