傭兵のヒーローアカデミア   作:dukemon

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第16話

1、

 

激動(げきどう)の一日が過ぎて、何もない学校の日常に帰った。

体育祭が中止になって、数日後校内で小規模の体育祭を開催し、それを編集して公開する予定だ。

体育祭での活躍は生徒にとって大切なチャンスだから、完全にキャンセルするのが流石に無理だ。

 

だから、今は生徒たちの力の底上(そこあ)げをしている。

一人一人呼び出して、アドバイスをしたり、戦い方の相談を受けたりする。

 

 

たとえば、八百万(やおよろず)の場合、個性は強力だが、使いこなしていない。

作れるもののバリエーションは少なすぎる。

 

「サポート科の課程を傍聴(ぼうちょう)するか、課程の映像を見るがいい。あなたの個性は物作りだから、知識があればあるほど強い。それに、戦い方も調整するほうがいい。後手で対応するではない、先手を取れ。いつでも、相手に選択肢を与える側に回れ、主導権を握って渡すな」

 

 

たとえば(とどろき)の場合、持久力(じきゅうりょく)に難あり、それに接近戦に不得手だ。

 

「炎を使えと言わない。それはあなたの選択だ。しかし、せめて欠点を埋めろ。体温のコントロールはもっとも大事な問題だ。サポートアイテムを使うか、個性の使い方を工夫するか、よく考えろ。あと、接近戦を磨いておくがいい。あなたは中距離と遠距離戦が強いが、接近戦に不慣れだ。少なくとも、敵から距離を置く技術を身につけろ」

 

 

このように、半分の生徒にアドバイスをした。

残りの半分はオールマイトに任せた。

 

 

職員室に帰る途中で、オールマイトと緑谷に会った。

 

「ちょうど良かった!緑谷少年、さっきの話はタウラスの方が詳しいぞ」

 

「何の話?」

 

三人は空いた教室に入って、話を続いた。

 

「実はオールフォーワンのことについて、一つ疑問があります」

 

「疑問?」

 

「どうして彼の勢力は海外に及ばないですか?」

 

「ああ、そういうことか……それは、運がないから」

 

彼は最初の海外進出で特大の地雷を踏んだ。

 

「彼が初めて外国に勢力を伸ばそうとしたのは90年前。あの時は日本に対する統制(とうせい)がほぼ完成しているから、海外に目を向けた」

 

「どの国なのですか?」

 

「アフリカ大陸。あの時は戦乱(せんらん)状態だから、やりやすいと思っているだろうが……」

 

「90年前のアフリカ大陸………え、まさか!」

 

「そのまさかだ。あいつ、よりにもよって()()()()()()()国父(こくふ)にちょっかいをかけた」

 

アフリカ共和国国父・ナデル=エンゲマ。

雷火(らいか)の英雄》、《天空(てんくう)征服者(せいふくしゃ)》などの異名を持ち、アフリカ統一という偉業を成し遂げた人物だ。

まあ、サハラ砂漠の一部を傭兵国家キャラバンを売り払ったから、厳密(げんみつ)には全アフリカを支配したとは言えないが。

 

「後で、私が持っている日本の資料に合わせて読むと、オールフォーワンがあの戦いで重傷を負って、それから十年まともに動けない。今の日本政府はあの時、力を増えて彼の統制を打ち破ったのだ!つまり、ナデル=エンゲマは日本の恩人でもある!」

 

「アフリカ共和国にかなり詳しい資料が残っているよ。あそこは英雄信仰(えいゆうしんこう)があるから、あの戦いが信者(しんじゃ)たちに記録されている……オールフォーワン、普通に殺されかけた」

 

オールフォーワンは戦士ではない。支配者(しはいしゃ)だ。

生粋(きっすい)戦士(せんし)征服者(せいふくしゃ)であるナデルに勝てないのは当然だ。

 

「いいか、緑谷。オールフォーワンは強いが、オールマイトより少し弱い。それでも、相打(あいう)ちという結果となった。それは、彼は相手の精神の隙を突くのが得意だから。ナデルにはそういう小細工(こさいく)が通用しないから破られた」

 

「しかし、私は彼と戦った時は一瞬、冷静を失ったから重傷を負った」

 

「強敵だからこそ、落ち着かなければならない。オールフォーワンだけじゃない。すべての敵に対してもそうだ。オールマイトを尊敬するのがいいけど、彼の失敗から学べることもある」

 

