※二の部分はキャラが少し崩壊しているのかもしれません。またカオスな茶番劇があります
太陽は沈んでいるものの、川から小さな光がチラチラと差し込む明かりは蛍の様に見えた。広すぎる夜空の真ん中に左から絶えずに吹いてくる風に真紅の旗は慌ただしくなびかせている。
クラインとユナは来客プレイヤーの集中する時間帯を過ぎ、何となく感じる疲労から屋台を離れて近くのオレンジ色テントで休憩を伝えたユズルは一人でお店の切り盛りをしていれば、アスナとノーチラスにつられていぶし銀な顔立ちをしたプレイヤーが堂々と入ってきた。
「ユズル!来たぞ!」
「お待たせ!訓練ですっかり遅れたわ」
「いらっしゃいませ~」
活そうな顔をしたノーチラスとアスナに、はっきりとした口調で答える。後から暖簾を潜った男は初対面であるも、どうにも息苦しさを感じさせていた。
「ふむ…アスナ君とノーチラス君に誘われてきてみれば…中々悪くないな」
軽快な演歌に昭和の屋台を思い浮かべる内装に男は開口した。向かい合った男の装束は、鉄灰色の長い髪を後ろにくくり、痩せた長身を真紅のローブに包んでいる。くたびれた顔つきだが、真鍮色の瞳に宿る光は強く、鋭く厳しい印象を受けた。
「ユズルは初めてだったな…団長のヒースクリフだ」
「お会いしたのは初めてでしたね。今日はウチのラーメンを存分に味わってください」
ユズルは最初ヒースクリフに話しかけながら、途中からアスナに顔を向けて注文を受け付けた。
「じゃあ…私はしょう油で!」
「俺は塩で頼む!」
「では…私はしょう油を頂こうか」
同時に注文を言うお客様に返事をせずに、その場で茹で上がった麺の水をきる。軽快に麺をどんぶりに入れ、しょう油味と塩味のスープにチャーシューやメンマに似たような具材をのせていく。三人の前にラーメンを差し出すとおしゃべりはピタリと止まった。そして、割られた箸を片手に勢いよく麺を啜るノーチラスとヒースグリフに、アスナは長い髪を後ろに束ねたポニーテールにしてからスープを味わう。
「ラーメンなんて久しぶりね…このちょっとピリッと辛いのが何とも言えないわ」
「アスナ君、辛いのはいいのか。私のは大分辛くなってきているがな」
ヒースクリフは顔をしかめながら言った。
「食欲増進で隠し味に唐辛子のスパイスを混ぜているからですよ。ホントは紅ショウガやガリを入れれば美味しいんですがね」
「いやぁ....これでもかなり美味い方だと思うぞ」
惜しみなく称賛するノーチラスに、軽く握った拳を見せる。ラーメンを半分以上に食べきったアスナとノーチラスは、ゲーム内のシステムで麺が伸びる心配のないと知れば、明日の予定や攻略組の愚痴を言い合っていた。ただ、ヒースクリフは麺に息を吹きかけてさましたり、水のお替わりをして食べるスペースは遅い。
息をきらしてラーメンの食べる手を休めない男に茫然としたまま凝視していれば、エギルが暖簾をくぐってきてくれた。
「あ!エギル、来てくれたんだね――皆さんすみません。ちょっとだけ詰めて下さい」
「ラーメンをご馳走になれるなら、一時休業してでも来るぞ。そうだな――この激辛をくれ」
事前に用意しておいたエギルに食べさせる激辛の調味料を付け足し、即座に置いた。
「はい。激辛味、お待たせ!!」
「おい…ユズル、これは何だ…」
「え?激辛味――麻婆ラーメンだよ?」
キリトの食べた麻婆ラーメンとは異なり、グツグツと煮えた赤いスープは液体よりも粘着性のあるマグマに近い。たちこもる赤い湯気は食べていない者の震えを止まらせない逸品であり、料理とはいえない代物だ。以前、エギルにはラグーラビットのシチューを他よりも多く食べられた恨みがある。あのとぼけた顔を忘れた訳ではない。いつか仕返しをしたいと思っていたが、それが今日だ。
――やられたらやり返す。ただそれだけだ。
改良に改良を重ねたエギル専用激辛味はアスナやノーチラスの表情を引き攣らせる。大量の汗と全身から白い湯気を立ち昇らせるゆで卵状態のエギルに気付いていたが、ヒースクリフはその必死さを無視し、ラーメンに視線を向けながら考える様子は、ひたすら気まずいものだった。
「ほう…この世界にも麻婆ラーメンがあったのか」
「あれ?麻婆ラーメンを知っているのですか。かなり知名度の低いラーメンですが…」
「私はこれでもラーメンには目が無くてね。だが、私の知る麻婆ラーメンは麺が少ししか無かった…スープは全て麻婆のあんかけで、あれを食べるのは大変だったよ」
「な、なるほど…それはたいへんでしたね」
遠い目をするヒースクリフに、ユズルは聞き流しながら水を補充する。カウンター席で冷たい水を作りながら録音した音楽を巻き戻していると、休憩時間の十五分ほど早くユナがやってきた。彼女は何も言わずに、お客には死角の位置でラーメンのスープを付け足していく。エギルも水を飲むのか、補充しておいた水も全て飲んだ空のボトルを振り、ヒースクリフは空になったコップを差し出す。
「これは、かなり辛くなってきたな…水を一杯頂こうか」
「団長は辛いの、苦手なんですね」
アスナは笑いながらチャーシューを口に運ぶ。ヒースクリフは額に大量の汗を拭わずに、そのまま水を一気に飲み込んだ。その様子にユズルは後ろにある白い明かりをオレンジ色の明かりに切り替える。
「虫よけに明かりを切り替えますね」
真正面から金属製のものが勢いよく落ちる音がした。一瞬だけ振り返ると、カウンターに突っ伏した団長ヒースクリフは大量の汗と全身の震えが止まらないでいる。アスナは驚き、ノーチラスは落ち着いていた。ユズルは急いでカウンター席に回り込み、ヒースクリフの背後に回り込む。
「え、団長!!どうかしましたか!?」
(!そうか….あれが合図なら….)
