幻影戦記~氷と炎の鎮魂歌~   作:ロバート・こうじ

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タイトルがいつもと違うのは気にしないでください(;´・ω・)

アンケートの途中結果は……

・オリ主の過去  2
・直葉のトラウマ 2
・恋のABC     4

沢山の募集ありがとうございます。引き続き、継続していくのでよろしくお願いいたします。

前半部分は、【約束の日は遠のく】のエピローグです。
 


11話 クリスマスは空き巣に注意しろ

2023年10月18日(深夜)

 

全ての拷問吏を倒し終えたユズルは転移結晶で移動し、場所も名前も確認せずに、適当な宿屋を借りた。死地を超えた先に戸惑いと後悔しか残っていない。剣でモンスターとはいえ人型を切り倒すたびにいい知れない感覚に心を満たしていた。あの感覚は¨楽しい¨に近く、人を切ることに快感を覚えていた自分を認めたくなかった。キリトやクラインやユナに相談するには、心が血に染まった殺人鬼となり得た自分は邪魔者以外に他ならない。

 

「自分は殺人鬼になったのか……本当に世間の言う屑なのか……」

 

ベッドに腰掛けた僕は誰もいない空間に言葉を漏らす。自分は『誰かと協力し合えばどんな困難でも乗り越えられる』と思っていた。だから人を信じて行動してきた。だが、いくら人を信じていても結果はどうだ。その人に裏切られて窮地になるばかりだった。我慢していた溢れ出る負の感情を抑えきれずに流れ続ける。

 

「もう分からないな……笑ってヒトを殺せるニンゲンダからワカラナイや」

 

自分の悪評を変えようと動かない心の弱さ、努力しても越えられない強さの壁、どれだけ相手を思いやっても最後は裏切られる人心の闇の深さ。これまでにないほど負の感情に耐え切れなかった。

 

「誰にも頼れない……もう誰も、傷ついてほしくない」

 

初めは戸惑っていた決心は簡単に行動に移せた。ユズルはメニュー画面のフレンド登録リストを開く。そこにあるキリト、クライン、ユナの登録を一つずつ解除していった。暗がりの部屋でメニュー音は大きく聞こえる。これは自分への罰なのか、もう自分は人間ではなくなったのかは解らない。

 

 全てのフレンド登録を解除しても、その心の痛みは晴れない。ユズルの心は少しずつ、暗く、澱み、人心の闇に魅入られていた。

 

 

2023年12月20日(夕刻)

 

「結婚をほのめかしたプレイヤーキル?」

「アァ、なんか最近になって流行している殺しだナ」

 

第四九層ミュージェンで石造りのにぎやかな街で情報収集をしていた僕は片言で話す情報屋に疑問形で答える。木製のベンチに座り、ちらちらと降る雪に白い息を吐いて聞き返した。

ここ数ヶ月で心は重く、そして長い大きな檻に閉じ込められている。だから『目の前の人を救い続けていれば心の罪悪感を減らせる』と考えた。今は中間層ギルド向けにアイテムを商いしたり、ギルドの相談役や依頼をこなしたりして過ごしている。多くの人と情報を共有するうちにある疑念を確信に変えた。情報屋にその情報を伝える代わりに相手の情報を交換するビジネスで面会している。

 

片言しゃべりの情報屋から伝えられたプレイヤーキルの全紡はこうだ。ソードアート・オンラインにおいてケッコンシステムは『当事者同士の全データ共有』。つまり、相互にステータスを常時閲覧でき、アイテムストレージ及び所持コルが統合される。

 

しかし裏切りや詐欺が横行するデスゲームでは非常に危険な行為でもある。お互いにステータスを見せ合うということは弱点を晒すようなもの。また死別した場合はアイテム欄共有が解除された上で全アイテムは残った側に渡ってしまう。ケッコンシステムを後ろ盾にしたイケメンプレイヤーや美人プレイヤーは相手を誘惑してギルド内に溶け込む。後はモンスターで弱り切ったプレイヤーを自分と関わりのある第三者に襲わせてアイテムとコルを奪うというやり方だ。

