<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~   作:夜神 鯨

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報復術式

「終わったようね」

 

 動いていたアンデットが再び動かなくなったのを見て加奈は武装を解除する。

 

「みたいですね」

 

 ビットの状態から戻ったヴァルキリアは周囲を見渡しながら加奈の問いに答える。周囲のアンデットは再び死体に戻っており、動き出す気配はない。レイの居る方を向けば、【大死霊】メイズが倒され、その体が朽ち始めていた。

 

「どうやら、アッチも問題なくこなしたようね」

 加奈もレイの方を向きながら呟く。しかし安心していた加奈は呟いた瞬間レイの身体は地面へと倒れ込むのを目撃する。

 

 瞬間、超音速で動いた加奈は倒れ込むレイが地面に着く前に抱きかかえるように支える。

 

「.....?」

 

 メイズとの戦闘が終わり急激に重くなった身体を支えきれず、地面に倒れ込むと思っていたレイは突如感じた柔らかな感触に驚く。

 

「大丈夫かしら?」

 

 無理やり動かない身体を動かして言葉をかけられた方をレイが見ると、そこには<ノズ森林>で出会った加奈が体を支えてくれているのが見える。

 

「あんたは<ノズ森林>の.....」

 

「あの時はごめんなさいね、守ると言ったのに守れなくて」

 

 まさかの第一声が謝罪だったことにレイは再び驚く。彼からすれば、死んだのは自分が未熟だったからで、加奈のせいだと思ってもいなかった。

 

「いや、別にあれはアンタが悪いわけじゃない。こっちは助けてもらってばかりだしな」

 

「そう....なら良かったわ」

 

 レイから送られた言葉に加奈は少しホッとする。それと同時に今回こそは守れて良かったと安堵感が胸の内にわいてくるのが分かった。

 

「謝罪が出来たようで良かったです」

 

『そちは、地下室で会った』

 

 加奈が安堵していると、遅れて近づいてきたヴァルキリアに未だ斧槍状態のネメシスが反応する。

 

「きちんと挨拶をするのは初めてですね」

 

 ヴァルキリアは両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げて右足を斜め後ろの内側に引き、左足の膝を曲げ、腰を曲げて頭を深々と下げる。

 

「私は加奈様の<エンブリオ>TYPE:メイデンwithワルキューレのヴァルキリアと申します以後お見知りおきを」

 

「同じメイデンなのにお前とはずいぶん違うんだな」

 

 カーテシーと呼ばれる挨拶を深々とするヴァルキリアを見てレイがネメシスへ小言を言う。

 

「余計な一言じゃマスター。それより状態異常は大丈夫かのう」

 

 人型に戻ったネメシスは動けない<マスター>の身体を心配する。それもそのはず、現在レイの身体は今いくつもの状態異常に蝕まれている。その中でも【死呪宣告】の隣にあるタイマーの表示はドンドンと減っており、既に300秒を切っている。

 

「……【解毒薬】の類は買い込んだけど、さすがにこんな状態異常は想定していない」

 

 レイのHPと【死呪宣告】の秒数はドンドンと減っている。このままではデスペナルティーになるのも時間の問題だろう。

 

「ええい! あの馬ゾンビめ! 余計な置き土産をしてくれおって!」

 

「……どうしよう」

 

 動けないレイの代わりにネメシスがアイテムボックスの中に何かないか探している。しかし、良いアイテムが無いようで、ネメシスはあたふたとしている。それに見かねた加奈が右足に付いたレッグポーチから薬瓶の中身【万能霊薬】(エリクサー)を取り出しレイの口元へと当てる。

 

 レイが薬瓶の中身を飲み干すと、彼にかかっていた状態異常。呪いの類が一切無くなり、HPとMP、SPまでもがほぼ回復する。

 

「これはいったい」

 

【万能霊薬】(エリクサー)と呼ばれる万能薬よ、大抵の状態異常や呪いは無効化するわ」

 

「いいのか?」

 

「わたしが持っていても無駄だもの」

 

「ありがとう、助かるよ」

 