「はい、わかりました!」

 

 

 

そして、タウラスは職員室に入った。

 

「ファブニールは一体どこへ行ったのか?」

 

「そもそも、なんで今ころ出てきたのでしょうか?」

 

そこで、教師たちはファブニールのことについて話している。

 

オールフォーワンは叔父の正体をメディアにばらした。

丁寧(ていねい)に、家族の詳細と住所も公表された。

幸い、オレのことは新聞に乗っていない。

知らなかったか、あるいはばらす気はないか。

どっちにしろ、早く解決しなければならない。

 

オレはオールマイトの護衛(ごえい)だから、こっちに優先しなければならない。

そのため、叔父さんのことはオルフェに任せた。

 

「ねえ、タウラス先生はどう思いますか?」

 

「オレとしては、彼の家族に同情するよ。彼の息子はヒーローを廃業(はいぎょう)しなければならないらしいし、ヒーロー志望(しぼう)(おい)もこれからどうなるかがわからない」

 

従兄はヒーロー活動をやめ、叔母さんのところに帰ったそうだ。

 

「ああ、確かに……」

 

「それに、少しおかしいと思う。ファブニールだと思われる人は行方不明で、どこにいるのかが分からない。ニュースに色々な証拠(しょうこ)が出てきたが、決定的なものはない。もしかすると、似たような個性を持っている人でしかないかもしれない。彼を使ってヒーローたちを混乱させる誰かがいるかもしれない」

 

ヒーローたちを混乱させる誰かがいるのが真実が、それ以外はでたらめだった。

今の自分ができることは少ない。

叔父さんを助けに行って、その時オールマイトが狙われたら、任務が失敗する。

 

………頼むぞ。オルフェ。

 

 

 

2、

 

オルフェは夜闇(よやみ)に隠れて、大叔父の家に近づいた。

 

二階建ての家の周りに、ハイエナのように()ぎまわっている記者たちがいる。

時に、大声で家の中にいる大叔母と従伯父に、「逃げ隠れしないで、さっさと出てこい」「犯罪者をかばうな」などと騒いでいた。

 

………不愉快だ。

 

オルフェはこいつら全員を吹っ飛ばす気持ちを抑えて、二階に潜入した。

 

「誰だ!」

 

二階の床に降り立った瞬間、敵意を向けられた。

空気(くうき)弾丸(だんがん)を数発、射てきた

 

兄さん(ポラリス)と同じタイプだ!

 

(コスモス)で借りている兄さんの風で即座に打ち消して、鷹のような相手の手足を縛った。

 

自分の従伯父(じゅうおじ)が目を見張って蒼褪(あおざ)めたのを見て、オルフェはやり過ぎるかなと思った。

 

 

自分を縛った狼はかなり困った表情をして、爪でスマホを操作している。

 

この狼は何がしたい?

 

迂闊(うかつ)に動けない。

大声で叫んだら、相手が母に傷づけるかもしれない。

いや、そもそも反抗できない。同質(どうしつ)の個性だが、向こうの干渉力が数段上だ。

感じられる範囲の空気が全部、相手に制御されている。

 

《もしもし、大叔父さん?実は………》

 

詳しくは聞けられなかったが、大叔父さんと呼ばれる人物に今起きていることを伝えたらしい。

そう思うと、彼はスマホを差し出した。

 

飛鳥(あすか)か?』

 

父さんの声だ。

 

「父さん!?いや、あんたは自分が父さんだということを証明できるか?」

 

『昔、竜に変身して、五歳のお前を富士山(ふじさん)頂上(ちょうじょう)に運んだことがある』

 

本当のことだった。

あの時は富士山に行きたいと喚いたら、父さんが仕方なく連れて行った。

今となって、それはどれほど危険なことだと分かった。

 

「今どこにいる!?大丈夫か!」

 

『今は海人の家にいるから大丈夫だ。しかし、少し負傷しているから、数日ここから動けない』

 

「……海人の家?」

 

『海人のことについて、そちらにいるオルフェに聞くがいい』

 

《初めまして、オルフェです》

 

オルフェという白銀の狼は一礼した。

 

 

 

 

「………つまり、海人はタウラスに改名して、今は世界有数の大金持ちで傭兵国家の王の一人で、息子三人いる!?」

 

《大体そんな感じ。ちなみに、オイラも王ですよ》

 

それから自分の個性と(コスモス)について説明しながら、大叔母と従伯父に撫でられている。

なんでみんながオイラの毛に触りたがる?

