ヒロイン視点の小説は初めて書きました。
楽しんでいただければ幸いです!(^^)!
そういえば、新規機能で「ここすき一覧」が実装されましたね。あれのお蔭で、読み手はおススメの話が分かりますし、書き手なら人気の回を参考に書けますから、かなり便利な機能です!!
2023年05月30日(深夜)
初めは何となく歌っていただけでした。
現実世界でも唄は好きで歌教室に通い、個人レッスンを受けていたし、仮想世界でも歌うのに抵抗は無かった。でも人前で、ましてや知らない人に歌を聞かれるのが恥ずかしくて人通りの少ない深夜の時間を選んで唄を歌っていた。誰も立ち止まって聴いていなくてもいい。デスゲーム怖さで自分の気晴らしに書いた何度も読み返しても酷い歌詞と唄。ただ歌えればそれでいいと思い、私は声を出していた。
いつも通り無色透明な歌詞を歌い終えたが、この日はいつもと違った。パチパチと拍手されるまで聞いている人に気付かなかった。私はかぁと顔が熱くなってしまう。あの酷い歌を聴かれていた。このまま何も言わずに帰るのも悪いし、初めて立ち止まって唄を聞いてくれた人に毅然とした態度で話しかける。
「聞いてくれる人がいると思わなかったな。最後まで聞いてくれてありがとね」
「思わず立ち止まって聞いていたよ。いつもここで歌っているの?」
「最近始めたばかりよ。よくこの時間に歌の練習をしていてね。立ち止まって聞いてくれた人は初めてかな」
「そうなの?感情のこもった歌声だったから、聞いていたくなってね」
....感情のこもった歌声?私は思わず笑ってしまう。自分は酷いと思っている歌詞に合わせた歌をそんな風に言う人は初めてだった。何となく男の人の顔を見たくて顔を覗かせるも、深夜で黒いフードを被っているせいかよく見えない。興味を持った男の子にある提案をした。
「ねぇ....もし、よかったらフレンド登録しない?歌うときにファン一号として招待するよ」
「それは嬉しいな。また聞きたいからぜひお願いします」
本当は一人で歌う勇気がなく、フレンド登録すればこの人はまた来てくれる。そうであれば、私が深夜に歌う理由になると思った。下心有りの軽い気持ちで誘ったつもりだった。フレンド申請後、すぐに≪プレイヤー名:ユズルからフレンド申請を受理しました≫と表示される。
....ユズル?一瞬だけ悪いウワサの絶えないプレイヤーの名前が浮かぶ。考える間もなく、彼は手を差し出す。
「フレンド登録ありがとね。これからよろしく」
差し出された手に対して私も軽く握手をする。しばらく世間話をしてから別れ、転移門で借りていた宿屋に移動し、自分の部屋まで速足で向かう。扉を閉めて、扉を背にして座り込む。自分の知るユズルであれば、あの人は悪質なプレイヤーだ。でも、世間話や握手して伝わる暖かい感じは何だろう。世間の言う彼と実際に会った彼の印象は余りにも食い違っていた。
(しばらくは、様子見かな。世間の印象で勝手に決めつけちゃダメだよね)
私は自分に言い聞かせる。彼は次も歌を聴きに来てくれると言っていた。勢いよく立ち上がり、少しでもいい歌詞を考えようと机と向き合う。誰か聴きに来てくれる人があると思えば、いつもより執筆が捗っていた。
余談だけど........何度も書き直した結果、自分の納得できる歌詞に仕上がった。しかし、食事を忘れるほど煮詰めてしまい、「誰にでも夢中になればそうなる時もある」少女漫画のセリフを思い出して、気にしていないこととした。
一
2023年06月03日(深夜)
新作の唄を完成させた私は、はやる気持ちのまま、ユナはフレンド登録をしたユズルに連絡する。
『今日の22時に第八層フリーベンの転移門広場で歌います。良かったら来てください』
『連絡ありがとう。ぜひ聴きに行くね』
決めた時間に転移門広場に移動すれば、黒いフードを被ったプレイヤーは待っていた。私は何度も深呼吸をして、口を開く。現実世界でよく聞いていたアニメソングをアレンジした歌詞と音源。丁寧に歌えていた。しかし、複数のNPCが集まれば視線が私に集中してくれば喉がつっかえて歌いにくくなってきていた。無理に声をだそうとして、上ずった声で音程を外してしまい、恥ずかしくて歌を止めてうずくまる。NPCは興味を無くしたかゾロゾロと散っていった。
「どうかしたの?無理に歌っていたような気がしてね」
「やっぱり人前で歌うのは恥ずかしいかな。どうしても急に上がっちゃうのよね」
「どういうこと?」ユズルは首を傾げる。
「私ね、どうしても沢山の人に聞かせようと思うと、緊張してね。声がだせなくなる時があるの」私は視線を落としてゆっくりと話す。
明るく振る舞うも、やっぱり引きずる。これは現実世界で個人レッスンをしている理由でもある。歌自体の技術は評価されても、多くの人に聞かせるとなれば、だんだん声がでなくなってくるのだ。
「それなら、これからも歌を聴きに行くよ。来てくれる全員に聞かせるよりも、特定の一人を目印に聞かせるように歌えば、緊張しなくて済むと思う」
私は胃の辺りが微かに震えた。この世界では男の人避けに白いフードを被っていても、女と分かった私に何か話を持ちかける人は、どこの世界でも、いつも私の身体のどこかを見て何かを期待するかの視線を向けていた。だけど彼は違う。顔を見上げれば真剣に私の目だけを見ていた。いつもとは違う反応に、動揺を隠して強気に答える。
「う~ん....いいの?無理に付き合わなくても、攻略とか狩りとかしていた方がいいんじゃない?」
「そうかな?メリハリつければいいし....僕はもっと歌を聴きたいから、じゃあダメかな」
ユズルのほんの少しの笑みと困った表情の変化、なごんできた表情を見て、とたんにユナは胃が飛び出しそうになった。これは緊張とは無関係だとユナは思った。しかし、この気持ちは何か分からない。ユズルの暖かい雰囲気と落ち着いた声に、「じゃあ、よろしくね」と言ってしまう。
もう一度、同じ唄を黒いフードを被った彼に聴かせる意識で歌ってみた。たった一人だけなら随分と安心していた。体の内側から熱く火照る感じが、喉につっかえる感覚を無くしてくれている。初めてのびのびと楽しい気持ちで歌えていた。終わった後は、ユズルに手を振って、駆け足で転移門に飛び込む。心臓の鼓動がバクバクして止まらない........
