<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~ 作:夜神 鯨
戦闘を終えた4人は帰路へと付いた。レイは特典武具である【紫怨走甲 ゴゥズメイズ】の効果で乗馬可能となったシルバーに跨り、そして加奈は《ヒルドル》へと変形したヴァルキリアに跨りギデオンへ向かい疾走する。
「そういえばMVP特典の調子はどうかしら?」
風を切りながら整備された山道を進む中、加奈が切り出す。
道が分からないレイの代りに先頭と走る加奈は後ろを振り向きレイへと聞く。レイの足には先ほど取得した【紫怨走甲 ゴゥズメイズ】が装備されており、シルバーの鞍から延びる鐙へと掛けられている。
「ずいぶんと調子がいい」
「そう、それは良かった。ちなみにランクはどれかしら?」
「ランクは<伝説級>らしい」
<伝説級>それを聞いた加奈は少し思考にふける。あれほどの強さを持ってまだ<伝説級>だったとは、あれ以上欲張らなくて良かったと。
「しかし、ユーゴーとは合流できそうにないな」
「そうでしょうね、戦闘にかなり時間を取られてしまったし、アッチはとっくに街に到着しているころじゃないかしら」
加奈が指摘する様にレイの視線では既にクエスト──【救出 ロディ・ランカース】のクリア報告アナウンスが流れてきていた。
「そんなに心配しなくてももうすぐギデオンよ」
加奈が言うと同時にようやくギデオンの街が見えてくる。日はもうすっかり落ちているが、ギデオンの街では遠くからでも分かるほどの明かりも灯り活気に満ちているのが分かる。
そして、ギデオンの街から出てくる大量の明かりも確認できる。明かりはどんどん加奈たちへと近づき、同時に、何頭かの馬が固まって動く金属音、足音が聞こえてくる。
「なんだ?」
レイはまさか人馬の【大死霊】の群れじゃないだろうな?などと考えていたが、足音が大きくなるにつれて、足音を出している集団の輪郭がぼんやりと見えてくる。
それから間もなくして数頭の武装した騎馬とそれに登場する騎兵の姿がはっきりと確認できた。女性を戦闘に突き進む騎兵の集団を確認してレイが声をあげる。
「リリアーナさんじゃないですか。今日はよく会いま」
「レイさん! ご無事ですか!?」
「すね……?」
やや食い気味に必死な顔で返答した少女は後ろの騎兵共々、統一された小奇麗な武具を身に纏い隊列を崩すことなく停止する。
その練度の高さから冒険者ではなく、アルター王国の紋章が入った統一の武装をアルター王国の騎士、それに加え、細かい動作から見てもわかる練度の高さと良質な武装から近衛騎士団ではないかと加奈は予想する。
更に、重装備を抱えて馬を走らせている様子から、砦に出現した【怨霊牛馬 ゴゥズメイズ】を討伐する目的があったのだろうこのまで予想が出来る。
「あの、えっと、何が?」
「巨大なアンデッドは!? 無事に逃げられたんですか!? それともこの近くに!?」
「……あぁ」
そのやり取りをへて彼女たちの目的を察したレイはリリアーナからこれまでの経緯を聞いていた。
「レイくん、後はその人たちに案内して貰いなさい」
リリアーナとレイがある程度親しい関係だと気づいた加奈は後の案内を騎士団へと委託する。
「わかった。ありがとう助かったよ」
「ええ、なら良かったわ、あとそれとこれも渡しておくわ」
加奈が差し出したのはフレンド申請。レイの視界には
【加奈をフレンドとして承認しますか?】
というウィンドウが表示されていた。
「なぜフレンド申請を」
加奈とレイのレベル差は大きい。レイは見向きもされないと思い込んでいたため加奈からのフレンド申請に驚いていた。
「貴方のお兄さんに頼まれたのよ。それに今回の戦闘を見て貴方の戦闘スタイルは大体分ったわ、丁度決闘都市にいることだし、今度体の動かし方をレクチャーしてあげるわ」
決闘都市では一部の闘技場を練習用にレンタルすることが出来る。戦闘の基礎、体の動かし方を理解し意識することが出来れば今後の戦闘で良質な経験が出来るようになる。
「この世界はリアルだから、体の動かし方、武器の扱い方ひとつでステータス以上の力を出せるようになるわよ」
