いつも読んで頂いてありがとうございます!
今回は名前が出てはいませんが、私=シリカです。
2024年2月23日(昼間)
オレンジギルド【タイタンズハンド】の頭であるロザリアは【ミッシングリンク】いうギルドにいると情報を掴めた。他の情報屋からはそのギルドは第三五層にあるサブダンジョンの迷いの森に来ている、という情報を貰った僕は、その迷いの森で両手を上げている。
「......これはお手上げかな。入る前に迷いの森の特徴を知っておくべきだった」
迷いの森は文字通りの場所だ。数百のエリアに分割され、数分ごとにマップの位置はランダムに変更される。一度入ればマップにはノイズで自分の居場所すら分からなくなり、転移結晶を使えば近くの森に飛ばされるだけという、えげつないダンジョンだった。
「手探りで歩き回るしかないかぁ。ロザリアだけなら森を燃やして炙りだせたけど......ミッシングリンクのメンバーもいるなら巻き添えになってしまうか」
短時間かつ被害を最小限に抑えたやり方を諦め、ユズルは迷いの森を進んでいく。いくつもの重なる森林に太陽の光はほとんど当たらない。視界の先々まで樹木で生い茂り、地上モンスターの移動する音や鳥型モンスターの鳴き声は耳にまとわりつく。ユズルは「取りあえず、音のする方に歩いて行こう」と決めて、森を探索することにした。
一
2024年2月23日(夕刻)
「はぁ、何時になったら出られるのかな」
赤色を基調にした鎧服に黒のミニスカート、明るい茶色の髪を赤い髪留めで短いツインテールに束ねた明るい濃紅色の瞳の少女は、第三十五層フィールドダンジョン迷いの森をとぼとぼと歩いていた。肩の上に乗っている生き物は「きゅる」と心配そうに鳴く。彼女はその生き物を安心させようとそっと首筋を撫でた。
「......後悔はしてないよ、ピナ。大丈夫だからね」
ピナと呼ばれた生き物は彼女の手を頬ずる。この生き物の種族名は『フェザーリドラ』。全身をふわふわしたシャーベットカラーの綿毛で包み、尻尾のかわりに二本の大きな尾羽を伸ばした小さなドラゴンは滅多に現れないレアモンスターだ。
モンスターの接近を知らせる索敵能力、主人の体力を回復させるヒール能力など幾つかの特殊能力を持っていた。そのサポートスキルは貴重なものであり日々の狩りを飛躍的に楽になる。しかし彼女は、何よりピナのもたらす安らぎと温かさに助けられていた。
「ピナがいたから私はこうして戦えるんだよ。本当にいつもありがとね」
ピナのAIプログラムはそれほど高度なものではない。言葉は使えないうえに命令も約十種を解するにすぎない。しかし、ピナは「きゅるる」と彼女の声に猫なで声で返す。彼女は自分の気持ちを読み取ってくれて笑みをこぼした。深夜に近くなれば殺人プレイヤーや敵モンスターに襲われるリスクがある。焦る気持ちを落ち着かせて、彼女は駆け足で進む。
「――あの時、どうすれば良かったのかな......」
彼女は迷いの森を一人で抜けることになった原因を思い浮かべる。私はミッシングリンクのメンバーと一緒にパーティーを組んでいた。解消したきっかけはささいな口論だ。だが、落ち着いた私は、どれほど悔やんでも取り返しのつかない過ちに後悔する破目になった。
二
2024年2月23日(早朝)
私は数週間前に誘われたパーティーに加わって、三五層に広がる広大な森林地帯、通称【迷いの森】の冒険に参加していた。
現在の最前線は第五五層で、フロアは既に攻略されている。しかしトッププレイヤー達は基本的に迷宮区の攻略にしか興味を示さない。そのため、迷いの森のようなサブダンジョンは手付かずのまま残されており、中層プレイヤー格好の狩場となっている。
