傭兵のヒーローアカデミア   作:dukemon

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第2話

1、

 

生徒たちを連れて、オールマイトは演習場(えんしゅうじょう)に着いた。

普段通りのスマイルをしているが、彼は実際かなり緊張している。

稽古の時、タウラスが言ったことを何度も思い出した。

 

「いいか、オールマイト。あんたはこれから教師になるのだ。初回の授業は大事なんだから、できるだけノートを見ないでする。この戦闘訓練(せんとうくんれん)の概要はあんたが作ったものだから、暗記するのがそれほど難しくはないだろう。生徒たちの質問に関して、他の教師に頼めばおおかた把握することができる。それを生徒たちに渡す事件概要に加えて……あのさ、あんたはしっかり教育の単位を取るほうがいいぞ」

 

タウラスの多才さは前から知っていたが、教育に関する課程までできるのは想定外だ。

彼のアドバイスに従って、これからは教育の単位を取ろうと、オールマイトは心の中で決めていた。

 

 

「今回の戦闘訓練はヴィランのアジトの攻略だ!目の前のアパートに侵入し、最上階の囚われた人質のところに到着するのは今回の目標だ。先に言っておくが、これはかなり難しいよ。アジトの中に様々な罠が設置される。即死(そくし)(わな)にかかった攻略者は攻略失敗と見なし、のちに今回の訓練について報告を提出しなければならない」

 

事件概要(じけんがいよう)と規則のプリントを生徒たちに渡したオールマイトは補足する。

 

「今回のヴィラン役は臨時教師(りんじきょうし)のタウラス先生だ……が、演出のために交戦することはない。安心するがいいね」

 

「タウラス……?どこのヒーローだろう?」

 

緑谷少年はぶつりと言ったのをオールマイトは聞いた。

 

「えーと……彼はヒーローライセンスを手に入れたのはつい最近で、海外で活動しているから日本での知名度はないので、知らないのは当然だ」

 

『国際ヒーローのタウラスだ、よろしく頼む』

 

「「「国際ヒーロー!!!?」」」

 

「彼はわたしと同じ国際ヒーローのライセンス持ちで、最年少の記録保持者だそうだ」

 

『無駄話は終わりだ。さっさと始めろ、オールマイト。時間はないぞ』

 

「よし、規則を確認したな!質問があったら手を挙げて」

 

オールマイトは手にあるプリントを目に通した。

 

くじ引きで最初に入る攻略者を決める。

前の攻略者が失格するか15分経過した後、次の攻略者は攻略を始める。

失格した攻略者から情報を得ることができる。

必要な道具を持ち込むことができる。

 

「先生!必要な道具はどのようなものでしょうか」

 

フルアーマーとヘルメットを着用した飯田(いいだ)少年は質問してきた。

幸い、この問題は事前に予想したものだ。

 

「ああ、ここにある」

 

オールマイトは背中に大きな袋を背負っているロボットを呼び、その中にあるものを生徒たちに見せた。

ガスマスク、防護服(ぼうごふく)、暗視スコープなど、色々な装備がある。

 

「今回の攻略に必要かもしれないものだね。慎重に選んで装備するように」

 

 

2、

 

タウラスはカメラを通して、建物に入ってきた生徒を見つめる。

これで5人目だ。

たしか、(とどろき)という。

 

彼はガスマスクを装着し、慎重に前進している。

 

前の生徒の経験をよく聞いている証拠だ。

 

 

(とどろき)焦凍(しょうと)は落ち着き払って、前に進めている。

歩きながら、彼はクラスメートから得た情報を整理している。

 

最初に脱落した峰田(みねだ)は自分がなぜ失格したのかが分からなかった。

 

彼の話によると、階段を上っている途中で階段が消えて、慌てて手すりを掴まえて落ちなかったが、失格した。

オールマイトも説明しなかった。

 

二人目の攻略者は八百万(やおよろず)だ。

轟は自分と同じ推薦入学者である彼女を高く評価している。

思った通り、彼女は色々なものを解明した。

 

まず、現場に残っている峰田の死体人形を見て、峰田の失格は電撃トラップによる感電死という。

手すりは高圧電流が流れているから。

さらに、周りを探していると、巧みに隠されているクロスボウのトラップを三つ見つけた。

階段に落ちてきた攻略者を狙っているものだ。

 

しかし、八百万(やおよろず)は四つ目のクロスボウトラップを取り除こうとしている時、爆弾トラップに引っかかって、失格した。

 

八百万の話を聞いたクラスメートたちは、この授業の難易度が凄まじく高いと理解している。

峰田も八百万も無能ではない。

しかし、二人は一階でさえ突破していなかった。

 

