いきなりですが、新キャラが登場しています。
それでは、新たな物語と冒険をお楽しみ下さい。
2024年11月20日
「なあ、知ってるかー。シノのん!」
「…聞こえているわ、フカ。あとシノのん言うな」
「そんなつれないこと言うなよ!あの一夜を共にした夜を忘れたか?」
「勝手な解釈するな!たまたま同じ宿屋で泊まっただけでしょ…からかうのもいい加減にして….」
「わりぃわりぃ、ひっさし振りにパーティ組む気なら、これくらいはいいっしょ?」
「…いいわよ…別に…それで、何かを伝えたかったんじゃないの。フカ次郎」
顔を赤らめる薄水色髪をした『シノのん』と呼ばれた猫耳の少女は一瞬で凛々しい顔をするも、『フカ次郎』と言われた金髪の風妖精族の≪シルフ≫はにやけ顔のまま少女の緩急の激しさを楽しんでいた。ここは音楽妖精族の≪プーカ≫領域にある飲み屋。そこに待ち合わせた他種族の妖精達。
薄水色髪の少女は『シノのん』というあだ名をもつプレイヤーであり、プレイヤー名は『シノン』だ。愛称であるあだ名は親しみを込めて対象を呼ぶために用いられる。似た所で、二つ名とは本名以外でその人の特徴や印象を言い表した呼び名で言い回しは違う。ちなみに『フカ次郎』もシノンからすればプレイヤー名を言い難くて『フカ』のあだ名で呼んでいるのはここだけの話だ。
緑園畑に囲まれた木々に白く厚い雲が覆っている。今日は風の強い日ではないも、日差しの強さは、頬に軽い熱をおびさせてしまう。
飲み屋から外に出れば、ハープやオルガンの軽音が出迎えてくれる。陽気で唄と音符に歓迎された領地であった。
「こっちからはそんなにないさー。一つは世間話と、もう一個は依頼さ」
「へぇ…なら世間話から聞こうかしら」
「おう!シノの…じゃ、無かったわ!シノンはさ…先週位に¨ソードアート・オンライン¨に閉じ込められていたプレイヤーが帰還した話を知っているか?」
「あまりその手のニュースは見てないのよね。スマホでそういうことがあった程度よ」
「その手の話だけどねー。な~んか怪しいのだよ」
「怪しい?」
ミルクを一気飲みしてカラになったコップを掴んだまま落とし、喉を潤したフカにシノンが問いかける。
「ふっ…フカ次郎さんは、こう見えて数多のVRMMOを遊びつくしている風来坊さー。色々やってりゃーコミュニティも増えて来る訳で…その中のプレイヤーの話で¨ナーブギアを被ったまま意識の戻らない人¨がいるそうだぞー」
長足のテーブルに肘をつき立てたシノンは注文した珈琲を飲み、渋い顔をしてしまう。酸味の効いた味が強く、残り少なくなったカップを置いた。フカにはそれが、会話を切り出す合図と捉えていた。
「それは変じゃないかしら。ナーブギアはデスゲームとなったソードアート・オンラインを接続するもののはず…ゲームがクリアされても戻らないなら、まだログアウトしていないデータ化されたプレイヤーの意識はどこにあるというの?」
「それは、私でも分からないさー。分かるとすりゃ、ゲームを作った茅場晶彦に聞くしかないね。まぁ、その人も知っている限りは行方不明だけどなー」
大袈裟に身振りをするフカであるも、シノンの眼光が冷ややかな凄みを帯びていたのを見逃していない。何度かパーティを組んでいれば怒りにも捉えられる彼女の感情も、これが難解なクエストを攻略してきた彼女の閃く瞬間である。一瞬、肌が冷気に触れる圧迫感を感じた。発生源のシノンは――
「考えても情報が少ないなら、そこから考えても妄想にしかならないわね。ここまでにしとくわ」
腰に掛けていた弦をそっと撫で、表情を変えずに黒い水面に反射する自分の顔を見つめる。やがて両足を組み、腕を立ててフカに意味ありげな視線を送る。
「それで――依頼はなんなの?」
