幻影戦記~氷と炎の鎮魂歌~   作:ロバート・こうじ

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21話 住所:第七四層地、大樹上の家

2024年10月10日

 

現実世界で十月に入っても冬に向けた肌寒い風が続く。ある研究室にはガラスの容器に充満した水溶液に浸されている人骨や内臓を翠色の光で照らし晒す。そこに眼鏡をかけた男性はキーボードに無数の記号を打ち鳴らした。画面に映るプレイヤー達は些細な揉め事で切り合いとなる殺伐とした場面にも口角を歪めて奇妙な笑みすら浮かべる。

 

「馬鹿な奴らだよなぁ。このゲームの仕組みも何も知らずに殺し合うなんて、滑稽だよぅ、滑稽」

 

ソードアート・オンラインは第七四層に到達するも既に五千人もの人を失った。しかし、男は気にも求めず恍惚とした表情で容器を頬ずる。全ての臓器はゲームで亡くなったプレイヤーの一部だ。この容器に入った内臓は医療の発展の為に、病院と科学者が連携し、表向きは社会貢献として保存されている。

 

要は死亡とした時点で臓器の使用権を破棄とし、医師や科学者からすれば実際は政府公認で無尽蔵に使用を許された研究材料。建前上では、治療目的な研究をしなければ、多くの人の命を救えなくなるからだ。科学者からすればこれらを金よりも価値のある存在。しかし、眼鏡の男は鑑賞しても愉悦感を与え、壊しても征服感を満たす道具としか認識していない。

 

「これだけあれば何でもできる!これで僕は現実世界でも仮想世界でも神に等しい人間になれる!!あぁ、すごくすごくすごすごごいごいごいごい、いぃぃぃぃい!!」

 

まるで、自分を中心に宇宙が回っている様な錯覚に陥る。βテスターの試運転を終えても、なお残ったALOの未完成部分は、SAOを作った茅場のゲームシステムをコピーし、ハッキングしたカーディナルの一部を連結させて実装させた。眺めているだけで全てが上手くいく様子に湧き上がる感情を我慢せずに表出させた。

 

「くはははは!....いや、これは違うな。ギャハハハ!!あぁ、これだ、これだぁ!ギャハハハハ!!ギャハハハハハ!!!」

 

身体を反らし、けたたましい悲鳴を研究室に響かせる。熱のこもった目であざ笑い、眼鏡の男は絶頂に身を震わせた。喜怒哀楽を抑えず、何の兆しもなく、それを当たり前に受け入れる人間の純粋な狂気。清潔感ある白の研究室により冷たい冷気を染み渡された。

 

 

2024年10月18日

 

主街区の人里離れた第七四層の大樹上になぜだかポツンと存在する一軒家。高所に建築された木製のツリーハウスは縄に支え、木板を土台に建設されている。そこには、どんな人物がどんな理由で暮らしているのか。

突風でツリーハウスは揺れるも、先住民のユズルは気にも求めずモンスターの再出現する傾向を観測していた。まさか最上層の大樹にプレイヤーが住んでいるとは誰も思わない。モンスター達はプレイヤーのいないありのままの暮らしを謳歌する。個々の異なるモンスター同士が触れ合う姿から観察を始めたことだ。しかしホロキーボードを片手に興味本位でモンスターの生態を観測するうちにユズルはある疑問を持つ。

 

「どうも同じモンスターなのに、集団で動くものと個々で動くものの差が見られるな。芝生に寝転んでいるし、あっちは岩の上で丸くなっている」

 

本来はあり得ないことだ。本来VRMMORPGのゼロとイチの細かいプログラムを合わせた集合体、云わばモンスターをプレイヤーは倒していく。調べるほど同じモンスターであるに個々に独自のプログラムを搭載している行動。この違いはNPCより大きな誤差を生じていた。

 

「あまりにも統一性がないな....NPCよりも柔軟に動いているから独自に成長するモンスターなのか?もしくはそうプログラミングされているか。それにしては、非効率な動きだな」

 

