この投稿を機にアンケートを終了します。
結果は1・ヒロインと恋のABC
2・桐ヶ谷直葉のトラウマ
3・朝田柚季の過去
の順番で投稿します。
現段階では、1は無事にヒロインとオリ主が結ばれた時に投稿
2はアニメ「朝露の少女」か「奈落の淵」の間に投稿
3は【アインクラッド編】の終わりに投稿
※予定により変更有り。
2024年2月24日(八つ時)
ユズルはうずくまっているシリカの肩をそっと添える。昨日知り得た赤の他人でもユズルは彼女に会った時から心の悲鳴を無視せずにはいられなかった。どれだけ似繕っても笑顔や哀傷の仮面を被った表情、自分の本心を無理に押さえつけている様子。シリカと似た感情をユズルには心当たりがあった。かつて悪質なプレイヤーキルの刺客や不快なプレイヤーに関わり闘った日々。あの時のぐちゃぐちゃでちぐはぐな感情を忘れたことはない。ユズルはどうしてもそれと似た感情を持つ彼女を素通りにはできなかった。
「....もう大丈夫です。ありがとうございます」
シリカは泣き止み、顔をあげる。目こそ赤く脹れていてもどこかスッキリした自然な笑顔に、ユズルはポカンとシリカに見とれてしまい、シリカは顔が赤らむのを感じた。
「....それは良かった。準備ができたら出発しよう」と顔を背けて言う。
帰りはモンスターにエンカウントしても足は止めずに駆け下りていく。移動中のシリカも落ち着いた様子で周囲を見渡しながら行動していた。「これが本来の彼女か」と想うほど戦い方は別人だった。敵の急所を狙った精確な攻撃は芸術の域に達している。もしアスナを騎士に例えるのであれば、シリカはアサシンといった所であろう。そうできなかった原因は恐らく思春期特有の情緒不安定で実力を発揮できなかったとユズルは考えていた。
「ユズルさん、早く行きますよ」
「了解」
実際は違う。
この世界に来て初めてシリカは「尊敬できる人」を知った。今までは皆に可愛がられている、注目されているわたしは独りじゃない。だから私は今まで通りが楽で一番いい....そんな言葉を自分に向けて投げつけるためだけの生活を送っていた。
けれどピナを失い、結局わたしは何も成長していないと気付かされてしまった。ただ、この人は好きな自分と駄目な自分の両方を受け止めてくれた。色々な気づきを与えてくれる人。この人と一緒にこのまま進んで行けば、モヤモヤした物は何か答えになる手がかりが見つかりそうな気がしていた。
一
やがて小川にかかった小さな橋が見えてきた。ユズルはさっと左手をシリカの前に伸ばして進行を妨げる。森林やまだらな石を睨み付けていた。
「....そこに隠れている奴....でてこい....」
剣を抜いてユズルは声を低くして言う。シリカは慌てて周りを見渡すも、人の気配は無い。しばらくして、森林からがさりと葉の音と共にプレイヤーを表すカーソルが表示される。
「私の《隠蔽》を見破るなんて、なかなかの《索敵》スキルじゃない?」
「生憎《索敵》スキルなんて、あげてないよ」
気づいた理由は≪聴音≫で判断したに過ぎない。背景音は一定の繰り返しパターンがあるのに対し、動作音は当然ながら動作時においてのみ発生する。この動作音を聞き分けることで、不意打ち防止・隠蔽状態の発見などができることで安全性や確実性、発見率などを事実上高めることができるシステム外スキルだ。
現れたプレイヤーは昨日会ったばかりの人物。炎のように真っ赤な髪に紅い唇にエナメル状の黒いレザーアーマーを装備し、片手には細い槍を携えている。そのプレイヤーはシリカも知る人物だった。
「ロザリアさん........!?」
「その様子だと首尾よく≪プネウマの花≫をゲットできたみたいねぇ....おめでとう。シリカちゃん」
にたりと笑い、目をランランと輝かさせるロザリア。品定めするような粘っこい視線にシリカは後ずさりする。ユズルは彼女の前に立ちすさむ。
「じゃ、早速花を渡して頂戴」
「アンタに渡す義理も道理もない....違うか?犯罪者ギルド【タイタンズハント】のリーダーさん」
ユズルはちょっと皮肉な笑みを浮かべた。ロザリアの眉はぴくりと跳ね上がり、唇から笑いは消える。シリカだけは言葉の意味を理解できなかった。
「えっ――でも、ロザリアさんはグリーン―――」
「いや、プレイヤーキルのなかにはカーソルを変えない殺し方もあってね。例えばグリーンのメンバーが他のパーティーに紛れ込んで、事前に打ち合わせした指定場所で強襲とかね」
ユズルは剣を握り、先を続けた。
「それに宿屋をでてからずっと尾行していたのは、あんたの仲間だろ」
