幻影戦記~氷と炎の鎮魂歌~   作:ロバート・こうじ

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何時の間にか、この小説に色のバーが付きました!
これからもお付き合いのほどよろしくお願いします!(^^)!


10話 ラブストーリーは突然に

 ユズルとクラインによる義兄弟の連携は、サラマンダーの集団を蹂躙したままの戦闘を続いていた。むしろ二人は小手調べをして相手の力量を測り終えてからは、プレイヤーの弱点を突き始めてからと言ってもいい。

 プレイヤーを一人で円形に囲むサラマンダーの集団を活かした人海戦術も、彼らからすれば、誰かの戦術を真似ただけの付け焼刃の陣形を成していた。戦術考案を得意とするクラインの指示なら、十人のプレイヤーを二人一組による円形陣を形成し、攻撃を受けるプレイヤーと攻撃をするプレイヤーで着実に対象者を追い詰めていただろう。だがリーダー格のサラマンダーは自分の思い通りに動かないプレイヤーに苛立ちを募らせ、上手く行かなければ怒鳴り散らすだけであった。

 

「テメェらふざけてんじゃねぇぞ!!ニュビー相手に負けてんじゃねぇ!暴れる以外に脳もねぇ馬鹿が!!!」

 

誰にともなくプレイヤーに向けて、大音声を張り上げた。クラインとユズルは揃って怪訝な顔をしている。

 

「ねぇ、兄貴」

「あぁ?」

 

手首の関節を捻り、相手の斧を奪った勢いで右翼に襲ってきたプレイヤーに振り下ろして剣ごとプレイヤーを切り抜ける。武器を持たなくなったプレイヤーも予備の装備を出すのを手間取っている間に、クラインの日本刀に斬りつけられてポリゴンと化す。眼前の敵を倒すだけだが、二人の構えが崩れることはない。

 

「世の中、どこへ行っても変わらないね。いくら場所を変えてもああいう奴がリーダーやっているんだからさ。周りもアイツみたいになっているんだから――ままならないよ!」

 

襲ってくるプレイヤーの言動もリーダー格のプレイヤーに似ており、これが受け継がれて他の人も似た思考に同化する。仲間の得意点を活かさないやり方に、ユズルは落ち着いた口調で言った。しかも、この乱戦のさなかでの会話。二人、三人の猛攻にも軽くあしらってしまい、敵の武器を奪いながら片手で倒していた。

 

「ユズの字!オメェ、人を教える立場だったか?そりゃ、相手が気の毒だぜ!」

「背後から切られたいの?これでも指導する立場だったよ」

 

彼も『風林火山』のギルドマスターである以上、常にどっしりとした意思を心がけている。戦わずに監視のみで達観する指導者など置物と大して変わらない。いや、ただの害虫である。クラインはぶっきらぼうに言い、ユズルと視線を交差させた。

背後に大きな隙を作ったユズルに目掛けて、敵はソードスキルを発動させるもクラインの突進攻撃に耐え切れず、日本刀の冷たさを胃に味わう。プレイヤーはそんなクラインのがら空きな背後に呪文を唱えるが、彼の死角に隠れていたユズルの接近に間に合わずに絶命する。

 

「へぇ…新人なのにここまで戦闘ダメージもない。クラインとユズルか…強いわね。一度、戦ってみたいわ」

 

静かに吐息をつくと、シノンは二人の動きに焦点を絞り、心を落ち着けて弓に手を添えながら魅入った。遠距離支援をする必要もない以上、シノンにとって二人の息の合った連携に横槍を入れる者を何時でも射抜く準備だけはしておいた。ともあれ、この戦いに心地よさを感じていたのは明白であったが。

 

「チッ!使えねぇ…俺がぶった切ってやる!!!」

 

 鼠色に光る大刀に全身に光るウール製の鎧。リーダー格のサラマンダーこそ、装備は一流品ではあるも、彼自身は一流とは程遠い実力だ。全ての武器や防具は大量の課金によって手に入れた物であり、強さは装備のステータスで補われていた。

 これまで何を見てきたのかと、いっそ愚直に捉えられる一直線の突きこみ。ユズルの曲芸じみた戦い方やクラインの太刀筋も、警戒すら放棄した無策の刺突である。

 

「どこまでもダメな人だ。目先しか考えてない…弱すぎる」

 