観測した情報を用紙にまとめていく。このゲームはカーディナルというプログラムに管理を一任している。ならカーディナルに優秀な人工AIを搭載しているのか。それともカーディナルに何か不具合をきたしているのか。初めての気づきにどう受け止めてよいか分からなくってきた。調べるほど新しい情報の発見に脳が痒くなってしまいそうだ。

 

「気分を変えて狩りでもしてくるか」

 

ほぼ上空の建造物から縄や短刀を使い、スルスルと降りていく。半分まで降りてきた所で普段とは違うモンスターの気配に反応した。ユズルは短刀を大樹に突き刺して足掛けの代わりにする。気配のする方向には赤い目をした白兎―――名前は『ラグー・ラビット』。戦闘能力は皆無だが、高い俊敏性と広い索敵範囲を持つモンスターだ。特にドロップする≪ラグー・ラビットの肉≫は最高級の食材として噂だけ独り歩きをしている。

 

ユズルは短刀に縄を括り付けて上半身を安定される。音を立てぬようにゆっくりと近づいていく。間合いに詰めてもユズルは、まだ、まだ遠いと感じていた。まだ近づかなければならぬ幾重の(もや)が正常な判断を邪魔した。装備してあるピックを取り出して、上空から放つ。

 手から離れた銀針は『ラグー・ラビット』に突き刺さる。やがて、ポリゴンの欠片となったと同時に≪ラグー・ラビットの肉≫入手を確認した。

 

「よし!今日は運がいいな」

 

――アイテムを入手してから気づいた。既にアイテム容量は一杯になっていたのです。

 

しばらく商人の仕事に精を出したアイテムストレージに売れ残った商品を整理したくなってきた。ユズルは知り合いに同じ商人となったプレイヤーを思い出す。二年以上会っていないが、旧交を温める意味も含めて行きたくなった。まだ、夕刻に近いも転移門まで移動する。

 

 

 情報屋から商人となった知り合いのプレイヤーに会いに、第五十層≪アルゲート≫にくるも、すぐに帰りたくなる治安の悪さに驚いた。街はかなり雑然とした作りで迷路にように入り組んでいる。また怪しげな店も多く、異様な極彩色を放つ。大通りは整えていない無精ひげを生やした男や高級な鎧を身に固めたプレイヤーの軍団で固まっている。また化粧や服装の派手な女性がスカートから程よく肉付きのいい生足をチラつかせて誘惑し、男性に声をかけて派手な色彩をした看板板の店に連れ込まれてしまう場所だ。

 

大通りを通らずに迷いやすい小道を選び、目的の場所まで向かっていく。目的の店に着くと店外からの影で他のプレイヤーと髪の無い頭のプレイヤーが何か交渉する様子が見えた。ならず者の集まりやすい≪アルゲート≫に合わせて黒い木壁で合わせた家は見事に調和している。傍から見れば汚らしくても仕方のないだろう。街に合った造りではなくも、まだ自作の移動式マイホームの方が良いと思っていた。

 

「まいどあり~」

 

プレイヤーが店を出るとき肩を落としていくプレイヤーを哀れと見るも同情はしない。なぜなら、第七四層まで進めば、熟練度の高い【装備鑑定】【道具鑑定】【買取交渉】【売却交渉】を持つ相手との取引になる。全てとは言わず、自分も得意分野で一つは取っていなければ不利な取引になりやすい。ユズルはすれ違うプレイヤーに道を譲る。入店の前に周囲の確認をしたところで、木製のドアノブをひねった。

 

「こんにちは~」

「いらっしゃい。今日はどんな用事だ?」

「いや、エギルが店を開いていると聞いてね。知り合いなら顔を出そうと来ただけだよ」

「知り合い?悪いが、お前とはどこかで会ったか?」

「そうだった。フードを取らないと分からなかったね」

 

ユズルは幻影のローブのフードだけを取り、エギルに素顔を見せる。エギルはかなり驚くと同時に「良く生きていたな」と労う言葉をかけた。実際に彼とは第一層攻略戦以外に接点は無い。だがアスナやディアベルの様に必死に叫んでいたから印象に残っていた。今までどう生きていたか話した後、ユズルは彼に交渉を仕掛けた。売却のアイテムを確認し、エギルはあるアイテムに、メニューのスワイプを止める。