私の参加した六人パーティーは手練れ揃いで、朝から戦闘をこなして多くのトレジャーボックスを発見し、十分すぎる金額コルとアイテムを稼いだ。昼間には、パーティーの回復ポーションは尽き始めていた。冒険を切り上げることにして、主街区へ戻ろうと歩き始めた時だった。細身の長槍を装備した女性プレイヤーのロザリアは、何のつもりか、私に理不尽な事を言う。
「帰還後のアイテム分配なんだけど、あんたはそのトカゲが回復してくれるんだから、回復アイテムはいらないわよね」
その馬鹿にした言い方にカチンときた私は、即座に言い返した。
「そういうロザリアさんこそ!ろくに前に出ないで後ろをうろちょろしてばかりでしたよね!ロザリアさんの方がクリスタルなんか必要ないんじゃないですか」
あとはもう売り言葉に買い言葉。パーティーリーダーの仲裁は火に油を注ぎ、激高した私は我慢できずに言い放った。
「──っ!アイテムなんかいりません!あなたとはもう絶対に組まない!あたしを欲しいって言うパーティーは他にも山ほどいるんですからね!!」
せめて森を脱出して街に着くまでは一緒に行こうと引き止めるリーダーの言葉にも耳を貸さず、シリカは五人と別れて枝道に飛び込み、ムシャクシャした気分のままにずんずん歩く。
たとえソロでも、短剣スキルを九割近くマスターし、ピナのアシストもある私にとっては三五層のモンスターはそれほどの強敵ではない。労せず撃破し、主街区まで到着できるはずだったのだ。だけどこの時の私は【迷いの森】という森林ダンジョンを甘くみていた。
三
2024年2月23日(黄昏)
巨大な樹々がうっそうと立ち並ぶ森は数百のエリアへと分割され、ひとつのエリアに踏み込んでから数分経てば東西南北の隣接エリアはランダムに入れ替わる設定だ。森を抜けるには、時間以内に次々とエリアを突破していくか、主街区の道具屋で販売している高価な地図アイテムで四方の連結を確認しながら歩くしかない。
私は地図を持っておらず、迷いの森では転移結晶を使っても街には飛べずランダムで森のどこかに飛ばされる仕様になっている。やむなくダッシュで突破を試みなければならなかった。だが、曲がりくねった森の小道と巨木の根をかわしながら走り抜けるのは予想以上に困難だった。地を踏みしめるたびに足先が痛くなることを無視できなくなってくる。
「......何で......何で!」
まっすぐ北に向かっていても、エリアの端に達する直前で時間が経過してしまい、どこか分からない場所に転送を繰り返す。だんだん私は疲労困憊で走れなくなってきていた。夕陽の色はみるみる濃くなり、澱んだ樹海から生まれる暗闇に恐怖で埋め尽くされそうになる。
「うぅ......なんで......」
やがて私は走ることを諦め、偶然森の端のエリアに飛ぶことを期待して歩き始める。とぼとぼ歩くうちにも、容赦なくモンスターに襲われる。レベルには余裕があるとは言え、暗くなるにつれて足場はよく見えない。ピナの援護があっても無傷で全ての戦闘を切り抜けることは出来なく、ついに残りのポーションから非常用の回復結晶を使い果たしていた。
「――もう、回復アイテムが......!」
何もかも上手くいかない自分を呪う。私の不安を感じ取ったように肩に乗ったピナは「くるる」、と鳴きながら頬に頭をすり寄せてくる。相棒の長い首筋をなだめるように撫でながら、私は自分の短気で招いてしまったことを悔やんでいた。歩きながら『神さま』に心の中で呟く。
『ごめんなさい。もう二度と自分を特別な存在だと思いません。だから......だから......次のワープで、森から出してください』
祈りつつ、転送ゾーンに足を踏み入れた。眼前に広がったのは今までと変わらない深い森だった。樹海の奥は夕闇に沈み、森を包んでいるはずの草原は見えない。
近くにある大樹を拳で殴りつけ、再び歩き出そうとした時──
肩の上にいたピナはさっと頭をあげ、一声鋭く、「きゅるっ!」 と鳴いた。
―――警戒音!
