<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~   作:夜神 鯨

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【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】

【ゴゥズメイズ】を中心に円を描くようにピストルビットとホルスタービットが浮遊している。ピストルビットとシールドビットは交互に射撃を繰り返し、【ゴゥズメイズ】をその場に釘付けにしている。

 

 鬱陶しい攻撃に【ゴゥズメイズ】は迫りくるビットを払うように両腕を振り回し、ビット目掛けて突進を繰り返し暴れているが、2人が操作ビットは【ゴゥズメイズ】に当たることなく攻撃を加え続ける。

 

『《ラーズグリード》では攻撃力が足りませんね、全力で攻撃してやっと抑え込むことが出来ます』

 

 洞窟の入り口からは多少引きはがしたが攻撃力と魔弾が持つ衝撃力が少ない《ラーズグリード》では絶え間ない攻撃を続け、体を削り続けなければ、【ゴゥズメイズ】をその場に抑え込むことが出来ない。

 

 少しでも気を抜けば【ゴゥズメイズ】は洞窟の方へと戻っていってしまう。おそらく洞窟から発せられる強い怨念に引かれているのだと加奈は考えているが洞窟に近づかれればレイたちが出てきた瞬間に【ゴゥズメイズ】と鉢合わせてしまう。それだけは避けなければと攻撃を続けているが。

 

「やっぱり、回復が速すぎるわね」

 

【ゴゥズメイズ】は攻撃を食らった端から即座に回復をしている。加奈の行っている攻撃は【ゴゥズメイズ】の気を引きその場に抑えつけているだけで、【ゴゥズメイズ】に一切ダメージを与えられていない。

 

『おそらく、この砦に満ちている怨念を吸収しているからだと思います』

 

 ヴァルキリアの言う通り、【ゴゥズメイズ】の身体には常に黒い靄がかかっていて、攻撃を食らうたびに靄が身体に吸収されていくのが見える。

 

「《レギンレイヴ》なら押し切れるかしら?」

 

 第五形態《レギンレイヴ》、《ラーズグリード》とは違い4機の狙撃銃型大型ビットとそれに付随するホルスタービットからなる武装だ、攻撃力と衝撃力に優れている。ピストルビットと比べて連射性が低く、多数の相手には弱いが、少数の強敵相手ならば、ピストルビットよりも優れている。

 

『しかし、4機のホルスタービットでは【ゴゥズメイズ】が新たな攻撃をした際に対処できませんよ』

 

 現在は【ゴゥズメイズ】が理性的な攻撃を一切せず、ただ暴れまわっているから対処できているが、これに他の要因が加わればどうなるかは分からなかった。

 

「どちらにせよ、攻撃に回しているホルスタービットを防御に回した途端、奴を抑える事は難しくなるわ、だったら魔力消費も少ない《レギンレイヴ》でレイ君たちが出てくるまで耐えましょう」

 

『かしこまりました《レギンレイヴ》に装備を変更します』

 

 瞬間、【ゴゥズメイズ】を攻撃していたビットはすべて加奈の元へと戻り、光の粒となって一度消えると狙撃銃型のライフルビットへ変わり再び現れる。

 

「いくわよ!」

 

 1機のライフルビットを両手で保持した加奈は残る7機のビットへ指示を出す。

 

「ホルスターの方は任せたわ」

 

『かしこまりました』

 

 3機のライフルビットは加奈が4機のホルスタービットはヴァルキリアが操作する。

 

 ライフルビットから放たれる攻撃は強力で、照射型の魔弾がビームの様に放たれている。魔弾は【ゴゥズメイズ】の身体を抉り、深い傷を負わせていく。それに連動する様にヴァルキリアが操るホルスタービットも魔弾を放っていく。ライフルビットと比べれば攻撃力は劣るが、【ゴゥズメイズ】の繰り出す攻撃をホルスタービットが受けることで、【ゴゥズメイズ】の動きを制限していた。

 

 ライフルビット用のホルスターはピストルビットのものより防御力に優れ、現在では攻撃力に優れた<超級職>の攻撃を防御する事もできる。しかし代償として、食らった攻撃の威力に比例してMPが消費されてしまう。

 