「うむ…実はここから南東側の環状山脈にある雪のインゴットの発掘を一緒に手伝ってほしいのだ!」
「今は雪が積もって物凄く寒いんじゃない?」
「そうだ!だが、噂でそれを武器と合わせれば強いのができるらしくて――」
「…猫は炬燵で丸くなるのが仕事なの。さて…温まりに行ってくるわ…」
席を立とうとするターゲットに、テーブルから身を乗り上げたフカはシノンの腰をがっしりと捕まえる。筋力は彼女の方が高いせいか身体は全くと言っていいほど動かない。必死に暴れるフカの姿は上から見れば、浜に打ち上げられたフグそのものであり、抵抗するよりもフカの必死な姿を楽しんでいた。
「頼むよ~シノのん!わたし一人じゃ逃げて山は越えても、発掘場までのモンスターにやられちまうのがオチなんだよ!頼む~」
「何を言ってるの?雪道に行くなら、炬燵という名の防寒着や耐寒効果のある非常食は必要よね。それを買いに行こうとしただけよ」
「な、な~んだ。驚かすなよ、シノン….って、もしかして、最初にからかった仕返しか!?」
「ふふっ…さあ…どうかしらね~」
テーブル板の上に乗るフカは、シノンの意図に人差し指を指して訴える。当の彼女は腰を少し捻り、額に手を当ててウィンクするような仕草をフカに向けていた。同じ女のフカから見ても魅力的だった。もちろん、声に出しては言わないけど。慌ただしくテーブルにお金を置いていった二人は、そのままの勢いでお店を出て行く。カラになったミルクと珈琲からは、まだ煙が立ち昇っていた。
一
音楽妖精族の領地から離れた環状山脈は太陽の明かりの届かないほどの雪の乱舞に、シノンとフカは口を抑えながら前へと進む。歩く道に積もった雪は山と見間違えてしまうほどにそびえ立つ大きさに、フカは索敵を応用して周りの敵や危険な場所を何度か回避していた。シノンが怪我をしそうになっているのに、いち早く気づいたことも三回あった。
道中に隠れているモンスターによる奇襲も、索敵するフカのクロックポジションのサポートもあって、弦を引いた矢は雪霜に潜む敵を射抜いていた。
「…気のせいですまないほどモンスターが賢いわね。大きなメンテナンスもしてないくせに…ここまでリアルを再現しなくていいはずよ」
「お!シノンが愚痴るたぁ、珍しいな。あたしゃ、ここに来るのは久しぶりだからな。ここの細かい変化は疎いが…だいぶ違うのか?」
「ここには素材集めでたまに来る程度。ホントに迷惑な話よ。以前なら隠れて奇襲なんて考えられなかったか――止まって!!」
縦耳をひきつかせた眼前に飛んできた二つの斬撃を、シノンは弓の姫反で弾き落とす。モンスターではないプレイヤーによる遠距離攻撃に、緑色のエフェクトを光らせて消滅する技を考える間でもなく、別の声が聞こえた。白煙から気の抜けた声がした途端、シノンと同い年位の女の子が現れる。緑と白を基準にしたコートを着ていた。
「なーんだ、誰かと思えば同族と猫妖精族か」
何となくキツイ話し方をする女の子だ。金色の長い髪をポニーテールに束ねて、目は少しつり上がっている。
「もっと強い奴が来るかとおもったら逃げてばかりで臆病者の奴じゃない。雑魚を倒す価値はないし、離れてくれない」
「それは手厳しいな、リーファ。こっちは雪のインゴットが欲しくて来たんだ。いくらアンタが強くても横取りはご法度だぜー」
口調こそ飄々としているも、フカは冷たく言い放った。普段は誰にでも親しみやすさをウリとしている彼女が、シノンの前で初めて不快感を顔に出している。「横取り?」と、『リーファ』と呼ばれた少女は鼻先でせせら笑った。
「その噂は私が広めた嘘よ。ただ強いプレイヤーをおびき寄せるためにね。そこの猫妖精も雑魚の口車に乗せられたの?」
剣先をシノンに変えたリーファはさらに言葉を続け、
「私の斬撃を防げたあんたは強そうだし、一緒に狩りでもしないかしら。その方がよっぽど有意義よ」
