<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~   作:夜神 鯨

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今回はちょっと加奈の掘り下げです。次回からは<超級激突>へ向けて書いていきたいと思います。


カナ・アルベローナ

「んッ...ん」

 

 現実世界へと戻ってきたカナは眠っていたベットから起き上がる。同時に先ほどまで身体中を駆け巡っていた感情が段々と消失していくかのように感じ始める。

 

「クッ....」

 

 現実世界に戻ってきたせいでカナの体内にあるマイクロマシンが急速かつ確実にカナの感情を抑制しにきていた。ゆっくりとしかし確実に感情が失われていく感覚に耐えながら、カナは一人の名前を呼ぶ。

 

「....ヴァル、居るかしら....ヴァル...」

 

 先ほどまでとはまるで違う、別人のように弱く消えてしまいそうな声を出しながら藁にでも縋るような気持ちでカナは、本来ならば決してこちらにはいないはずのヴァルキリアの名前を呼び続ける。

 

 段々と感情の薄れていく恐怖に耐えながらカナは、起き上がったはずのベットに赤子の様にうずくまる。

 

 次第に恐怖も感じなくなり、感情のない機械のようになる直前、頭の奥底から聞こえる声をカナは聞いた。

 

『...ター』

 

『...マ...タ....』

 

 声は次第に大きくなり、そしてハッキリと聞こえるようになる。

 

『マスター!!』

 

 本来、聞こえるはずのないヴァルキリアの声をハッキリと聴いたカナは、同時に失われていった感情が今度は徐々に戻っていくように感じる。

 

『感情制御を優先して掌握させていただきました気分はどうですかマスター?』

 

「.....最悪の一歩手前って感じかしら」

 

 今度こそはっきりと頭に響くヴァルキリアの声へ、カナは軽口をたたきながらも青ざめた顔を手で覆いつつ答える。

 

『すいません。新しいシステムに同期するのに手間取りました』

 

「いいのよ、こうなることは予想していたから」

 

 ヴァルキリアが現実世界に来るのは初めてではない、それどころかカナが<Infinite Dendrogram>を始めてしばらくした頃からカナの人格データに偽装し現実世界へと<Infinite Dendrogram>の世界をカナと共に行き来していた。

 

 もちろん普通の人間では高性能AIである<Infinite Dendrogram>の運営をだますことはできない、事実、アメリカ軍情報部が行った<Infinite Dendrogram>への不正介入はあらゆる手を尽くしても阻止されている。

 

 しかし、カナも普通の人間ではない、それを語る前にカナの所属するアメリカ軍の現状を語った方がいいだろう。

 

 現在のアメリカ軍には3種類の人種が存在している。まず、一般の肉体を持ち、鍛えあがられた肉体と知識そして豊富な経験から任務をこなす一般兵。

 

 次に脳を金属の骨格で包み、電脳と呼ばれるユニットに改造したのち、肉体も強化された機械の体へと変更することで、過酷な環境、任務を確実にこなすことができるサイボーグ兵。

 

 そして最後に脊髄に埋め込まれたマイクロマシンユニットから生成されるマイクロマシン、及びナノマシンによって体をゆっくりと徐々に強化していく強化人間と呼ばれる兵士達。

 

 このうちカナは強化人間と呼ばれる兵士を造る計画の中でも、より優れたオンリーワンの兵士を造り上げる計画に参加していた。カナが選ばれたのはアルベローナ家の分家であるアルベルト家がマイクロマシンの計画を一手に担っており、兵士たちを信用させる為に利用された形になる。

 

 こうして体内にマイクロマシンを埋め込まれたカナは陸軍士官学校を卒業以来、現在に至るまで体の改造を行われいる。カナが<Infinite Dendrogram>で同時にビットを動かすのに用いている。複数の事象を並列的に処理や卓越した空間把握能力などは彼女が生まれ持った才能であるが、彼女の才能に最適化された体組織に感情制御や痛覚の遮断、情報伝達の高速化や思考の高速化、更には常人の何倍もの力をもつ筋肉などはマイクロマシンによって体を改造され続けた結果である。

 

 その為、すでに人間の脳とコンピューターのハイブリットとして機能しているカナにかかれば、自身の生態データと共にヴァルキリアのデータを移行させることも可能となる。

 

『しかし、こちら(現実世界)あちら(<Infinite Dendrogram>)にそれぞれのデータを用意するなんて....』

 

 今回、ヴァルキリアを自身の体へ招き入れる為に、カナはあらかじめヴァルキリアの擬似データを用意し、そこへヴァルキリアを上書きする形で招き入れた。これによって、本当の意味でカナとヴァルキリアは2人で1つの人格データを得たことになった。

 

