<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~ 作:夜神 鯨
眩い閃光は一瞬で消え去り数秒で加奈たちの視界が晴れる。
『GIIINNNNNNASAAASASAAAASADWDWDAAQA!!!!!』
晴れた視界の先では【ゴゥズメイズ】が2発目の《デッドリーミキサー》を放とうとしている。加奈が周囲に目を向けると強い光に当てられたレイは軽く意識を失っているようだ。
『このままでは共倒れですね』
既に《デッドリーミキサー》が放たれるまで、あと数秒しかない。加奈一人であれば逃げることもできたが、レイを連れて逃げれば2人とも《デッドリーミキサー》に飲み込まれるだろう。
「でも彼を見捨てることは出来ない」
固い決意と共に加奈はハッキリと呟く。1度ならぬ2度までも守ると誓った人物を殺させる訳にはいかない。
『そうですね』
ヴァルキリアは少し笑いながら加奈に同意した。
「行くわよ!」
『ハイ!』
もう一度ビットを集めてエネルギーを収束させる時間は無い。ならば
「第三形態《スクルド》」
空中で待機していたビットは光となり加奈の手元で大型の狙撃銃へ変わる。否狙撃銃と呼ぶにはあまりにも大きすぎたそれは銃というよりは砲と呼ぶのが正しいほど巨大だった。
加奈の身体と一体となり地面へ固定された砲身は真っ直ぐ【ゴゥズメイズ】へと向けられている。
「【エーテリア】の魔力を炉心に流し込みなさい」
『分りました』
【十束指輪 エーテリア】の残りはあと3つ。使用した【エーテリア】の魔力は《スクルド》へと吸収される。
『魔力充填中』
《スクルド》の準備が整う前に《デッドリーミキサー》が発射される。
迫りくる破壊の奔流に少し遅れて、《スクルド》が発射された。照射型の魔弾が放たれ《デッドリーミキサー》と衝突する。しかし魔力の充填が十分ではない砲撃は《デッドリーミキサー》に押し返される。
「こんなところで終われないのよ!!」
照射が続いていく砲身へ加奈は魔力を湯水のごとく流し込む。《スクルド》の砲身は真っ赤に焼ける。それでも射撃は止まらない。
砲撃は《デッドリーミキサー》とせめぎ合い再び大きな爆発を起こし、身動きのとれない加奈の身体を焼き払う。
「ぐぁぁぁ!!」
爆発の熱風に焼かれ《スクルド》が解除される。固定されていた加奈の身体は自由になった途端、吹き飛ばされて地面に転がった。
「マスター!!」
地面を何回も転がり、地面にぐったりと倒れている加奈に、武器化が解除されたヴァルキリアが急いで寄り添う。加奈のHPは1割を切っているが彼女の体を回復させる手段は存在しない。
「....私はまだ.....大丈夫よ」
途切れ途切れの言葉を吐きながら満身創痍の加奈は身体を引きずって立ち上がる。全身に【熱傷】と軽度の【出血】更に右腕及び左足の【骨折】とても動ける状態ではない加奈だが、それでも吠える。
「...これくらいの怪我は....どうってこと...ないわ....さあ...戦うわよ」
【ゴゥズメイズ】にも先ほどの爆発で受けたダメージが見られるが、既に再生が始まっている。それに比べ加奈は状態異常が邪魔して再生が始まらない。むしろ、残り少ないHPが減らないだけでも加奈にしてみればありがたかった。
「おぬしたちはまだ戦うのか?」
ボロボロになった加奈を見て武器化と解きレイを呼び掛けていたネメシスが話しかける。
「勿論よ、レイ君を助けるだけじゃない。あの化け物を放って置いたら街にも被害が出るわ」
「私はマスターが戦うのならばどこまででもお供します」
2人は意気揚々と答える。その勇ましい姿に重症であることすら忘れそうになる。
『何故、そこまで戦うのじゃ?』
ネメシスは純粋に疑問だった。既にHPは一割を切り、身体中が怪我だらけ常人では戦うなどと思わない程の状態だ。それなのに彼女たちはなぜ戦えるのかネメシスはそれが知りたかった。
「....現実はままならないことが多いわ。救いたいものは救えず、大切な仲間があっけなく死に、守った人達からは石を投げられる」
語りながら加奈の脳裏には昨日のことかの様に過去の記憶が流れてくる
「どれだけ訓練を積もうと、体を改造しようと、どれだけ願おうと英雄にはなれない」
それは後悔の記憶、救えなかった、救いたかった人々の記憶。
夢半ばで散っていった仲間たちの記憶。
そして両親の記憶。
「だからこそ私は
そう語る加奈の表情には確固たる意志があった。
身体は満身創痍だ。骨も折れ出血が止まる気配もない。身体は重く片腕と片足が動かない、身体全体に走った火傷はズキズキ痛む。MPも残り少なく頼みの綱である【エーテリア】すらあと3回しか使うことが出来ない。