「…確かにフカは他より弱いと思うわ…」
「って!おい!!」
リーファの提案を答える前に、シノンが彼女の言葉を肯定する。当然、否定が返ってくると予想していたフカは雪に足をすくわれながら飛び上がった。
「すぐちょっかいだしてくるし、こうして騙されやすいし…すぐにやられるし…」
その後も容赦の無い言葉の矢がフカの身体に襲い掛かり、彼女の胴体を弓なりに曲げる。そんな彼女を見向きせずに、リーファに「…でも」と言い、
「フカは私には無い力がある。今までもお互いに無い力を合わせて、困難なクエストも一緒に乗り越えてきた。フカ次郎は決して雑魚ではない――見くびるな」
シノンはきっぱりと言い、最後だけは憤慨したように声を尖らせた。初対面ではあるも、シノンは目の前のリーファが嫌いになっていた。相手の敵意に、リーファは嬉しそうな声色から――
「わたしの誘いを断るんだ。なら…その雑魚と一緒に消えろ」
雪の障壁を感じさせない飛翔から、シノンとの間合いを足幅三歩にまで距離を詰めたリーファは一気に踏み込んで長剣を繰り返す。首筋にチリチリと微かな切り傷を付け――その切っ先はシノンの急所を外していた。いや、外さざるを得なかった。
シノンの持つ弓で剣の軌道を逸らし、態勢を崩しながらの僅かな時間から一矢を放つのみで、リーファの左目を狙っていたのだ。彼女も頭を反らすも、手から放たれた矢は左頭部に引っ掻き傷を付けられていた。
¨吹雪の舞う暴風さえなければ、間違いなく眼球を射抜けていた¨
¨普段の万全な装備だったら、間違いなく首を切り落とせていた¨
二人の攻撃は一撃で完全決着をもたらすものだった。リーファは鮮烈な強者との出会いに笑みを浮かべていた。シノンは決められなかった焦燥を押し留め、弱点を悟られぬ様に表情を取り繕っていた。
さっきので決まらなければ、接近戦から限られた矢での持久戦となる。既に泥沼の戦いを予想したシノンは背後にフカの気配を窺いながら、一歩を踏み出した。
二
フカは、ただ驚愕に息を呑んでいた。眼前で繰り広げられている桁外れな戦いを。様々なVRゲームのいずれも比べず、どの戦い方でも推し量る基準がないほどに。リーファは長剣を、シノンは弓を競り合わせるだけの、プレイヤーVSプレイヤー(PVP)。だが、二人の動きはアシストの補助とは違う。お互いに素の運動神経のみで戦っている二人は、一撃必殺を狙い合う衝突に、風や雪が無理矢理に吹き荒れていた。
フカは衝突のたびに、荒れ狂う風と吹雪で視界はぼやけてしまう。ただ、二人の戦いを見続けるしか叶わなかった。だが、事前に知っている情報を合わせて案を考えようと拳をぐりぐりと押し当てていれば、若干だけシノンの戦いが普段と違うことに気づけた。
本来のシノンであれば、プレイヤーとの決闘に三本の矢を同時に放つ遠距離攻撃と二本を焦点に合わせて射抜く中距離攻撃を使い分けて、プレイヤーの攻撃タイミングを外す戦いをする。接近戦から一本だけで射抜こうとするやり方は、彼女らしからぬ戦いだ。
リーファは同じシルフ族の繋がりでフカは何度か目にしていたし、当然に彼女の戦い方を知っていた。出会いがしらの攻撃は風を剣に溜めこんでから斬撃として放つ魔法であり、遠距離攻撃では攻撃力が半減されてしまうも、力を上乗せされたリーファの斬撃は上位プレイヤーが何とか受け止めきれる程度だ。風の他にも大地の力を使いこなすらしいが、まだ詳細は分かっていない。
バックステップからリーファの攻撃を避けてはいるものの、遠く距離を隔てた矢は変則的な暴風で外れてしまい、シノンは決め手となる攻撃を一向に掴めない。
(この雪であの動きか!そこに痺れる!!憧れるぅ~…じゃねぇわ!!地の利はリーファが圧倒的に有利だ!!)
