<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~   作:夜神 鯨

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決着

 ゴゥズを葬った加奈は、死体となったゴゥスに座り込み、ヴァルキリアからの連絡を待っていた。

 

『マスター、レイ少年に追われたメイズが地上へ向かっています』

 

『....いろいろ聞きたいことはあるけど後にするわ。取り合えずメイズの件は了解』

 

『後はお願いします』

 

 待ちに待ったヴァルキリアからの連絡に加奈は驚く。レイがこの場にいた奇跡、ヴァルキリアがメイズを殺せなかった事実。しかし、呆然としている時間はない。

 

「流石に彼が追っている獲物を横取りするのは面白くないわね」

 

 砦の出入り口から蹄が地を蹴る音とそれに続くように金属が地を蹴る音が近づいてくる。音のなり方からして、馬であろう。2匹の馬が近づいてくる音が加奈の耳に入る。

 

「そろそろかしらね」

 

 加奈は膝を立てるように座り【月光】と【陽光】を構える。

 

「ウォォォオオオオオォ!?」

 

 メイズのものであろう叫び声が段々と近づいて来るのが分かる。

 

「ゴゥズ!! ゴォゥゥゥゥウウズ!!」

 

 ゴゥズの名を叫びながら人馬種族が現れる。しかし、その人馬種族は地上へと出た瞬間、前2本の足を撃ち抜かれて、地面へと伏せる。

 

「ぐぅぅぅ!!」

 

「あら、元気がいいのね」

 

 勢いよく土煙を上げながらは数m進んだメイズに対して、加奈はにこやかに言い放つ。

 

「冗談では、ない! 冗談ではないぞ!?」

 

 血を流しながら立ち上がろうとするメイズだが、生まれたてた仔馬のように震え上手く立ち上がることが出来ない。

 

「後は、好きにしなさい、元はあなたの獲物だしね」

 

 加奈は左手を胸へと置き、右腕を引くように体から離す。右足を軽く引いてく左足に交差させると軽く頭を下げた。

 

「....あんたは」

 

 レイは一瞬驚いた様子を見せるが、即座に切り替え、メイズへ《銀光》を纏た斧槍を向ける。

 

「こんなところでッ!!」

 

 斧槍を向けられたメイズは最後の悪あがきに何かのアイテムを床へ叩きつける。瞬間、黒い煙が広がりあたり一帯を包む

 

「なッ」

 

「まずいッ」

 

 黒い煙に包まれる前に加奈は大きく跳躍し後方へと飛び退いた。煙は砦一帯へと広がる。至近距離にいたレイは逃げることもできずに煙に飲み込まれてしまう。

 

 煙は数秒で晴れ、メイズとレイの姿が確認できる。両者とも立ち位置も変わっておらず、特に変化らしい変化もない。

 

「レイ君大丈夫かい?」

 

 煙が晴れたことを確認してから加奈はレイへと話しかけた。

 

「あぁ、問題なさそうだ」

 

 レイはなにも問題無さそうに立っている。斧槍は《銀光》を放ており、加奈から見ても異常が無さそうに見える。

 

 しかし、ならばあの煙は何だったのだろうかと加奈が思考を巡らせていると、倒れていたメイズが立ち上がり叫び始める。

 

「ハハハ、問題がないものかァ!!周りをよく見てみるんだなッ!」

 

 急に叫び始めたメイズに言われた通り、加奈とレイが周囲を見渡せば、先ほどまで倒れていた死体が動き出している様子が視界に写る。

 

「これこそが我が秘宝、【死屍操葬】(ししそうそう)の効果だ!」

 

 先ほどまで倒れていたゴゥズを筆頭に山賊、それに殺され、中庭に放置されていた子供たちさえも、アンデットとして動き始めている。胴体を切られたものは上半身と下半身が分離し、1つの生物の様に動き、千切れた手足でさえも、まるで操られているかのように動いている。

 

「.....私たちがいなければ勝っていたかもしれないのにねぇ?」

 

 勝ち誇ったように笑うメイズを憐れみながら加奈は1人呟く。

 

「はい、誠に残念ですが、運がなかったようで」

 

 加奈の呟きは独り言にならず、隣から、返答が返ってくる。加奈が隣を見れば先ほどまで誰もいなかった隣には血で真っ赤に染まったヴァルキリアが待機していた。

 

「.....あぁ、アンデット、ティアンが素材だったから、血が残ったのね」

 

 加奈が、やれやれと言った風にヴァルキリアへ向かってアイテムを投げる。加奈が投げたアイテムはヴァルキリアが受け取った瞬間、光輝き、周囲の視界を潰す。

 

「ぐぅ....」

 

「今度は何だ」

 

 光が収まった後、血塗れだったヴァルキリアの服はまるで洗濯をした後かのようにきれいになり、服本来の色を取り戻していた。

 

「ありがとうございます。マスター」

 

「お礼はいいわ、それよりも行くわよ」

 

「はい」

 

 加奈が第五形態とヴァルキリアへ念じると、ヴァルキリアは光の粒となり、狙撃銃型大型ビット及びホルスタービット併せて計8機のビット群となり、周囲のアンデットへ襲い掛かる。