【ゴゥズメイズ】の戦闘力は逸話級のそれではない。多くの敵と戦ってきた加奈には【ゴゥズメイズ】が古代伝説級の力を持っているであろうことが理解できる。それに加えて相性も最悪だ。今の状態で戦えば負けるであろうことは明白だった。
しかし、そんなことは関係ない。ここで倒さなければ街が焼かれる。奴に更なる怨念が集まればだれにも止めることの出来ない化け物にだってなりうる。
「だから、私はもう行くわ、幸い怨念の量も減ってきている今なら殺し切れるかもしれない」
自身は無い。負ける可能性の方が高いだろう。しかし最悪の場合、必殺スキルを使って【ゴゥズメイズ】を道ずれにすることはできる。
死ぬのは嫌だ。加奈はなるべくならば死にたくなかった。それもログインしてデスペナルティーが終わったばっかりだ。しかし、背に腹は代えられない。ここで【ゴゥズメイズ】を倒すしかない。
「レイ君が起きたら逃げるように伝えて頂戴。それじゃあね」
加奈はレイを置きざりにして【ゴゥズメイズ】との戦闘に向かう。ヴァルキリアは加奈の呼びかけに答え《ブリュンヒルデ》へと変形し、攻撃を開始する
『のぉ、マスター聞いておったか?』
今にも消えそうなか細い声でネメシスはレイへと呼びかける。
「あぁ」
ネメシスの声を聴いたレイはゆっくりと上半身を起こしながら呼びかけに答える。
レイの瞳にはボロボロになりながらも必死に戦う加奈の姿が映っている。こうして戦っている今も加奈はレイの方へ攻撃が届かないように立ち回っている。
「最初から俺たちの事なんか気にせずに戦えば簡単に勝てたんだろうな」
加奈を見てレイの中に湧き上がる感情。それは恐怖、圧倒的な強者たちの戦いをまじまじと見せられたレイはかつてないほどの恐怖を感じていた。
『それで、どうするかのぅ? マスター』
ネメシスからの問いかけにレイは震える拳を握り締める。奴は俺が倒すべき相手だ。メイズから生まれたあの化け物は俺の手で決着をつけるべきなのだ。
しかしここで俺が行くのは正解なのだろうか。俺は【ゴゥズメイズ】に勝てるのだろうか。加奈の戦いの邪魔にならないだろうか、そんな疑念がレイの中を駆け抜ける。
「....全力の...可能性の掴み方か」
レイの不意に口からそんな言葉がもれる。この言葉を言ったのは確か兄貴だったか...
「可能性はいつだって、お前の意思と共にある。
極僅かな、ゼロが幾つも並んだ小数点の彼方であろうと……可能性は必ずあるんだよ。
可能性がないってのは、望む未来を掴むことを諦めちまうことさ。
お前の意思が諦めず、未来を望んで選択する限り、たとえ小数点の彼方でも可能性は消えない。
それは
「行こうネメシス」
勝てるから戦うんじゃない。勝てないから恐ろしいからこそ挑むのだ。
『そうじゃな』
2人は決戦の場所へと歩き出す。2人の瞳には恐怖などはなく。固い決意の色が輝いていた。
☆☆
ヴァルキリアは視界の端でレイとネメシスを捉える。2人の瞳に迷いはなく、戦う気持ちは十分のようだ。
『マスター彼らは来たようですよ』
「そう」
【ゴゥズメイズ】と戦い傷つきながら2人の姿を確認した加奈は頬を緩ませる。と同時にレイへの期待の高まりを感じた。
「この戦い負けられなくなったわね」
『そうですね』
頬を緩ませ笑う加奈の表情を見てヴァルキリアは加奈の考えていることを察した。多くの時間を共に過ごしたからこそマスターが何を考えているか理解できる。ならばこそ負けるわけにはいかないだろう。ヴァルキリアの操るビットは【ゴゥズメイズ】の攻撃を完璧に捌く。触手の一本たりとも加奈へ触れることはかなわない。
「俺たちも戦う」
レイとネメシスはすぐに戦闘に参加し、迫りくる触手を撃退している。加奈が攻撃した時と違い《聖別の銀光》を纏ったネメシスは確実に触手を破壊する。【ゴゥズメイズ】も負けじと、破壊された部位を切り捨て再生をさせているが、《銀光》に侵された部位は他よりも再生が遅い。
「レイ君、大ダメージを与えられる攻撃はあるかい?」
『マスター《復讐するは我にあり》が使えるぞ』
「....それならたぶん行ける」
ネメシスは現在メイズに使った《カウンター・アブソープション》で溜まったダメージを【ゴゥズメイズ】へ放つことが出来るようになっていた。洞窟の中で違和感を感じていたネメシスだったが、それは加奈との戦闘で【ゴゥズメイズ】の主人格が変更されていたせいだった。
しかし、加奈との戦闘で、メイズの怨念が主軸となり怨念を最適化したせいで、【ゴゥズメイズ】は【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】でもありメイズでもある状態になっていた。
その為《カウンター・アブソープション》で蓄積されたダメージを【ゴゥズメイズ】へ返すことが可能となっていた。
「《カウンター・アブソープション》は何回使えるかしら」
