恋は結ばれてからが、一番大変です。
恋とは何か?愛とは何か?難しいですね(;´・ω・)
【注意】
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もし運営さんに警報があれば内容を切り替えます。
ご了承下さい( 一一)
2024/10/22
結婚祝いの宴から一晩明けた、早朝午前八時過ぎ。ガラスに反射して清清しい朝日の差す午前だ。厨房の小窓を少しだけ開けたユズルは、霜の流れ込む空気を確かめながら、エギルのキッチンを借りて朝食を作っていた。
第五十層にある店の立地は細道に人の便は少ないものの、この場所を選んだエギルは、自営業で開いているカフェと似ているせいもあり、この物件を選んだそうだ。ユズルも騒がしい場所とばかり思っていたが、起きてすぐに散歩をすればエギルはただ感傷に浸りたいだけでない、と気づかされた。
すぐ近くに差し掛かっている茶色いレンガ造りの石橋は、アルゲートで唯一の水路であり、比較的に人通りの多い細道であるのだ。裏道ではあるも、第三層のロービアにある「ゴンドラ」と呼ばれる船に乗れば、第五十層まで水路を揺られながら移動できるサービスもある。安全マージンの低いプレイヤーも第一層から第五十層までの道のりを安全に移動できるとあれば、コルを稼ぐ『金策クエスト』や新たな食料を選ぶ幅も広がるということだ。
ユズルは朝食のカボチャスープから視線を外さずに今後の生活を考えていた。第七四層の大樹の上に吊るしてあるツリーハウスでは食料の調達や人が行き交うには不便であり、住もうにも世捨て人という印象も強くて、本音は馴染めるはずもない。現に二年間は、崖の上のハンモックやNPCの運営する飲食店の椅子を並べて寝た時も、人間の寝泊まりする場所ではないせいか、疲れは取れなかった。
一方的な見方ではある。ただの一般プレイヤー兼商人ともなれば、『静かで自然の多い場所』『敵モンスターはいない』『他のプレイヤーの行き来が少ない』『徒歩で転移門まで行ける場所』を満たせる所に家の建造を計画していた。
一
カボチャスープも出来上がる間近に、いつの間にか起きてきたユナは事前に準備していたトマトやサラダを用意し、鮮やかな彩りをした朝食を小さなテーブルを囲んでいると、二人は現実で世帯を持った夫婦になったような気がして、お互いに見合わせて薄く微笑む
「もうプレイヤーに襲われる心配もないなら、新しい家を建てようと思うんだ」
エギルの小売店で軽い朝食を食べながらユナと相談していると、
「また急な話ね…でも悪くないかな」
肯定的な言い方に、ユズルはかえって不安になった。
「あれ?賛成なんだ。今はコルも共有しているし――血盟騎士団の仕事や歌の活動もあるから、断られるかと思ったよ」
「あっ!そう言えば、まだ言ってなかった。折角会えたのにまた離れるのも嫌でね。だから血盟騎士団は円満脱退したわ。『歌の活動』に専念すれば、また普通の生活に戻れるしね」
血盟騎士団の一時脱退はイメージの関係で容易ではない。しかし、例外はある。血盟騎士団の規則事項に『結婚をした男性及び女性は、ギルド内でフレンド登録したプレイヤーを保証人として伝達し、遅滞なく届ければ受理される』項目がある。
今でこそ鉄の規律を持つ【血盟騎士団】であるも、立ち上げた当初の愉快なノリで定めた規則であった。
ユナは結婚した証である銀色の指輪を差し出し、副団長のアスナを保証人とした。ヒースクリフは規則通りの合理的な申請に、無下にすることも無く、渋々ユナの脱退を認めたのだ。
「ユナが血盟騎士団を脱退したなんて、未だに信じられないな」
「私からすれば、『家を買う』じゃなくて『家を建てる』の方が信じられないかな」
そう言われてみると、一から家を建てる行為事態にどこか世間とのズレを気づかされる。軽い話し合いは、効果てきめんで、ユズルは程よく肩の力が抜けていた。
「あ~あ。思いっきり打ち返された」
「ふふっ、打ちやすい所にボールを投げる方が悪いのよ」
