R-18指定、幻影戦記~氷と炎の鎮魂歌~を見て頂き、ありがとうございます。
今回から、鬱とシリアスを比較的に抑えた物語『ユイちゃんのトテトテ散歩録』をお送りします!
原作とは設定を変えている【朝露の少女】ですが、楽しめれば有り難いです!(^^)!
2024/10/25
明かりの差しこむ緑と泳ぐ魚まで見える透明な水面の広がる湖の輝く緑園の情景は軽井沢を思わせる自然だ。唯一の違和感といえば、重力を無視して浮遊している木製のハウスだ。情報屋のアルゴに尋ねれば手に入るクエストを受けられるだろうが、ほぼ全ての趣味スキルをカンストさせたユズルにとっては関係なく、見て見ぬフリをして木彫りのトンカチでハウスの最終調整に勤しんでいた。
七四層に自作したツリーハウスを分解し、土倉をイメージした藏屋敷に新たに木材を付け足した三LDKマイホーム、家賃も敷金も無料である。材料費は高く付くも、宿屋借り続けることを考えれば安く済む。買い揃えた家具も入って、ようやく人心地の部屋にユナを招待したのは、初めて交わり合った日以来であった。
「今日から、ここに住めるのよね」
室内を広く見渡すユナに、ユズルも頷いて、
「これでユナもようやく落ち着けるね。気に入ってもらえて安心したよ」
「一人で住んでいた家と比べれば、全然落ち着くよ」
一通りにハウス内を案内したあと、ユナはあらかじめ買ってきたエビと野菜の寄せ鍋を作り、テーブルを囲んで食べ合った。
「今日はお昼にライブをする予定だから、帰りは遅くなるかもしれない」
「分かった。なら、お弁当を作っておくよ。夕飯はまた連絡しよう」
時間に自由の効くという点では、商人の自営業をしているユズルの方が恵まれているのかも知れない。血盟騎士団の宣伝を条件にユナは脱退し、歌の仕事は週二回、昼間か深夜に、ライブを行い、二日前に打ち合わせと演出の準備をする。二日連続で休みの無いのは彼女の方だ。
ユズルの場合、商人といっても、決められた時間通りに用事があるわけではない。誰かに頼まれれば商品を交渉し、自分から依頼を探しに行くこともある。暇を持て余す時間は無くとも、自由な時間に自分の用事を決めることはできた。
「時間に余裕もあるから、ユナの専属マネージャーを志願してもいいかもしれないな」
「マネージャー志願なら全力で止めるよ」
「え、何で?」
「だって…商人の仕事もしているでしょ。それにユズルにはプライベートで唄を聴いてもらいたいから」
軽くはにかみながら、みずみずしい色気に満ちた視線に、一瞬、ユズルはうろたえる。彼女と結ばれた日から、凛とした慎ましさは、より女らしさを秘めた美しさを目立たせていた。ライブの壇上に上がれば小悪魔じみた視線や表情も艶っぽく、さらに魅力的な女性となり、マイホームで彼女が待っていると思うと仕事を頑張りたくなった。
「分かったよ」
ユズルはうなずくと、再び関心を鍋のほうに戻っていく。実際は夫婦として誰にも気にせず堂々と逢っているが、ユナのファンからすれば「アイドルが熱愛により結婚した」という失恋に似たショックを受けるだろう。ユズルはそのことに罪の意識を覚えるも、ユナはどのような不安を抱え、どのような芯を内に秘め、二人だけになった時はどのように乱れるのか、それを知っているのは自分だけだと。
優越感を含めながら自分のできる範囲で彼女を支えようという感性はユナも同じらしく、「早く帰ってこれたら料理を作っておくね」などといいながら、彼女自身もこの生活を楽しんでいるようでもある。
一
2024/10/30
誰よりも一緒に居たい人と同じ所に帰る場所があり、苦労や喧嘩もある生活にも、ようやく懐いていた。マイホームを建造してユナとの生活も充実してきたが、それとともにアインクラッドの世は移り変わっていた。
その一つは、アインクラッド解放軍の分裂である。理由はコーバッツの単独行動により、他のギルドからの信用を失ったアインクラッド解放軍は、実質的に内部から崩壊した。分裂した部隊は、副リーダーであるシンカーとキバオウが統治を任されることとなった。
とは言うものの、分裂自体は悪い話ではない。噂では、シンカーは温厚な性格と周りの話をよく聞き入れ、他のギルドの連携に自らも動き回る対応に周囲の信頼を得ている。
キバオウも、また思い切った政策の一つに「遊撃部隊」と「アイドルを応援し隊」を編成した。腕利きのプレイヤー集めた「遊撃部隊」は依頼を受ければ、狩りや護衛を補助する役割は非戦闘プレイヤーの安心する護衛となっていた。
しかし、「アイドルを応援し隊」は問題が多く、アイドルを応援するグッズや握手券の販売などにより、多額の売り上げを記録していた。最近では吟唱スキルを得た女性プレイヤーレインのスポンサーとして多くのプレイヤーを破産に導いていると。血盟騎士団も破産者を増加させている現状を苦々しくノーチラスは語っていた。
燃えるような赤い長髪をしたたらせる茶色い瞳とは裏腹に、愛嬌ある笑顔と男心をくすぐるチャーミングな仕草で話題となり、新聞でも大見出しを飾るほどに知名度を上げていた。ゴシップ記事の需要も高まる一方でアルゴを除いた情報屋がユナと結婚したプレイヤーを知るために、主街区の聞き込みを強化したことである。
今日、たまたまユズルはアイドルを応援するレインのファングッズを販売する依頼を受けるも、頬を膨らましたユナは冷たく見据えていた。
