幻影戦記~氷と炎の鎮魂歌~   作:ロバート・こうじ

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本編3話のアンケートに答えていただき、ありがとうございます。
 今後も参考に投稿していきますので、どうぞよろしくお願いします。

 2話から文章を分かりやすくて見やすくするために、色々変更しました。
ご了承ください。m(_ _)m


2話 じゃじゃ馬娘の挑戦

1999年3月3日10時20分

 

 来年は2000年というきりのいい年の前年は何か特別なことが起こるのではないかと迷信的なものに胸躍らせていた。私自身は急に何かが変わるわけではなく、誇れるものといえば学生時代からやっていた剣道でインターハイ優勝は数少ない自慢のひとつであり、過去の栄光にしがみ付いたままだった。これを失いたくないから「強い」と思った剣道を鈍らせたくなく、早朝に起きては、木刀を振り続けている。

 

唯一変わったことと言えば、近所にできたコンビニのファッション雑誌を立ち読みして新作のレビューをチェックし、さらに漫画雑誌を手に取って、最後のページにある記載漫画の作者コメントをひとつずつ確認するようになった。コンビニ定員の視線は気になるが、許してほしい、私には金がない。コンビニ定員よ、私に同情するなら金を寄越してほしい……

 

桜井(さくらい)響子(きょうこ)は何一つ不自由せずに育ちました。

 元々小説家だった叔父の担当した映画の脚本が大きく功績を上げたことで裕福な家庭となった。一家は3人の子どもを産み、響子はその末っ子として1973年に生まれたのです。

中学生になってやりたいことが分からず、部活動に入れば自分を変えられると思ったのが運の尽きでした。結局は剣道部に入りびたったばかりに身体は大きく成長したが女性らしさは成長していない。当時はたくましい肉体に見惚れたものだが、今になっては、カワイイを作ればよかったと後悔している。

 

 そんな私でも好きになってくれた男性はいて、1994年に入籍でき、本名は朝田に変わった。旦那さんの名前は朝田幸一(あさだこういち)。私とは対照的に優しい顔立ちに眼鏡をかけた男性だ。出会いは公園で日課の素振りをしている時にいつもランニングですれ違う男性が気になり、声をかけたことがキッカケだった。そこから運動好きの共通点や彼の優しさに惹かれた所もあり、結婚に至る。その年に男の子の朝田柚季(ゆずき)も生まれた。今は共働きで家族と一緒に過ごす日々ではあるが、私の心はなぜか乾いた風が吹いてばかりで落ち着くことはなかった…

 

 今日もファッション雑誌を確認しようと手を伸ばした時、ふと見慣れない広告が気になった。昨日までは張っていなかったトイレの近くに【葛城(かつらぎ)道場!強者を求む!!】とやけに強気な募集要項を見つけた。たしかテレビがモノクロ時代だったか多くの師範を育てていたと聞いたことがあった。世間の評判は『男性師範が女性門下生ばかりを指導して仲良くなった者に卑猥な行為をした』『女性師範が男性に大量の酒を飲ませて恫喝(どうかつ)や既成事実を行った疑い』等のニュースで良い印象は無い。かつては多くの師範を育て、昭和時代には人間国宝と言われた者も在籍していたことで有名な道場だったが最近は悪いニュースが重なり【没落した道場】【海に沈んだ道場】と老若男女に揶揄(やゆ)されている。

 

ニュースで師範の大量左遷(させん)やリストラを契機に人数が足りなくなったのか、普通は門下生募集なのに師範の募集に切り替わっている。普段は募集項目などを気にしないが広告を見て思わずファッション雑誌を置き、響子は立ち止まった。時給780円、休日出勤有りで働いている彼女にとっては考えられない内容であり、項目の隅々まで目を通した。

 