 

「レイ君、周囲の雑魚は任せて、貴方はなすべきことをなしなさい」

 

 メイズの放ったアンデットたちは、加奈の操るビットによって次々へと破壊されていく。しかし、破壊された端から修復が始まり、瞬く間に復活してしまう。

 

「なるほど、怨念か」

 

 アンデットたちを蘇らせているもの、の正体は怨念だった、先ほどメイズが【死屍操葬】を使って周囲へまき散らしたのは、この一年かけて集めた子供たちの怨念だったのだ。

 

『ですが、この程度の数、殺し切るのは容易いですね』

 

 ヴァルキリアの言う通り、どれだけ復活をしようが、動く前に殺してしまえば居ないも同然。加奈は周囲の怨念が無くなるまで殺し続ければいのだ。

 

「なぜ、なぜだ!?」

 

 加奈たちがアンデットを殺し続けることによって、メイズを守るものは何もなくなってしまった。これでは先ほどと何も変わらない。加奈が近くに居ないだけで、メイズの天敵であるレイはすぐ近くに居る。

 

 逃げられない、そう悟ったメイズは、懐からもう1つのアイテムを取り出した、黒色を湛えた水晶【怨霊のクリスタル】メイズが【死霊王】へと至るの条件であると同時に、【死霊術師】系統の術師にとっては最高峰の魔術媒体。

 

 先ほどの【死屍操葬】は【怨霊のクリスタル】を作った怨念のあまりで作ったものにすぎない。【怨霊のクリスタル】を開放すればこの窮地を脱することが出来る可能性があった。

 

【怨霊のクリスタル】を作るためにゴゥズメイズ山賊団を率い、子供を生贄にしても一年近くの時を要した。ゴゥズも、山賊団も滅んだ今、ここでこのアイテムを使ってしまえば、メイズは二度と【死霊王】へと至ることが出来ないかもしれない。

 

「死ねば……無為!」

 

 しかし、死ねばすべてが終わり。メイズは必至に思考を続ける。

 

 ここで死するくらいならば、これを使って我が命を繋ぐべきだ。そうでなければ掛けた時間も労力も全て無駄になる。生き延びて、どこかの街でまたやり直せばいい。時間も労力も、生贄とていくらでもある。

 生きていればやり直せる!そう、私はまだまだ死ぬわけにはいかない!こんなアクシデントで死んでたまるか!。

 

「貴様も、貴様も、貴様らもォォォオ!!」

 

 覚悟を決めたメイズは【怨霊のクリスタル】に魔力を充填しながら叫ぶ。

 

「貴様ら如きにくれてやる命など無いわァァァアアアアアア!!」

 

 そして、【怨霊のクリスタル】に充填された怨念の全てを破壊エネルギーへと換算し、砦とそこにいるにいるアンデットごと、敵を滅ぼす心算で禁呪を解放する。それは【大死霊】その最大最強の攻撃魔法スキル。

 

「《デッドリィミキサァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ》!!」

 

 すべての感情を乗せ自身が持つ最大威力の攻撃魔法を撃ち放つ。本来ならば、純竜すら即座に滅ぼす破壊の奔流。

 

「《カウンターアブソープション》」

 

 しかしメイズの攻撃は何も滅ぼすことなく、目の前の少年が展開した光の壁によって無力化された。

 

「あ、あ、えぇあ?」

 

 目の前で起こったことに理解が出来ず、メイズは驚愕し、足を踏み違えて、転倒する。

 

「ば、ばかなぁぁあぁあああ!?」

 

 そう叫びながらも、目の前に移動してくるレイから逃げようとメイズは立ち上がる。

 

「ひぃぃぃぃいい!?」

 

 立ち上がり逃げだそうと足を踏み出すが、その瞬間、銀を纏った黒の斧槍が私の馬の胴体を貫通し、メイズを大地へと縫い止めた。

 

「げはァァああ!?」

 

 そして身中を《銀光》に焼かれる痛みによってメイズは悶え苦しむ、大地に縫い付けられていることに加え、あまりの痛さに、メイズは身動きを取ることが出来ない。

 

「もう……逃げるな」

 

「ま、待て、もう逃げない、ニゲナイ!」

 

 迫りくるレイにどうしても、逃げられないことを理解したメイズは命乞いを始める。

 

「と、取引だ! 金だ! 金をやろう! まだまだ金は残っている! 七千万リルはある! 全部やる! 全部やるから見逃してくれ!」

 

「…………」

 

 メイズがおこなった最後の悪あがき、その姿を見たレイは立ち止まり、ゆっくりと右の掌を差し出す。

 

「く、ハハハ、待て待て。今アイテムボックスから取り出して……」

 

 レイが差し出した右手を見て命乞いが成功したと考えたメイズはアイテムボックスを探り始める。

 

「いや、命だけでいい」

 

「え?」

 

 メイズの返答を待たず銀色の光を纏った右拳がメイズの頭を打ち砕く。そして、頭部を失ったメイズの肉体は崩れ落ち、骸へと帰っていった。

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