「まあ、第七四層に自作の家を置いてあるけど辺鄙な所だからなぁ。ユナも通いやすくて、敵のいない所に建設したいかな」
「――え、何を言っているの?私も一緒に住むよ。引っ越しの準備は済んでるわ」
きっぱりと首を傾げながら、ユナの同棲にユズルは一瞬だけ驚くも、すぐに脳裏には二人で住む姿を浮かべていた。
ひと言詫びを入れてから、ユズルはメニュー画面でユナのアイテムを確認する。一通りの家具一式でほぼ一杯になっていた。ユズルは画面に触れながら、改めてユナの思い切った行動力と大胆さに感服する。
二
ユナの紹介から木材を調達しようと第二二層主街区≪コラルの村≫に着けば午後十二時を少し過ぎていた。二人は朝から木材を買い集め、足りない家具を相談して購入していた。インテリアで意見が合わず、買い物をするユズルよりも付き添いのユナの方が熱心になった。話し合いの末に、ユナは家具を統一したいのか色を気にしながら選び、逆に植物や壁紙はユズルが拘って選び抜く。
互いに拘りすぎてしまい、気づけば昼食を忘れて買い物をする所だったのだ。昼食の書き入れ時に空いているレストランなどはない。仕方なく、近くの宿屋のキッチンを借りて作ったサンドイッチをバスケットに用意した。緑園に囲まれたカフェテリアで飲み物を頼み、手作りのサンドイッチを広げている。現実世界では持ち込みは禁止ではあるも、これはこれで仮想世界の醍醐味と思えてしまう。ウェイトレスに注文したコーヒーとカフェオレが置かれた時、ユナはふと、見つめながら言った。
「改めて言うのも何だけど、かなりの大恋愛だよね――これから先も忘れないかな」
「そうだね――今だから言えるけど、僕は諦めていたからなぁ」
「諦めていた」の五文字にユナに睨まれてしまう。カフェ通りのプレイヤーが気ぜわしなく歩き流れ、コーヒーにミルクを入れただけの容器に、混ざり気のない液体は模様となる。かき混ぜないまま、ユズルは一口飲み込む。ユナは口からカップを置く動作を見ながら言う。
「男の子って少し身勝手ね」
「そうかな?」
「そうよ。その人を好きになれば、嫉妬の一つでもして意識するでしょ。一方的に諦められれば、好きになった方が負けになるじゃない」
「世間体や身分の違いもあればわからないよ」
「そういうものかしら?」
「元々、生まれも性別も、ましてや環境も違う男女がこうして知り合うだけでも奇跡だよ。ここからお互いに恋して愛を育むまで発展するのは稀じゃないかな」
ユナは納得していないのか考え込んでいる。その様子にユズルは聞き覚えのある物語の一部を切り出した。
「¨恋愛物語¨にロミオという男性がでてくるけど、ヒロインのジュリエットとの出会い方は少し似ているかも知れない」
「聞いたことがあるわ。覇権争いで二つの名家が内輪もめをしている間に敵同士である跡取りの男女が愛し合うお話だよね」
ユズルは静かに微笑み穏やかな声音で、言葉を選びながら説明する。
「ロミオはロザラインという女性に会いたくて舞踏会に来ていた。けど、ロザラインは徹底的に彼を遠ざけて、恋をしていた彼はその現実が見えないほど夢中になっていたんだ」
「仕方がないと思うな。恋は盲目と言う位だしね」
「そうなんだよね。それでジュリエットの方も複雑だった。舞踏会で家族が薦めるパリスって言う美男に『家柄』を感じてしまい、初恋の経験の無い彼女はどうしても好きにはなれなかった」
「不思議な話。誰もが認める男の人に彼女は政治的な気配から壁を作っていたのかな」
ジュリエットがロミオと燃え上がる恋をしたのは、彼女の周りに漂う政治やしがらみとは真逆である人としての純粋な恋愛を求めていた、ユナはその様なことを気にしていた。
「ジュリエットはただ純粋に『恋をしたい!』と思っていたと思う。そこに、恋に情熱的なロミオが現れた――理屈なんてない。お互いの運命的に出会った純粋な恋愛だよ」
ユナはゆっくりと目を閉じるも、やがて思い直したように、
