傭兵のヒーローアカデミア   作:dukemon

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第5話

1、

 

先手を取ったのは、ファントムだった。

 

死柄木(しがらき)、そこから動かないでください」

 

指示を下しながら、彼女の手から五本のナイフが投げられた。

それぞれ、目、心臓(しんぞう)肝臓(かんぞう)腎臓(じんぞう)下体(かたい)を狙って飛んでくる。

 

それに対して、タウラスは刀一本で応戦した。

四本のナイフを撃ち落としたが、最後の一本は空中で軌道を変化した。

よく見ると、ナイフの柄には細い糸がある。

タウラスは半歩退いてそれを躱し、地面に差し込んだナイフを繋げている糸を断ち切った。

 

「………アタシの攻撃を最善手(さいぜんて)で対処したことに、感服しました」

 

タウラスは無言で刀を構い直した。

 

 

陰惨(いんさん)な戦いだ。とオールマイトが思う。

生徒たちにはまだ早い。とオールマイトが思う。

 

だが、トップヒーローがいつか直面すべきものだ、とオールマイトは理解している。

 

眼前のタウラスは分身の背骨(せぼね)を抜いて、そのまま、投げ武器としてもう一人の分身の喉を貫いた。

タウラスの刀は激戦(げきせん)の中で折れた。

しかし、彼にとって、周りのすべては武器だ。

たとえ相手の死体でも、最大限に利用する。

 

その点について、ファントムも同じだ。

彼女は自在に行動不能(こうどうふのう)の分身を消せるが、しなかった。

自分の体の使い方は誰よりも知っているから。

あと、無闇(むやみ)に分身を消すとかえって不利になると理解している。

接近戦では、眼前の敵には勝てない、だから分身の屍を障害物(しょうがいぶつ)(わな)として使い、遠距離攻撃(えんきょりこうげき)で戦っている。

銃、弓、クロスボウや投げナイフなど。

見ているオールマイトも舌を巻くほどの腕前だ。

 

「私と先輩はたぶん瞬殺(しゅんさつ)されているでしょう……」

 

13号は目の前の戦闘を見て、溜息を吐いた。

 

「ああ、私はあのような体術の達人の前に無力だ、動きさえ見えない」

 

「……昔、私の護衛対象(ごえいたいしょう)は彼女に殺されかけたことがある。幸い、依頼人(いらいにん)を掴まえたから、その依頼は破棄された。さもないと、あの人は死んでいるだろ。しかし、日本で一体誰が彼女を雇えるのか?彼女のギャラはすさまじく高い」

 

「どれほど?」

 

「一般的な護衛依頼(ごえいいらい)は百万ドル以上、私と関わった依頼なら、ざっと三百万ドルに下らないだろう」

 

相沢先生と13号は絶句した。

……タウラスのギャラはそれ以上だと、さすがに言えない。

 

2、

 

先攻を譲ったが、タウラスの有利は揺るぎはない。

ファントムは相手がタウラスということは知らない。

死柄木の情報は不備(ふび)があるから。

今日の彼は全身鎧(ぜんしんよろい)で姿を隠した上で、個性をわざと使わないようにしているから。

 

もう一方、タウラスはファントムの情報をよく知っている。

何度も共同戦線(きょうどうせんせん)を張ったことがあるから。

何度スカントしたこともあるから。

 

偶然で手に入れた優勢(ゆうせい)だが、この差は大きい。

それでも、タウラスは思っている。

 

……やっぱり、つよいな。ファントム。

 

戦いの発想は自由で、予測するのが難しい。

投げてきた分身の頭に爆弾(ばくだん)を仕込み、脳みそが花火のように爆発し、視界を遮った。

地面に切り落とされた手足に糸を巻き、トラップとして活用した。

積み上げた死体を崩し、こちらを圧殺(あっさつ)しようとした。

 

単純な戦闘技術(せんとうぎじゅつ)も恐るべきものだ。

針のような孔を正確に射抜いて、こちらの死角を突こうとする。

接近戦では毒を仕込んだ単分子ブレードを使い、幻惑な動きでこちらを殺そうとする。

 

恐るべき敵だ。

 

 

……これほどの強者(きょうしゃ)は日本にいるなんて。割に合いませんわ。

一体、誰なのですか?

