幻影戦記~氷と炎の鎮魂歌~   作:ロバート・こうじ

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いつもは5000~6000字を目安にしているのに、今回は8000字を超えてしまいました((;´・ω・))


20話 そっか....私、惚れてたんだ

2024年06月03日

 

肌寒い夜にうっすらと目を開ける。訓練の疲れのせいかまだ気怠い。現実か夢か曖昧でぼうとしたまま、満月を眺める。優しい月明かりを浴びると抱きしめられる安心が、そこにあった。窓に反射して映る自分の顔に、はてと疑問を持つ。窓越しの私は無表情に頬を水で濡らし、月の光で輝いていた。外の温度で水滴を作っているのね、とアイテムストレージからタオルを取り出し、窓のガラスに押し当てる。だが、いくら拭いても水滴は取れない。やがて、諦めたユナはまた夢の中に意識を沈めていった。

 

 

2024年06月10日

 

「....遅いな。なかなか来ない」

 

 ノーチラスは第五九層主街区≪ダナク≫の空き部屋にいた。空き部屋とはいえ、地面は雑草や小石の転がる床で住むには厳しい住宅だ。時間を持て余した彼は片足を使い、小石を生き物のように跳ね続ける。もちろん、これは遊びではない。ノーチラスなりのFNCの向き合い方だ。

 

「少しだけ足先に違和感はあるけど、段々とよくはなってきてるか....次は、腕でやってみるか」

 

最初にこのやり方を始めた頃は「簡単だよ」と余裕を持っていたノーチラスだったが、仮想現実は厳しかった。ものの一分も経たずに部位の痺れで終わっていた。厳しい訓練に合わせた小石を跳ね続ける訓練の追加は、同僚に怪異の目で見られる。ノーチラスは周囲の冷やかしを我慢していたが、事件は訓練場で起きた。

 

 陣形ミスをした一軍のメンバーが小石を取り上げ、ミスをした憂さ晴らしに、ノーチラスが小石を跳ね続ける様子を嬉々としてまねした。元々ノーチラスをよく思っていなかったプレイヤーは彼の行動を称賛する。ノーチラスはキレるも、「取ってこい」と言わんばかりに鋭く蹴り上げた小石は、たまたま視察に来ていたヒースクリフの顔を直撃し、これに関わったプレイヤーに二軍降格と三か月の謹慎・除名処分を与えられた。

これを事件かテロか判断しきれない情報屋は『ヒースクリフ射殺未遂事件』の大見出しで、一般プレイヤーに伝わり、誇張されるも終息に向かった。

 

しばらく、小石を足から腕に跳ね移したとき、木製のドアから待人のアスナが現れる。軽く長髪を整えてから、しわのついた赤いフードを延ばしてこちらに向かってきた。

 

「待っていたよ、アスナ。何かあったのかと思ったよ」

「周りの人を撒くのが大変でね。ちょっと男の人に声をかけられていたの」

「それ、大丈夫なのか?いくらアスナでも危ない目に会うかもしれないだろ?」

「そこは大丈夫。何かあっても、ちゃんと『お話し』すれば分かってくれるものよ」

 

他人の不幸を願うわけではないが、正直なところ、ノーチラスはアスナを難破(ナンパ)した相手に不憫な気持ちになった。アスナは小石を跳ね続けるノーチラスに、スケジュール表を確認しながら、質問をする。

 

「あれからFNCの症状はでるの?」

「前よりはずっといい。たまに症状があっても動きが遅れる程度に済んでる….」

「それならよかった」

 

スケジュール表の画面を見ながら、アスナはかすかにうなずく。はっきり言えば、アスナに相談があって誘いはしたが、ノーチラスは強くは言わなかった。多分、駄目だろうと思っていたから気楽に誘ったにすぎない。

 

「相談があると聞いてこうして来たけど何かあったの?」

「あぁ....実は俺自身のことじゃないんだ。支援組のユナについてなんだ」

「ユナちゃん?この間、話していた幼馴染の子だよね」

「そうなんだけど....最近かなり煮詰めている気がして....何時もと違う感じにね」

「ノーチラス君の勘ってビックリするほど当たるよね。たまにエスパーと思うよ」

 

皮肉にも聞こえてしまうアスナの言葉を聞き流し、ノーチラスは一瞬、返答を押し留める。第五七層主街区で起きた圏内殺人事件ではアスナの情報をまとめる能力、キリトの洞察力、そしてノーチラスの着眼点がピタリと合い、事件解決に貢献した経歴がある。

 