「これでも削り切るのは無理なようね」

 

 加奈たちの攻撃は、先ほどと比べれば効果があるものの、それに比例するように【ゴゥズメイズ】の回復力も上がっていく。

 

「クッ!」

 

 更に、先ほどまで暴れまわっているだけだった【ゴゥズメイズ】は突如全身から触手のようなものを出すと、<マシンギア>及び加奈へと攻撃を開始した。

 

『マスター!』

 

「私はいいから<マシンギア>を守って、あれがないと後が辛くなるわよ」

 

 ヴァルキリアは何も言わず操るホルスタービットを使い、加奈の命令通りに<マシンギア>を守る。

 

 触手の攻撃は一撃一撃が強力ではなかったが、何十本もの触手が同時に襲い掛かってくるため、ヴァルキリアは<マシンギア>の防衛で手いっぱいになる。

 

 加奈は迫りくる触手を躱しながら自らが手に持つライフルと操っている3機のビットで【ゴゥズメイズ】に攻撃を加え続けた。

 

 どれくらいの時間が経ったのか、日は沈み始め辺りが暗くなり始める頃まで、加奈たちと【ゴゥズメイズ】の戦闘は続いていた。

 

『....マスターそろそろ魔力が』

 

「最悪の場合【エーテリア】を使いましょう」

 

 今日1日戦闘をしながらも半分程度まで回復していた加奈のMPは残り一割を切っていた。この状態から今の【ゴゥズメイズ】に勝つのは加奈でも不可能だ。

 

「接近戦を出来ないのが辛いわ、あと状態異常」

 

 加奈は迫りくる触手を後方に下がることで回避する同時にビットで触手を焼き払い【ゴゥズメイズ】の手数を減らす。しかし焼き払って尚も100を超える触手は勢いを止めることなく加奈へと殺到している。

 

『GUSDSDCAASWGBASAA!!』

 

 叫びながら【ゴゥズメイズ】が放った触手は加奈を囲むように接近する。更に加奈の逃げる方向からは【ゴゥズメイズ】が生み出したアンデットが迫って来ており、挟まれた加奈はすれ違いざまに多少のダメージを追ってしまう。

 

「クッ!」

 

『マスター』

 

 幸いダメージ自体は大したことのなく自然回復で治ってしまう様なものだったが、ダメージを負ったことに加奈は衝撃を受けた。今回の戦闘が始まって加奈がダメージを負ったのはこれが初めてだったからだ。

 

「これ以上時間をかけると古代伝説級まで進化しそうな感じね」

 

 加奈と【ゴゥズメイズ】の戦力差は圧倒的だ。たとえ相性が悪く、復帰したばかりで最大のパフォーマンスを発揮できていないとしても、本来、神話級まで至っていない<UBM>では加奈と勝負にならない。しかし、守るべきものがあり、全力で戦えない加奈は四方八方から迫りくる攻撃に対応することが出来なかった。

 

『こちらの行動パターンを学習してますね』

 

「...そうみたいね、最初はバラバラだった意識も徐々に1つへと収束され始めている」

 

 触手を使い始めた頃から【ゴゥズメイズ】は少しずつ変化を始めた。状態異常を引き起こす魔法や、角を用いた突進、更に自身の身体を分離しアンデットの文体を放つなどの多彩な攻撃。さらに先ほどの様に罠に追い込んだり、<マシンギア>を攻撃することでこちらの意識を割いたりなど、理性の感じる行動をいくつも取っている。

 

『GEEEHAAAAAASAGAA!!』

 

 長時間加奈の攻撃を受け続けた【ゴゥズメイズ】はこの砦どころか周囲からも怨念を集め始め、吸い寄せられたモンスターすら吸収しようとした。現在も雄たけびを上げながら周囲から怨念を巻き上げている。

 

『最初に戦っていた時よりも明らかに強くなっています。そろそろ本気を出さなければこちらが負けるかもしれませんよ』

 

「.....」

 

 ヴァルキリアの言葉に加奈は何も言い返すことが出来なかった。なぜならそれは加奈も薄々感じていたことだからだ。時間が経つにつれて強くなる【ゴゥズメイズ】。急激な成長を遂げる奴相手では、先ほどダメージを受けたように、この後の戦闘ではより大きなダメージを負うことになるだろう。