 

眼前の戦士は自分の本性を隠している。

アタシの知り合いか、有名人に違いない。

 

おかげで、分析しながら戦うしかない。

色々な戦術を使い、相手の対処方法によって正体を探ろうとする。

今はある程度、絞り切っている。

相手は絶対に南極戦線(なんきょくせんせん)経験者(けいけんしゃ)

そこに派兵(はへい)された兵士(へいし)か、傭兵(ようへい)に違いない。

 

その中で、自分とこれほど渡り合える人間は約数十人。

体格が大き過ぎると小さ過ぎる対象は除外(じょがい)して、八人に絞った。

 

あと一息だと思っている時、予想外(よそうがい)のことは起きた。

 

 

「なんなんだ、あのチートどもめ」

 

死柄木は今回の作戦に自信がある。

雄英のセキュリティは大したものじゃないから、オールマイトのスケジュールを把握できた。

さらに、対オールマイト専用の脳無も用意してある。

あの高いくせに、攪乱作戦(かくらんさくせん)しか参加しない無能な何でも屋が来なくてもオールマイトを殺せると思っていた。

 

しかし、蓋をあけたらどうだ。

頼りの(つな)である脳無(のうむ)は謎の化け物に瞬殺(しゅんさつ)された。

無能だと思っていた何でも屋はいきなり出てきた化け物と対等に渡り合える化け物だった。

 

集めた戦力は二人の戦いを見て、蜘蛛(くも)の子を散らすように逃げ去った。

 

「なんだこのクソゲー……俺は悪くない!!」

 

「悪いのは当然貴様だ。無能」

 

化け物は嗤った。

 

 

「あのさ、これほどの戦力を揃いながら、勝ちを逃すなんて無理だろ」

 

煽る。

 

脳無(のうむ)というやつは兵器としてはなかなかのものだ。オレが一分足らずに倒せたのは貴様のおかげだぞ」

 

正常な判断を奪う。

 

「雄英のセキュリティが悪いなら、貴様の頭がもっと悪い。情報収集(じょうほうしゅうしゅう)は下手すぎるんだ。貴様のようなバカのおかげで、ファントムは全力を発揮できない。ありがとう、ありがとう、ありがとう。まさか、貴様はオールマイトのファンだから、オールマイトに倒されてほしいのか?」

 

「キサマァァァァ!!!!」

 

「貴様はどうやら自分の作戦が完璧だと信じているようだが。オレから見れば隙だらけだ。それも、クジラが通せるような隙だぞ」

 

「落ち着いて、死柄木(しがらき)。冷静を失わないでください」

 

「なら、さっさとあいつを殺せ!」

 

「……………」

 

今回の仕事は護衛(ごえい)だから、ファントムは無言を貫いた。

下手に刺激すると、どのような行動を出るのかが知らない。

しかし、ファントムは誠実(せいじつ)が売りの傭兵だから、慰めるために嘘をつかない。

ゆえに、彼女は何も言わない。

 

「どうやら、そちらの子守(こも)り役はオレを殺す気がないようだ」

 

「そうなのか!」

 

「………アタシの仕事は雄英のかく(らん)とあなたの護衛ですので」

 

「この…無能!!」

 

飛び出そうとする死柄木の左手を、ファントムは掴まえた。

 

「待てください」

 

「邪魔だ!」

 

そして、死柄木の右手がファントムの腕を触れた。

ファントムの腕は崩壊(ほうかい)し始めた。

 

 

…………馬鹿なのか。あいつ。

 

 

戦っているすべてのファントムは動きを止めた。

 

「これはあなた方の狙いなのですか?海洋王(オケアノス)

 

「気づいているのか?」

 

「クジラのあたりで正体を気づいた」

 

「……ああ、なるほど。いや、護衛対象が勝手に動けば、あなたは不利になると思った。まさか、攻撃するなんて思わなかったよ」

 