「いやいや、アスナ。今度ばかりは勘じゃない....ユナなんだけど....ここ数ヶ月はずっと狩りばかりしているから....逆にライブは二週間に一回あるかないかの様子に違和感があってだな....これは勘ではないよ」

 

充分言い訳に近いな、とアスナは首を傾げるもノーチラスはさらに声をひそめて、

 

「それに、ああいう何かに没頭している時のユナはイライラを溜めているサインだから、かなり意地っ張りになる。だから同じ女の子にユナの悩みを聞いてほしくて....頼みたいんだ」

「そういうことね。なら....この副団長に任せなさい!」

 

片方の腕を袖まくりして曲げ、もう片方の手を二の腕から肘の内側に添える。軽くウィンクするアスナに頼れる姉オーラが発生した。※だが現実でアスナは「妹」である。

 

(大丈夫だろうか....)

 

 圏内殺人事件で副団長の立場らしく二人を引っ張った行動力とは裏腹に、どこか天然で抜けている部分がある。気になる相手に目星を付けば、毎日のようにつきまとい、相手を心理的に追い詰めていた。何気ない会話の端々に犯人の墓穴を掘らせる巧妙な言葉使いは油断できない。だが、その本人の無自覚な言動のお蔭で事件解決に導いたのだ。

 

やる気がありすぎる者は空回りしやすいというから、アスナの明るい姿勢は、どっちに転ぶかは分からない。平然としてほしいと願うも、他に頼れる女友達がいないから、ノーチラスは彼女を信じることとした。

 

 

2024年6月12日

 

六月の初日から半日が過ぎるまで、ユナは資材集めや狩りに励んでいた。しかしながら、ずっと戦闘をしていた訳ではない。幸い、ライブの打ち合わせに来るマネージャーもたまに来てくれたから、ボッチとは無縁でそれなりに充実していた。でも、一人で部屋に戻ると、途端に寂しくなってくる。

 

それでも午後はどこかで「昼食を食べに行こう」と決めていた矢先に、コンコンとノックされる。ユナはゆっくりと立ち上がり、ロックキーを外して開けると同時に驚いた。

 

「ふ、副団長!?お疲れ様です!!」

 

目の前にいたのは、血盟騎士団の副団長アスナでした。白い布装束に赤いラインの入った服装に、愛用している細剣を腰に掛け、腰まで伸びた明るい栗毛をハーフアップ状に整え、凛とした姿勢でいる。だが、ユナの気にしている所はそこではない。いきなり、ギルドのNO2であるアスナが何の連絡も無いまま、来ている事実に驚いていた。

 

「ユナちゃん、お疲れさま」

 

アスナはのほほんと、柔らかな笑顔を浮かべる。一瞬だけ驚いた表情をするも、ユナは明るい表情に切り替えた。部屋の扉を閉めた途端、アスナは深く息をはく。知り合い以外は副団長として模範となる以上にキッチリしている分、抜けたときの落差は愛嬌があるのだ。

 

「いきなりでビックリしましたよ、アスナさん。何かあったのかと思いましたよ」

「ふふ、実は料理スキルをカンストさせようと美味しい料理を研究していてね。そしたら凄く美味しい飲み物が出来たのよ。お昼のお供にどうかなって誘う為に来たの」

「それなら一緒に飲みたいかな。食べに行きましょう」

 

 

言うが早く、アスナとユナは駆け足で近場のレストランに向かう。簡素にシュフのおススメレシピを注文するアスナに、ユナは制止させ、周囲を見渡す。端に座っていた男性が蟲料理を残したまま、卒倒していた。ユナは笑みを浮かべる。灰色の頭脳が警報音を轟かせた。

 

「アスナさん、今日のおススメレシピ....当たりは当たりでも¨食あたり¨みたい」

「!危なかった。ユナちゃん、ありがと」

 

 彼女らは名前の知らない男性プレイヤーに合掌する。チラリと窺えば、とても綺麗な肌艶をしている彼はまるで美の化身だった。犠牲を無駄にしないように無難なサンドイッチを注文する。※アスナとユナは調べた....返事は無い。ただの生きた屍のようだ。

 

「アスナさん、それでどんな飲み物ができました?」

「それはね....ブドウジュース。飲んだら癖も無くて、初めて飲む味だったよ」

 

アスナはコップに紫色の飲み物を注いでいく。ユナは一口飲み込めば、甘い香りに酔いしれた。酸味のない芳醇な香りと滑り込む喉越しは最高級の品質。冷えたジュースのはずだが、体中から心地よい暖かさが広がった。

 

「このジュース凄く美味しいですよ!?」

「そう?美味しくできて良かったわ」

 

