傭兵のヒーローアカデミア   作:dukemon

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断章

 

コルタウリは今、絶体絶命(ぜったいぜつめい)の状況にいる。

彼は士傑高校(しけつこうこう)の生徒で、インゲニウムの事務所でインターンをやっている。

その実力が買われ、インゲニウムと一緒にヒーロー殺しの調査をしている。

 

しかし、インゲニウムが相手の奇襲で重傷を負って、コルタウリは彼を守りながら戦わなければならない。

純白の毛は血色に染められ、刀を受け止めた頭上の角も少し破損している。

継戦可能の状態だが、問題はヒーロー殺しの個性だ。

 

 

 

 

ヒーロー殺しは少し離れた場所で、ボクの血をなめた。

 

「チッ!」

 

体は動きが止められた。

ボクは即刻体中の血液を操り、その干渉を打ち消した。

しかし、その一瞬の隙にヒーロー殺しは投げナイフを投げてきた。

辛うじて、避けようとしたが、その中の一振りが足を掠めた。

 

たぶん、相手の血液を舐めることで、動きを封じる個性だ。

完全に初見殺しだ。

加えて高い接近戦能力を持っている。

近接戦闘において、血液を奪わないようにするのが至難の技。

コルタウリは水を操る個性で、全身の血液を干渉することでそれを打ち消したが、その一瞬の隙は相手にとって絶好なチャンスだ。

 

追撃してきたヒーロー殺しに、コルタウリは流れ出した自分の血を射出した。

手持ちの水はとっくに使い果たしたから、そういう攻撃しか繰り出せない。

 

それを避けたヒーロー殺しは頭上から斬撃してきた。

右腕のトンファーで防いで、試しに武器を奪おうとしたが、躱された。

 

その時、少し後ろのインゲニウムの状況を確認した。

彼が切られた場所が悪い。

出血が多いし、今の自分には彼の止血はできない。

ボクの操水個性は範囲が狭い。

せいぜい数メートルだけで、精度も低い。

 

先日通信してきた海洋王(オケアノス)ならば、鼻歌交じりにやってのけるに違いない。

いや、彼ならヒーロー殺しなど、傷一つ負わずに制圧するだろう。

 

雑念を追い払い、客観的にこの戦闘を見なければならない。

 

通信機はヒーロー殺しに壊された。

スマホは無事が、相手はそれを操作する暇を与えるはずがない。

インゲニウムは意識が朦朧(もうろう)している。早く止血(しけつ)しなければ死ぬ。

ヒーロー殺しは地利(ちり)を持っている。

時間が経てば、異変(いへん)に気付いた事務所(じむしょ)の仲間たちは来るだろうが、その前にヒーロー殺しを撃退(げきたい)しなければ、インゲニウムは死ぬ。

 

まずい、とてもまずい。

よっほどの幸運(こううん)がなければ、インゲニウムは亡くなって、ボクも死ぬ。

 

「貴様ら偽りの英雄を排除せぬばならない」

 

「偽りかどうかはどうでもいい。そもそも犯罪者が偉そうに正しいヒーローを語るなんておかしいじゃないか」

 

まったく、うんざりする。

たかがインタビューで、人の心を分かったように語る狂人(きょうじん)に、ボクは辟易(へきえき)した。

 

インゲニウムは少し軽口(かるくち)を言っただけで、抹殺対象(まっさつたいしょう)となった。

ボクはヒーローになる理由が兄を探すと言ったから、抹殺対象になった。

ボクのような裏の情報屋をやっている人ならともかく、インゲニウムがいい人で良いヒーローと思う。

 

確かに、こいつの主張は一理あると思う。

古き良いヒーロー、誰かを救えるという目的でヒーローになったもの。

そんな人が多いほどいいと、ボクもそう思う。

実際、オールマイトという理想的(りそうてき)英雄像(えいゆうぞう)を持っているトップヒーローがいる。

 

しかし、人を救うことを手段をしているヒーローを贋作(がんさく)を断じ、それを抹殺しようとするのが狂っている。

現実を見ていないともいえる。

 

現状、日本のヒーローは不足している。

今は、オールマイトという破格(はかく)なヒーローがいるから治安が良いが、彼がいなくなると想像するとぞっとする。

こいつがやろうとすることは、ただ無駄ににオールマイトと他のヒーローの負担を増やしているだけだ。

 

 

「くそっ!」

 

一振りの投げナイフはインゲニウムに向けて投げだした。

ボクはトンファーでそれを撃ち落とした後、太ももから鋭い痛みが湧き上げた。

もう一振りの投げナイフは自分の太ももに深く差し込んだ。

 

ついに、ヒーロー殺しは最も効果的な手段を取った。

インゲニウムを狙う。

こいつにとって、どちらも殺しの対象だから、どちらからやってもいいということだけ。

だが、ボクにとって、最悪な事態となった。

被弾(ひだん)が多くなって、機動性(きどうせい)は著しく低下した。

 