 

【ゴゥズメイズ】との戦闘の余波で加奈は洞窟と正反対の方へと飛ばされている。この距離ではレイたちを守れないと考えた加奈は迷うことなく【エーテリア】を発動させMPを回復させる。

 

「ヴァル、《ブリュンヒルデ》に装備を変更、奴を倒すわよ」

 

『かしこまりました《ブリュンヒルデ》に装備を変更します』

 

 少しずつ強くなっていく【ゴゥズメイズ】を相手に子供たちの安全を考えると、今のうちに体力を削っておくべきと考えた加奈は保身を捨てて地形に影響が出ない範囲の全力で攻撃を開始する。

 

【ゴゥズメイズ】の周囲を舞っていたビットたちは加奈の元へと戻り光の粒となる。そして次の瞬間現れたのは計72機にもなるビット群。24機のピストルビット並びに12機のライフルビット、それぞれのホルスタービットからなるその群れは、現れた瞬間から【ゴゥズメイズ】へ容赦のない攻撃を開始する。

 

『YEEGGAAAAXASAAAFFAAAAAA!?』

 

 これまでの戦闘で少しずつ耐久力も上げてきていた【ゴゥズメイズ】だったが、ビットたちはそんなことお構いなし【ゴゥズメイズ】の身体を貫いていく。

 

「クッソ、倒しきれない」

 

 周囲に影響が出ないように威力を絞っているせいで【ゴゥズメイズ】を倒し切ることが出来ない。通常なら細切れになるような攻撃を受けても、受けた先から次々と再生していく。それでも加奈が優勢なことに違いは無く。【ゴゥズメイズ】の身体はし少しずつボロボロになっていく。

 

 このままいけば押し切れるというところで洞窟の出口から子供の叫び声が聞こえた。加奈が目を向けると、洞窟を上がってきていたレイたちが子供を引き連れて丁度出てくるところだった。

 

『GUSDSDCAASWGBASAA!!』

 

 声にならないほどの絶叫を上げながら【ゴゥズメイズ】は触手をレイたちの方へと向ける。加奈に身体を撃ち抜かれることなど気にも留めず、恐怖という負の感情を露わにする子供に狙いを付ける。

 

「....間に合わない」

 

 空中に浮く無数のビットが子供たちに向かう触手を迎撃するが、数が多すぎて全てを迎撃することが出来ない。

 

「うぁぁぁ、こわいよ!」

 

「おかぁさぁん、おとぉさぁん……」

 

 ビットの迎撃もむなしく10本程の触手がレイたちの前へと到達する。

 

「ユーゴー子供たちを頼む」

 

 ユーゴーに子供たちを任せ、レイは触手の迎撃にあたるが、大振りな武器を持つレイでは触手すべてを抑える事は出来ずに、2本程通過を許してしまった。

 

「やらせるかよ!!」

 

 通過した触手を迎撃しようとしたレイだったが、次々と迫りくる触手に対応を迫られ、触手を取り逃してしまう。

 

「クッ」

 

『マスター』

 

 子供たちに迫る触手を見て加奈は走る。ビットによる触手の迎撃は行ったまま、自身に迫る触手への対応はすべてを無視してただ走る。少しずつHPが減っているがそれすら気にも留めずただ走る。

 

 泣き叫ぶ子どもたちに触手が到達する寸前、間に合った加奈が間へと入る。1本の触手は素手で迎撃するが、もう1本の触手は加奈の脇腹を貫き大きなダメージを与える。

 

「....<マシンギア>は動けるわ、子供たちを乗せて早く逃げなさい!」

 

「すまない!恩に着る」

 

 脇腹を貫いた触手を抜きながら加奈はユーゴーへと叫ぶ。声を出すたびに貫かれた脇腹が痛むが今はそれを気にしている余裕すらない。HPは3割程度、まだ動くことは出来る。

 

【ゴゥズメイズ】の周囲に展開していたビット群も今は加奈の周囲へ展開し、迫りくる触手の迎撃を行っていた。

 