歯噛みしながらもユズルは、冷静に、脳裏であの装甲をいなして、初期装備でも一撃で倒す算段を、実現可能な形に並び替えていく。

 

「残りはアイツだけだな。最後はユズの字に任せるぜ」

 

先に動いたのはクラインだった。課金で手に入れた大刀と日本刀で打ち合えば耐久値の差で折れるのを免れない――そう見たクラインは、ただの打ち合いに応じる気はなく、攻撃に合わせて日本刀を押し込み、彼の大刀を弾いてバランスを崩す。わずかな隙を目ざとく見据えて足のくるぶしを切り落とす。

 

「がぁああ!!――おぉ、お」

 

 開いた口にすかさずユズルは片手剣を縦に突っ込ませる。喉から背中に刺した剣先は片手越しでも、鎧の固さが伝わるだけで鎧ごと貫通はしていない。突き刺したままの剣先を放曲線を描くように切り抜き、プレイヤーの背中を開く。頭骨から両目と鼻と口を左右に切り離して男の叫ぶ瞬間を与えない。ドロリと溶けた皮膚と骨に大量のポリゴンを勢いよく流れ出し、体格の合わなくなった鎧は落下していく。プレイヤーもまた、背中を斬られて羽も離れてしまい、飛行能力を失った身体は、地に落ち、美しい死の花火を咲かせた。

 

「よし…さて…と。そこの君は、僕達と戦いたい?」

 

戦闘に参加していなかった青白い顔をしたプレイヤーに、戦闘の余熱を感じたまま、あくまでも穏やかにユズルは言う。が、その眉間には鋭い眼光を秘めていた。

 

「遠慮しておこう。もうすぐ魔法スキルがカンストするんだ…デスペナルティが惜しい」

 

伏し目がちに言う。クラインの方へ飛んでいきながら、プレイヤーは、引き攣った笑顔を見せる。

 

「クライン、俺はこいつらがそんな事をするとは知らなかった。ただ、初めてメンバーに誘われたのが嬉しくて付いてきただけだったんだ…気づかせてくれて、ありがとな」

 

 落ち込んだ様子でフラフラと身体を揺らしながら飛行するプレイヤーを、ユズルは寂しげに見送った。独りになりたくないから付いてきたプレイヤーはただの被害者であって、深追いしてまで仕留めるつもりはない。

 

 

「これで邪魔はいなくなったな。それはそうと…ユズの字ィ~会いたかったぜ!!」

「そ、そんなに喜ばれると嬉しいよ」

 

クラインはユズルの方に向き直り、ユズルの両肩に手を置き、そのまま引き寄せた。いきなり抱き着かれたユズルは、手を伸ばして、顔を近づけてくるクラインを遠ざける。

 

「たりめぇだ!ラーメン屋で話していただろ…ソードアート・オンラインはまだ終わらないって…偶然だが会えて良かったぜ!!」

 

 広大なオンラインゲームの空間で、また義兄弟に会えた喜びを分かち合う。本来では廻り合うことも、たとえ会えたとしても本人かは分からない。そこには確かな絆があったからこそ、離れ離れになっても廻り合えた。クラインでさえも悦ぶ…ユナならどうなのだろうか。

 とりとめとなく思考をしていると、いつの間にかクラインは救助したプレイヤーの前で畏まっていた。

 

「さて、お嬢さん方。お怪我はありませんでしたか?」

「何だ、その喋り方?」

 

紳士な言葉遣いにしては、赤い甲冑の鎧に日本刀をぶら下げた若武者の恰好とつり合っていない。

 

「えぇ、別に何ともないわ」

「いやぁ~危なかったぜ!危うくハチの巣になるところだったねぇ」

 

シノンは仏頂面で言い、フカ次郎はケタケタと笑った。

 

――あれ…よく見ると、結構なイケメンだな

 

 初対面でも「結婚しない?」と気さくにフカは言うのだが、この時は上手く言えなかった。元々お金を持っている人や顔の整っている男性を好む、言い換えれば男性の何かに惹かれて手を付けることが多い。実直にクラインの容姿や実力はフカ次郎の好みとかけ離れていても、どこかときめきを感じていた。

 

「それじゃ、あたしっちはこの辺で…」

 

陽気さで誤魔化すよりも気恥ずかしさが勝り、その場を離れようとするフカ次郎。そんな彼女を不審に思うも、シノンは付いていく。だが、クラインは背後から呼び止める。

 