「ヒースクリフさん、大丈夫ですか!?お背中、失礼しますね…」
ヒースクリフは突っ伏しながら僅かにアスナとノーチラスに向けて首だけを頷かせる。ユズルの視線は背中から彼の手首に向かい、密かにノーチラスから手渡された手錠をヒースクリフの両手首に掛ける。ユズルはしてやったりと笑い、その表情にさっきまで無表情を貫いていたノーチラスも口元を緩ませる。
「上手くいって良かったな。笑いをこらえるのも結構大変だったんだぞ」
「ごめん、ごめん。でも合わせてくれて助かったよ」
ノーチラスには事前に作戦の目的を伝えてある。裏技に近い方法でゲームをクリアする話をすれば、彼は快く承諾し、初めは渋い顔をしていたアスナも協力してくれた。これまでの計画が報われた瞬間に高揚を隠しきれない表情に、ノーチラスはある提案をした。
「よっし、それじゃあ勝鬨でも挙げるか!」
「あたしも混ざっていい?縁起でも驚いたフリも楽じゃないのよ。思いっきり叫ぶわ!」
「うん。一緒に叫ぶよ~」
ノーチラスの言葉に、アスナとユズルも笑った。勝鬨の声掛けを瞬時に決め、困難な獲物を勝ち取った時に口走ってしまう叫び声に決まる。はしゃぐ二人の様子にユズルは、ノーチラスとアスナが良い方向に変わったと思うには十分すぎた。
アスナは第一層で出会い、初対面の印象は自分に厳しく相手にも厳しい少女だった。情報屋のアルゴに聞いた話では、血盟騎士団に入るまでキリトとコンビを組んでいたそうだ。副団長の立場だが攻略に集中する訳でなく、加入したプレイヤーの育成に励んだ少数の精鋭ギルドを目指していた。人柄としても天然さと話しかけやすさもあり、多くの人と関わり合ううちに影響を与えていたのかもしれない。
ノーチラスとはユナの紹介で会い、始めは危い雰囲気だった。後から聞いたが、ノーチラスはFNCというナーブギアの接続障害に悩まされていたらしい。本人に聞いたが、戦闘中に硬直状態となる状態は滅多に無くなったそうだ。最近では、アスナの推薦で副団長補佐としてスケジュール管理や支援物資のやりくりを任させている。しかし、アスナの付き添いは男性プレイヤーの嫉妬の的となり、自然に嫉妬を捌けるコミュニケーション力と行動力を高めたそうだ。
そんな二人が無邪気に喝采を上げようとしている。感情に揺り幅のあるアスナと、自分に確たる芯の無いノーチラスがソードアート・オンラインの影響で歪な性格にならなかった証拠に、ユズルは嘆息した。やがて、三人は声高らかに叫ぶ。
「「「GM!――とったどー!!!」」」
「――辛えっ!!ユズル、水くれ、水!この辛さに耐えるのも楽じゃないんだぞ!!」
両手を上げてハイタッチを交わす三人に悶絶する寸前で耐えながら言うエギルの顔に、また三人は噴き出すのを堪えながら、ユズルは水を手渡した。
一
『茅場晶彦を釣りだす作戦』はこうだ。
『茅場晶彦はラーメン好き』である情報を掴んだユズルは、本物に近いラーメンを再現できれば食い付くと考えた。人間は大好物に対しては、食べたいスイッチのメカニズムが出来上がる。好物を何日も食べなければ欲求は積るばかりだ。目の前に人参をぶら下げれば馬が早くなる様に、人間である以上は本能の『食欲』には逆らえないのだ。
次に、『GMは攻略組にいる可能性が高い』情報を合わせて、まずはギルドマスター全員に来てもらう必要があった。いくら美味しいラーメンでも周りに知られていなければ意味がない。見た目やコメントで美味しそうでも、確実に『美味い』と思わせなければならない。特に世間から険悪な印象の多い【アインクラッド解放軍】と【聖竜連合】のプレイヤーを引き込めなければ、誰が見ても納得のいく美味しさの期待値を上げられなかった。
そこで、クラインとケイタとアルゴに協力を依頼した。クラインには目的のギルマスと一緒に会食して欲しいと依頼した。そして嬉しい誤差で、店主としてラーメン屋台を切り盛りしてくれたお蔭でユズルの負担はかなり軽くなった。【月夜の黒猫団】にはラーメン屋台の口コミを依頼し、上手いラーメンの噂を流させた。アルゴには根回しで出来た行列の写真を撮り、ラーメンの実績をアインクラッド全体に知らしめたのだ。
最後は、『各ギルドの時間帯を調整してギルドマスターが来易くなる』様にしなければならなかった。これはアスナとノーチラスに依頼した。一週間ごとに副リーダーやその補佐はスケジュールを調整しなければならない。これは狩場やフロア攻略の独占を防ぎ、鉢合わせによるプレイヤーキルを減らす為に行われていた行事であった。