二
「あう~」(セイウチ風の真似)
勢いのまま宿屋のベッドにダイブし、うつ伏せになって布団を抱きしめる。火照った身体を落ち着かせようと、そのままゴロゴロしたり、足をバタバタと動かす。まだ頭はフワフワする。だいぶ冷静になった時に、ふと歌のレッスンをしていたことを思い出した。
丁寧に歌えばいい。現実世界の歌教室では「うまい」と思わせる発声のテクニックや見ている人が魅力的に見えるジェスチャーのレッスン。いつも退屈、つまらないと思えるレッスンでもその通りにやれば先生やパパは「上手」と褒めてくれていた。今日はNPCだったけど、そこに『私の歌を聴きに来てくれる人』がいることは楽しく胸が躍るようだった。
「明日も歌いたいな」
可愛くポツリと言い、熱くなる両頬を枕に抱きついて抑え込む。そのままベット上でまん丸くなって過ごしました。
三
2023年06月09日
ユズルに緊張しない方法を教えてもらってからは私の歌は目覚ましく成長し、自分の誠意を伝える歌い方は思っていた以上に「上達している」実感を得ていた。唄が良くなってくれば、今度は私の唄に合う歌詞を書きたくなって、「歌詞を書いてみたい!」と思っていたが....
「どうしよう....全然浮かばないよ....」
絶賛、スランプです!!
現実世界で聞いていた歌をアレンジした歌詞だけでは限界がきていた。一曲だけストックはあっても、残りはない。相変わらず創作意識の無さに、ユナは机に突っ伏してうつむく。調子に乗って、ほぼ二日おきに歌っていたせいか、もうストックは尽きていたのだ。ほぼ完成しているアニメソングを元にした歌詞に勝手な付け足しをすれば、音源に合わなくなってしまう。さらに、作詞に関してど素人の私はどうすることもできない。
「あう~どうすれば~」
結局煮詰まってしまい、深く項垂れて机に突っ伏す。ユナも最初は悶々としていたが、何となく『ユズルに相談してみようかな』と考えだす。何度かメールを消しては書いてを繰り返し....ようやくまとまった文章。私は迷ったまま、≪送信≫を押し、彼の返事を待った….
やけに長く感じてしまい、待っている間は外を眺めながら、何度か水を飲んで唇を湿らせた。
空想に浸っていたユナの耳に、軽やかなサウンドが届いた。フレンド・メッセージの着信音。メインメニューを開き、新規メッセージを表示させる。
短い文章を何度も送り返しあうメールのやり取りにユナは笑みをこぼす。嬉しいような、何かに誘われるような高揚した心持になっていた。
2023年06月12日(深夜)
ユナは第三層のロービア主街区にあるカフェで甘めのカフェオレを頼み、次に歌う歌詞を執筆していた。街の風景やNPCの言動を参考にした歌詞は順調に仕上がっていく。何度も書き直した歌詞、とにかく一生懸命に「誠意」を伝える声。現実世界よりも自分の音楽に対する熱意が上がっていた。ふと、ユズルとの出会いを振り返る。彼とはまだ二週間しか会っていないはずだ。初めは自分の気晴らしと我儘で唄を歌う利己的な理由でユズルを利用していた…本当に最低な理由。
でもユズルは立場の危ない中でも連絡をすれば必ず来てくれる。歌いたい理由と言う私の甘えで提案しただけなのに....いつも聞きに来てくれる彼の姿勢に驚かされた。会うたびに、私の悩みや話を聞いてくれる。偏見や先入観を含めたアドバイスでなく、まるで細い糸でがんじがらめになって隠れていた答えを紐解くような言い方をしてくれる。
でもユズルを利用した罪悪感は彼に会うたびに大きくなっていく。下心で利用していたのに….いつしかユズルと一緒にいるのがたまらなく楽しくて、これからもずっと私の歌を聴いていて欲しいと思えるほどに。
『今日は第三層ロービアの転移門広場で歌うよ。良かったら来てね』
きっといつものように、黒いフードを被ったユズルが来てくれる姿を想像して私の頬は自然と持ち上がっていく。
余談ですが....ユナのセリフ「いつも私の身体のどこかを見て何かを期待するかの視線を向けていた」の部分です。
ユナのスタイルはソードアート・オンラインのフェイタル・バレットに添い寝のシーンがあります。良ければ参考にして下さい( 一一)
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