※ヘイト要素があります。
※胸糞悪い展開があります。
ご注意ください。
2025年1月8日
ここはとあるゲームの中。天空から見下ろす雲は厚く、外部から地上がどの景色を広げているかは分からない。鐘型の檻に絡みついた蔓に、周りを花で囲まれた緑園。雀らしき小柄な鳥類も蔓をつつき、仲間と戯れる姿は何者にも縛られない自由の象徴だ。
そこには一人の少女がいた。明るい栗色をした長い髪に上に伸びた耳。檻の隙間から斜めに受けた陽光は反射し、鎖骨の浮き出た白い肌は幻のようで、作り物のように美しい。彼女には重ねても透き通った白い羽があり、外に出ようと思えばどこまでも飛べる立派な羽があっても、背中の羽を均等に折りたたみ、俯いたまま動かない。
重苦しい空気に、檻から耳の尖った緑色の装束の男が入ってくれば、唇を切り結んで男を見据える少女の表情は嫌悪感を隠さず、さっきまでより一段と険しくなる。
「気分はどうだい、ティターニア」
「…何しにきたのよ、須郷…」
「おいおい、君の様子を見に来たのに、妖精王オベイロンに口が過ぎてるよ。おまけに未来の旦那様にその言い方は無いんじゃないかなぁ?」
「冗談じゃない。誰があんたに…」
妖精王オベイロンは須郷と呼ばれても、ニンマリとした顔を崩さない。だが胸の内では、ティターニアの整った顔立ちが崩れない現状に、甘美どころか癇癪の種であった。もし、彼女と結婚できるならば、誰よりも間近に鑑賞できる立場に身を置ける立ち位置となり、まさに極上の酒壺を与えられたに等しい。
香りのみでも充分に男を酔い痴れる女が、いま目の前にいる。しかし、いつまでも蓋の空かない蜜の香りだけでは満足などできない。内心の心境を隠したまま、須郷は明るい声でティターニアの上顎をあげる。
「君も強情だねぇ。もう何ヶ月になるんだぃ、君がこうしているのもさぁ…」
「何度だって言ってやる…私は絶対にアンタみたいな奴と結婚なんかしないわ」
「いい加減にしてもらえるかなぁ。君のお父さんも承諾してるし、彼は既に僕の傀儡だ。仕事にしか目がない人間を騙すなんて簡単だ。それに優秀で金もある僕なら、女はいくらでも寄ってくるんだよ」
「アンタに近づく女なんて蛾とか蚊の様な下心のある汚い女しか近づいてこないんじゃないかしら」
ティターニアの平然としていて、それで妖精王オベイロンにとっては小癪極まりない態度であった。妖精王オベイロンは名前こそ『妖精王オベロン』となまってはいるも、妖精ティターニアの登場する物語に『夏の夜の夢』のれっきとした夫婦だ。インドから連れて来た王子を巡って夫婦喧嘩を展開していた妖精の王と妃の話であるも、この二人からは夫婦特有の信頼関係や愛情関係は――これっぽっちも存在していない。彼女の頬に赤い紅葉の型をうっすらと浮かばせる辺り、詫びれもせずに檻から出ようとする男の様子から、それが窺える。
「言っても分からない女には罰が必要だねぇ。女の言うことを聞かせるには、実に楽でいい。ちょっと傷物にするだけで何でも言うことを聞くからねぇ」
「だったら拷問でもレイプでもして屈服させる気?何があっても、貴方みたいな人に負けない…」
暗証番号を押して、鳥かごから外に出た『妖精王オベイロン』こと『須郷信之』は、虚勢を張ってそっぽを向く『妖精ティターニア』こと『結城明日奈』に、ささやかな享楽の趣向が閃く。
「キヒィキキキ…僕は君に何もしないよ、ティターニア――いや、明日奈君」
そう言って須郷はメニュー画面からプレイヤーコードキーを取り出し、籠の合間を掻い潜って明日奈の前にひらりと落ちる。
「ノーチラス君って言ったかな、あの餓鬼」
「ぇ…ちょっと待ちなさい…須郷」
明日奈はすがるように、檻の柵を握り締めて、
「はぁ?」
「ノーチラス君は関係ないじゃない!罰だったら私が受ける!!いったい何を考えているのよ!」
「たかが一人のプレイヤーに何をムキになってるんだい。僕は抵抗する君の代わりに、罰を彼に与えるだけで、君は其処にいるだけで許してもらえるんだ。ありがたい話じゃあ、ないかい?」
今まさに、檻から伸ばした手が妖精王オベイロンの襟を掴み上げようとするも、身体を反らした須郷には届かない。何度も檻を破りかねない勢いで体当たりをするたびに、鐘式檻の金属音が空を響かせる。
「罰の内容は皆で話し合わないとねぇ。バイトの二人はどうだろう。柳井君はともかく、僕の案が採用されれば…悲惨だよねぇ!!ギャハハハハハァ!」
須郷はさも愉しそうに、底意地の悪い笑みを浮かべる。にわかに襲い掛かる罪悪感と絶望は、明日奈の心を押し潰す。私は彼を守りたかった、と心に秘めた約束が突く。心の中の私が泣く。守りたい人が、自分の意地やいざこざに巻き込まれて消える。かつて血盟騎士団の副団長たる自尊を忘れて少女は悲願した。
一
2024年10月19日
「アスナ、ちょっと――」
「ごめんなさい…少し考えさせて」
七四層のボスから全速力で逃げ、気が動転してユズル君を引きずっていたことに気付いていなかった。これが血盟騎士団のメンバーでは誰の示しも付かない失態である。