【万能霊薬】はその分、作成に知識と貴重な素材を要求する貴重なアイテムなのだが、回復アイテムを使えない加奈にとっては宝の持ち腐れだ。

 

「そういえば、<マシンギア>を見なかったか?」

 

「同じクエストを受けた仲間が乗っていたじゃが」

 

 もしかしてデスペナルティを喰らってしまったのかとレイとネメシスは心配したが、加奈の言葉で安心する。

 

「あぁ、彼?彼女?まあ、どっちでもいいわ。<マシンギア>なら馬車に乗っていた子供たちと一緒に逃がしたわ、もしかしたら戻ってきてるかも....」

 

 加奈がそこまで言いかけると、遠くから機械音が聞こえてくるのが分かる。先ほどまで聞いていた<マシンギア>の駆動音だ。その音は少しずつ大きくなり、近づいて来ているのが分かる。

 

「やあ、2人とも大丈夫そうだね」

 

 半壊した<マシンギア>に乗って現れたのは格好つけたような若い男。

 

「ユーゴー無事だったか!?」

 

「やっほーわたしもいるよ」

 

 ユーゴーと呼ばれた青年に続いて、<マシンギア>のコックピットから白い髪、白い頬、白い帽子加えて白いフェルト製のロングコートと白いマフラーを着込んでいる。小さな少女が現れる。

 

「キューコおぬしも無事じゃったか」

 

「いぇす、ぶじだよー」

 

 ネメシスとキューコと呼ばれた少女は再会を喜ぶように、会話を楽しんでいる。加奈とヴァルキリアは完全に蚊帳の外だ。

 

「レイ君?下の子供たちを助けなくてもいいのかしら?」

 

「そうだった」

 

 加奈に指摘されたレイは慌てながら地下に捕らわれている子供たちのことをユーゴーたちに話した。

 

「ここは私とヴァルが見張るから貴方たちは子供たちを助けてあげて」

 

「わかった、ここは任せる」

 

 加奈とヴァルキリアを残し4人は地下へと入っていく。

 

 ユーゴーの<マシンギア>は洞窟の入り口に鎮座している。加奈が見張っているので、ユーゴーも収納せずに地下へと向かってしまった。

 

「これがあると邪魔なんだけど....」

 

「まあいいではないですか、もう死にかけですし」

 

 2人はそう言いながらメイズの死体に向けて視線を送っている。

 

「無駄よ、気配でわかるわ」

 

「......なぜ、なぜ分った!?」

 

 死体となったメイズの懐から小さな不定形の身体をした物体が出てくる。その体は生きているのがやっとの状態で、戦闘を行うことは出来ないだろう。

 

「流石、【超級職】に王手をかける人物はいろんな奥の手を持ってるのね」

 

「遊び半分で生きている<マスター>如きがぁぁ!!」

 

 メイズは怒りを前面にだし叫ぶ。しかし、不定形の身体は叫びに合わせて揺れるだけで何もできない。

 

「こんな...ところで.....こんなところで終わってたまるか!!」

 

 メイズは叫びながら自身が持っていた正方体の黒い箱状のアイテムボックスを壊す。

 

「何を!?」

 

『起動』

 

 メイズは、卵の様な物体を掴むと高く上げる。卵の色は赤黒く、表面に一箇所だけ“瞼”が付いていた。

 

「ここで無様に死ぬくらいならお前たちも道連れだァ!!」

 

 メイズの言葉に呼応するように卵も無機質な音声を発する。

 

『アイテムボックスの破損を確認』

 

『所有者:【大死霊】メイズの魔力波動サーチ』

 

『……………………反応なし』

 

 この姿になったメイズは、メイズであってメイズではない。彼はレイによって殺されたのだ。ここにいる不定形の物体は無論、メイズの魔力波動を発する事も無い。

 

『【大死霊】メイズの消滅を確認』

 

『敵対者による強奪行為と推定』

 

 その為、メイズが行った行動は強奪行為と判断される。そして、その判断は彼が組んだ術式が発動する条件をすべて満たす。

 