「あぁ、ちょっと待ってくれ!」

「え、何だよ」

 

フカ次郎は、急に下降するクラインが何をしたいか分からない不思議そうな顔をするも、肩に担ぐ生き物の姿に頭をかきむしる仕草を寸前で止め、手を添えるだけにとどめた。

 

「猪、落としましたよ」

 

古くから使われてきたモテる術であり、あえて相手の目の前で物を落としたり、相手が落としたものを拾ってあげる、という手法だ。恋愛小説に「ハンカチ、落としましたよ」の言い方はハンカチを落とした人に声をかけたり、逆に自分からハンカチを落として、気を引きたい相手に話しかけてもらうという作戦は古典にして王道である。

 

「お、これはどうも…」

 

ぼそりと漏らしたフカの呟きは、間近のクラインにしか聞こえないものであった。巨大な『キングボア』に、フカ次郎は武器を仕舞ってから手を伸ばし、無自覚でクラインの手に触れれば、二人にひと際強い脈拍が打たれた。

 

(何だ、この人…近くで見るとすげぇカワイイな)

(何だ、この人…すげぇイケメンじゃねぇか)

 

傍にいたシノンは、伏し目がちにクラインを見るフカ次郎の眼に、普段の男にするアプローチをしない物珍しい感情を込めているような感性を懐いた。そして視点を変えれば、フカ次郎は彼に一目ぼれをしたこととなる。男女が恋に落ちる一種のラブシーンだ。

 

「フカにも春が来たのかしら」

「新しい青春の始まりだねぇ」

 

感情深く見守るシノンとユズル。これまで彼女が出来ないことを嘆いていたクライン。アプローチをしても男運の無さで報われなかったフカ次郎。事情を知る二人はほろりと涙を浮かべていた。

 

「なにこれ…」

 

取り残されたクロービスは声をかけにくい雰囲気に、メニュー画面からランに救出が成功したメールを送信してから、呼ぶこととした。

 

 

 ウンディーネ領の、森の外れにある、スリーピング・ナイツの隠れ家は、場所を知らなければ素通りしてしまうほど森と同化している。クラインとユズル、それにフカ次郎とシノンはクロービスに招待を受けて来ていた。

 リビングに設置されたキッチンにはコックの帽子を被ったユズルが『キングボア』を解体して、それぞれの部位に切り分けていた。クラインも自己紹介を終えてから、調理を手伝っている。フカ次郎から助けてもらったお礼に『キングボア』をご馳走してくれると。

 

「そういやぁ、もうアイテムストレージは確認したか?」

「いや、まだだよ。それがどうかしたの?」

「ここに初めてログインした時によ、アイテムがバグってるのがあってな。置いとくと運営に通報されても面倒で削除したんだよ」

 

 ここに来てからは、シウネーと出会うも、メニュー画面を開く余裕のなかったユズルは、アイテム画面のあちこちにモザイクのある物体を見つけた。

 

「僕のもあるな…思い出深いものもあるけど、運営にアカウントを削除されるくらいなら…割り切って消した方がいいか」

 

ユズルは、落ち込みそうになるのを堪えながら、画面を操作した。落ち着いてから、クラインのある疑問を質問する。

 

「そういえば、兄貴はどうしてこのゲームが僕の探しているゲームと気付けたの?」

「あれから、カル―やオブトラ達と手分けしてゲームにログインしてな。このゲームだけ、ソードアート・オンラインのデータが引き継がれていてよ。ステータスはそのままで、コルはユルドの単位で変わっていたんだぜ。それで、もしやと思ったんだよ」

「なるほどね」

 

ユズルはうなづいた。

 

(それで、サラマンダーに対抗できたのか。でも兄貴の説明なら『幻影』や『幻影のローブ』がバグらないのは気になるな)

 

 装備アイテムの『幻影のローブ』がバグらないのは、たまたまなのか。それでも、スキル『幻影』は説明できない。いくらアルヴヘルム・オンラインがコピーされたゲームとはいえ、キリトの『二刀流』と同格のスキルが使えているのはおかしい。根拠ない連想は疲れてしまう為、ユズルは気持ちを食事に切り替えた。

 

「それじゃ、もうすぐ出来るから先に座って待ってて」

「おう。しかし、『キングボア』か。レア食材だから楽しみだぜ」

 