極上のジュースとサンドイッチを美味しそうに味わい、二人は上機嫌で会話を弾ませた。

 

「最近すごく狩りを頑張っているよね」

「ただ納得がいく唄ができないからですよ。こういう時は狩りをする方がいいですからね」

「そうよね。私は資材管理もしてるけど、お蔭様でかなり余裕があるのよ」

「余裕ですか?」

「うん。団長が一斉に期限付きの罰を与えてからかな。団員に自給自足をさせてるから節約できているんだよ」

 

何度もドリンクを相互に入れ直し続け、一リットルの瓶に入ったブドウジュースを半分まで飲み切る。

 

「それでももしもの時の為に、訓練をしていきたいかな。わたし、戦闘じゃ、弱いほうだもん」

「そうかな?いつもライブと仕事を両立して頑張っているよね。努力して凄いと思うけどな」

「....そんなのただ歌いたくないだけですよ。身体を動かしていた方が気が楽だもん....」

 

急に繋がらなくなる会話にアスナは不審がる。ユナの口調もどこか甘え口調になっていた。ノーチラスの「ストレスを抱えている」セリフは確信に変わってくる。戦闘を頑張っているなら、新しい武器屋を紹介するのもいい気分転換になるかと思ったところで、アスナはある提案をした。

 

「まだ時間があるなら、鍛冶屋に行かない?紹介したい人がいるの」

「あすなぁ~いくぅー」

 

呂律の回らない幼女口調のまま席から立ち上がる。足取りはしっかりしているも普段と違う様子に「ノーチラス君の言った通りね。ユナちゃん、ちょっとお疲れみたい」と納得する。もしかすると、戦闘か歌手に不満からくるストレスが、ユナの気分を不安定にさせているのかもしれない。目的地に向かいながらアスナは考えていると、ユナは手を握りながら歩幅を合わせて一緒に向かった。

 

 

二人が第四八層主街区の≪リンダース≫に着いたのは、十四時のあたりであった。街の至るところにカラカラと鳴る水車と小さな風車はのどかな風景は、ちょっとした小旅行気分になれる。さらにいえば、リンダースは攻略組や他のギルドとは無縁の静けさだけに、プレイヤーの行き来は少なく、あまり他人の目にもふれることもない。二人は、まだ真新しい鍛冶屋のドアを開ける。

 

「いらっしゃいませー『リズベット工房』にようこそ!」

「久しぶりね、リズ!今日はこの子(の武器)をメンテナンスして欲しいの」

「ひゅうり、おねがいしまふ~」

 

 あっけらんとばかりのアスナと呂律の回っていないユナに、リズと呼ばれたピンク髪の少女は凍り付く。彼女は理解に苦しんだ。呂律の回っていない彼女の介抱をするのか、彼女の武器を修理するのか。いずれにせよ、アスナは正気であるかを確認せずにはいられなかった。

 

「アスナ....何を見ればいいの?診るべきなの?」

「え?この子の使っている―――」

「ウチを連れ込み宿に使うとはいい度胸してるわね。いくら親友でもやっていいことと悪いことがあるわよ」

「連れ込み宿?何言ってるの、リズ」

「....取りあえず、ここに来るまで何をしてたか話してちょうだい」

 

 ひとまず、様子のおかしいユナを窓ぎわに寄り添う形に座らせる。アスナはことの経緯を説明し、リズベットは時々頭を掻きむしりながら話を聞く。ブドウジュースを鑑定すると微量のほろ酔い成分が検出された。親友の迂闊な行動に呆れるも、アスナは「だから初めて飲む味だったのね」と半ば理解し、半ば後悔する。結局、ユナの使う武器の修理代は全てアスナが自腹で支払うことで成立した。

 取りあえず、修理が終われば連絡する、と親友を工房から追い出し、リズベットは作業に取り掛かった。

 

 

「はぁ、疲れた。ようやく終わったわ」

 

 別の依頼と併合して終わらせたリズベットは肩や背中を引き延ばし、筋の張った筋肉を柔らかくする。あれから二、三時間は経っただろうか、被害者のユナは窓に肩を預けたまま寝息を立てていた。ほろ酔い成分とはいえ、微量で酔いつぶれるほどではないと、リズベットはどこか浮かなかった。それに近所迷惑と評判の騒音を響かせていても起きる様子の無い彼女は異常に思えさえする。リズベットはふわりと白いフードを取り、彼女の素顔を見た。

 

一言で美少女と言っていいほど整った顔をしている。ただ寝顔の彼女はうっすらと頬を汗か涙か分からないほど流し、か細く自分を責める言葉をブツブツと呟いていた。何を言っているかは聞こえても、明らかにどこか限界を超えている様子に戦慄した。彼女の胸の中にある正体不明な不可解な黒い感情の大きさを垣間見る。