ふつうに両者は拮抗しているようにみえるだろうが、あいにくフカは二人の戦闘スタイルを知っているだけに、またリーファの実力を差し引いても、シノンがおされていれば不安しかなかった。突然、フカの横まで退いてきたシノンに驚いてしまう。
「フカ!!あんた、この雪を滑れる!?」
「は?――あぁ、なるほど。造作もねぇぜ!!5秒で準備してやる!」
シノンの謎めいた言葉に、フカは不敵に微笑んで頷く。何度も難解なクエストの達成に協力してきた二人には、両者の行動パターンを熟知していた。シノンの精密な狙撃の技と山に積もった雪から、その意図をフカは理解していた。
「仲良しごっこは終わりでいい?二人仲良く刻まれる覚悟はできたかな」
リーファは余裕綽々で二人のプレイヤーに煽りをかけた。
「あなた結構強いし、私も準備不足なのよね。今回は退かせてもらうわ」
不意に地面に矢を放つシノンの周囲に、濃い白色の霧が漂う。リーファは霧の分厚い層に、ひそかな薄水色と金色の明るみが見えていた。撤退しようとする相手に、彼女は歯噛みした。勝負はまだ決まっておらず、勝手に勝敗を決めていることを。自分と互角以上に戦える実力があるに、雑魚と行動することを。
それがリーファの目には、何もかもが気に入らない、忌み嫌う弱者にしか写らなかった。
「ふざけんな!!最後まで戦え!!!」
怒気ある咆哮を浴びせられても、シノンは、ただ静かな面もちで霧から三本の矢を放つ。一度に三本の矢はリーファの頭上遥かに遠ざかっていく。
「これで敬遠のつもり?この私から逃げられると思わないことね!!」
リーファは上空に上がり、先ほどの飛距離から届かない位置まで飛翔していた。彼女は霧が晴れるまで達観する気でいた。ただ、優雅に茫然と、せいぜい二人で逃げる算段を考えながら逃げ遅れるであろうフカ次郎をぐちゃぐちゃにする程度に留め、彼女に自分と戦わせるキッカケを生ませようとしていた。矢が曲線を描いて落下するのを見たシノンは、予備から一発だけ用意した雪でも使用できる火薬を矢先にくり付けて、弦を引きしめる。
(距離は丁度百メートルくらいか…これくらいなら!!)
吹雪の荒れる大気に、直中で飛ぶ銀の刃。火薬の矢は落下する二本の矢先に擦過して火花となり――大爆発を起こした。火薬を引火させる火花を、矢先を磨耗させて起こす変則仕様。黒い黒煙は上空にいたリーファの目くらましになるだけではない。爆発の地響きは山に積もっていた雪の密接を壊し、大きくうねりを上げる雪崩は――さながら水龍の如く、咆哮を轟かせながら
駆けだしたシノンは、隣にいたフカが大きな盾をサーフィンに乗りこなして速度を上げているのを確認する。段々と目の前の木やモンスターを避け、雪崩に合わせて加速していく。シルフ族の標準飛翔スピードより、速くなった時にフカは叫ぶ。
「シノン!!乗れ!!」
「操縦は頼むわ!!」
盾の後ろに飛び乗ったシノンはフカの腰にしっかりと捕まり、フカは上空から襲いかかる斬撃の雨を避け、まるで全ての障害物がないように雪山を一直線に突き進んでいく。後方から声にならない叫びが遠くに聞こえたが、雪崩の音で聞こえないフリをする。
「フカ!上手くいったわね!!このまま近くの領地まで滑って!!」
「オッケーオッケー!よっしゃ!シートベルトは無いが、しっかり捕まれよー」
シノンは首を縦に振ると、フカは領地まで一気に疾走する。領地に入った二人は、近くの宿屋を借りて、程よい時間に個室の部屋で寝静まった。
三
「ふぅ…今日はフカのお蔭で散々だったわ」
外は夕焼けに染まり始めた午後の時間。自室でゴーグルの様な物をずらした少女――朝田詩乃は誰もいない自室でポツリと呟いた。ボーイッシュな短髪だが、サイド部分を長くした髪に白いリボンを結んでいる。すっぴん隠しからコーディネートのポイントを高めるアイテムファッションとして伊達眼鏡をかけたシノンはベッドから起き上がった。頭に装着し目を覆っていた物はゲームの世界で五感を体感できる機械、≪アミュスフィア≫を取り外すと、枕元の隣に置く。
彼女は先ほどまでゲームをしていた。ファンタジー世界で、羽の生えた妖精となって冒険をする≪アルヴヘイム・オンライン≫――略称はALOだ。
しばらくして、ドアからコンコンとノック音が鳴る。詩乃の父親でもある朝田幸一がドア越しで呼びかける。
「詩乃、もういいかい?そろそろ晩御飯の準備をしよう。母さんが帰ってくる前にね」
「分かった。すぐ行く」
軽くストレッチをした詩乃は階段を降りてキッチンに向かう。途中に、少し埃被った『朝田柚季』のネームプレートは詩乃の歩く速さで起きた風で軽く揺れていた。
リーファは原作とかなり違います。彼女は本来の性格に加えて、web版のキリトを参考に執筆しています。
本作では、彼女はダークヒロインです。しかし、彼女は”ダーク”と付いていますが、ヒロインでもあります。メインヒロインたるユナの物語の様に彼女をメインとした物語を書けると思えば筆者の執筆する楽しみが増えた気がしました。
タイトルの『ファントム・アロー』は、『ファントム・バレット』のオマージュです。
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