「でも、やっぱりロミオは勝手かな。嘘の情報を信じて自死して、後を追うようにジュリエットも自死する原因になった。純粋に彼を愛していたからこその悲運で――ただあまりにも運命の巡りあわせが悪すぎた話よね」
森林の間に差す光の下で男女が恋物語を語り合う。緑園の白い灯りの下で、ティータイムをしながらお互いの価値観を話し合うのは少し場違いな気もするが、今を思えば、ここまで恋愛に深く根を詰めた会話をするのは初めてかもしれない。
「こういう恋の価値観は、あんまり話さないのかもしれないね。付き合っても互いに理解してないまま素通りするか、何となくでしか分からない」
ユズルは言うと、ユナは素直に頷く。
「もう一つ、聞いてもいいかな」
「どんどん聞いていいよ」
「『純粋な恋愛』っていう話。心のままに燃え上がる恋をすると周りが見えなくなってくるでしょ。でも、それって凄く怖いことに思う。そういう場面は、どうすればいいのかな?」
「異性を愛することに制限はない。『家庭』や『家のしきたり』の環境を無視するようになれば、『純粋な愛情』も無くなる」
「なら、純粋な恋から愛に変わるには、どう線引きをすればいいのかな」
ユナの核心に近い問いに、一度だけ呼吸を整える。
「さっきの物語になるけど、ロミオとジュリエットは結ばれた期間は六日も無かった。二人はお互いに十分な会話のないまま、本能のままに恋を燃え上がらせた。その人を分かる前にロミオは嘘に騙されてすれ違いを起こしたのだから」
「…つまり、お互いに素直な話し合いで生まれる『信頼感』を積み重ねるのね」
「僕はそう思う。見た目だけや数字に囚われた交わりは恋で盲目になった状態と何も変わらないから」
ユナは一旦、納得してカフェオレを口に含む。口から少し零れたのか、小さなハンカチで口を拭いていた。サンドイッチも半分を食べ終える
「そう言えば、近いうちにアルゴさんがユズルを訪ねてくるかもしれないわ」
「アルゴが。どうして?」
「どうしてって言われても困るけど、私と結婚した情報をいち早く察してね。あれはたしか、ユズルが寝ていた初日だったかな。アルゴさんに私と結ばれた『過程』を掻い摘んで話したの」
ユナは続けて言う。
「そしたら…こほん、『ニャハハハハー!こんな面白い話をただ伝えるだけじゃナ。折角だから本にでもしてみるカ』ってね」
律儀に片言まで再現する声優顔まけに、アルゴの声真似を行うユナ。そのモノマネには敢えて言及せず、彼女のプロ根性だけを褒めた。
「ユナ…モノマネ上手だな。魂入っているのかと思ったよ」
「からかわないでよ――声真似なんて初めてなんだから」
顔を朱色に染めてユナは静かに言った。ただ、少し怒った顔も恥じらう顔もどこか色っぽい感じもあるせいか、ユズルはずっと、ときめきと似た気分になる。それを振り払うように、ユズルは話題を変えて、ユナに楽器専門店はないか尋ねてみた。
ユナの話では、≪コラルの村≫にある楽器専門店の質は良くないらしい。ユズルはユナのクラシックギターは弾けないも、アコースティックギターは玄人なりに弾ける。現実世界では気分転換に弾いていたこともあり、落ち着いた状況にもなれば、急に弾きたくなったのだ。
「ユズルってやっぱり音楽に詳しかったね。私のアドバイスも的確だったし…」
「あの時は追われる身だったからね。これを機に、プレイヤースキルで上達したい!と思ったんだ」
「ここにおススメはないかな。ロービアにいいお店を知っているわ。そこに行きましょ!!」
「…お手柔らかにお願いね」
目を輝かせて興奮気味に身体を近づけるユナはこれ以上の会話を惜しみなく打ち切る様に手をつなぎ、会計をすましてしまう。しかし今になり、なぜこんなにユナは積極的なのか、ユズルは彼女がどこか不安を誤魔化しているように見えていた。
初めは互いに知り合い、気が合い、そして一気に結ばれた。その過程は障がいだらけで、結ばれるはずもない二人が結ばれた。だが、一度恋人という頂きに昇った瞬間、ふといきなり見えない壁に戸惑い、身動きが取れなくなる。