「…ねえ、その依頼…断れないかな」
「依頼主の信頼もあるからそれはできない。新しく情報を集める目的もあるし…後で埋め合わせをするよ」
「………デザート…」
口を尖らせてむくれたままに、
「今日の午後、新作のデザートを一緒に食べたい…」
「わ….分かりました」
ユズルは逃げる様にマイホームを出た。だが再び、商人の仕事でレインのグッズを売るとなると、やはりユズル自身も複雑であり、ユナのことが気になっていた。
案の定、すぐに帰ればさらに頬を膨らましたユナがソファーに顔を突っ伏し、少し睨む視線をユズルに向けたまま後ろに後ずさり、両手でバンバンと空いたスペースを叩き始める。
威嚇でもしているような様子に、ユナの意地っ張りと似た、女性のプライドをユズルは垣間見ていた。ビジネスの話として彼女は納得しても、気持ちの部分は別の話となるのだ。
ユナの言われた通りにソファーに座れば、ユズルから僅かに生まれた膝のくぼみに埋もれ、ようやく解放されれば、大きく溜息をつき、顔をユズルに向けて哀願を繰り返す。
「あーうー、あうー!う~悔しい~」
セイウチなのかトドなのか動物に近い鳴き声から、ユズルは膝枕をしたまま、彼女の髪をゆっくりと撫でる。このところユズルはユナの接し方は以前とは大分変わっていた。以前は触れるにも躊躇していたが、彼女と結ばれて何度も睦言を繰り返せば、最近は言葉よりも行動で思いやりを伝えるほうが増えてきた。ユナの表情は相変わらず膨れてはいるも、仰向けになる程度には気分を良くしていた。
「ユナ、やっぱり…意地張っていた?」
「意地の一つも張りたくなるよ…仕事と割り切りたくても一瞬でも浮気かな?って思いたくもなりました!」
「うん――物凄く怒ってるね」
「別に怒ってないですよー?」
これはだいぶ拗ねている、と思えば、ユナは早口に肯定した。勿論、ユズルとしては普段とは意見の食い違いによる争いとは比べるもないもユナの抵抗は激しさを増していた。普段はきっと睨む程度に留めているのに、丸い目をじぃと冷たく見据えている。
「ユズルの立場は承知しているし、変に気を使わなくても大丈夫だよ。それに…いちいち文句言ってたらなんだか私が面倒くさい女みたいじゃない」
長々と話す彼女に愛嬌さえ感じてしまう。あまりにも可愛い嫉妬だ。
「なら今日はユナに沢山サービスするよ。今日のお詫びで久しぶりに昼飯は外食にしようか」
「うん…それでお願い…」
ユナがそっとユズルの腹部に顔を寄せてくる。広めのおでこを軽く撫でると、ユナは訪れてきた睡魔に誘われるように目を閉じた。
二
2024/10/30(昼間)
VRに限られたことではないもMMORPGゲームに不可欠の要素といえば、何を置いても性能のいい武器と鎧だが、それらに勝るとも劣らずに大切なのは、レアスキルの存在だ。
誰よりも目立ち、珍しいスキルを操り、勇敢に強者を蹂躙する姿こそがゲームプレイヤーの理想だ。もちろんそれだけではない。一人しか持ち得ない武器、トッププレイヤーしか与えられないスキルであってもいい。通常のプレイでは遥かに勝る『なにか』を所有物として扱える優越感は、全てのゲームプレイヤーに共通する本質的な喜びだ。
しかし、本質的な喜びを『あの人が所有している』ともなれば、裏切りと似た感覚に、所有している人に嫉妬をする。月夜の黒猫団の代表として戦っていたキリトにとって、無意識にも¨二刀流¨を隠すという行為は、上位プレイヤーからの嫉妬を避けるところも大きかったのだろう。
――はぁ、ここにも情報屋がいるのか。
第二二層『タフト』の赤レンガの陰に隠れたまま、情報屋の動きを予想していた。隠蔽スキル込みとはいえ、レンガについたコンクリートの砂を払いながら、気づかれない程度に掌をいじるキリト。ふいにメール音も鳴り、少し慌てながらもメニュー画面を開く。
『第二二層は情報屋が多いから会うのは難しいかな。第一層なら人も少ないし合流には丁度いいかな?by サチ』
『第一層始まりの街、こちらササマル。情報屋はいない。あ…問題発生!現在、聖竜連合と一人の少女が交戦中!一方的にやられている』
『マジ!by ケイタ』
『ケイタ、報告、報告。by サチ』
『そうか。こちら第五層、一通りプレイヤーが多くなっている。ただ、情報屋もかなり集まっているから危ない』
『第四十層、ここは情報屋が少ないけど、【アインクラッド解放軍】の遊撃部隊がいる。ここは合流地にはならないby ダッカ―』
『第五十層は見回りなし。他のギルドの様子はない。でも、さっきから女の人に誘われて我慢が大変な状況です。遂にモテ期に入りましたby テツオ』
テツオのメールを最後に、誹謗中傷の炎上コメントが飛び交う様子は、まるでユニークスキルを手に入れた以上に信頼と満足で満たされてしまう。ここ数ヶ月に【月夜の黒猫団】は情報を武器にギルドの中間層のサポートを徹底していた。戦闘をしない経験値上げのクエスト、プレイヤーの恋愛支援など一風で情報屋とは差別化できるのだ。
今日はキリトを捜索している情報屋の位置をメールで伝達してくれており、皆の協力に支えられると実感すれば肩の力も抜けてくる一方で、ふとささやかな疑問がキリトの脳裏を過ぎる。
――何故、一方的にやられているのに、ササマルは落ち着いてコメントを返しているのだろうか?