一瞬の油断で失格になるような狡猾(こうかつ)なトラップがこのヴィランのアジトに設置されている。

罠の隠し方も巧妙で、二重三重に張り巡られている。

 

三人目の常闇(とこやみ)は自分の個性・ダークシャドウで後ろを警戒しながら、オールマイトが用意したロープで階段から二階に上った。

だが、二階に踏み入れた瞬間、毒ガストラップにかかり、失格した。

 

それでも、クラスメートたちは彼の健闘に称えた。

毒ガスは明らかに最優先に対処すべきものだ。

以降の攻略者たちは全員ガスマスクを装備した。

 

四人目の瀬呂(せろ)は奇策で攻略しようとする。

彼の個性はテープ、物体に張り付いて巻き取ることによって三次元的な移動ができる。

ゆえに、彼は建物の外壁を沿って、最上階に到着しようとする。

確かに、いい考えだと全員が思っている。

しかし、最上階はいきなり五基のガドリング砲が出現して、それで張った弾幕で撃墜された。

 

あの弾幕の密度から見れば、飛行タイプのヒーローでさえ簡単に突破できないだろう。

 

轟も外壁から攻略するのを考えていたが、最後はあきらめた。

氷結の個性で最上階に繋がる階段を作るのが容易く、上るときに氷の盾で弾丸を防御できるが、この訓練はこれで突破できるほど甘くないと理解している。

 

「正攻法で行く」

 

まず、一階を全部凍り付かせる。

これで、繊細なトラップが発動できないし、爆発も防げる。

クロスボウや銃を使った罠も無効化できる。

氷は絶縁体だから、手すりの電撃トラップも封じられる。

 

氷で作った階段で、二階に上った。

二階を凍り付かせてから、足元にある常闇の死体人形を観察する。

毒ガスで死んだそうだが、もしかすると死因は別かもしれない。

 

人形を翻した時、透明な糸が目に入った。

轟は後ろに飛び退ったが、一瞬遅かった。

人形の懐に設置したクロスボウは彼の胸に命中した。

 

轟焦凍(とどろきしょうと)、失格。速やかに建物から退出するように』

 

 

「いい線に行ったな。(とどろき)

 

タウラスはそう評価した。

 

元となる事件は氷結(ひょうけつ)の個性の対処がおろそかだから、この訓練は(とどろき)に有利なものだ。

慎重さが仇になったが、大きなヒントも得た。

 

しっかり考えば、気づくだろう。

 

 

「この建物には、隠し通路がある。ヴィランはそれを通して、各階で罠を設置して回った。だから、今までの罠の配置を当てにするのは危険だ。変更される可能性がある」

 

死体人形は罠の一部として利用されることは、ヴィランがそこに行って設置することを表している。

 

六番目の攻略者・緑谷(みどりや)は轟の情報をノートに記録した。

これは千金(せんきん)に値する。

 

隠し通路を通して、一階から最上階に直達できるかもしれない。

もちろん、罠があるかもしれないが、試す価値がある。

 

「あった」

 

柱の中に、エレベーターがある。

溶けた氷は水となってエレベーターの隙間に流れ込んだから、発見できた。

 

……慎重にならなければならない。

 

緑谷は心の中でそう考えて、エレベーターに踏み込んだ。

ガスマスク、防護服、暗視スコープ、ロープなど、彼はオールマイトが準備したすべての道具を持ってきた。

エレベーターのような密室で、最も警戒すべきなのはトラップだ。

避けられる空間はないから。

 

 

最上階のボタンを押して、エレベーターは昇り始めた。

突然、一陣の浮遊感が緑谷に襲い掛かった。

エレベーターが落とされる。

そう思いついた瞬間、彼は個性を使った。

 

3、

 

緑谷が指を犠牲にして落ちているエレベーターから脱出したことを見て、タウラスは冷徹に言い放った。

 

「訓練中止、緑谷出久は速やかに建物から退去せよ。次の攻略者は前へ」

 

『中止って……タウラス、一体どういうこと?』

 

オールマイトは戸惑いながら、インカムからそう聞いてきた。

タウラスは耐えられずに叱った。

 

「黙れ、無責任にもほどがある。後で説教してやるから、待ってろ」

 

 

「合格者は飯田天哉(いいだてんや)蛙吹梅雨(あすいつゆ)障子目蔵(しょうしめぞう)、以上の三人だ。見事だ。この訓練はかつて、アメリカで起きた事件を授業用に再構成したものだ。元となった事件は、12人もののヒーローが罠の犠牲になって、ようやく解決した難事件で、『デスビルド』事件と呼ばれている」

 

オールマイトは沈痛な顔で言い続ける。

 