「そうですか……死柄木、オールフォーワンの依頼はこの場で破棄いたします。違約金(いやくきん)を支払っていただこう」

 

「な、なんだと!?」

 

「護衛対象に攻撃されたら、当然契約を解除するだろ。傭兵はヒーローほどお人よしではない」

 

「だけど、このまま離れると、少し不義理だと思って、最後は大技を使います。お互いにとって、よい宣伝(せんでん)になるでしょう」

 

「いいよ。受けて立つ」

 

百名以上の分身は同時に単分子ワイヤーを取り出し、襲い掛かってきた。

 

「え」

 

傍らに観戦しているヴィランは一人、頭が落ちた。

彼はまだ意識があるようで、呆然と自分の躯体を見ている。

 

「キャアああああああ」

 

次の瞬間、あるヴィランの両手は同時に切り落とされた。

彼の後ろにある壁は崩壊して、その下にいるすべてのヴィランを埋めた。

 

数百、数千の糸は逃げ遅れたヴィランの体を壁ごと切り刻んで、死という花を咲かせた。

飛び回る血肉はまるで風に吹かれた桜のようだ。

 

対して、タウラスは個性を発動した。

透明の刀は彼の手に出現した。

 

神威抜刀(しんいばっとう)波砕(なみくだ)き」

 

一閃。

ただの一撃で、USJの半分を消し飛んだ。

広場にいる、蜘蛛(くも)()のような糸は全部断ち切った。

 

そのに残されたのは、幸運(こううん)に生き残った数名のヴィラン、死柄木(しがらき)、タウラスと一人のファントムだけだ。

 

「流石です。まさか、ヴィランを一人も殺していないで、アタシの大技を破ったとは思いませんよ」

 

(きびす)を返し、ファントムは離れようとしたとき。

彼女はふっと思い出すように、タウラスに聞いた。

 

「……そういえば、我が弟子はどうなりましたか?」

 

「元気に世界中を飛びまわしているよ。やんちゃだけどかわいいやつだ」

 

「そうですか。それでは、また()()まで……」

 

彼女はオールマイトとオレに一礼して、その場から消え去った。

 

「全部、分身なのか……」

 

相沢先生はぽつりと言った。

 

「彼女は本体を出すことはない」

 

だから、何年手配されても、掴まえられない。

 

オレは手を振った。

次の瞬間、水の(くさり)虚空(こくう)から現れ、この場にいるすべてのヴィランの手足を縛った。

死柄木(しがらき)例外(れいがい)ではない。

 

これで、終わりだ。

 

3、

 

「さて、話を聞かせてもらいましょう。タウラス先生。あなたは一体何者ですか?」

 

やはりと言ったが、死柄木一行を警察に引き渡した後、報告を見た校長先生にオールマイトと共に呼び出された。

 

「最近、国際(こくさい)ヒーローになった傭兵(ようへい)です。これは違法行為(いほうこうい)ではないはずですよ。軍人がヒーローに転職することは海外では珍しくありません」

 

「彼が言うことは本当です、校長先生。軍人(ぐんじん)として敵兵(てきへい)を殺したことはあるが、民間人(みんかんじん)に手を出すことはない。国連(こくれん)依頼(いらい)を多数受けたから、国際ヒーローと共に戦うことも多いです。私は国際ヒーロー時代で色々世話になりました」

 

「……待て、オールマイトの国際ヒーロー時代?」

 

「少年兵ですので、10数年のキャリアを持っています」

 

「………傭兵としての履歴書(りれきしょ)を見せてくれ」

 

秘書室でプリントした履歴書を見た校長先生は仰天した。

 

「何なのだ、この馬鹿げている戦績(せんせき)……なんであなたのようなトップクラスの傭兵(ようへい)はここの教師(きょうし)応募(おうぼ)したのか?」

 

「オールマイトの護衛依頼(ごえいいらい)です。彼のサポートも仕事だから、教師になるのは一番早い方法ですよ。ああ、国際ヒーローライセンスは本物で、心配はありません。雄英と交わした契約も正式なものだから、教師も護衛も完璧にこなしてみせます」

 

「今回の事件と同じ、オールマイトを狙うヴィランがいるということか?」

 