『ストックはあと1じゃ』
「上等。レイ君はそのまま触手を迎撃しつつ《カウンター・アブソープション》を使えるように準備して。そのあと続けて《復讐するは我にあり》を【ゴゥズメイズ】へ放って、タイミングはこちらで指示するわ」
加奈が「OK?」と聞くとレイは首を縦に振る。加奈が何故《カウンター・アブソープション》のことを知っているのか等聞きたいことはあったが、今はその時ではないと抑える。
「それじゃあ行くわよ」
加奈は《ニーベルンゲンの歌》を発動させると同時に走り出す。《ニーベルンゲンの歌》の効果で速度が加奈と同等になった、ビットは【ゴゥズメイズ】を翻弄するように攻撃を加える。
ビットが【ゴゥズメイズ】を翻弄するなか超音速で走る加奈に8機のライフルビットが追走する。ビットは4機ずつ合体し、先ほどの様に円状になっている。加奈に追走しながら自身を高速で回転させ、エネルギーを収束させる。
AGIが上昇したことにより、回転速度が増し、エネルギーの収束効率も上昇する。10%..20%..40.60..80..結合したビットの数が少ない事もあり、容量の少ないチャンバーにはすぐにエネルギーが溜まり、収束率は100%になる。
「行くわよレイ君!」
レイと【ゴゥズメイズ】直線上に並ぶように陣取った加奈は、収束していたエネルギーを即座に【ゴゥズメイズ】へ放つ。
「食らいなさい!」
球体状になった魔弾は徐々に速度を増しながら【ゴゥズメイズ】へと進んでいく。
『BOUSYUSSADASAAAAA!!!』
自身に向かってくるエネルギーに気づいた【ゴゥズメイズ】は即座に《デッドリーミキサー》を放つ。加奈に負わされた傷も回復しきっていなかったが、迫りくるエネルギーにすべてのエネルギーをぶつける。
再び大きな爆発が起き、白い光が辺りを包む。
「後は任せるわ」
加奈は倒れ込む
「あぁ、任された」
加奈に庇われたレイは、構えた黒大剣を【ゴゥズメイズ】へ向ける。
【ゴゥズメイズ】は先ほどと同じように二度目の《デッドリーミキサー》を放つ先ほど相手を追いこんだ戦術。<UBM>となっても所詮はアンデット、複数の怨念を吸収し続けた【ゴゥズメイズ】に明確な意思などもはや存在しない。メイズを主軸として組み上がった人格もすでに無数の怨念に飲み込まれ、平均化されたその意思はすでに形骸化している。
だからこそ、実績のある手段にこだわる。既に戦術と呼べるものを考える頭もない。あるのはただ、怨念だけだ。
「《カウンター・アブソープション》」
迫りくる怨念の奔流は光の壁によって阻まれる。
何かがマズイ。そう感じた【ゴゥズメイズ】は目の前にいる少年を何とか殺そうと抗う。しかし、自身を衝動的に動かしていた怨念も使い切った【ゴゥズメイズ】有効な攻撃手段を持たない。それどころか《聖別の銀光》に対抗する為に残した痛覚が動きを阻害する。
追い打ちをかけるように加奈のビットが【ゴゥズメイズ】の足を撃ち抜く。せめてコアだけでも守ろうと頭にあるコアを身体に収納しようとするが、時すでに遅し。圧倒的な力の奔流が【ゴゥズメイズ】を突き抜けた。
「《復讐するは我にあり》」
レイが放ったネメシスの必殺スキルは、メイズが放った《デッドリーミキサー》と【ゴゥズメイズ】が放った《デッドリーミキサー》その両方を倍にした威力で【ゴゥズメイズ】に直撃する。
【ゴゥズメイズ】の全身を包むように放たれた光は【ゴゥズメイズ】の体を細かく分解し、コアを灰へと還した。
【<UBM>【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】が討伐されました】
【MVPを選出します】
【【レイ・スターリング】がMVPに選出されました】
【【レイ・スターリング】にMVP特典【紫怨走甲 ゴゥズメイズ】を贈与します】
MVP特典を与えられたレイはきょとんとした顔で特典がもらえた事を不思議がる。
そんな顔をみた加奈はレイの考えを察し説明を始める。
「それは、そうよ。なにせ私がしたことは【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】を古代伝説級の力を持つ化け物に進化させただけだもの。私が与えたダメージはほとんど効果が無く、貢献したとは言えないわ」
「そういうものなのか?」
「とにかく勝ったんだからいいんじゃないかしら」
「其れもそうじゃの」
武器化を解除したネメシスが加奈の言葉に同意する。
「さあ、戻りましょう。子供たちの様子も気になるわ」
こうして無事に【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】との戦闘は幕を閉じる。4人は決闘都市への帰路に就くのだった