『報復術式──《グラッジ・アンデッド・クリエイション》』

 

 音声の後、卵はメイズを触れていた部分から吸い込み始めた。まるで排水溝に汚水が流れていくように、小さなメイズだった物体は小さな卵へと入っていく。

 

「マスター!」

 

 卵の異常性に気づいた2人は、すぐさま後ろへと下がる。 直後、卵から血管に似た管が噴出しあたりに撒き散らされている死体を次々吸い込んでいく。

 

「なッ」

 

 周囲にある死体を手当たり次第に吸収しながら卵は少しずつ大きくなってく。周囲の死体を吸収し終えた卵はまだ足りないのか管を加奈たちの方へと伸ばしてくる。

 

「ヴァル!第二形態《ヴェルダンディ》!!」

 

 加奈に命ぜられたヴァルキリアは身体を2丁の大型拳銃へと変える。ヴァルキリアを握った加奈は迫りくる管に触れないよう丁寧に撃ち落としていく。

 

 1時間...2時間....どれほどの時間が経ったのだろう。真上で輝いていた太陽が傾き初めた頃、卵型の怪物は加奈を諦め、ゆっくりとその姿を変える。 牛の頭、人馬のシルエット無数の死体を継ぎ接ぎしたかのような醜悪な見た目。ユーゴが置いていった<マシンギア>を優に超す大きさ。

 

 頭上に【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】と名前が付けられたその化け物は加奈に引きつけられ移動していた砦の入り口から洞窟の方へゆっくりと移動を始める。

 

「レイ君たちを狙ってるのね」

 

『まずいですね、洞窟の入り口で待たれたら子供たちごと薙ぎ払われてしまいます』

 

 たとえ<超級>の<マスター>であっても洞窟という狭い空間で子供たちを守りながら戦えば、勝つことは出来ないだろう。ましてレイは始めたばかりの初心者だ。出待ちに対処するのは不可能だろう。

 

「そのための私たちよ。ヴァル、第六形態《ラーズグリード》」

 

 加奈が命令した通りヴァルキリアは2丁の大型拳銃から、12機のホルスタービットへと姿を変える。ホルスタービットからは小型のピストルビットが射出され、【ゴゥズメイズ】へと攻撃を開始する。

 

「.....異常なほど回復力が高いのね」

 

『しかし、気を引く事は出来たようです』

 

 加奈の繰り出す攻撃では異常な再生速度をもつ【ゴゥズメイズ】へダメージを与えることが出来ない。攻撃によりできた傷は次々へとふさがり、ダメージを受けている様子もない。しかしヴァルキリアの言う通り【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】の気を引く事には成功しており、洞窟の入り口から中庭の中央へと誘導する事ができている。

 

「《聖別の銀光》が無いとアンデット相手には分が悪いわね」

 

『しかし、かと言って全力戦闘をして洞窟の入り口を崩してしまえば元も子もありませんよ』

 

 第七形態《ブリュンヒルデ》で全力戦闘を行えば、【ゴゥズメイズ】を簡単に倒す事もできるだろう。しかし、同時に辺り一帯にも多大なダメージが出てしまう。必然的にレイや子供たちを巻き込んでしまうだろう。

 

「しかも<マシンギア>を守りながらなのが辛いわ、ただでさえ苦手な状態異常系なのに」

 

 馬車のような乗り物は先ほどの子供たちを逃がす為に使ってしまっているし、その他、使えそうなものはゴゥズと加奈が戦闘した際の余波で壊れてしまっている。

 

『しかたありません、子供たちを逃がすにはアレに乗せるしかないでしょう』

 

 ヴァルキリアの言う通り、子供たちを逃がすには<マシンギア>に乗せて離脱させるしか方法が無いだろう。そもそも檻に閉じ込められていた子供たちは自力で歩けるかすら怪しい。衰弱してしまっている可能性も十分にある。だからこそ加奈たちは【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】に<マシンギア>を壊させるわけにはいかなかった。

 

「勿論守り切るわよ」

 

『はい』

 

 

 

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