やがて、その時が来た。

ボクは眼前に迫りくる刃を見つめる。

もう避けられない。

防ぐこともできない。

ボクは頭脳(ずのう)が全速力を回転して、この状況を打破する方法を考えているが、それより早く、それをボクの胸に届いた。

 

《おっと、そいつは殺させねえ》

 

全身に黑き鎧を纏う狼は現れて、ヒーロー殺しは突風(とっぷう)に飛ばされた。

方角を見ると、たぶん遠くの屋根に着地しただろう。

 

《おい、動けるか?》

 

「ああ、辛うじて。あなたは……ポラリスなのか?」

 

ポラリス、《海洋王(オケアノス)》タウラスの長子にして、凄腕(すごうで)の賞金稼ぎだ。

傭兵ではないが、傭兵国家キャラバンを根拠地にしている。

 

《ああ、そうだ。まあ、親父の頼みでお前を警護している》

 

ポラリスは慣れたように、空気を操ってインゲニウムの手当てをしながら告げた。

 

「海洋王の頼み!!?これは一体どういうこと?」

 

彼との接点はこの前の情報売買だけで、ボクを守るために自分の息子を派遣してきたことは理解できない。

 

海洋王(オケアノス)》タウラス。

紛争地域ではかなりの知名度があるが、日本では無名だ。

日本政府がわざと隠蔽しているからだ。

ボクは取引相手のことを少し調べてから、この客人が想像以上の大物ということに驚いた。

 

《王》の名を持ち、キャラバン最高位傭兵の一人。

世界を何度も救う英雄。

高い戦闘能力以外、兵器開発(へいきかいはつ)宇宙開発(うちゅうかいはつ)などの分野でも天才と呼ばれるほどの化け物。

年収がオールマイトの何十倍を超える大金持ちでもある。

 

その勢力も恐るべきものだ。

息子である三匹の狼が彼と匹敵するほどの戦力を持っていると言われている。

ヒーロー業界最大手のプリンセスは師匠である彼のことを深く感謝している。

オールマイトも彼と共にあまたの戦果を築き上げてきた。

さらに、傭兵国家キャラバンでの権限も多い。

 

《そりゃあ、お前。オールフォーワンの情報を探しているだろ。親父はお前のような情報屋が狙われていると考え、俺に警護を頼んだぜ。お前という(えさ)でオールフォーワンを誘い出す作戦だ、作戦》

 

「…………それはおかしい。本当の理由を話してくれ」

 

眼前の狼は明らかに嘘をついている。

皮肉(ひにく)に笑っている狼は問いてきた。

 

《ほう、俺が嘘をついていると?どうしてそう思う?》

 

「さっきの状況はボクを見捨てるほうが理に適う。ボクという餌の価値が実にあまり高くない。オールフォーワンにあなたが日本にいる情報を渡すリスクより、ボクのような一般人を見捨てるほうがいい」

 

《俺がお人好しという可能性もあるだぞ?》

 

「テロリストに毒ガスを使うあなたがお人よしという可能性は、あるのか?」

 

《ははは、違いねえ》

 

「わざとばれやすい嘘をつく理由は何なのか?」

 

《なに、少しテストをしたいだけだ。実は、お前の兄に頼まれて警護してきた》

 

「なん…だと……兄ちゃんは生きているのか!?」

 

衝撃の発言に、頭が真っ白となった。

 

《生きていないと思うのか?》

 

「い、いいえ……ただもう十数年音信不通だったから……」

 

《まあ、彼は俺たち兄弟と親しいから、頼みを聞いてきただけだ》

 

「兄ちゃんはどこにいる?」

 

《おっと、次の情報は有料だ。俺の仕事を手伝うかわりに、教えてやるぜ。ああ、違法行為(いほうこうい)をやらせるわけではないから、この点は安心していい。契約するか?》

 

「する」

 

《おいおい、即答(そくとう)かよ。俺の仕事を知っている上での発言かな?》

 

賞金稼(しょうきんかせ)ぎ。バウンティ・ハンターとも呼ばれている。あなたのような凄腕(すごうで)なら、戦う犯罪者もボクなんて想像できない強さを持っているだろうが、ボクにとって、兄ちゃんに会うのが最も大事なことだ」

 

《よし決まりだ。この契約書(けいやくしょ)にサインしろ》

 

少し確認してから、コルタウリはその契約書にサインした。

 

《血、銃弾と桁違いの化け物たちが闊歩(かっぽ)する世界へ、ようこそ》

 

ポラリスは嗤って、新入りを歓迎した。

 

これはたぶん運命というものだろうが、ボクはそう思っている。

 




ポラリスは実にノリで生きる狼です。
今回の勧誘は別に深く考えてからやったわけではありません。
単純に、叔父さんについて興味を抱いただけです。

ちなみに、周りの人々は彼の奇行で振り回されるのが慣れています。


あと、コルタウリというヒーロー名はおうし座の星を取ったものです。
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