今のユナは、必死に一つの壁を越えようとしているのではないか。そう想い、願うのであれば、勇気を持って一歩を踏み出し、彼女の不安と共に壁を超える覚悟を決めよう。彼女に手を引かれながら、ユズルは決心した。
三
アコースティックギター選びは見事に意見が食い違い、休憩や夕食を挟みながら購入したので、気が付けば夜の二十時を過ぎていた。一年前まではレストランや音楽で賑わっていた街並みは、いまはもう暗く静まり返っている。
小路通りの間から大広間までは、プレイヤーの気配もなく空いていて十分に落ち着く。だが、手を繋いでいるユナは少し震えている。僅かに手に伝わる握りにも力が入っていた。
楽器を購入した後でユナに、もっと一緒に居たいと伝えた。もっと長く一緒にいたいとの返事に、今度はユズルが彼女の手を引いた。
ユナのゴシップ予防に、小路通りにある宿屋を認証してキーを貰うと、寝具や机の揃った部屋であった。あたりはすでに暗く、扉の近くにある明かりをつけると、設置の少ないシャワールームや化粧用の鏡まで待っていた。なかに入り、ユナは楽譜を取り出したとき、ユズルは顔を覗き込むフリをして、彼女の頬に軽いキスをした。何か言葉を交わした訳ではない。どちらからともなく、ユナもユズルも、互いに寄り添う。
「今日は付き合ってくれてありがとう。色々と無理をさせたね」
「私は大丈夫よ」
「強がらなくていいよ。ユナはいつもそうやって大丈夫じゃないのに大丈夫って言うよね」
エギルのお店から第二二層主街区≪コラルの村≫に、第三層主街区≪ロービア≫と、絶えず人目を気にしていたが、ようやく解放されて彼女を労うこととした。次の瞬間、ユナは楽譜を仕舞い込んでからユズルの体を強く抱き寄せた。ユズルも彼女の背中に手を伸ばし、優しく包み込む。
「僕はユナが好きだ」
今度は絞り出すようにユズルははっきりと言う。
「私も好きよ。どうしようもないほど、あなたが好きです」
ユナは身体を震わせるも、お返しとばかりユズルの額にキスをする。自分よりも高い体温の心地に溺れそうになっていたとき、ユナは顔を近づけて囁く。
「今日はたくさん酔いたい…」
「そのほうがいいかも知れない。僕も一緒に付き合うよ」
顔の皮膚が熱を持つユナを、ユズルは強く抱き寄せ、深く接吻をする。
彼女の唇は果肉の厚く、縦筋の模様から軽い波を寄せていた。波を堪能していれば、その蓋はゆっくりと開き、彼女の熱い海を泳ぎたくなる。沖を付きだして海に飛び込むとユナの沖は執拗に誘い、海は荒々しくなる。溺死してしまうと思い、唇を離せば、沖は絡み合って離れようとはしなかった。
息を整えれば息苦しさに溺れると分かっていても、また熱く荒い海に飛び込んでいく。海は二つあったはずなのに、一つの海としか感じられなかった。気づけば、芳醇な海潮の香りに包まれる。部屋の蒸気が充満して頭の中が変になりそうだった。
うっすらと半目を開けると見覚えのない彼女がいた。体だけが遊離して一人歩きをしつつも、瞳は潤っている。そんな浮遊さのある身体の存在を確かめるように柔らかく髪を撫でつつ、ユズルは接吻を繰り返した。
【キス=接吻描写について】
R-15の範囲で、筆者の好きな詩を参考に執筆しています。直接的な描写ではなくとも「読んでドキドキする」そんな風に感じ取れれば幸いです。
次回は本格的に『ユイ』の話+ほのぼのとした感じに書いていく方針です。これまでと比べると刺激は少ないですが(;´・ω・)
【後書き】
もう一つアンケートで取った『桐ヶ谷直葉のトラウマ』の予告です。予定通り『ユイ』の話の間に投稿します。
原作で詩乃のトラウマを参考にするも、プロットの段階ではR-15で投稿できるかは分かりません。ほのぼのとした雰囲気に温度差を感じる描写を丁寧に書いていく方針です。
エピソードゼロ:投稿優先の期待値調査
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