「依頼人の日本政府は詳しく話してくれませんでした……まあ、たぶんオールフォーワンは生きているということを薄々と勘づいたでしょう。だから大金を積んで、オレを依頼しました」

 

「……タウラス、あなたは確かオールフォーワンと戦ったことがあるよね」

 

「痛み分けだったよ。フルアーマーと『(コスモス)』、二つの切り札を同時に使わせた相手は少ないから、今でも覚えている」

 

あと一歩のところで、空間転移個性(くうかんてんいこせい)で逃げられた。

根拠地(こんきょち)被害(ひがい)を考えると、こちらの勝ちとは言えなかった。

 

「……校長先生、私はやはり教師の仕事を辞めます。オールフォーワンが生きていると判明している今、生徒たちを危険に晒すわけにはいきません」

 

無責任(むせきにん)だな。自分が雄英の教師になるから、弟子に雄英受験を勧めた。今は弟子を雄英に放り出すのか?それとも、弟子に雄英を自主退学させて、自分で鍛えるのか?どちらを選んでも、あんたの継承者に不利をもたらす」

 

「落ち着いて、オールマイト。雄英(ゆうえい)仕事(しごと)はあなたの療養(りょうよう)でもあるのだ。リカバリーガールの治療を毎日受けられるのは雄英の生徒と教師だけだぜ。ここはタウラス先生の意見を聞こう。タウラス先生、護衛としての意見はどうだ?」

 

「オールマイトが辞める必要はありません。もともと、オレの任務は雄英の生徒を守るということも含まれています。もし、一人で手を回せない時なら、援軍を呼ぶ用意もあるから、心配はいりません」

 

実際、オールフォーワンと対抗するため、すでに本国と連絡した。

今、手が開いているメンバーは教官、親父と冥王(ハデス)。雇うことができる傭兵は十名ぐらい。

ついさっき、二人の傭兵を雇い、作戦を伝えた。

 

「誰を呼ぶのか?タウラス」

 

「親父はいつでも来れるそうだ」

 

「…………………戦力過剰だ」

 

「そうしないと、あんたは安心して、教師の仕事に励むことができないだろ」

 

「これで決まりだぜ。タウラス先生、早速だが、雄英のセキュリティについて話し合いたい」

 

「もちろんいいですよ。しかし、教師を集めて会議を開くほうがいいです。雄英体育祭のこともありますし」

 

「確かに、じゃあ、明日で会議を開こう……ああ、一つ聞きたいことはあるんだが、オケアノスという個性は何なのですか?」

 

「……………正直、オレも把握していません」

 

「………共に戦った私もあまり理解できないよ。水を操るのがいいが、質量(しつりょう)密度(みつど)電気抵抗率(でんきていこうりつ)なども操れるのはさすがに破格すぎるじゃない?これだけなら水の個性と言えるが、なぜか海水(かいすい)を触れると空間転移、個性封印、攻防力増強などの個性を得られる……なんでもありだな。HAHAHA」

 

まあ、強い個性なので、体への負担も高い。

オールマイトもこのことを知っているから、無闇に話さない。

それに、彼はもっとも大事なことを知らない。

 

その時、根津校長の電話が鳴った。

相手と短い対話と交わしてから、彼はオレとオールマイトに告げた。

 

「逮捕された死柄木は奪われた。幸い、死者はないそうだ」

 

オールフォーワンに繋がる手がかりは断たれた。

三人は暗い雰囲気(ふんいき)のまま、解散した。

 

タウラスは教師たちに自分が元軍人ということを伝えた。

傭兵も軍人だから、間違っていない。

 

そして、家に帰ったあと、タウラスは自分が雇った傭兵に連絡した。

 

『死柄木を奪ったな。よくやった』

 

『海洋王は金払いがいいから。私たちもつい奮発した』

 

『追跡されているか?』

 

『今のところはない』

 

『わかった、尋問は任せる』

 

作戦が成功したと知ったタウラスは、次の一手を考え始める。

 

「やはり、敵を待つのは性に合わぬ。こちらから叩き潰す」

 

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