<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~ 作:夜神 鯨
夜空に溶け込みながら、一路西へと飛行する隠蔽型飛行モンスター【ナイトラウンジ】。
その背中に腰を下ろしながら、フランクリンは手元の端末──2010年代に流行したタブレット端末に似たもの──を操作していた。
「中央広場の寝返り組は全滅。結果は想定の範囲内ですけど、想定より早すぎますねぇ」
「なにをみておるのだ?」
「どうぞー」
フランクリンはアイテムボックスから自分が操作している端末と同じものを取り出し、エリザベートに手渡した。
エリザベートが手渡された端末に視線を落とすと、そこにはギデオンの地図が表示されていた。
同時に、千を優に越える光点も表示されている。
だが、それらの八割方は中央の大闘技場の中にあった。
「このひかりは……<マスター>か?」
光点の数は多いがギデオンにいる人間の総数としては少なすぎる。
ならばギデオンにいる人間で、なおかつ<マスター>に絞ったものではないかとエリザベートは考えた。
「正解でぇす。馬鹿じゃないですねぇ。馬鹿じゃない人とは話が早いから好きですよぉ」
「ちちうえのかたきに、すきといわれてもこまるのじゃ」
エリザベートがそう答えると、フランクリンは何がおかしいのか「ですよねぇ! それがあったりまえですよねぇ!」と言って大笑いした。
その反応はエリザベートにとって不愉快であったが、それ以上になぜそんな反応をするかが不可思議だった。
「あの人はそんなことにもまだ気づいてないんですもんねぇ。ま、自分より年嵩の皇族を皆殺して皇王の座をもぎ取った人にはわっかんなくて当然かもしれませんけど」
「さっきからはなしのつなぎかたがいみふめいなのじゃ」
「それは私と貴女の持っている前提情報に差異があるからですねぇ。話を戻しますけど、お察しの通りにこれは現在ギデオンにいる<マスター>の所在地マップです。リアルタイム…………のね」
端末上では千を越える光点が各々動いている。
このマップはフランクリン手製の隠密監視モンスターにより送信される監視網の情報を、フランクリンのクラン<叡智の三角>が作成した受信端末が受け取り、図示したものだ。
フランクリンはそれらを計画実行の数日前から少しずつ街中にばら撒いていた。
ただし、高度な隠密能力と<マスター>を識別する能力を持たせた結果、情報として送信できるのは位置情報だけになってしまい、そこに誰がいるかはわからない代物になっている。
しかしフランクリンにはそれで構わない。
このマップはあくまで<マスター>位置と──敵味方の識別さえできればいいのだから。
「ひとつおしえてほしいのじゃ」
「何ですかねぇ?」
「このひかり、あかとあおのいろにわかれているがこれは」
「ええ。赤が我々の手の者。青が王国側です。ああ、赤だと敵っぽいですけど、私は赤が好きなのでねぇ」
表示される丸い光点は赤と青の二色に分かれている。事前に登録しておいたフランクリン側の<マスター>は、赤色の光点で表示されているのだ。
総数としてみれば赤は青よりもかなり少ない。
しかし、青の殆どが中央大闘技場に収まっているため、ギデオンの市街で見れば赤と青の差はほとんどない。
そしてさらに情報を付け加えるならば、
「この市街地の青ですが、戦闘に耐えうる<マスター>の数はこの半分もいないでしょうね。大半は決闘に興味のない非戦闘職か、決闘が見たくても今夜のメインイベントのチケットが手に入らなかった三流です」
それゆえに、青い光点は赤い光点に近い順に次々と消えている。
フランクリンの手勢は中央広場の寝返り組を除き、フランクリンとエリザベートの手の中にある端末を渡されている。
それゆえに青い光点──王国の<マスター>を探し、順次撃破できる。
数少ない例外は、つい先ほど大闘技場から飛び出した青い光点によって、瞬く間に中央広場の赤い光点が消滅したことくらいだ。
それも当然。中央広場の寝返り組は、寝返り組の中でも戦力としては弱い部類なのだから。
対して市街地を遊撃している寝返り組は彼らよりも強い。非戦闘職と三流相手に早々遅れはとらない。
だが
「はぁ、まずいですね、この反応は彼女が来てしまったようです」
フランクリンがそう呟くと、同時に端末が震える。
端末を操作すると、そこから声が聞こえてきた。
『助けてくフランクリン!』
『ナニコレ!?助けて!』
『...ビット?』
『ファンネルじゃねぇか!!』