 

「さて、これからどうしましょう?」

 

「正直に言うと、今できることを確認したいが」

 

《ん……そう言われても……もっと具体的な質問をしてくれないか?》

 

できることはかなり多いから。

 

「オールマイトとどっちが強い?」

 

《今のオールマイトなら完封できるよ……昔の彼なら一方的にボコボコされるかもしれないが》

 

全盛期のオールマイトの記録を見たことがある。

あれは一体なんなのだ?

 

《ちなみに、力で解決することはお勧めしないよ。父さんと戦う羽目になるから》

 

「………なあ、こういう計画はどうだ?」

 

 

3、

 

一週後、タウラスは朝から体育祭の映像を編集している。

生徒たち一人一人の強みをアビールして、弱みをサラッと流したように。

これはテレビで放送するものだから、見応えの方が大事なんだ。

 

ヒーロー向けの映像はあまり編集していない代わりに、タウラスが書いた参加者たちの評価が付属されている。

 

 

 

 

三時間後、仕事を完遂したタウラスはオールマイトに廊下で話し合った。

 

「ヒーロー科の生徒だけでも見たほうがいい」

 

手渡された書類を見て、オールマイトは眩暈がした。

 

「これ、ヒーロー科だけでも辞書並みに厚い………!」

 

「おかしいなのか?キャラバンの新兵評価のつもりでやっていたが」

 

「いや、大変参考価値がある資料だ。どれくらい時間が掛かったのか?」

 

「一時間くらいかな?分割思考でやったから、並行処理で時間が短縮できる」

 

「なるほど、納得した。少しツッコミしたくなるけど」

 

オールマイトと別れてから、スマホが鳴いた。

 

 

「ん?イーヴァルディからの連絡?」

 

『もしもし、父ちゃん?大叔父(おおおじ)さんと一緒に日本に来た。これから一緒に昼ご飯を食べに行きましょう』

 

「行きたいけど、今は仕事中なんだ、晩ご飯ならともかく。…………待て、叔父さんが帰ってきた?」

 

『そうよ。これから記者会見をやるそうだ。僕もテレビに出るよ。それじゃ』

 

 

タウラスは職員室に駆け込んで、テレビをついた。

 

【……この私がかのヴィラン・ファブニールという話は、全くの事実無根(じじつむこん)です】

 

うわ、完全にしらを切ったな。

 

マスコミが映像や写真などの証拠を提出したが、叔父さんはすべて偽造だと言い張った。

変装(へんそう)の個性か、幻像(げんぞう)を作り出す個性などが少し珍しいが、先例があるから、論破は難しい。

 

【さらに、アリバイがあります。映像の時間から五分後、私は傭兵国家キャラバンでパーティーに参加しました。こちらはパーティーの主催者・イーヴァルディ様です】

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()、龍斗さんは確かにそのパーティーに参加した】

 

【ご存じの通り、プリンセスほどの空間個性保有者(くうかんこせいほゆうしゃ)でも大陸間移動ができません。五分で日本からアフリカに移動することは不可能です】

 

ひでぇ、イーヴァルディは()()()()()()()()

真実を混じった嘘はもっとも厄介だ。

 

マスコミは騒ぎ始めた。

散々攻撃してきた相手は突然にアリバイを提出したから当然だ。

 

「タウラス先生。これをどう思うのか?海外に詳しいだろ?」

 

相沢先生は聞いてきた。

 

「さあ、彼は本当にファブニールかどうかが分からないけど、パーティーに参加したのは事実だと思う」

 

「イーヴァルディという傭兵の発言は真実だと?」

 

双統領(そうとうりょう)ミスラに誓うのはそういうものだ。その誓いをしながら嘘を言うのは、その場で八つ裂きされても文句が言えない大罪だぞ………あれ、別のニュースが入った」

 

画面上が映るのは巨大なドラゴンが一軒家を粉砕した景色だ。

よく見ると、その爪は一人の女性を握っている。

 

……この場所、叔父さんのうちだろう?

 

【ファブニールに(だま)すものよ。汝の妻を取り戻したいなら、富士山の頂上で我の裁きを受けるがいい】

 

そう咆哮した後、伝説の獣は飛び立った。

後を追うものは一人。

鳥人のヒーロー・スカイウォーカー。つまり、タウラスの従兄・飛鳥だ。

 

【母を返せ!】

 

…………面倒な策だなこれは。オルフェ。

 

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