<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~ 作:夜神 鯨
「それにしてもマスターはまだアルター王国所属だったんですね」
「え?そうよ。だって所属国の変更イベント面倒くさかったからやって無いもの」
加奈たちは会話をしながら迫りくる、体長10Mを超す地竜【レッサードラゴン】へと鉛玉をぶち込む。
流石に亜竜級とはいえドラゴンとなると数発の弾丸では死なず、攻撃をものともせず、加奈たちへ鋭利な爪の生えた腕で反撃を繰り出してくる。
しかし、加奈とヴァルキリアは繰りだされた腕をひらりと躱すと、ヴァルキリアは至近距離から両手に持つサブマシンガンの照準を【レッサードラゴン】の顔に向けて引き金を引いた。同時に大きな音を立てながら大量の銃弾が【レッサードラゴン】顔に向かって吐き出される。
たまらず距離を取った【レッサードラゴン】に向けて、加奈が構えた大口径ライフルが火を放つと、弾丸は【レッサードラゴン】の顔へ吸い込まれていき、大きな穴を開ける。攻撃を受けたドラゴンは断末魔上げる暇すらなく地へと倒れ光となって消える。
「いまので何体目かしら?」
「今ので187体目です!まだ来ますよ」
ここは〈墓標迷宮〉四十一階、ドラゴンたちの闊歩する階層。四十一階からは主たるモンスターがドラゴンだからか、今までの階層より天井も高く道幅も広い。
この階層に到着してから既に4時間、2人は非常に速いペースでドラゴンたちを殲滅していた。
再度ログインをしたとき<Infinite Dendrogram>では夜も中ごろといった所だった。加奈たちはまだ夜も明けない内に急いで準備を終わらせ〈墓標迷宮〉へと向かった。元々アルター王国のマスターであった加奈が自前の【墓標迷宮探索許可証】を衛兵へ見せると問題なく通過することができ、そのまま、【エレベータージェム】を使い四十階から始めた2人は四十一階に狩り場を構築してひたすら狩りに勤しんでいる。
「敵の数が少し多いですね、ほかの冒険者はいないのでしょうか」
「これが醍醐味なような気もするけど、確かに数が少し多いわね」
2人の目の前には次々とドラゴンたちが押し寄せてきている。強さは亜竜級~純竜級まで種類も【レッサードラゴン】と呼ばれる下級の地竜から、口から吐き出す炎が特徴である地竜【デミドラゴン】、更には飛行し高高度からの一撃離脱を得意とする【スカイワイバーン】などを初めとする多種多様なドラゴンが加奈たちを狩るつもりで押し寄せている。
「....はぁ..まあ強者と戦えるのはうれしいですけどね!」
現在、2人は背後を通路のない壁に預け、挟撃される可能性を排除した上で、正面には土嚢と木や金属でできたバリケードを構築し、正面から来る敵だけをなぎ倒している。
ヴァルキリアが両手に持ったサブマシンガンで制圧射撃を加え、加奈が後方からライフルで確実に仕留める。それでも足りなければ持ってきている爆弾やトラップを活用しドラゴンを追い詰め、それも突破されれば、銃を用いた格闘、ガン=カタやライフルの先に装備された銃剣を使った銃剣術を用いて敵を殲滅する。
「そういえばマスター」
「なにかしら?」
無数の銃声に交じりながらヴァルキリアの声が加奈へと届く。
「そう言えば、外ではそろそろ<超級激突>が始まる頃ではないですか?」
「あーそういえばあったわねそんなの...ていうかそのせいじゃないかしらこの現状」
<超級激突>決闘都市の王者【超闘士】フィガロと黄河の決闘ランキング二位【尸解仙】迅羽、<超級>同士が闘う初めての試合。アルター王国以外からも様々な<ティアン>、マスターがギデオンに集まり、ギデオンは今やお祭り騒ぎとなっている。
「そうですね、確かにこんな時に〈墓標迷宮〉に潜っているのなんて私たちくらいしか、いないですものね」
そう言うヴァルキリアの表情は少し悲しそうにも見えたが、根物を見つけ嬉々として弾丸を放つヴァルキリアに加奈は考えるのを辞めた。
「それにしても、フィガロは<超級>になってから会ってないし迅羽も出会った時まだ<超級>じゃなかったし久しぶりに会いたい気もするわね」
フィガロは元々レジェンダリアのマスターだったらしいのだが、レジェンダリア特有の自然現象の影響でアルター王国まで飛ばされてきたらしい、加奈が彼に出会ったのは世界中を回る旅に出る前、ギデオンでシュウと一緒にいた彼を見かけたのが最初だ、以降何回か闘技場で遊んだことがある。
迅羽と出会ったのも闘技場での事だった。黄河から天地に渡り、再び黄河へと帰ってきた時に出会ったのだ、彼女とも何度か手合わせをし、それなりには仲良くなることが出来た。
「では会いに戻りますか?」
もうすぐ<超級激突>が始まる。時間的に空いている席は余り無いと思うが、お金に糸目をつけなければいくらでも席の取りようはあるだろう。しかし....