 残念ながら先ほど削った【ゴゥズメイズ】のHPは既に全快近くまで回復されているが、子供たちを助ける為だと加奈は割り切る。

 

『マスター無理はしないでください』

 

「大丈夫よこれくらい。それより気を抜かないでよね」

 

 子供たちさえ居なくなれば加奈は全力全開で戦闘ができる。

 

<マシンギア>の方向を見ればユーゴーが子供たちを両手に乗せて出発しようとしていた。子供たちとの距離が離れた今、【ゴゥズメイズ】は再びビットによる攻撃で釘付けにされている。

 

 迫りくる触手もすべて撃ち落とし、わずかに撃ち漏らしがあってもレイが<マシンギア>の近くで迎撃をしている為、子供たちに被害はでない。

 

 釘付けにされていると言っても全く動きのない【ゴゥズメイズ】に加奈は違和感を覚える。よく観察をすると額に先ほどまでなかった第三の目が現れているのが分かる。まるで宝石のような、しかし輝きのない石。

 

「もしかしてコアかしら?」

 

 今までの戦闘でどれだけ身体を破壊しても決して現れなかった【ゴゥズメイズ】のコアと思わしき物体。

 

『しかし、何故今更?』

 

 ヴァルキリアの疑問に加奈は嫌な予感がした。攻撃に晒されている今わざわざ危険を冒してコアを出現させるわけが分からない。

 

 残念ながら加奈の予感は的中し、次の瞬間には【ゴゥズメイズ】の額では莫大なエネルギーが渦巻き始める。

 

《デッドリーミキサー》先ほどレイに放ったものと同じ大魔法。

 

【《DEDDDDDDDRYYYYYYYYYMIXIIIIIIISAAAAAAAAAAAAAAAA》!!!】

 

 怨念を破壊力へと変換する大魔法は即座に<マシンギア>へと放たれた。

 

「なっ!!」

 

 自身に放たれると思っていた加奈は一瞬反応が遅れる。

 

 加奈の指示で集まったホルスタービットは組み合わさり3枚の壁となり<マシンギア>を守るように立ちはだかる。すぐさま1枚目の壁に《デッドリーミキサー》が金属が削れるような音を出しながらぶつかる。

 

 ホルスタービットで形成された壁は《デッドリーミキサー》を耐えきるかのように見えたが怨念の塊とも呼べる【ゴゥズメイズ】から放たれた《デッドリーミキサー》は非常に強力で、容易に1一枚目の壁を弾き飛ばす。

 

「早く行きなさい」

 

 迫りくる攻撃に呆然としていたユーゴーだったが、加奈の一言で我に返り<マシンギア>を走らせる。

 

 続く2枚目の壁に《デッドリーミキサー》が衝突すると、少しだけ勢いを削ったが、1枚目と同じように吹き飛ばされる。

 

「レイ君あなたも逃げなさい」

 

「俺にも何かできるはずだ」

 

 覚悟の決まったレイの瞳を見た加奈は満足そうに頷く

 

「なら、少し下がりなさい」

 

 レイは加奈に言われた通り少し下がった場所で大剣を構える。いざというときに《カウンターアブソープション》を放てるように。

 

 加奈は3枚目が突破された際に《デッドリーミキサー》を無力化するため<マシンギア>があった場所で動けるビットを集結させ、ホルスタービットと同じように組み合わせる。2つの円の様になったビットは円の中心が一直線上になるように重なり互いに別方向へ回転を始める。

 

 ゆっくりと回転を始めたビットは徐々に加速を始め、時間が経つとともに円の中心でエネルギーが収束していく。

 

 3枚目の壁が《デッドリーミキサー》に接触し、わずかに勢いを削るが、数秒時間を稼いで、弾き飛ばされる。

 

「まだチャージが足らないけど」

 

 ヴァルキリアから知らされるエネルギーのチャージ率は10%、しかし既に3枚目の壁が破壊され《デッドリーミキサー》が目前まで迫って来ていた。

 

「しょうがないわね」

 

 迫りくる《デッドリーミキサー》に合わせて、加奈もチャージしていたエネルギーを放つ。圧縮され球体状になったエネルギーは《デッドリーミキサー》と衝突し辺りを白い光で塗りつぶした。


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