私はすばやく腰から愛用の短刀を抜き、ピナの見据える方向へ身構える。
数秒後、樹海の陰から、低い唸り声が聞こえてきた。視線を集中させると、黄色いカーソルが表示される。現れた敵の数は三匹。モンスター名≪ドランクエイプ≫迷いの森で出現する最強クラスの猿人モンスターだった。
「くっ!何でこんな時に!!」
舌打ちをし、目の前にいるドランクエイプを睨み付ける。
ドランクエイプは群れで現れることが多く、前後交代までしてくる。片手に酒の入った陶器瓶を飲めば体力を回復、そして体力が減れば前後交代し、また前にでるという知能の高い動きをする。十分な安全マージンをとっているかパーティーであれば難しい相手ではない。しかしソロでは難易度が上がる敵だ。
ましてや迷いの森で走り回っていた私は疲労困憊で動きは鈍く、十分な回避行動は取れない。さらに決定打となる一撃攻撃を持っていない軽装ビルドの私では勝算は無かった。
『もう...ミッシングリンクのメンバーでも...誰でもいいから...助けて......』
疲労と不甲斐なさで心が折れた私は短刀でドランクエイプの攻撃を受け止める。攻撃を受け止めて「せめてピナだけでも!」と奮い立たせて闘っていた。
四
2024年2月23日(同時刻)
「参ったな。暗くなってきたのに出られる気がしないや」
僕はたいまつで足元を照らしながらぼやく。あれから森を徘徊しても、目的のミッシングリンクは見当たらない。探し人のロザリアもエンカウントしなかった。薄暗くなった深淵の樹海ではもし近くにいても、見つけることはできない。ユズルは情報屋の情報を活かせずに溜息をつく。
「しょうがない...せめて野宿の準備でも―――」
言うが前に、樹海に激しい金属音が轟く。誰かが戦っているのは明白であり、この時間帯では¨誤って迷いの森にいる¨と言う感じだろう。たいまつを捨てたユズルは金属音のした方向に駆け足で向かっていく。数秒後に到着した時は、捨て身で攻撃する少女と三体のドランクエイプがいた。それよりも気になるのは、彼女は一番後方にいるドランクエイプを執拗に狙い続け、他の二体を無視した戦闘をしている。
「...随分と何かに憑かれた戦い方だな。何が彼女を駆り立てている」
考えるよりもまず行動。あの少女は後衛にいる敵に狙いを定めている。僕は『...ならば』と攻撃目標を前衛にいる二体のドランクエイプに絞り込む。せめて彼女が戦いやすいフィールドを作ろうと考えていた。ユズルは分身と合わせて二本の短刀を蹴り上げ、左右にいたドランクエイプを彼女から自分に注意を逸らす。彼女の武運を祈り、二体のドランクエイプに殺意を向けた。
五
「くぅ.......」
ドランクエイプの攻撃で吹き飛ばされた私は大樹を背に持たれこむ。疲労と身勝手な私を好きになれない自分にどうでもよくなってきた。近づいてくる敵にも『もういいかな...』と反射的に眼を閉じようとした。
その寸前──
空中で敵の前に相棒のピナが飛び込む。重苦しい衝撃音はエフェクト光とともに水色の羽毛がぱっと散り、同時に体力ゲージは左端まで減少する。
一声だけ小さく「きゅる...」と鳴き―――
──直後、青白いポリゴンの欠片を振りまきながら空に昇った......
「え......ぴな......」
長い尾羽が一枚ふわりと宙を舞い、地面に落ちると同時に私の中で、¨ぶつり¨となにかが引き千切れる音がした。現実を認める悲しみより先に、怒りで我を取り戻した。勝手に諦めて生きるよりも死を選び、動こうともしなかった自分への怒り。そして、単独で森を突破できると思い上がった、愚かな自分への後悔。なによりピナを死なせた自分の愚かさ、いや、『私がピナを殺した?』......違う、アイツがピナを―――
「―――ッ!!」
この場で、体力ゲージがゼロになっても、目の前の敵を倒せればそれでいい。憎くて、憎くて、堪らない。ピナをコロシタ奴だけを倒す。
――コイツだけは倒す!!
短刀で無差別に切り付ける攻撃はドランクエイプの
ドランクエイプを倒した私は、荒い息を整えず、すぐにもう二体のドランクエイプを倒そうと周囲を見渡す。その前に、後ろから誰かが話しかけてきた。
「...大丈夫か?瞳孔、開いてるぞ」
武器を構えたまま後ろを振り向いた私は、ポリゴンが昇天していく背後に、黒いフードを被った一人の男の子が立っているのを見た。
次回は完全に悪ふざけをします!
今回の過剰な表現は目を瞑ってください(;´・ω・)
これからもよろしくお願いいたします( 一一)
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