「なんか嫌な予感がするのよね」
「....嫌な予感ですか?」
現実でもこちらでも加奈は直感を外したことが無かった。いままで何かある時は心の中の自分が囁いてくるのだ。その囁きに従って失敗したことは無く。むしろ何度も命を救われていた。
「ええ、まだ行くなと囁くのよもう一人の私がね」
その直感が現在加奈に訴えかけていた。<超級激突>今すぐに見に行くべきではないと。幸い同じ階層に誰も居なく、かつハイペースでモンスターを倒し続けているおかげで魔力が分散せずに加奈に集中して集まっている為。MPの回収効率が当初計算していたよりも良い。既に2つの指輪に魔力が溜まり、【魔物寄せのお香】というモンスターを集める魔導着のおかげもあり、贄となるモンスターは次々とやってくる。更にダメ押しで使用した【経験値獲得量減少】の効果が付いたポーションのおかげで、大気に散っていく魔力リソースも多くなっている。
「....ならばマスターの直感を信じましょう。幸い暇を潰してくれる獲物は沢山です」
ヴァルキリアはサブマシンガンの弾倉を入れ替えながら陽気に答える。2人の足元にはすでに足の踏み場もないほど空薬莢と空弾倉で溢れている。
「せめて、後2つ指輪に魔力が溜まるまでやりましょ」
「分かりました」
☆☆
それから更に数時間後、加奈たちの周りには破壊されたバリケードに吹き飛ばされて意味のなくなってしまっている土嚢。足元には山のようになった空薬莢と弾倉が積み重なって放置されている。
「マスター?そろそろ弾が底を尽きそうです」
ヴァルキリアが弾倉を交換しながら【アイテムボックス】を確認する。彼女の【アイテムボックス】に入っていた大量のサブマシンガン用の弾倉はもう数えるほどしか残っておらず、用意してきた爆薬や陣地構築用の資材、トラップなども残り僅かとなっている。
「私も、もう弾薬が無くなりそうよ」
ヴァルキリアと同じく加奈の【アイテムボックス】にも物資が殆ど残っていない。唯一余っているのは3日分ある食料のみだろう。
「だから火薬式の銃器は嫌いなのよね...これだけの狩りでこんなに弾薬を消費するなんて...」
「まあ、かと言っても500体を超すドラゴンを狩っていたらMPの消費もすごいと思いますけどね」
今回使った弾薬は【大鉄砲鍛冶】に頼んで作ってもらってあった対モンスター用の高威力弾薬、素材と値段は張るが、普通の弾薬を使うよりはるかに強い攻撃力の出せる代物だ。それをサブマシンガン用の弾薬で10000発、ライフル用の弾薬で2000発を用意していたが、そのほとんどが無くなってしまった。
しかし、対価に対して成果も上々で、順調に進んだ狩りは【エーテリア】の5つ目まで魔力を貯めきることが出来ていた。
幸いにも面倒な能力を持つモンスターは現れず、加奈とヴァルキリアの持つ銃器で対応できるほどのドラゴンしか現れ無かったがその分、自業自得ではあったものの一息つかせる間も無いほどの物量と長時間戦い続ける羽目になった加奈たちであった。
「それにしてもまた弾薬をお願いしなくちゃいけないわね」
「孤児院からも少々弾薬をお借りしましたからね」
今回使用した弾薬の内、ライフル弾1000発とサブマシンガン用の弾薬2000発は孤児院から拝借したものであった。孤児院のまだ弾薬に余裕はあったがいつ何が起こるかわからない。早急に補充する必要があった。
「それにしても、本当は今日と明日の昼くらいまでに500体倒せればいいかと思ってたんだけどね」