 

「何でも、ケッコンシステム実装はデメリットの方ガ大きくても、人と繫がる証みたいな物だからナ。その気になったプレイヤーはコロッと騙されるものサ」

「……なるほどねぇ。現実で言うハニートラップと似た手口か」

 

やがて片言話の情報屋は笑みを浮かべて顔を近づける。ユズルは何も言わないが、不快な感じはしない。

 

「ニャハ、しかし、ユー坊には相手がいないからそんな心配はないかナ」

「そうでもない。今日はラッキーデーだよ……早いクリスマスだけど異性と過ごせるなんてね……それがアインクラッド有名人の¨鼠のアルゴ¨となれば、男達は黙っていないだろうねぇ」

「ニャハハーオネーさん口説くならもう少しマシな嘘つけ」

 

 ユズルの皮肉を込めて言った言葉を彼女はのらりくらりと(かわ)す。クリスマス目前で自愛の心が満ち溢れ、というわけにはいかなかった。ユズルは真剣な表情でアルゴをじぃと見つめる。

 

「こちらも情報を提供しようか…蘇生アイテムを持つボスの出現場所と日程が分かった。場所は三五層で日はクリスマス・イブだ」

「それハ、確かな情報カ?」

「他のプレイヤーから聞いた個々の情報で関連のある情報を結びつけた結論だ。信憑性は高い。それを聞いたうえでプレイヤーにはおススメしないように釘を刺してほしい」

 

アルゴはアイテムストレージから自分専用のガイドブックを具現化させる。一般プレイヤーの物とは異なり、付箋や別の紙を張り付けた膨らみのある本だ。パラパラと文字に目を通す彼女は先ほどの愛嬌のある少女とは思えない顔つきをしている。やがて手を止めて、執筆した文字を黙読する。その姿を見たユズルは一瞬だけアルゴの姿にユナの面影を見てしまった。僕は視線を逸らして歩くプレイヤーを眺める。彼女は自分のガイドブックを開きながら答えた。

 

「もしその情報が本当なラ…蘇生アイテムを狙っているギルドに襲われるナ。ここ最近なら【聖竜連合】と【アインクラッド解放軍】が不自然な行動をしているからナ…根回しは任せとケ」

「アルゴ、ありがとう」

 

アルゴはガイドブックに注釈を入れてからアイテムストレージに仕舞う。ユズルはやるべきことを終えて大きく深呼吸する。蘇生アイテムの争奪戦は過激で多くの死者を生むのは誰の目からみても明らかだった。プラスよりもマイナスの方が多い戦いは虚無感と敗北感しか残らない。『聖なるクリスマス』よりも『流血のクリスマス』と言えばしっくりくるイベントになってしまう。いずれにせよ、被害を抑えることはできそうだ。

 

「……それにしてもアインクラッド解放軍と聖竜連合ねぇ」

 

ちらちらと降る雪に頭は回らずに上空を見上げる。相変わらず悪質な行動をしていても、今は自分とは「似た者同士」だからと共感できる。そう思い、つい最近の出来事を思い浮かべていた。

 

 

 アインクラッド解放軍と聖竜連合は他のギルドからは恨みを持つ人も多い。特に聖竜連合は人員最大ギルドのドラゴンナイツ・ブリゲードと他のギルドとの合併、あるいは吸収によって誕生したと思われている新生ギルドだ。しかし急激な人員増加でギルドマスターや副リーダーの手を回せていない所では、一部で恐喝や恫喝を行い、やりたい放題をしている。僕はたまたま聖竜連合で商いをしていた時にディアベルに会い、その実態を知った。

 

「――!あなたはディアベルさんではないですか。どうもお久しぶりです」

「?君とはどこかで会ったかな。俺とは初対面なはずだが……」

「……一年前の第一層攻略戦で参加した時ですよ。あの時は色々ゴタゴタとしていましたから抜けていたでしょう」

「……そうか。もう一年も経つのか。今は聖竜連合で副リーダーを勤めているディアベルだ。よろしく」

 

