1、
夕日の下、オレはオールマイトと別れを告げた。
「最強のヒーロー。あんたと過ごしたこの数ヶ月はオレの人生でもっとも輝いていたときだった。ありがとう」
「…わたしとともに日本に来る気はないのか、タウラス。あなたなら優秀なヒーローになれるはず」
「生憎、今は転職する気はない。ちなみに、オレを雇わないのか。オールフォーワンは強敵だぞ」
「これはわたしの問題だ。あなたを巻き込むつもりはない」
「そっか。それじゃ」
オレは背を向けて、歩き出したとき、オールマイトに声をかけられた。
「もしヒーローになりたいなら、日本に来てくれ」
「わかった」
この瞬間、オレは夢から目覚めた。
「まさか雄英に赴任する前にこんなことを思い出したとは」
テレビをつけると、またオールマイトのニュースが流れる。
見ていると、心が痛むから、すぐに消した。
「かなりの重症だな。これは」
オールマイトは明らかに弱くなっていく。体の重心からみれば、内臓はいくつかなくしただろ。
「ナイトアイはどういう気持ちだっただろうか」
かつての戦友の名前は空しく響いている。
2、
養父からこの任務を聞いたとき、まず耳を疑っていた。
雄英で一年間、教師として活動せよ。
主の任務は教師に転職するオールマイトのサポートと護衛。
「…………親父、この依頼人はオレのギャラを知っていて、この依頼をしたのか?」
オレの契約料は数百万ドル以上だ。
これほど長い契約となると、絶対に数千万ドルになる。
確かに、コーチとしてヒーローの養成を関わっていたが、あの時はせいぜい一ヶ月ぐらい。
「無論だ。前金は千万ドルで、成功報酬は五千万ドルだ」
「…………うわ、これ、政府からの依頼だろ」
これほどの大金を出せるものは少ない。
「まあ、休暇として考えればいい。日本はかなり安定している国で、お前の故郷だろ」
「……オレの故郷はここ、キャラバンだけだ。日本はただの出身地で、そもそも記憶はねえ」
子供の頃、テロに巻き込まれて、脳部に損傷を受けてから、以前の記憶は完全に消えた。
自分の出身地は、最近になってようやく判明した事実だ。
「はあ……そう言うな。弟のことが気がかりだろ。心残りは残さないほうがいい。私たちのような傭兵はいつ死ぬかがわからないから」
「……………親父、この言葉は説得力が全然ねえ。オレたちの状況を考えろ」
たぶん、この世で突然の死から最も遠い人はオレと親父だ。
「とにかく、この依頼を受けるか?タウラス」
「……ああ、受けよう。長旅として悪くねえ。報酬もよい」
手続きは驚くほど早く終わった。
仲間たちと別れをつけた後、オレは日本へ出発した。
★
雄英の正門を見て、タウラスはため息をついた。
普通のヴィランなら、このような防御で十分だろうが、オールマイトの敵を考えると、まだ足りないとしか思えない。
「足りない部分は自分で何とかするしかねえ。問題はオールマイトだ」
オールマイトはオレの戦友で、戦場ではかなり信頼しているヒーローだが、教師の素質があるかどうかと聞かれたら、分からないとしか言いようがない。
考えながら進むと、すぐに校長室に着いた。
「本日雄英に赴任したタウラスだ。よろしく頼む」
「君がタウラス君だよね。まさか、最年少の国際ヒーローが雄英の臨時教師になってくれるとは」
国際ヒーローはプロヒーローの中で、国際犯罪を処理できる一握りの精鋭だけが就くことができる国連のヒーローだ。
オールマイトは国際ヒーローの資格を持っていたが、五年前に辞めた。あの時、引き止めようとする人が多いと聞いた。今から見れば、それは傷のせいだろう。
タウラスは今回の任務のために国際ヒーローのライセンスを手に入れた。
国際ヒーローの知り合いが多いから、難しくはない。
タウラスの基準から見ると、そこのテストはかなり簡単だ。
「オールマイトには色々と助けてもらったから、彼の手伝いのために雄英の教師に応募した」
「しかし、恐れ入ったね。二十才の若さで国際ヒーローになるなんて」
「……教師と環境のおかげだ」
少年兵として、世界中の戦場を10数年も渡り歩ければ、誰も二十才で国際ヒーローになるほどのしたたかさを手に入れられる。
途中で死ななければの話だが。
タウラスは自分が恵まれると思っている。
生きるために兵士になると決めた後、すぐに養父に拾われ、傭兵団で生き延びるに必要な技術と知識を得たから。
校長と一通りの打ち合わせをした後、タウラスは職員室に向った。
3、
「タウラス、わたしの授業内容は何か問題があるのか?」
オールマイトと再会したタウラスは、旧友に容赦なくカリキュラムの提出を求めた。
雄英の校風が自由だから、多くの教師はカリキュラムを用意していないようだが、オールマイトのような新米教師はそういうものを事前に用意すべきだ。
書類仕事に苦手なオールマイトだが、数時間の奮戦を経て、ようやく書き終わった。
プリントされた紙の束を読み終わったタウラスは答えた。
「……カリキュラム自体は問題がない。そもそも教師の教科書と他の教師の経験を参考した時点で、不合格はありえない。もっともの問題は、あんたは本気でこのようなカリキュラムに基づいて、授業をするつもりか?」
なんというが、これははっきりに言うと普通だ。
普通は悪くないが、オールマイトのようなべテランヒーローがこのようなパットしない授業をするのはもったいない気がする。
「そう言われても……なにかいいアイデアがあるのか?」
「あるのはあるが、オレがカリキュラムに干渉しすぎると怒られるだろう。任務はあくまであんたのサポートだからな………あ、現実の事件を参考するのはどうだ?」
オールマイトがやりたい授業は戦闘訓練だ。
今のカリキュラムは教科書のシチュエーションを流用したものだから、現実味のないものだ。
実在する事件に参考すれば、臨場感が増えて、生徒たちへの指導はより効果的なものになるだろう。
「なるほど……なかなかいいと思う。なら、事件の選択はわたしに任せて」
「オレがヴィラン役だ。実在している事件となると、今の生徒たちに荷が重い」
オールマイトがその後、用意した事件概要を見ると、周りの教師達は少し引いている。
タウラスも呆れているが、生徒たちにとっていい経験になると思っているので、何も言わなかった。
「すまないが、下準備はかなり複雑だけど、頼めるか?」
「これぐらいなら、一日で十分だ。あんたの授業は確か明後日だよな。今からやるよ。あんたはこの二日に生徒たちに渡す事件概要をまとめよう」
結局、それの支度で始業式に出られなかった。
主人公の概要
タウラス・アステリオン
牛頭人身の姿を持つ、黒い牛獣人の複合型の”個性”所有者。
個性名は「オケアノス」
傭兵国家キャラバンのエースで、国連平和維持軍の切り札である。
日本出身だが、八歳の時家族とともに海外に行ったとき、テロに巻き込まれて、記憶を失った。
「タウラス・アステリオン」という名前は星座好きの養父が送ったものだ。