 

―――どうしても彼女を一人にはさせたくない。いや、させてはいけない感じがした。

 

リズベットはユナをお姫様抱っこで普段から使っている寝室に運ぶ。静かに掛け布団を掛けると、すやすやと赤ん坊のように寝息をたてていた。リズベットは安堵し、軽く微笑む。自分は寝袋を用意して(おさ)なく見える少女と一夜をともにした。

 

2024年6月13日

 

朝日の眩しさが、ユナをゆっくりと目覚めさせた。アスナさんに付き添い、鍛冶屋に来たことは覚えているも先は覚えていない。経緯を考える前に二階までこんがりと焼けた肉の匂いは彼女の空きっ腹を刺激した。白いフードの服や最低限に身だしなみを整えてから匂いのする方向に向かう。

 

「おはよう、よく眠れた?急に寝ちゃっていたから、泊まってもらったわ」

「そうでしたか。ありがとうございます。ユナです....えぇと....」

「ここは『リズベット工房』で私は店主のリズベットよ。折角だし、一緒に食べましょう」

 

自己紹介をしてから、急にユナは申し訳なく思う。押しかけて断りないに泊まったことか、朝食を用意してくれたことか。何から言えばよいか、すぐには答え切れなかった。悩む仕草をするユナに、ふうと深呼吸し、彼女は瞳に安堵の色を滲ませる。何か言おうと言葉を選んでいると、リズベットがつぶやく。

 

「....『リズ』でいいわよ、ユナ」

 

どこか凛とした可憐さの漂う少女の笑顔。たった一言だけなのに、初対面と思わせない親しみと安心感が広がる。別れる前に彼女の勢いに押されてフレンド登録した後、たまにリズベットは私用の狩りやお泊り会に私を誘う様になった。ノルマの決められた狩りと違い、会話をしながらのマイペースな狩りは楽しく、ユナにとっては刺激的だった。そして彼女との出会いは、ユナの閉じ込めていたものを解きほぐしていた。

 

2024年7月07日

 

 七月に入れば、午後の六時になっても陽は落ちない季節に恵まれた。日中の穏やかな気候に年に一度である七夕装飾が街にあふれている。リズベットとユナは転移門広場から第二二層主街区≪コラルの村≫でお泊り会用の食料やら日用品の買い足しに来ていた。

 

期間限定で主街区や市街地のいたる場所に笹を飾っている。アイテムストレージに自動で配布されている短冊に願い事を書いて笹に吊るせば、三日だけ数種類のデバブが付くのだ。またレベル差によって短冊の色も違い、自分の書いた短冊がどこにあるか分かりやすい。不思議ではあるも、笹にさえ吊るせば、どの階層でも同じ位置に吊るされる仕様だ。

 

『約束が果たせますように』キリト

『無事に生還できますように』アスナ

『商売繁盛!!』エギル

『目標の私に近づけますように』シリカ

『彼女が欲しい!!!』クライン

『もっと鍛冶が上手くなりますように』リズベット

『歌チャンのようなアイドルになれますように』レイン

『絶対的、正義!!』キバオウ

『病気に負けませんように』ネズハ

 

「私達も、短冊を吊るすわよ」

 

いそいそと短冊を吊るすリズに、ユナは悩む。

 

「私はどうしようかな」

 

考えていると、急に背後から声をかけられた。褐色色の髪に両頬に三本線のペイントをした女の人だ。上半身から丈の長いフード付きマントを着用している。怪しげな風貌でも、ユナは知り合いと分かれば警戒を解いた。

 

「オォ。やっとユーちゃんを見つけられたゾ。いっくら探してもいないもんだカラ、半分諦めてたワ」

「あれ、情報屋よね?」

「初対面だったカ?オイラは情報屋【鼠】のアルゴ!よろしくナ。人気者のユーちゃんに手紙を渡してほしいって頼まれてナ。全く、メールでしろって話ダ」

「手紙?私に?」

「ニャハハ、もしかしたらユーちゃんの熱烈なファンからのラブレターかも知れないゾ。差出人に¨ファン一号¨って書いてあるしナ」

 

からかう対応のアルゴに、リズベットは彼女のデリカシーの無さに軽く睨む。よくライブ終わりに贈り物を貰うことはある。わざわざ手書きの手紙を送るなど手間のかかるだけで、送り主にデメリットしかない。しかしユナ自身は初めての手紙にどきまぎしていた。

 