「恐らくほかの冒険者もいないからでしょう、【魔物寄せのお香】が無くても多くのモンスターが集まったと思いますよ」
「あれだけ大きな音を立てていればそうなるわよね」
今回は【魔物寄せのお香】というモンスターを引き寄せる特殊なアイテムを使っていた事もあり、普段の3倍ほどのモンスターが加奈たちに押し寄せたのだが、原因はそれだけではなく、そもそも〈墓標迷宮〉に潜っている人間の数が少なく同じ階層にいたモンスターが加奈に集中して集まっていた事も原因の一つであろう。
「さてと、5つめの指輪まで魔力も溜まったし、弾薬も尽きそうだしね一度戻りましょうか」
「そうですね、ドラゴンも一度打ち止めみたいですし」
お香の効果も切れ、襲ってくるドラゴンたちも散発的になって来ていた。キリがいいと踏んだ加奈とヴァルキリアが空薬莢と弾倉を拾い一度補給に戻ろうと帰りの算段をつけていると、加奈の【アイテムボックス】が迷宮中に響くほどの音量を鳴らす。
「うわ、なになに?」
慌てて加奈が【アイテムボックス】を漁ると、原因である札の様なアイテムを見つける。加奈がアイテムを握ると、音は鳴り止み迷宮に再び静寂が訪れる。
「マスターなんですかそれ?」
音に連れられてやってきたドラゴンを始末しながらヴァルキリアは加奈へと聞く
「う~ん、なんだったかしら?」
アイテムには【呼び出し札】と書かれているので、機能を推察することは出来たが、誰と対になっているアイテムだかを加奈は思い出させずにいた。
「いえ、機能は分かるのよ」
「ではどんな機能なのですか?」
「えぇ、これと対になるもう一つの札があってね、対となっている札のどちらかを強く握るともう一つの札にさっきみたいな音が鳴るようになってるのよ」
しかし、これは仏のアイテムではなく、道士系統の一つである【符術師】に頼んで作ってもらったものだ。
「そう、たしか...大きな危機が訪れた時に駆け付けられるように私が渡しておいたのよ....アルター王国の危機に駆け付けられるように....」
世界各地を飛び回っていた加奈はアルター王国に危機が訪れてもすぐに気づくことが出来ない。その為アルター王国所属のマスターに渡していたはずだ...と、数秒悩むように頭を指でトントンと叩いていた加奈だったが突如思い出したと大きな声をあげて手を叩いた。
「そうよ!シュウだわ、シュウ・スターリング、もう一つの札は彼に渡しておいたはず」
加奈がこれを数に渡したのは、かなり昔の事だ、結局アイテムは一度も使われず今日まで過ごしてきた。
「シュウも既に<超級>相当の事が無ければ使わないはず。しかし使ったということは何か良くないことが起きている」
先ほどまでの直感とシュウからのメッセージ確実に良くないことがアルター王国に起きていると加奈は悟った
「シュウはたしかギデオンで<超級激突>を見るって言っていたわよね?」
「はい、確かフィガロ様の応援をされると言ってらしたはずです」
加奈はゴゥズメイズ山賊団を討伐する前に一度ギデオンでシュウと出会っていた。その時、彼は<超級激突>に出るフィガロを応援する為にしばらくギデオンに滞在すると言っていた。
「もうすでに<超級激突>は始まってる時間よ、ならば彼は大闘技場にいるはず」
「急ぎましょう、あまり時間は無いように感じられます」
「そうね」
加奈は急いで【アイテムボックス】から【ジェム‐《エスケープゲート》】を取り出すとすぐに使用した。