『それにしても感情抑制が酷いですね、95%って殆ど人間性を失うレベルですよ』

 

「紛争の対処続きだったからね、システムが自動的に抑制レベルを引き上げたんでしょう」

 

 カナは冷蔵庫に入っている炭酸水をコップに注ぎながらそう答える。今回カナが無理をしてでもヴァルキリアと一緒になったのにはデータの行き来を運営の眼から欺く為、ともう一つ理由があった。それは、ヴァルキリアに感情抑制を管理して貰うためだ。

 

 感情抑制95%、ヴァルキリアから聞かされた数字にカナは表情には出さなかったが、内心はかなり焦りを抱えていた、まさか95%も感情が抑制されているとは思ってもいなかったからだ。少しおかしいとは感じていたがこれほどまでとは思っていなかった。

 

 感情抑制は自身で気づくことが出来ない。ごく当たり前のように自然と管理されている為、違和感を感じにくい。それにもし自身で気づけたとしても、今のカナではどうしようもなかった。脳までもほぼ機械と一緒にしてしまっているサイボーグ兵たちとは違い、強化人間であるカナはまだ自身の体を制御しているシステムを直接いじくることが出来ない。しかし、システムに干渉できる存在がいればまた話は変わってくる。それでも、下手な相手に身体を委ねれば自身の体を乗っ取られかねないが、<Infinite Dendrogram>で同じように暮らしたヴァルキリアならば自身の体を預けることに心配はなかった。

 

『一先ずは50%まで引き下げました。これ以上の引き下げは時間をかけて戻さないと、マスターの精神が崩壊してしまう可能性がありますので』

 

「わかったわ。今回で現実世界側にもヴァルのデータが残るから、身体の事は貴女に任せるわ」

 

『わかりました。システムが複雑すぎて完全に掌握するには時間がかかりそうなので、私としてはありがたい限りです』

 

 カナはコップに入った炭酸水を飲み干すと大型のパソコンが置いてる机のイスへと腰を掛けた。

 

「なるほどね、確かに今までが異常だったってことが良くわかるわ」

 

 感情が徐々に戻ってくるにつれて、カナは冷えた炭酸水の美味しさ、窓から見える空の綺麗さ、そしてイスの固さなど、今までなにも感じなかったことに対して沸いてくる感情に感動を覚えていた。

 

『マスター大丈夫ですか?まだ50%ですよ』

 

「大丈夫よ、それに<Infinite Dendrogram>では制限なかった訳だから、そのうち慣れると思うわ」

 

 そう言うと同時に、カナは再ログインしてから<Infinite Dendrogram>で感じていた新鮮さの理由が分かったような気がした。

 

「なるほどね、<Infinite Dendrogram>でのあの胸の高鳴りは感情の有無だったのね」

 

 しばし、余韻に浸りながらカナは軽い食事を取ったのち、いつもの運動をこなす。ヴァルキリアが入ったことによって調整されつつある身体は扱いやすく、いつもは力で押してしまう場面も優しく丁寧にこなすことが出来る。特に顕著だったのが、長距離射撃の訓練、普段は視界の端に出されるだけの環境数値も、3Dで最適化された情報が視界に出ることで、視界から得られていた情報以上のデータを射撃に組み込むことが出来ていた。それによって今までにない程、高精度の射撃が出来たカナは満足して日課の運動を終えることが出来た。

 

「もっと早くからこうすればよかったわ」

 

 今まではヴァルキリアをあくまで外部データとして扱っていたカナだったが、ヴァルキリアの高性能ぶりに素直に感心した。

 

『ですが、結局はマスターの思考領域を占領することになってしまっていますから』

 

「気にすることは無いわ。これからは一緒に世界を見ましょう」

 

『はい!』

 

 カナの言葉に嬉しそうに返事をするヴァルキリア。普通では決してあり得ないこの状況、〈エンブリオ〉が世界を超える事などあってはいけないのだろう。そしてこの関係がいつまで続けられるのかわからないと言った不安もヴァルキリアの中にはあったが、それでも今はこの現状を少しでも楽しもうと密かに心に誓うのだった。

 

 運動も終え、シャワーを浴びたカナは再びベットへと身を寝かせると<Infinite Dendrogram>の入ったゲーム機のヘルメットを被る。

 

『準備はよろしいですか?』

 

 ヴァルキリアの言葉にカナは不敵に笑う。

 

「ええ、不安要素は無くなったし、これで十二分に<Infinite Dendrogram>を楽しめるわ」

 

『それでは行きましょうか』

 

 ヴァルキリアの言葉に頷きカナはゲーム機の電源再びを入れる。すると視界が暗転し<Infinite Dendrogram>の世界が映し出されるのだった。

 

 

 

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