 リビングに戻ったクラインは、持ち前の気さくな態度でスリーピング・ナイツのメンバーと打ち解けていく。シノンも少し気後れしていたが、シウネーやランとゆったりとした会話をしていた。クラインと入れ違いに入ってきたフカ次郎は調理した『キングボア』の料理――まずは前菜のローストビーフを運ぶ。

 

「あの…助けてもらったお礼に、この『キングボア』を沢山食べて下さい」

 

熱っぽい視線と丁寧な言葉づかいで、クラインに向けて話しかける。好意がバレバレであり、裏の読み合いや探り合いのない直球勝負。差し出された皿は、クラインの手に触れる前に――スリーピング・ナイツのメンバーに取られてしまった。

 

「…て、お前たちのじゃねぇぞ!」

「いや、これはあれですよ。急な連絡に応えた報酬みたいだから。味見ですから」

 

と早口にご飯と肉を乗せて食べるラン。

 

「そうそう、しっかり焼けてるかどうかの味見だからね」

 

クロービスも便乗して肉をかきこむ。

 

「あ!フカ次郎、ご飯おかわり!!」

 

ちゃっかり大盛りのご飯を食べ終えたユウキは、お椀を突きだす。

 

「――って、がっつりしっかり食べてんじゃねえか!」

「おかわりもしてるわね」

 

フカ次郎が叫び、シノンは苦笑しながら空のお椀に山盛りになったご飯をしゃもじで叩いて形を作る。食事と言うには慌ただしく、早食い対決にしては競争をしてる様子はない。ただ、人よりも肉を多く食べる戦場と化していた。

 

「何言ってるの。ここの他にもバラにロースにカルビやムネにタンも味見させてもらうわ」

「全部食う気じゃねぇか!!あとそこのサラマンダー、マヨネーズかけんな!キングボアに失礼だろ」

 

高級食材にマヨネーズをかける暴挙じみた行動に、フカ次郎は鋭く指摘する。

 

「何が失礼だ、味が薄いんだよ。油とマヨネーズの相性は最高なんだ。脂身の肉にマヨネーズを付けないなんてな――水の呼吸が使えない村田さんだ!」

「それは違うよジュン…村田さんは水流が薄すぎて見えないだけだよ」

 

適度な冗談に、ユウキのツッコミが入る。その後も次々にユズルは肉料理を作り上げてリビングに用意していき、ちょうどシノンとランの座っている前に置いていく。

 

「ありがとう、ユズルさん。あなたの分も、料理を分けておきますね」

「ありがとうございます、ランさん」

 

うっすらと浮かべた微笑みに、ランも笑みを返す。

 

「時代は移り変わってんだよ。話題の漫画、読め!!」

「元気になったら読んでやるよ!!」

 

ジュンとフカ次郎による漫画の話に、ユウキやクラインも混ざる。これ以降、スリーピング・ナイツとは協力し合える関係となった。食事や奇妙な体験が人の縁を作り上げるのは本当の話だ。互いを理解せずに素性の分からない人同士が心を通わせているのだから。

 

 

 この時間は腰を落ち着けてリラックスしていた。故に、ユズルは懊悩(おうのう)を繰り返し、ユナとの日々を思い起こしては溜息をついた。これからやる目的の一つに、アルヴヘルムに訪れるであろうユナに「自分はここにいる」とメッセージを伝えなければならない。それも、運営には正体を隠しながらだ。何もしなければ、いるかもわからない暗闇を永遠に歩ませてしまう。これは、人の命を弄んでいる事件なのだ。なればこそ、彼女に不安の道を歩ませる恐怖を味あわせることはしたくない。

 

だが、どうすれば――?

 

親睦を深める食事の中、一人で悶々と考えているユズルは、どうにも浮いていた。犯人に居場所を伝えるリスクは高いが、こうして大胆に行動を起こしたがるのも、彼女のことが絡んでいるからに違いない。守るだけでなく、こちらからも攻める。それを思うとユズルは、事件の恐怖に打ち勝てる気がした。

 




新たなカップリング『クライン×フカ次郎』でした。
小説を読んでいると、何かお似合いだナ、と思った次第です。

次回もお楽しみください!!

エピソードゼロ:投稿優先の期待値調査

  • 孤独な少女(シリカ編)
  • 人の温かさ(リズベット編)
  • 働くAI(ユイ・ストレア編)
  • 超食べたい(ヒースクリフ編)
  • 受け継がれる幻影(???編)
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