 時給は1000円以上(適正により正社員に昇進)で完全週休二日制、昼食ありでおやつに30分の昼寝付きに加えて、子の看護休暇も付いているときた。もし5歳の柚季が急に体調が悪くなっても休みをもらえるということだ。・・金欠で共働き暮らしの母親にこれほどよい待遇はありがたい。おまけに剣道の実力にも自信はあり、まさに私に入ってもらうために宣伝しているかのようだ。この広告を張ったコンビニ定員よ、良い働き感服(かんぷく)したぞ。

 

響子はさっそく行動に移した。

 初めに、夫である幸一さんに話した。初めは「怪我をして危ない」と納得してもらえずに平行線ではあったが、最終的に、私の提案でブーメランを木刀で弾き返す特技を披露して分かってくれた。ちなみに、息子の柚季は「まま、だいじょうぶ」と言い、了承済みだ。

 

次に家族に電話をすることにした。案の定家族の反応は私の転職と挑戦に好意的に返事をしてくれた。一通り電話をし終え、ほぅ、と安堵する。次の相手は骨が折れるかもしれない。最後は祖父にあたる人に電話をする。この人はなかなか手強く、少しでも気を抜くものなら言葉で翻弄(ほんろう)され、看破されるか骨の髄までしゃぶりつくそうとする変態だ。

 あぁ、イライラしてきた。私は気持ちを落ち着けて電話をする。

 

「……もしもし、おじいちゃん?」

『おやおや、響子か?久しぶりだね。…旦那との相性問題かな?相談に乗ろう』

「そんな訳ないでしょ!私と幸一さんは仲良しです!」

『冗談だよ。お前と旦那の仲を疑ったりはせん。むしろ別の中を気にしている』

 

はっきりとした祖父の言い方に、響子はドン引きしていた。この人は私の新婚生活が上手くいっている前提で話している。その上で慌てさせる言葉を選び、私を慌てさせて勝手にしゃべるように仕向けていく。もう少しで、相手のペースに取り込まれる寸前だった。

…馬に蹴られて○ね、くそじじい……

言葉にはださずに悪態をついた後は、すっきりした気持ちで話しかける。

 

「今日はそんな話じゃなくてね。今度近いうちに転職しようと思ってね。葛城道場っていう所だよ。おじいちゃんは聞いたことはある?」

『知っているよ。かなり厳しい教訓を守ろうとするあまりにスキャンダルの絶えない道場と聞いている。わざわざ、そこを選んだ理由はあるのか?』

 

思わず言えなかった。

家計が厳しくて金の欲しさと息子の面倒も両立できる求人に飛びついたとは言えない…

取りあえずその場つなぎのセリフでごまかすことにした。

 

「ほら、私、剣道得意だし!世間から悪い道場と言われていても、そこで活躍して名前を売るチャンスと思ってね。好きなことして、働けるチャンスと思ってね」

 

上手く言えてはいないだろうが、気持ちだけは伝わっているだろう。響子はドクドクと心臓音を聞きつつ、祖父の返事を待つ。数秒のはずが数分待ったいる気さえした。

やがて、電話の雑音から祖父の声が聞こえた。

 

『そうか。まぁ頑張りなさい。私は応援するが、何か…困ったことあれば連絡しなさい』

「――うん。分かった。ありがとね」

『私は久しぶりに声が聞けて良かった。そろそろ切るぞ。お休み』

 

祖父は響子の返事を待たずに電話を切ってしまった。相変わらず掴みどころの分からない人と思いつつ、一仕事を終えた気分になっていた。

 今日は久しぶりに熟睡できそうだ――。そう思いつつ、私は寝室で愛する幸一さんと一緒に眠った。

 

のちに、彼女は葛城道場を再興させて多くの門下生を育て上げ、葛城道場の価値を大きく高めた人物として世に知られるようになる。

 そしてもう一人の子宝に恵まれることになるのだが、それはまた別のお話し。

 

エピソードゼロ:投稿優先の期待値調査

  • 孤独な少女(シリカ編)
  • 人の温かさ(リズベット編)
  • 働くAI(ユイ・ストレア編)
  • 超食べたい(ヒースクリフ編)
  • 受け継がれる幻影(???編)

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