宿屋を出た時、フローリアを散歩し、道中の人とすれ違う度に一般のプレイヤーの好奇や怪異に入り混じった――愉悦と嘲罵。デートスポットで有名な【フローリア】には嫉妬は在れども、それは日常生活で感じない感情だ。
「........へえ気づいていたんだ。あたしはあたしの思い通りにならない、アンタみたいな勘のいい餓鬼は嫌いなのよね」
「そ....そんな....」
シリカは真っ青で声も出ない。やっと口が開けるようになった時、彼女は叫ぶように言った。
「じゃあ、数週間だけ【ミッシングリンク】にいたのは、さ、殺人の為だったんですか!?」
「殺人ですって?ええ、そうよぉ。あのお人よしパーティーに入るなんて簡単。冒険でたっぷりお金が貯まって、おいしくなるのを待ってたの。本当なら今日にも襲う予定だったんだけど―――ご馳走だったあんたが抜けちゃうから、どうしようかと思えば、なんかレアアイテム取りに行くって言うじゃない。情報屋から聞いたけど《プネウマの花》っていい値で売れるのよね。そんな話を聞けば黙ってる訳ないでしょ」ロザリアは楽しそうに言った。
私は何も言えなかった。ただピナを生き返らせたかっただけなのに....いつの間にか自分は命を狙われていた。呆然としかけていたシリカの頭はロザリアの言葉で意識が再編成される。
「だけど、そこの餓鬼も分かっていながらノコノコ付いてくるなんて馬鹿?それとも、身体で誑し込まれちゃったの?」
ユズルはロザリアの挑発を受け流すも、シリカはそうはいかなかった。刃の擦れる音でユズルはちらりと後ろを見れば短刀を握り締め、唇をワナワナと震わせている。
彼女は顔を真っ赤にし、腰にさしていたであろう短刀を持ち直していた。よく見れば耳までうっすらと赤いし、瞳孔は開いている。大きく見開いた瞳はロザリアだけを釘付けにしていた。普段とは違う彼女の怒りに驚くも、それを気づかないフリをしてロザリアに話す。
「あんた、前に【シルバーフラグス】っていうギルドを襲ったね。四人を殺し、リーダーだけが脱出したギルドだ」
「....ああ。あの貧乏な連中ね。そうよ。それがどうかした?」
「そこのリーダーに頼まれてね。あんたらを《牢獄》に送ってくれ、っとな」
「成程ねぇ。あんたはその死に損ないの言う事を真に受けて、あたし達を誘き出すために、その子にひっ付いていたってワケね。それにしても、あたし達を“殺す”じゃなくて、“捕まえる”なんてね」
「くくっ」と笑うロザリアに微塵も反省は無い。ユズルは眉間に皺を寄せ、抑圧の無い声で問う。一応シリカが飛び出さないように彼女の前に佇む。
「....仲間を殺されても、それを依頼しなかったその男の意思。それが分かる?」
「分かる訳ないじゃない。正義の味方ごっこなら他所でやりなさい。ここで人を殺したところで、本当にそいつが死ぬ証拠なんて無いし、死んだとすればナーブギアを設計した茅場のせい....マジになっちゃって馬鹿みたい」
ロザリアは髪をいじりながら面倒そうに言う。シリカはこの時....ユズルの雰囲気にゾクリとした。初めて出会った時に感じた殺気や威圧感を一切感じない違和感が逆に不気味だった。
「そ・れ・に....ここで死ぬ人に言う必要なんかないじゃない」
片手を上げてパチンと手の指を弾くようにして小気味よく鳴らす。森林や岩から総勢九人のオレンジプレイヤーがユズルとシリカを囲む。男達はにやにやと口を歪め、特にシリカには舐め回す熱い視線を投げかけていた。激しい険悪を感じ、ユズルに背を預ける。
「ゆ、ユズルさん、人が多すぎます。早く逃げないと....」
「大丈夫。まず「逃げろ」と言うまでは転移結晶を用意していてほしい。それまでは自衛してね」
シリカは頷き、すがるように転移結晶のクリスタルを握り締める。ユズルも腰を低く下げ、戦闘態勢に入った。
二
「オラアァァ!!」
「死ねやぁぁ!!」
立ち尽くすユズルとシリカを半円形に取り囲むと、剣や槍の切っ先を次々と二人の身体に向けて大地を蹴る。モンスターではない、明確に自分を殺しに来る殺意と愉悦にシリカは恐怖で目を閉じてしゃがみ込む。
―――勝負は一瞬だった。
目を瞑った瞬間にプレイヤーの怨嗟と悲鳴の連鎖。私はおそるおそる目を開ける。オレンジプレイヤーは全員地面に伏していた。空中で何かがポリゴンとして空を舞い、プレイヤーの手首は無くなっている。さらに三個ほど短刀が転がっていた。
「....囲まれてすぐに【武器破壊】は流石に難しいか。流石は隠密や暗殺に長けたプレイヤーだ。まだ¨完全¨に上手くいかないや」
ユズルは溜息をついて平然とした態度でプレイヤーを見下ろす。