 

「おい!これ、ラグー・ラビットじゃねぇか!?どうしたんだ、これ!!」

「たまたま手に入れたんだ。料理スキルもコンプリートしてるから売らないよ」

 

はっきりとユズルは言う。エギルは口惜しそうに、

 

「厚かましいと思うが、一口でいい!食わしてくれ!」

 

目を見開き、ユズルの両肩に手を置き、力強い口調で交渉する。いや、これは交渉ではない。何が何でも「食べたい」欲求に駆られている。本来は一緒に食べる予定だったのに、これでは余計に言いにくい。「はい」では同じ商人として無料で渡しては警戒されてしまう。「いいえ」では旧交を温めに来た意味を見失う。さて、どれが一番最善であるか....

 

「いいよ。一人で食べても美味しくないしね。でも条件を付けよう

この用紙に『商人』を題材に、八百字でまとめて感想を書く、のでどうだろう?」

「おいおい、それはないぜ!タダで食わしてくれないのかよ」

「『タダより高いものは無い』だ。それに商人なら無償で物を与えるなんてことはしないと思うよ?」

 

商人として心得のあるエギルはユズルの考えに同調し、ぐうと、うなだれる。実際、もしこれが交渉に関するスキルを持っていないプレイヤーであったなら、エギルは『悩む』とは無縁だった。巧みな話術で相手を推し量り、元のコルより安い相場で高い物を手に入れる商い術を繰り出すことができたであろう。それこそが、彼の商いのやり方であった。感想文の代わりに食事を交渉道具にするなど意味が分からない。

 

「例えだけど、週一か週二で投稿するパソコン小説家の人達は厳選した文字を捻りだして約五千字を目安に書いているみたいでね。八百字位ならエギルもできるよ」

「何の話をしてんだ!俺は小説家じゃねぇから八百字も書くのは大変なんだよ!」

「なら、書き終えるまで作らないで待っているよ。だから頑張れ~」

 

差し出された用紙に文字を殴り書き、スキンヘッドの頭を掻く。時々、エギルにラジオ代わりの与太話をしながら原稿を貰う待ちの姿勢を保つ。店内はやや冷んやりとするも、寒くはない。ユズルは自作のコーヒーを準備し、丸いガラスに水泡の淹れる小気味良い泡音をなびかせる。店内にコーヒーをドロップするときの湯気と共に何とも言えない香りが充満した。

 

 

コーヒーをエギルに差し出した時に鈴の音が響き渡る。突然の来訪者に慌ててフードを被った。白と赤を基準にした血盟騎士団衣装のアスナとノーチラスが入店してくる。ユズルは何食わぬ顔と姿勢で彼らの視線を合わせぬようにした。

 

「こんにちは、エギルさん。最近の景気はどうですか?」

「まあ、ぼちぼちだな。いい時もあれば悪い時もあるぞ。二人は何だ?デートか?」

「からかうなよ....ただの見回りの仕事。副団長の護衛も兼ねて同席しているだけだ」

「なんだ、なんだ。血盟騎士団は治安維持の仕事もしてるのか?」

 

確かに≪アルゲート≫は大人の遊戯や飲み場を求めて金を吐き出す所でもある。悪く言えば品の無い街。しかし、攻略でコルを持った、欲を溜めたプレイヤーは集まりやすい。酒や美女・美男子を求めて集まる≪アルゲート≫はマニアックな情報を集めやすい分、プレイヤー同士の喧嘩が絶えない場所だ。

 

普段から治安維持を監督している¨アインクラッド解放軍¨では争い事が起きても止められない。攻略組随一の¨血盟騎士団¨の衣装を纏えばそれだけで抑止力になるか。争い事でも力ずくで納められるからか。いずれにせよ、落ち着く場所でないことは確かだ。

 