「あの時、わたしはインターン生として、事務所の所長とサイドキックの先輩たちと共に、そのアジトに踏み込んだ。結果、所長は死に、先輩たちはヒーローとしての生が断ち切られた。わたしも全治一ヶ月の重傷を負った。あのヴィランが弱個性でまともに戦うことができないという情報が事前にあったから、わたしたちは油断し、大きな被害が出た。今から思えば、それも相手の思惑通りだろう」

 

オールマイトは生徒たちの顔を見回しながら、さらに述べた。

 

「マスコミに褒められた度に、わたしはこの事件のことを思い出して、有頂天になりそうな自分を戒める。傲慢(ごうまん)失敗(しっぱい)の元、これは今回の課程で君たちに教えたいものだ。あと、失格者は今週末までに報告書を提出してくれ。解散(かいさん)!」

 

「ああ、緑谷はここに来てくれ、話がある」

 

タウラスはオールマイト、緑谷(みどりたに)と共に演習場の屋上に行った。

 

「なぜオールマイトがあんたを継承者(けいしょうしゃ)と選んだことについて興味はない。だが、個性がコントロールできるまで、戦闘訓練(せんとうくんれん)に参加しないほうがいい」

 

「待て、タウラス……それは……」

 

「これはお前の責任だぞ、オールマイト。そもそも、個性をまともに使えない人は雄英に入っても、時間を無駄にするだけだ。大体、あんた、いつ個性を渡した?三ヶ月前?それでも二ヶ月前?」

 

「……入学試験の先日」

 

タウラスは思わずオールマイトをぶん殴ろうとしたが、辛うじて耐えた。

 

「……呆れた。自覚がない天才はこういうところが駄目だ。緑谷、オールマイトはワンフォーオールの使い方について、何を教えた?」

 

緑谷はオールマイトに目を向けて、

 

「大丈夫だ、彼はワンフォーオールのことを知っている一人だ」

 

「えーと、教えたことは……」

 

 

「オールマイト、世界中の増強型の個性の使い手に謝ってこい。これはひどすぎる」

 

ゲツの穴をグッと引き締めてってなんなのだ。

発動方法だけじゃないか。

 

「それに、結果オーライって、馬鹿だろう。入学試験に失格するほうがよほどこいつのためになるのだ」

 

「……すみません、僕が」

 

タウラスが泣きそうになった緑谷を見て、頭をかきながら言った。

 

「あんたのせいじゃない。オレが言いたいことは、雄英に入学するより、オールマイトの人脈で信頼できるヒーローのところに送って訓練させるほうがいい」

 

そういうと、タウラスはオールマイトに指差した。

 

「こいつは駄目教師だが、人を見る目が確かだ。ワンフォーオールの継承者として自信を持て。さもないと、オールマイトにも、昔の継承者たちにも失礼だ。それに、問題点を掴んだ。改善すれば、コントロールできるようになるだろう」

 

「本当か」

 

「本当ですか」

 

「緑谷、拳を前に振って。オールマイト、トゥールフォームになって」

 

二人は言われた通りにした。

 

「そして、オールマイトは個性を使い拳を前に振って。20パーセントの力でいい」

 

オールマイトはマッスルフォームになって、振り切って衝撃波を放った。

 

「よし、緑谷、あんたはどこを使って拳を振っていた?」

 

「手……いや、(むね)背中(せなか)などの筋肉(きんにく)も使った……あ!だから、オールマイトはマッスルフォームになってからワンフォーオールを使うのか!!」

 

「理解するのが早いな。そういうことだ。オールマイトは自覚がないけど、ワンフォーオールを使う時は反動(はんどう)を防ぐためにまず全身に使う。もちろん、力の配分も考えるべきだ。じゃないと、街中は個性の余波で破壊し尽くしただろう……まあ、これは後の訓練でやることだ」

 

「すまない、緑谷少年、わたしのあいまいな指導で君を苦しめた……」

 

オールマイトはいきなり血を吐いた。

 

仕方なく、タウラスはオールマイトと緑谷を連れて、保健室に移動した。

前途多難(ぜんとたなん)だな、傭兵の先生はそう思った。

 




『デスビルド』
この事件概要を見た雄英教師達は、そのエグすぎる罠の数々に震えた。
電撃、毒ガス、クロスボウなどポピュラーなトラップをはじめ、奇想天外な即死トラップを張り巡られた恐ろしいアジトだ。

『もっとも酷いのはリスを使った罠だ。訓練されたリスが傷ついた動きをし、人が近づけると猛毒を塗りついた尻尾を振って、毒の粉を撒き散らし、侵入者を殺す。運よく避けられても、猛毒を犯されたかわいいリスは死ぬ。それを目にしたヒーローたちは絶対に動揺し、心理的に追い込まれていく。まさに、悪魔のような罠だ』というのがオールマイトの評価だ。
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