【武器破壊】――攻撃で相手が持つ武器の最も強度が弱い部分にぶつけることで、それを破壊する技。相手の技の出始めか出終わりの攻撃判定が存在しない状態に、武器種類による脆弱部位と必要な角度、相手のソードスキルが描く軌道などを熟知する必要があるシステム外スキルだ。
ユズルの戦闘を遠くで卓越としていたロザリアは理解できなかった。突然、武器破壊が行われただけでない。プレイヤーを斬ったユズルのカーソルはオレンジ色に変化しても躊躇の無い攻撃と凍り付いた視線に震えた。余りにも理不尽な出来事に愉悦は恐怖に塗り替わる。舌打ちをして革袋に仕舞ってある転移結晶に手を伸ばした。
「ちっ!転移―――」
「遅い」
自身の分身をロザリアの死角に出現させて背後から刃を突き刺す。予想外の激痛に掴んでいた転移結晶を落としてしまう。刃を刺されたままズルズルと引きずられ、やがて総勢十人のオレンジプレイヤーがユズルとシリカの前に並ぶ。シリカは震えてユズルの背後に隠れたまま出てこない。
「これは依頼した男が全財産で買った回廊結晶だ。出口は監獄エリアに設定されているから、これで全員牢獄に転移してもらうよ」
「い、嫌だと言ったら....」
「そうだねぇ――なら―――」
プレイヤーの返答にユズルは睨み付けたまま仰向けで寝転ぶロザリアの腹部を剣で突き刺す。思わず刃を掴むもユズルは無視して深く入れる。上空に昇るポリゴンは飛び散るように噴き出した。ロザリアは口から吐く息を止めることなく、荒い呼吸のまま固まる。ユズルの剣は相手が死なないよう第五層で手に入る攻撃力の低い武器だ。またプレイヤー共通の戦闘時回復スキルによる自然回復のお蔭でゲージはゆったりと減少している。
「仮想世界で死なないなら、ここでトラウマを植え付けて自死衝動に駆られるまで追い詰めようかな....現実世界に戻っても自死衝動に襲われて勝手に死ぬようにすればいい。それなら犯罪にはならないからね」
ロザリアは痛みで身体中に電流を走らせていてもユズルの言葉に声を失った。体の中から心拍が高まり、空気が妙に震えていた。この男の凍り付いた眼――あたし達のように遊びで人を倒してきたものではない。何百人ものプレイヤーと殺し合いをしてきたような紫の揺らぐ殺気に、タイタンズハントのメンバーは無意識に手の平にびっしょりと汗をかいた。誰も口を開くものはいない........
ユズルは回路結晶を使用し、空中に青色の渦巻きが出現した。ユズルは転がっているオレンジプレイヤーを立たせて自分の意思でワープホールまで歩かせる。最後の残ったロザリアの腹部は半分抉れて右胸部は再生していない。襟元を掴んで引きずろうとした時、ロザリアは手足をバタバタ動かして抵抗する。
「ちょっと、やめて、やめてよ!許してよ!ねえ!な、何でもするからさ!」
「そうか....分かった」
ユズルは引きずるのをやめ、攻略組の使う程度の武器を片手に装備し直す。ロザリアに向き合う形で剣を向け、ゆっくりとした口調で語り始めた。
「なら、貴様らの殺したシルバーフラグスの四人に伝えてね。アンタのリーダーは、立派な人だとね―――よろしく」
ユズルはロザリアを真っ二つにしようと剣を振り落とした。しかし、身体を後ろに引かれてしまい、剣先は地面に突き刺さり、土埃が視界を遮った。
―――何があった?どうして斬れなかった?
腰辺りに別の体温を感じる。気づけばシリカが両腕でユズルの腰を引き寄せるよう手を巻いていた。
「殺しちゃダメです....」シリカは仰ぎながら言った。
「ユズルさんが手を汚す必要はありません!もう充分です....この人はワープホールに連れていけばいいです......殺すことだけはやめてください」
「あぁ、シリカありがとう!アンタのおかげで―――」
「――黙れ」
ロザリアの言葉を遮り、シリカは汚らわしいとばかりに彼女を見下ろし、吐き棄てるように言った。
「あなたのために止めたわけではないです。私の信じている人が―――あなたみたいなもののために―――殺人鬼になってほしくないだけです」
空気が止まった。音は遠くに聞こえる。ただ、ロザリアのパクパクした様子しか分からない。朦朧としたままロザリアを引きずってワープホールに放り込む。姿は見えなくなったと同時にワープホールは消滅した。
ユズルは引きずっていた腕がさらに重くなるのを感じた。何かを失ってしまったのが分かった。そして意識は闇の中へと落ちていった。
エピソードゼロ:投稿優先の期待値調査
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