一
青い光に包まれながら視界に飛び込んでくるのは、18世紀の中世ヨーロッパを意識したと思われる街並みに降り立った。ソードアート・オンラインが舞台、浮遊城アインクラッドの最下層、「はじまりの街」の中央広場である。
周りを見渡せば肌色のレンガ通りに黒い四角柱のオブジェ、そして黒い天上に背後には黒いドーム、プレイヤーにアイテムを薦める商人などが視界一杯に広がっていた。
周りのプレイヤーはいろんなものを全て見ようと、辺りを見渡しながらゆっくりと歩く様子が見られる。
βテスター段階ですでにこの場所を熟知していた鳴坂和人こと、プレイヤー名『キリト』は、すぐにレベル上げで溢れる狩場にいち早く着くために悠々と人込みを掻き分け、駆け出していた。
その様子を見ていたある人が慣れてない足取りで追いかける。
赤いバンダナに爽やかな顔立ち、後ろに整った赤い髪、赤い鎧を着こなした武将のような男性が息をきらして向かってきていた。
「おーい、そこのあんた!」
「え、俺のことか?」
キリトは思わず立ち止まって答えた。
「あぁ、あんただ。迷いなく外に向かおうとするあたり、βテスターだろ」
「まあそうだけど・・」
思わず、そうですよと言うつもりが、ぶっきらぼうに答えてしまった。
「おぉ、それなら話は早い。いきなりで悪いが俺VRゲーム自体が初めてでな、色々教えてくれ」
若武者は気にするそぶりを見せずに興奮した様子で言った。
キリトはこの世界に来て久しぶりに気さくに声をかけられた気がした。オンラインゲームは現実世界とは違い、仮想世界ならではの規則の範囲であれば大概の事は許される。それを逆手に、進んで悪事を働く人や、悪を演じる人も存在し、現実世界では許されない詐欺や窃盗の犯罪行為が罷り通り、仮想世界だからこそ現実世界では許されない行為に走る人間も多い。それだけに、若武者のようなプレイヤーを嬉しく感じた。
「分かった。俺でよければできるかぎり教えるよ」
「おぉ、助かる!俺はクラインだ、よろしくな」
「俺はキリトだ。よろしく」
軽く握手をし、お互いにパーティ申請をして『合意』ボタンを押した。
キリトは初めてのプレイヤーでも倒しやすいモンスターとして有名な、青いイノシシ型モンスター【フレンジー・ボア】の生息する始まりの街の南部に向かうことを決めた。一行が向かおうとした時に、もう一人のプレイヤーに声をかけられた。
黒い瞳に、長髪の髪を後ろに束ね、痩せてひょろっとした子で、初期装備の鎧を着た男が声をかけてきた。
「すいませーん、自分も初めてで・・。よければ混ぜてください」
「俺は一緒でも大丈夫だが、キリトはどうだ」
「別にいいぞ、クライン。俺の名前は・・」
男は柔らかい表情でクスクス笑いながら答えた。
「そっちがクラインで、あなたがキリトだね。」
・・名前を言う前にいわれてしまった。
一緒に行こうと言うつもりだったのに、言葉が迷子になってしまい、「名前は?」と聞いてしまった。クラインは相手の対応に怪訝な表情をしていた。
「そうだった。まだ自己紹介をしていなかった。僕はユズルだよ、よろしくね」
キリト、クラインのパーティにユズルを加えて始まりの街の南部に向かった。
二
辺り一面に草原が広がっており、寝転がるにはちょうど良い坂もある大自然が目に入った。同時に辺り一面に青い猪が出現して遠目で他のプレイヤーが戦闘を始めている。
キリトは手慣れた様子でソードスキルを発動させつつ、直進攻撃を躱して倒していた。
クラインはフレンジ―・ボアの攻撃を正面から受け止めようとし、その衝撃で吹き飛ばされていた。
そういえば初めてVRをする人の多くは回避かスキルの発動は一つできれば十分であり、両方するには慣れが必要であった。キリトは言い忘れていた事は言わず、クラインにアドバイスをした。
「ソードスキルの発動で大切なのは、初動のモーションだ。システムがそれを認識すれば、あとはシステムアシストで技を命中させてくれる。」
「おし!やってみるぜ。」
クラインは十分にやる気を込めてソードスキルを発動させ、右手に持つ武器が輝き始めた。
するとフレンジーボアに突撃して、その胴体を斬りつける。無事にフレイジーボアを倒すことができた。
「やったぜ!」
「初勝利おめでとう。でも今のイノシシは、アインクラッドでは最弱だけどな」
「えっ、マジかよ!おれはてっきり中ボス位だと思ってたぜ」
「そんなわけあるか」
周りを見れば、遠目で同じモンスターが出現し、クラインはうつむいていた。
一方、ユズルはクレイジーボアの攻撃を回避しつつ、通常攻撃をするばかりでいまだに倒せていない。
「ユズルー、ソードスキルの使い方は知らないのかー」
その様子を見ていたキリトは多少声を張って話した。
「なぜか、ソードスキルが使えなくてねー。なんかいい方法はないー」
ユズルは声を弾ませながら言った。
普通はソードスキルが使えないことはあり得ないと不振に思いつつ、プレイヤースキルで伝えられることを伝えることにした。
「剣道の基本だが下半身を軸にして、剣先は遠心力を使って遠くに飛ばすイメージで振れば力を入れやすくなるぞ」
「分かった。やってみるー」
ユズルはクレイジーボアの直接攻撃を寸前で回避し、空中で大きく腰を捻りながら剣を振り下ろした。こちらも無事にフレイジーボアを倒すことができた。
ようやく倒すことができ、ユズルは一呼吸を入れる。
まさか剣道の基本動作を伝えただけで、すぐに実践し、倒すことのできたユズルに、和人は内心驚いていた。剣道のような基本的な型を身に着けるには何度も決められた姿勢で竹刀を振る必要があり、一連の動作は一長一短で成功するものではないからだ。
呆然と考えごとをしていたキリトは、ユズルの満足した顔を見て「まあいいか」、と気分を変え、クラインと三人でこのゲームについて何気ない会話をして楽しんだ。
いつの間にか夕日が差し掛かっており、そろそろ現実は17時に近い時間だった。
「あ、そうだったぜ!」
突然クラインは思いついたように声を上げた。
「今日の夕方に新作のクリスピーピザを予約していたんだった。」
「いいなぁ、それ聞いたらピザ食べたくなってきたよ」
ユズルは口に手を近づけて、舌をジュルリとした仕草をする。
「へへ、あまいな。俺はあつあつのピザを予約済みよぉ」
きりっとした表情のクラインは、フレンジーボアを倒した時よりも、生き生きとしていた。
キリトとユズルに背を向けて立ち上がったクラインは手早くメニューを開く。
しかし、様々なボタンを押したり戻したりを繰り返し、途中で「あれ?」「何でだ?」と焦るような仕草をしていた。
予約したピザの時間に間に合わないから焦っているのか、と思い背後から顔を覗かせてみれば、顔に大量の冷汗をかいたクラインが慌てた様子で言った。
「ログインボタンがどこにもねぇんだよ!」
エピソードゼロ:投稿優先の期待値調査
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