家がハルジオンという港町にあるから港まではすぐだった。その道中もずっとナツはソワソワと落ち着かない様子だった。きっとS級クエストが楽しみなんだろうな。ハッピーは相変わらず魚をムシャムシャ食べているが。
そんなに元気だったナツだが船で行くと言うと急に元気を失い、顔を青白くして泳いでいくと言い張る。無理だろ。ガルナ島って結構遠いらしいし。そう伝えても駄々をこね続ける。ウェンディとは同じ滅竜魔導士でもこうも違うものなのか。ウェンディを見習って素直で大人しくなれよ!
駄々をこねるナツを引きずり港の船着場に行って船乗りに片っ端から声をかけていく。
「ガルナ島?! あんな島近づくのも御免だね」
「ガルナ島っつたら海賊でも避けるぞ。行けるはずないだろ?」
「呪われたガルナ島の名前を出さないでくれ!」
こんな感じで声を掛けた船乗り全員に断られてしまった。最後のおっさんにも断られてしまい八方塞がりだ。
「よーし、やっぱ泳ぎだな!」
「あい!」
「無理だ! ガルナ島は遠い!」
「無理よ!」
やいやいと揉め始めようとした時に急に肩を掴まれる。誰だよ。急に人の肩を…………。
「みーつけた」
振り返ると薄着の黒髪で垂れ目が印象的なイケメン___氷の造形魔導士グレイ・フルバスターがいた。大方マスターからの命令でナツを捕まえに来たってとこかな。
「グレイ?! どうしてここに?!」
「連れ戻してこいって言うじーさんの命令でな。ってかソルもいるのかよ」
「もうバレたのか?!」
逆にナツよ。バレないと何故思ったのだ。優秀なミラちゃんが依頼者の管理をしてんだぜ。すぐにバレるに決まってんだろ。
「おい、お前らすぐにギルドに戻れ。今なら破門を免れるかもしれねぇ」
「破門?!」
「やなこった! 俺はS級クエストやるんだ!」
「お前らの実力じゃ無理なんだよ!」
ナツは実力を指摘するグレイの言葉が不服だったのか今にもグレイに殴りかかっていきそうだ。
「それにこの事がエルザに知れたら……」
その場の全員が一瞬で青ざめた。連れ戻しに来たはずのグレイまでもが俺達の処遇を考えてしまって青ざめている。ハッピーに至っては無理やり連れてこられたと主張し、保身を図っている。
「俺はエルザを見返してやるんだ! こんなところで引き下がれねぇ!」
「マスター勅命だ! 引きずってでも連れ戻してやる! 怪我しても文句言うんじゃねぇぞ!」
「望むところだ!」
しかし、今日のナツはエルザ程度では引かない。
ナツはその手に炎を、グレイは氷を纏って殴り合いを始めようとする。この二人が出会ったらこうなるに決まってるよなぁ。早く止めないとまたハルジオンの街がぶっ壊されちまう。
「もしかして、あんたら、魔導士なのか?」
「あぁ、そうだ」
「なら、乗っていってくれ! あんたらなら島の呪いを解いてくれるかもしれねぇ」
「まじか?!」
「今だ!」
おじさんの突然の提案にグレイが驚き、隙が生まれた。ナツはその僅かな隙を突いてグレイを気絶させる。こりゃ、後戻りできんな。帰ったらどうなることか……。
ナツはグレイが動かないようにガッチリと縄で縛る。おい、そこ真結びになってんぞ。別に解くつもりが無いからいい? そう言う問題じゃねぇだろ。
「しゃあねぇ、この船に乗っていってやらぁ」
「それならすぐにでも出発するぞ」
意気揚々と出発し、船に揺られること数時間。
「うぇっぷ……。気持ち悪りぃ…………。うぷっ……」
「見えてきたぞ。あれがガルナ島だ」
ようやくガルナ島付近まで来た。日が落ちて辺りは完全に暗くなっている。島は墨で塗り潰されたみたいに真っ黒で島全体を覆っている深い森が月の光を吸い込み閉じ込めているようだった。正に呪いの島という名が相応しい不気味さであった。海が海流の影響で荒れているのも相まって不気味さは相当なものだ。
「見て! あそこ何か光ってる!」
ルーシィが指を指した所を見ると確かに山の頂上が光っていた。なんだろうか? もしかしたら、島にかけられた呪いと関係があるのかもしれない。
「あんたらにあの島の呪いが解けるかな? この悪魔の呪いが!」
船乗りのおっさんは着ていた外套をめくり、己の左手を俺達に見せる。その腕は深い青色に染まっていて所々針が生えている。悪魔の腕としか形容のしようがなかった。
「あなたもあの島の?」
「あぁ、俺もあの島の住人だったんだ」
ナツ以外の全員がその腕と元住人であった事に驚いていると船が急に傾いた。大波だ。家一つ簡単に飲み込みそうな大波に船が飲み込まれそうになっている。
「みんな! 船体に掴まれ! バラバラになるぞ!」
「あれ?! あのおじさんは?!」