血盟騎士団に入る前より、アスナはキリトと組む前より前に、彼女は一人でも多く生還させなければならない自責の念に駆られていた。かつて救うことが出来ずに死なせてしまった少女がいた。たった一人で全プレイヤーの絶望を背負わさせた少年を救えなかった。あの時と違い強くなったはずが、その強さが今度は彼を死なせかけた。
――私の心は弱いままだ…
独りで思考に深けていると、背後から冗談交じりに声がかかる。
「副団長――いや、アスナ。あれ位でユズルは軽蔑しないさ、まぁ…怖かったけどな」
「だいぶキツイ事言われちゃった…私はしっかりしなきゃいけないのに…」
「アスナは元からしっかりし過ぎな位だろ。いくら現実世界に近いゲームの中だからって重荷ばかり背負わせる周りがどうかしてる」
「…でも、私は副団長としてしっかりしないといけないのよ。皆の模範にならなきゃいけない。誰も死なないように経験値稼ぎにも付き合わないといけない。誰にでもできることじゃないから――私が頑張らないといけないんだから」
そっぽを向いたままそう言い返し、仮想世界の空気を深々と吸い込んで気持ちを幾らか落ち着かせてから、ノーチラスに答える。
「そうだな。それじゃしょうがないな」
「そうだよ…こればっかりは本当にしょうがないのよ」
そう言ってから、ノーチラスは少し投げやりな口調で、
「よし、しょうがないから俺も一緒に付き合うよ」
沸騰したお湯をコポコポと鳴らす迷宮区の中で、彼はさりげなく誓いを立てる。その時、アスナは思った。これは誰よりも大切な人に、本当はユナに告げるはずだった言葉を紡いでいると。
「アスナが副団長の立場を降りられないなら、俺は隣で補佐をするよ。俺は弱いから、誰も守れないかもしれない。でも、誰も見捨てたくない気持ちは一緒だ。だからな――」
そう言って彼は誓いの言葉を続ける。自分の頑張りを認め、支えてくれる人がいた思い出として、アスナは自らの胸に刻んでいく。彼は特に優れたスキルを持っている訳ではない。FNCで他のプレイヤーよりも劣っているとか関係ない。
――彼は動ける時に全力で動く。
それが、私にとってはあまりにも輝いていた。
「期待してるよ、ノーチラス君――よぉし!バーベキューの準備をしちゃうね!!」
気恥ずかしさを誤魔化し、銀串に肉や野菜を刺していく。彼の誓いの言葉が私の中にある限り、ソードアート・オンラインから帰還しても、きっと私は血盟騎士団の副団長に立ち戻れる。
「ありがとね」
誰にも聞こえない声で小さく呟いた声。ここで小さく微笑んだ彼女が、初めて安心して浮かべる笑顔であった。
二
明日奈として深く刻まれた思い出や約束を、嫌悪し侮蔑を体現している男に穢されようとしていた。
憎しみを越えた殺意に、明日奈の肩は震える。今すぐにでもこの肉魂に掴みかかり、首を力の限りに締め上げ、へし折りたい――ここが普通のゲームで人間は死なずとも、抗いきれない衝動に濁流が荒れ狂っていた。
「やるなら私にやりなさい!!許さないわよ、須郷!!!」
「いいねぇ、その歪んだ顔に目が実にいい。明日奈君が僕に好意を向けてくれて嬉しいよぉ。キキ…キ…ギャハハハハハ!!ヒャハハハハッ!!」
その憤怒は明日奈が須郷に初めて見せた、強い憎しみと怒り。彼女の脳が自分の想いで埋め尽くされた証拠に――ずっと飲みたかった美酒の一滴を得て、須郷の心は喜びに震えた。心の拠り所を失い、踏みつぶされる心の純情。その悪質な皮肉こそ研究者である彼の魂を歓喜させる。彼の背中が見えなくなるも、明日奈はただ一点を凝視していた。
「ああああああッ!!」
取り出した細剣を握り、力任せの打撃が檻に弾かれるたびに手からポリゴンを滲ませ、明日奈は憎悪を爆発させる場を求めて――行き場の無い殺意の矛先を求めて暴れ続けた。
三
痛みより、須郷を罰するより、絶望的な喪失感から思考を真っ黒に染めまいと錯乱した悲鳴を張り上げて、理性を保っていた。だが、個人を、ここまで憎悪したことは人生で一度もない。
「す…どう…ぐ!...」
名前を口にし、あの嫌味ったらしい姿を瞼の裏で思い出し、その笑い声が鼓膜を刺激し、脳がその存在を意識するたびに、荒れ狂う怒りが身体から噴き出す。波を鎮めれば、補佐として支えてくれた彼を思い出す。むせび泣きながらも、彼女は誰にも届かない声を空になげかける。
「ごめんなさい…ごめん、なさい…私の、私のせいで……ッ!!」
独りではこのゲームから脱出できない。誰の助けも期待できない少女は、ただただ自身の存在を責める事しかできなかった。悲壮を思う限り、正気を保てる。狂ったように憎悪を抱き続ければ狂わずにいられる。
アスナは孤独の恐怖を振り払うように、その事実から目を背けるように声を呟き続けた。
プロット段階通りではさらに胸糞悪い展開があります。
しかし、彼にはただやられるだけの罰は与えません。
やられたらやり返す!倍返しだ!!
こんな展開もあるので、是非お楽しみ下さい!
この話から、ダグの「原作死亡キャラ生存」を外します。
理由は、これからの展開にネタバレを含むからです。
ご理解の方、よろしくお願い申し上げます('ω')
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