「せっかくだから貰うかな。アルゴさん、ありがとうございます」

「オウ!また、個人的でもオレッちを頼ってくれナ!」

 

手をヒラヒラと、身体を飄々としながらアルゴは去っていく。リズと食事をする予定もあるも「手紙、早く見たいでしょ?」と言われてしまえば、素直に成らざるを得ない。後日埋め合わせをする約束をしてリズと別れる。早々と宿屋のチェックインを済まし、二階の一番隅の部屋に案内された。

 

 

ユナは『ラブレター』の単語に緊張してしまい、個室部屋のドアに寄り重なりながら座り込む。はやる気持ちを抑えずに、蝋で密封されている便せんを開ける。やはり差出人は私の気にしている男の子からの手紙。顔がドキドキと興奮で赤くなるのを自覚しながら、丁寧に読んでいく。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ユナへ。僕はこの仮想世界で、本を読んだり商人で生計をたてたりして過ごしています。ただ、いつ頃にユナとノーチラスに出会えるかははっきりとは分かりません。フレンド登録を身勝手な理由で消してしまってからはメールで伝える機会は無くなると思ったから思い切って手紙で書きます。

 明るいうちは商人の仕事をし、レベル上げをしているので、忘れていても、夕方や深夜になると街がこいしくなります。こいしくなるというのは、街にいる賑やかな場所がこいしくなるばかりではないです。そこにいる大切な人もこいしくなります。そういう時に、僕は時々、ユナと音楽について語った日々や歌を思い出します。

 こんな事をユナにあげる手紙に書いていいものかどうかは解りませんが、いずれファン一号として、仲間として会えるように、僕は前に進もうと思います。この剣が交差する世界でも辿り着く場所は一緒だと信じています。 

 

貴方のファン一号:ユズル

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 私はこの文章を何度も何度も読み返した。読むたびに彼と過ごした日々を思い出す。彼を思い出すだけで魂が震えて(からだ)が熱く溶けるほど燃え上がるような情熱になり、妙に相手を強く身近に感じていたい。そう思い、今までしまい込まれていたものが蓋を弾き飛ばして溢れ出た。

 

「そっか…私、惚れてたんだ」

 

自分の心を覗いて気が付いた素直な気持ち。しかし、もう遅い。ユズルは既に【竜使い】と交際をしている。実際に彼を取られたとしても、いまとなっては嘆くことも、悲しむことも、ましてや大声で叫ぶ資格などない。せいぜいファンである彼に笑顔と唄を届けるのが、利用してきた彼に対する唯一の残された道だ。

 

「今日は雨が降るなぁ。全然止まらないや....」

 

つい最近まで感じていたはずの忘れかけていた心地よい暖かさに寂しさや憎しみは癒されていく。手紙を想ううちに、また忽然とユズルへの愛おしさが蘇り、ユナは思わず小指に巻き付いた黒髪に接吻(せっぷん)した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【オマケ:ユズルの手紙を直訳した場合】

 ユナへ。この手紙を貰ってほしい理由は一つだけです。その理由は、僕はユナが好きだということです。勿論初めて会った時から好きでした。今でも好きです。その他に何も言いません。

 僕は世間のプレイヤーの言う通り、悪評と悪いウワサの絶えない人物であり、フレンド登録や約束をした二人に身の危険を感じて勝手に登録を消してしまいました。それはそうと、届くか届かなくてもユナに身勝手な気持ちを押し付けてはいけないと思い、連絡しました。

 世間では僕の方を何と貶しても構わない。世間では見た目や身分の見境なく結婚を申し込めるくらいに男女は気兼ねなく会える関係ではあります。しかし、僕はそれができる勇気はない。世間もユナを崇拝してできない。お互いにできない時点で、世間の人間より僕の方が余程うぬぼれた愚かな恋と自覚しています。

 とにかく叶わない恋としても僕はユナの口から飾り気のない返事を聴きたいと思っています。例え仲間と呼べる関係では無くなっても、互いにノーチラスやユナと生き抜くと誓った約束は護りぬきます。貴方のファン一号:ユズル

 




本作のラストの展開に悩んでしまいました。

そこで原作死亡キャラであるヒースクリフを生存させるか、アンケートを取ります。どちらを選ぼうとも物語の展開に軽いバタフライ効果が発生するだけです。

お時間があればよろしくお願いします( ^^) _

エピソードゼロ:投稿優先の期待値調査

  • 孤独な少女(シリカ編)
  • 人の温かさ(リズベット編)
  • 働くAI(ユイ・ストレア編)
  • 超食べたい(ヒースクリフ編)
  • 受け継がれる幻影(???編)
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