「すみません、ちょっと伺ってもいいですか」

「....あぁ、どうかしました?」

「(人違いだったかな)いいえ、知り合いかと思ったもので」

 

アスナは不審に顔を覗かせる。むろん気まぐれではない。どこか知り合いの様な雰囲気を醸し出す黒フードの人物に、彼女の勘は「知り合い」と断定していた。詰問とは程遠い柔らかい口調ではあるも、それでもアスナは、言外に正体を知ろうと話し合いと同時に圧力をかける。それに見かねたノーチラスは凛と、低い声でアスナを制止する。肩に手を置き、アスナを真っ直ぐに見据えていた。

 

「副団長――それ以上は尋問だ。いくら何でも見過ごせない」

「いえ、そんなつもりは無かったんだけど....ごめんなさい。言いすぎちゃった」

 

だが、時すでに遅かった。アスナという有名人を一目見ようといつの間にか、店外の人だかりが覗き見していた。いくら「黒いフードの怪しい見た目だから悪い人だ」と仮定していても初対面で質問攻めをされては、誰でも気分を悪くしてしまうだろう。ましてや、とばっちりで集団に見世物扱いは腹ただしいものだ。

 

「済まないな。気を悪くしないで――」

 

ノーチラスは黒いフードのある部分に目を見開く。わずかばかりに指先も震え、止まるのを待ってから、彼は押し黙ってしまう。誰が見ても極端すぎる豹変だった。アスナ目当てで集まったプレイヤーの人払いを済まし、店のドアを閉め、再び周囲を見回してから訊ねた。

 

「お前....もしかしてユズルか?」

「うん。久しぶりだね、ノーチラス」

 

ふわりとフードを取り、顔を見せる。ノーチラスは一年ぶりの再会になるも素直に喜べなかった。第四十層撤退作戦に一人を残して離脱した謝罪か。そもそも生きていたことに対する喜びか。ノーチラスの諸々の想念で上手くユズルに伝えきれなかった。

アスナは二年ぶりとなるも、たった今まで、攻略組さながらの威圧感でまくしたてていた彼女は、ノーチラスに嗜まれるや否や、バツの悪そうに目を伏せてしまう。項垂れるアスナと戸惑うノーチラス。清濁を含む雰囲気に出来立てのコーヒーを注ぎながら話を切り出す。

 

「ところで....何で分かったの?」

「左手の小指に巻き付いた髪の毛だ。認識阻害の装備をしていてもそれで分かった」

「それでか....そう言えば、認識阻害の装備は話していたか?」

「いや、ユナから聞いた。団長や情報屋でも出現情報を集められないから、こうして会えたのは本当に偶然だな」

 

一通りの話し合い後はカウンター席に並び、淹れ立てのコーヒーを嚥下する。酸味の少ないコクのある香り。五分間に及ぶ人間達の沈黙は、エギルの乱入で終わった。

 

「やっと書き終えたぞ!さあ、食べさせてくれよ」

「了解。そうだ!二人とも空いてれば、料理を食べていかないか。今日の献立はシーザーサラダとコーンスープ。メインはラグー・ラビットのシチューだ――味は保証しよう」

 

思いつきの提案にエギルの悲壮感溢れる顔を無視し、ユズルは台所の奥へと姿を消した。

 




急なアンケート調査でしたが、お答え頂きありがとうございます。

 圧倒的に『生存』の意見が多く出ました。その方向で執筆の指標にさせて頂きます!!

お陰様でアンチ・ヘイトの展開を2・3個減らし、コメディ要素を増やす事ができました。

というのも、作風の関係でどうしてもキャラを心理的に追い詰める描写になってしまう分、原作キャラでもリタイアしてしまわなければ『ご都合主義』と捉えてしまいがちになります。

今後とも、迷う場面に急なアンケートを取る可能性はありますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

エピソードゼロ:投稿優先の期待値調査

  • 孤独な少女(シリカ編)
  • 人の温かさ(リズベット編)
  • 働くAI(ユイ・ストレア編)
  • 超食べたい(ヒースクリフ編)
  • 受け継がれる幻影(???編)
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