船乗りのおっさんは居なくなっていた。その事も気になるがまずはこの大波を乗り切らなければ。いくらグレイと言えどもこの大波を凍らせる事は不可能。アキレアや俺にもこの波を相殺する魔法は使えない。グロッキーのナツに非戦闘要員のハッピー、ルーシィは尚更だ。
俺達は大波に飲み込まれその衝撃で意識を手放した。
意識が戻る。海水で体がベタベタして最悪だがみんなも荷物も無事みたいだった。
見たところ、グレイが一番最初に意識を取り戻したみたいだな。あのキツい縄も解けてるみたいだ。
「なんとか、無事に島まで着いたな」
「そうね」
「よし、船からやっと降りれたことだし探検するぞ!」
「あい!」
「こらー!! 勝手に行こうとしないの!」
ナツは意識が戻るとすぐにハッピーと共に森の奥へと突き進んで行く。ルーシィが止めるが聞く様子は全くない。チームなんだから相方の意見くらい聞いてあげて……。
「おい、待てよ」
「あ? もう船は壊れてんぞ。連れ戻すなんて出来ねぇだろ?」
「いや、俺も行く。お前だけS級クエスト達成するのは癪だ。きちっと依頼をこなせば爺さんも文句言わねぇだろ」
そんなこんなでグレイをチームに加えて探検を開始する。とりあえずの目的地は依頼者の村なのだが先程述べたように森が深いから進むのも一苦労だ。
そういえばウェンディと会った森もこんな感じだったなぁ。
「ねぇ、ナツ。ソルがニヤニヤしてるよ。絶対やらしいこと考えてるよ」
「考えとらんわ!」
「じゃあ、妹さんのこと〜?」
「うっ……」
「本当にシスコンだよねぇ。このままじゃ、お兄ちゃん、うざいって嫌われちゃうよ」
えっ……。まさかね……。
そう思いつつもお兄ちゃん、うざいの言葉がウェンディの声で何度も再生される。……妹離れしなきゃな。
「あんた達、さっさと来ないと置いてくわよ!」
「あい!」
「…………うっす」
沈み込んだ感じで依頼者の住む村へと向かう。ルーシィのおかげで夜になってしまったが村の前まで辿り着くことが出来た。
辿り着いた村は一言で言えば異様だった。魔獣対策で高い柵や塀、深い堀が村中に張り巡らされるのはよくあることなのだが、ここまで高く他を拒絶するように作られた物は初めてだった。
柵やその他防衛施設をまじまじと観察しているとルーシィが門番を見つけて声を掛けていた。門番からギルドマークの提示を求められたので提示をした。本当に依頼を受けてやってきたことに凄く驚いていたようだ。こんな恐ろしい呪いの島からの依頼なんて受けたがらないと思っていたのだろう。
「ねぇ、なんだか魔獣の口に入っていくみたいじゃない?」
「縁起の悪いこと言わないでよ!」
ハッピーはだいぶ失礼なことを言っていたが少し違えど本当にそんな印象を受けた。俺にはこの柵に囲われた村は呪いの化身で俺達を腹の中に入れようと口を開いたという風に見えた。
全ての村人が村の中央に集まっているようだ。門番も降りてきて集団に加わっている。
先頭の村長だと思われるもみあげの凄まじい爺さん以外はフード付きの上着を着たりして顔を隠し、身体を隠している。ますます妙だな。
…………この不気味な雰囲気の中でももみあげに感動できるナツは大物だよ。うん。
「依頼をお受けくださりありがとうございます。早速ですが私どもにかけられた呪いをお見せします」
村長の合図で全員が身体や顔を隠していた布を取り外す。あのおっさんと同じような悪魔の身体がどこかしらに発現していた。
余りにも惨い光景に言葉を失った。ここまで酷い呪いなのか。
「…………まじかよ」
「これが私ども、いや島全ての生き物にかけられた悪魔の呪い……。この呪いはいずれ身体だけでなく心までも蝕むのです……。身体だけでなく心までも悪魔に堕ちた者は……殺すしか……」
「他に方法はねぇのかよ?!」
「放っておけば牢を壊し、村人を襲うのです。だから……こうするしか……」
村長は手に持った写真を見ながらすすり泣く。その写真の人物には見覚えがあった。俺達をここまで連れてきてくれたおっさんだ。
「あのおっさんが消えた訳が分かったぜ。そりゃあ、浮かばれねぇわな……」
「ゆ、幽霊?!」
そうだったとしてもおかしくない。強い想いは魔力となってこの世を彷徨うことがあるのだ。己の想いを晴らす為に。
重く息が詰まるような雰囲気が辺りに張り詰めた時だった。雲の切れ目から月が顔を覗かせた。青白いはずの月は派手な紫色をしていた。奇妙な月の登場と同時に村人が苦しみ出す。そして、その身を完全に悪魔へと変貌させてしまう。
「こ、これが……ガルナ島の呪いなのか?」
ヒロインについて(その他の枠)
-
ブランデッシュ・μ
-
アイリーン・ベルセリオン
-
ユキノ・アグリア
-
ミラジェーン・ストラウス
-
その他