『ササマル、そっちの状況はどうだ?詳しく知りたいby キリト』
『聖竜連合九人と女の子が何か言い争いをしていた。その後、聖竜連合の一人が女の子を斬ろうとしてな。その攻撃を防いでから一方的に聖竜連合がやられている状況だ』
ササマルの文面にキリトは泡を食ってしまう。たった一人で人員だけは最大として名高い【聖竜連合】のメンバーを圧倒する少女の強さを。証拠はないも女性プレイヤーでそれだけの強さを持つプレイヤーをアスナ以外は知らない。この世界で圧倒する強さを持つプレイヤーは誰なのだろう。それだけ強いプレイヤーは何故、第一層にいるのだろう。犯行現場を訪れたいわけではないが、その少女に関心を寄せていたのはたしかだ。
『それなら第一層で合流しよう。待ち合わせ場所は大きな噴水の前だ。ただし、テツオは来なくても大丈夫だぞ。by キリト』
『分かった byケイタ』
『了解 by サチ』
『OK by ダッカ―』
『解った by ササマル』
『見捨てないでくれよぉ~ by テツオ』
第一層『はじまりの街』に向かうと決めたキリトは、黒いコートを羽織り、隠蔽スキルで情報屋の追跡を回避する。悪ふざけをした後に、さらに相手を気遣えなければこころよいと思う者がいるはずもないし、キリト自身もそれを心得ていた。
三
始まりの街の険呑を感知していたのは、なにもササマルだけではなかった。
ユズルと、ひと眠りから醒めたユナは、予約したレストランの時間になるまで新たなアクセサリーの出回りやすいショップを巡回していた。その一方で、プレイヤーの走り過ぎる様子に戦闘を経験するプレイヤーはたちどころに察することになった。
「ユナは何が起こっているか分かる?」
ユズルの問いに、音楽や吟唱で身についた¨超感覚¨で気配を察知したユナは頷く。
「一人のプレイヤーに九人のプレイヤーが押されているみたい。細かい所までは分からないけど」
「加勢は必要ないか…なら戦後処理のアフターケアくらいは必要かな」
ユズルは茫然と呟く。第一層『はじまりの街』は最初にプレイヤーの降り立つ場所であったが、今は戦闘をしないプレイヤーの保護区となっている。本来は平穏であるはずの場所に殺伐とした空気――戦闘の香化を匂わせてはいけないのだ。
「僕は周りの人をなだめに行くけど、ユナは先に予約したレストランに行って、待っていてくれるかな?」
「冗談言わないの。私も行くわ。傍でサポートするよ」
ユズルは遠回しに私を戦闘から引かせようと気遣っている。歌姫として活動しているユナではあったが、恋に落ち、それを成就させて唄のモチベーションは何かを知っている彼女には、彼を支えられる程の自信を持ち合わせていた。そして、それを失う怖さも。
ユズルはほんのわずかに目を瞬かせてから、軽く微笑んだ。
「――頼もしいな。でも、覚悟はしてね」
「大丈夫よ。私の心配はしなくていい。ユズルは自分の信じたことを責任もって務めてね」
騒音の響く昼の中、ユズルは胸の中に積もる温かさを感じていた。アクセサリーショップを離れた後も、二人の鍾愛の残香は、いつまでも尾を引いて残った。
【後書き】
重力を無視して浮いている木製ハウスはアニメでお馴染みのキリトとアスナの住む『森の家』です。
元ネタ:原作ソードアート・オンライン『ザ・デイ・ビフォア』
エピソードゼロ:投稿優先の期待値調査
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孤独な少女(シリカ編)
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人の温かさ(リズベット編)
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働くAI(ユイ・ストレア編)
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超食べたい(ヒースクリフ編)
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受け継がれる幻影(???編)