簡単な自己紹介をしてからディアベルを通してユズルの聞かれた情報を答えてくれれば安くアイテムを提供する話をする交渉をすれば承諾してもらい、一般では得られない内部情報を知れた。ディアベルから聞いた話では自分のギルドの一部とアインクラッド解放軍の狩場に近づいたプレイヤーは攻撃され、それによるプレイヤーキルは名誉ある行為と認識されている。

 

どうやら両ギルドは、『誰よりもアインクラッドの開放を望む者の集まり』を掲げ、有効な狩場の独占や下層プレイヤーにコルの徴収を強制する等をしているが、ユズルにとっては謎だった。趣味スキルでもコルは稼げるのに…。釣った魚を料理した配給食販売や自作の高品質ポーションや結晶の販売は、売れ行きの波はあっても、製作費と合わせて黒字経営だ。下層は今日を生きるプレイヤーで精一杯で、攻略組に合わせたコルを徴収されては生きていけなくなってしまう。この時のユズルは思考を口には出さずに「ディアベルとは腐れ縁くらいにはなるだろうな」と思い、別れた。

 

 

「アルゴはどう?情報屋をしていれば人と会うだろうに。気になる男性や女性はいたか」

「それはナイナ。オレッちは相手の色恋沙汰には興味あるがナ。本当に知りたいナラコルを上乗せしてもらうゾ」

 

 このままお別れはあと味が悪い。クリスマスに沿った会話をしようとした。いつの時代でも恋バナの需要は高く、アルゴも例外ではないと思っていたが…無表情で返されてしまった。しかも下目使いでみられてしまい、養豚場の豚でもみるかのような冷たい眼をしている。ユズルは「アルゴに恋バナはタブーだったかぁ」と琴線に触れた後悔を誤魔化そうと答えた。

 

「……えぇと……その……うん……やめとく」

「…ヨロシイ。オネーさんの心を(もてあそ)んだ罪で監獄送りにしてやろうと思ったゾ」

「それは許してほしい。お詫びに食事を奢るよ」

「オレッちはそんなに安い女じゃないからナ。お店はユー坊が選んでクレ。センスを試してやるゾ」

「もちろんだよ」

 

僕は木製のベンチから立ち上がり、アルゴと一緒に三層のロービアの主街区まで転移する。転移した先はしとしと雨が静かに降っていた。

 

だがユズルにとっては好都合でありアンティークの家具一式を揃えたパスタ専門店を選ぶ。店内は木製の壁紙で統一された落ち着いた雰囲気を醸し出す。耳を澄まさなければ聞こえない控えめなクラシック音楽に雨音が心地よいハーモニーを作り出していた。NPCに窓際の席を案内してもらう。水路には街路灯でカラフルな家が反射して写されているから見栄えもいい。僕は海鮮パスタを選び、彼女はエビクリームパスタを注文する。当のアルゴは「やっぱり監獄行きナ」と笑顔で言い、パスタ料理を堪能していた。

 

 

2014年2月18日(早朝)

 

「今日は中層ギルドと下層プレイヤーを相手に商いしようかな」

 

 ユズルは呆然と一日のスケジュールを決める。冬も終わり、季節は温かい春の陽気を出し始めていた。昨年は最前線の森に籠り、森林伐採をし、油の染み込んだレア素材の木を伐採できた。それをマイホーム持ちのプレイヤーや中層ギルドに『冬越しに最適!冷えた家庭にこれ一本!!』をキャッチフレーズにした冬越しセットを販売すれば予想以上の売れ行きを記録した。ちょっとした小金持ちとなり、浮いた部分はコルの稼ぎにくいギルドやプレイヤーにアイテムを安く商売すれば±0となる。これでお互いに『WIN=WIN』関係となる商いを僕は大切にしていた。

 

午前中はシルバーフラグスのギルドから月夜の黒猫団を順番に、午後は第一層から第二十層のプレイヤーを訪問して行こうと決めた。

 

「シルバーフラグスの皆さん!こんばんはーアイテムの販売で来ましたー」

 