たまにアスナはギルドメンバーの経験値稼ぎに付き添う為に他のギルドと狩場の時間調整の話し合いが多く、ギルド内の交流は必然的に増えていた。顔の利くアスナはそのスケジュールを調整し、ノーチラスと共に各ギルドに空きが出来るよう調整を施した。
お分かり頂けただろうか。これは、茅場晶彦を引きずり出す大芝居の全貌だ。入念に準備してきた計画は、当然ながら、相当なストレスを引き起こす。普段は冷静なアスナとノーチラスでさえ、ギルドの連絡調整によるストレスと緊張は相当なものだ。解放感から叫びたくなるのは致しかたない。
ちなみに、エギルは「キリトから連絡が来た日に来てくれれば、激辛味は無料にするよ」と言い、キリトの近くにいるユイが茅場晶彦を感知したタイミングでエギルに連絡した。よって、エギルだけ詳細は知らぬまま、ただラーメンを食いに来ただけであった。
二
ヒースクリフは後ろに手錠を掛けられたまま、木材で作られた椅子の感触をたしかめながら、壇上にいるアスナやノーチラスに目を細めた。部屋は質素で簡素な造りの天井から強い明かりの眩しさに、何度か瞬きをして手早く慣れさせる。
周りの傍観者もいる場は、さしずめ裁判所だ。状況を把握したヒースクリフは、視線をアスナに向けた。
「これは....一体、どういう状況かな」
「只今より血盟騎士団の団長ヒースクリフ――いえ、GMである茅場晶彦の裁判を始めます」
一瞬だけ目を見開くも、右の壇上で顔を覗かせる幼い少女のユイを見れば納得した様に鼻で深呼吸し、落ち着き払っていた。
「私、こういうこと一度やってみたかったのよねー」
「アスナ裁判長、厳選たる審議の方をお願いします」
興奮しかけたアスナにノーチラスがやさしく促した。
「こほん….それでは、検察側の発言をお願いします」
検察(役)のユズルは何も書いていない紙を持ち、えへんと咳をしてから口を開く。
「被告人は次世代型VRMMORPG『ソードアート・オンライン』のログアウトボタンを消去し、あろうことか五千人以上の命を奪いました。これはアインクラッド法第二百十四条『プレイヤーキル罪』に相当。加えて、被告人を生かしておけば時効が収まるまで海外に逃亡する可能性があります。以上より、検察は被告に対して『自害』を求刑します」
ヒースクリフのいる壇上の後部座席からは、傍観者である月夜の黒猫団や風林火山のメンバーの他に、シリカやリズベットが分かりやすいざわつきを演出し、検察(役)と弁護(役)と裁判長(笑)を心配そうに見守る。
「分かりました....弁護側の意見はありますか?」
「....意見はありません」
台座に立って顔を覗かせた弁護士(役)のユイは首を背けたまま言う。
「待ちたまえ。弁護人が弁護をしてくれないのは職務放棄だ。再議を要求したい」
「被告人の発言は一切受け付けません。判決の終了後に、発言を認めます」
何か、はぐらかされたような答え方だった。ヒースクリフは目を俯いて黙り込む時に、
「意義!!」
観客席にいたキリトは立ち上がり、鋭い声を刺す。
「被告人をここで自害させてしまえば、このゲームを終わらせることができなくなる。俺はその証拠となる情報を提示したい」
「....ノーチラス補佐官、その情報を受け取ってください」
綺麗に羅列された誓約書を付きだすキリト。これはヒースクリフの意識がない時に、彼の手を動かして書かせたユイの自作による書類を提示する。キリトからノーチラスに受け渡された誓約書を眺めたアスナは、書類を意味ありげに見つめて、静かに言った。
「情報の開示を認めます。これにより契約をする場合の罪状を改めて審議します――これにて閉廷!!」
――アスナは木槌をカンカンと叩き、ユズルの考案した『ソードアート・オンライン全体を巻き込んだ大芝居』は幕を閉じた。
次回、アインクラッド編のエピローグとなります!(^^)!
エピソードゼロ:投稿優先の期待値調査
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孤独な少女(シリカ編)
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人の温かさ(リズベット編)
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働くAI(ユイ・ストレア編)
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超食べたい(ヒースクリフ編)
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受け継がれる幻影(???編)