加奈の問いに対しレイは少し悩み、ウィンドウの【YES】を押した。
「また、今度連絡する」
「ええ、待ってるわ」
レイから喜ばしい返事をもらった加奈は上機嫌でヴァルキリアへと跨り、去ろうとするがその前に一言だけ付け足した。
「レイ君、その耳似合ってるわよ」
「余計なお世話だ!!」
笑いながらそう言い残した加奈は《ヒルドル》へ変形したヴァルキリアに乗ってギデオンへと一人向かうのだった。
☆☆
ギデオンに無事到着した加奈は孤児院にてクエストの報告を行うと共に、今回の一件で行き場の失った子供たちを保護する様に頼むと、孤児院の空いた部屋を借りて休息を取る。
「やはり、【エーテリア】の消費が大きかったわね」
<ノズ森林>とデスペナ明けに行った【ゴゥズメイズ】との戦闘で十指に装備していた【十束指輪 エーテリア】は残り1つしかチャージできていない。
「普通にしていても10日、急いで充填するなら、大気中の魔力が濃いレジェンダリアか、<墓標迷宮>にでも潜って敵を倒しつ続けるしかありませんね」
【半騎器官 グレイテスト・ハート】の効果でMPが6千万を超える加奈は、自然回復に任せると0になったMPが全快するまで約1日は必要になる。
しかし同じく【グレイテスト・ハート】の効果を使えば、大気中の魔力を一定の割合で吸収でき、更に倒したモンスターレベルに比例して一定割合でMPを回収できる。その為、レジェンダリアだと移動を含めて6日、<墓標迷宮>に籠った場合、40階層付近で絶え間なくモンスターを倒し続ければ、最大効率の場合、3日ですべてのMPを貯めることが出来るだろう。
「一旦ログアウトして
「分かりました、それでは準備をしましょう」
加奈とヴァルキリアは<墓標迷宮>へ行くことを決め、準備を始める。MPを貯めるという目的がある以上、MPを消費する魔法式の銃器を使用することは出来ない。その為、火薬式の銃器を使用せざるおえないが、主に魔法式の銃器を使用する加奈は、あまり火薬式の手持ちが無かった。幸いにも弾丸の貯蓄だけはいざというときに備えて孤児院に備蓄してもらっている為、問題は無かったが、持っていく銃器の選定に頭を悩ませてた。
孤児院にも何種類か火薬式銃の備蓄があるが、それはいざという時、孤児院を守る為に置いてある護身用の武装で、比較的装備条件が緩く、ダメージも弱い物が大半だった。そして、それとは正反対に加奈が持つ火薬式重火器は装備条件が厳しい代わりに強力なものが殆どだが、どれも取り回しが悪く、狭い空間で使用するには向いていなかった。
結局ヴァルキリアが前衛としてサブマシンガンタイプの銃器を使い、加奈がライフルタイプの銃器で援護する形で陣形が決まった。
陣形が決まった後、2人は用意できるものから優先的に【アイテムボックス】へと積み込んでいく。今回は2人がそれぞれ【アイテムボックス】を持ち、長期間の戦闘を考慮して、容量は少ないが、時間停止型で【窃盗】スキル対策が施してあるウエストポーチ型の【アイテムボックス】を持っていく。約一週間の物資、弾薬を積み込み残るは食料の積み込み、のみを残した状態で2人は荷造りを終える。
「よし、準備は出来たわね」
「こちらも、異状なくあとは食料のみですね」
こちらの世界で食事を足らなくとも死ぬ心配はないが、【空腹】の状態異常が付くため、相当の理由が無い限り、大抵は食事を取る。ましてや、ダンジョンに潜るという時に食料の準備をしないのは相当の愚か者と呼ばれるだろう。
「なら、一旦ログアウトするから準備しなさい」
「こちらはいつでも大丈夫ですよ」
「そう」
ヴァルキリアの返答を聞いた加奈は『メインメニュー』から『ログアウト』画面を選択する。
【ログアウトします】
【次回ログインポイントはセーブポイントと現在位置のどちらにしますか?】
加奈は現在地を選択する。
【承知しました】
【またのご帰還をお待ちします】
すると加奈とヴァルキリアの姿が消失し、2人は意識が遠のくように<Infinite Dendrogram>の世界を後にしたのだった。