ユズルは中層ギルド【シルバーフラグス】の拠点にしている宿屋に顔を出す。この宿屋はコルの請求額は高い分、タンスや机の家財道具は一通り揃っている。ギルドホームを持たない時のつなぎ場所としてはうってつけで需要は高い。ユズルは大きい声で言ったつもりでいたが、人の返事はない。

 

「……?変だな。誰もいないなんて」

 

 普段は誰かしらギルドメンバーを待機させているだけに、誰もいない状況に首をかしげる。午前中の予定は月夜の黒猫団に行くだけだ。ユズルは時計を見て「まだ時間はあるな」と思い、宿屋の近くにあったベンチに腰を下ろして本を読んで時間を潰すことにした。やがてシルバーフラグスの一人が帰ってきた。しかし、男の様子はただ事ではない。武器は損傷し、普段は身に着けている鎧や兜は装備していなかった。

 

「――何かあったの」

 

 僕はなるべく落ち着いた口調で尋ねる。見知ったプレイヤーと知った彼は肩を震わし、瞳は揺らいでいる。話そうにも嗚咽し、吃音(きつおん)で「ろ……お、こ……」と聞き取れない。よほど強いストレスを抱えていると感じた僕は「落ち着いて」と相手の背中さすりながらアイテムストレージを操作して、ホットティーを用意する。彼は少しずつホットティーを嚥下(えんげ)し、半分は飲むも顔は俯いたまま表情を崩さない。未だにカップの端にホットティーの波が押し寄せる。やがて言葉を選ぶようにユズルに話した。

 

「ロザリアっていう奴に……俺達の仲間が……皆……殺されて、た、頼む!仲間の敵を取ってほしい……」

 

 プレイヤーは涙声で事の成り行きを話し始める。突然、「よければ体験入団させてもらえないかしら」と、艶のある女性が声をかけてきた。それから数日後にクエストを終えて疲弊している時にオレンジプレイヤーたちが襲来し、彼以外のシルバーフラグスのメンバーを皆殺しにしたという。

 

「……分かった。その依頼を受けよう。それで、僕はどうすればいいの」

「ここに回路結晶がある。これでロザリアと関わったプレイヤー全員、監獄に入れて欲しいんだ」

 

 中層ギルドで回路結晶は高嶺(たかね)の花のはずだ。彼は自分のギルドの持ち物を売り払ったコルで買ったと話す。ユズルは彼の本気に気後れした。すぐに表情を切り替えていつものように応える。

 

「了解。そうだった!以前払い忘れた代金を返すね」

 

 僕はとぼけたフリをしてからメニュー画面を開く。そこから二万コルほどをプレイヤーに返した。

 

「――!こんなに!あんたの所でこんな払いミスはなかったはずだぞ」

「いや、ここにいないプレイヤーが買った時のお釣りだよ。一応依頼料から差し引いた額だから安心してほしい」

 

彼は驚いてコルを返そうとするも、僕の話を聞いて放心していた。買った時のお釣りの話は嘘で彼らは払いミスなどしていない。ただ、彼が前を向いて生きていけるキッカケになると考えた上でコルを渡した。いつも打算的な考えでしか行動できない自分自身の嫌気を頭の片隅に追いやる。

 

「……さてと、まずは情報収集かな」

 

情報屋から聞いた話ではロザリアは【タイタンズギルド】に所属しているギルドマスターだ。男性プレイヤーを誘惑してギルド内に溶け込むやり方でプレイヤーキルを繰り返す悪質なギルドと分かった。ユズルは「しばらく商いは臨時休業かな」と思い、アルゴを含めた情報屋とは別に独自でタイタンズギルドを追うこととした。

 




お読みいただきありがとうございます。
 次回は【竜使いの少女】や【ビーストテイマーの少女】の二つ名で呼ばれる彼女の登場です。お楽しみください!!

エピソードゼロ:投稿優先の期待値調査

  • 孤独な少女(シリカ編)
  • 人の温かさ(リズベット編)
  • 働くAI(ユイ・ストレア編)
  • 超食べたい(ヒースクリフ編)
  • 受け継がれる幻影(???編)
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