その音声の直後、通信は途切れ、あとはノイズ音だけが発せられている。
フランクリンは端末のボタンを押して通信を切った。フランクリンの持つ端末では赤い点が次々と消えていく。それと同時に青い点が付いたり来たりを繰り返している。
「これが相手ではクラブだけでは荷が重いでしょうね...それに本体の居場所が分からない」
次々と端末からは赤い点が消滅する。マップに残る赤い点は数えるのみ。
「クラブ?」
端末に目を落とせば、マークで表示されている光点は三つある。
一つ目はクラブ。あちらこちらを移動しながら行った先で青い光点を消している。それも赤い光点を消せる戦力を持つ、“例外”の青い光点ばかりを。
二つ目はハート。ギデオンの西門付近に位置して不動。しかし……西に近づいた青い光点が一つの例外もなく消滅している。
そして三つ目はダイヤ。ゆっくりと西へと移動しているこれは……地図と周囲を見比べればわかるがフランクリン自身だろう。
「これはなんじゃ?」
「ああ、このマークは特別です。他の赤い光点は今回雇った連中なんですけどねぇ、マークの光点は自前で用意した戦力なんですよ....」
しかし、そのマークにも青い点が纏わりつく様に追従している。
「あぁ、なるほど...私を攻撃しないのは第二王女がいるからか」
【ナイトラウンジ】の周りに5機のビットが見える。しかしビットは攻撃をする様子も無く、ただ【ナイトラウンジ】を囲んでいる。
「どうするのじゃ、これでおまえさんのたくらみはしっぱいかの?」
「まさか。確かに、ギデオンで彼女に会った時からこんな風になる予感はしていました。何せ今回の計画は彼女が居ない事を前提にして立てた計画です」
この世界に生きる<マスター>たちにアルター王国で戦いたくない者を上げろと言ったら殆どの者が<アルター王国三巨頭>の名前を上げるだろう。しかし、一部の<マスター>は<不可視狙撃>の名を上げる。フランクリンもその一部のものであった。
確かに<アルター王国三巨頭>は強い、“正体不明”の【破壊王】、“無限連鎖”の
しかし、彼女は違う、“不可視狙撃”と言う通り名を持ち、1つのクランを文字通り消滅させた最悪の<マスター>、“不可視狙撃”の
「しかし、もうおいつめられているのではないか?」
たしかにエリザベートの言うようにフランクリンの計画は現在、失敗と言うべき状況にある。街に放ったモンスターや<マスター>は討たれ、自前で用意した戦力も自由に動ける状態ではない。それでもフランクリンはニヤリと笑う。なぜなら
「見つけた」
フランクリンの見つめる視線の先、中央の大闘技場に彼女は居た。大闘技場の中にいる誰かと話しながら、その視線はずっと【ナイトラウンジ】を向いている。
「恐ろしい、私の事でさえその気になれば一瞬で始末できるわけですか....」
フランクリンは恐ろしいと呟きながらポケットから出した1つのボタンを押す。
「恐ろしいから排除してしまいましょう」
フランクリンがボタンを押した直後、加奈に向けて高速で物体が飛来する。金属の骨格に身を包んだワイバーンの様な姿をしたドラゴン。
こいつの名前は
残念ながら最高傑作である
「本当はこんなところで【MGF】を出すはずではなかったのですが、仕方ありません。貴方がゲームに参加するとゲーム自体が壊されかねない」
フランクリンはクスクスと笑いながら再びマップに視線を落とす。
加奈によって手駒を減らされはしたが、ギデオンの街は相も変わらず混乱しており、そのマップの中でフランクリンを示すダイヤが悠々と無人の野を往くが如く進んでいる。
多少の修正は必要だったが何も問題はない。
二秒後、自分を示すダイヤのマークの真後ろに青い光点が出現するまでは。
「?」
その表示に驚き背後を振り返ろうとして、フランクリンは頚動脈を撫で切られた。
続いて、弾丸の如き奇怪なモンスターがフランクリンの体のあちこちを貫きながら爆裂する。
被害はフランクリンだけに留まらず、【ナイトラウンジ】の背中で無数の爆発が起こり──耐え切れなくなって高度を落とし、墜落していく。
フランクリンは、目まぐるしく混沌と化す視界の中で目撃した。
黒い靄に包まれた何者かが、爆発のショックで気絶したエリザベートを抱きかかえて飛び降りる瞬間を。
(…………あー)
フランクリンはその靄に包まれた姿に見覚えがあった。
(そういえばいましたね。<超級>でもないのに<超級>を倒した人が)
<超級殺し>。
そう呼ばれるPKの存在を思い出しながら、瀕死のフランクリンを乗せた【ナイトラウンジ】はギデオンの路地へと墜落した。