<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~   作:夜神 鯨

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リハビリ

 酒場で情報を集めた加奈達は<ノズ森林>へとやってきていた。酒場で集めた情報の中に集団でPKを行っている奴らがいるという情報があったので、早速狩りに行こうかと思い立ったのだが、流石に半年もINせずに颯爽と<マスター>を狩りに行くのは自信が無かったのでPKの情報がなかった初心者用の狩場である<ノズ森林>で腕慣らしをしに来たのだった。

 

「やっぱり初心者用の狩場だからあまり苦労はしないわね」

 

『あまり狩りすぎないでくださいよ、初心者もいるのですから』

 

 狙撃銃の形に変形したヴァルキリアが加奈を注意する。第1形態《ウルズ》AGIに威力依存した狙撃銃型の<エンブリオ>。今でこそ必殺級の一撃を放てるようになっているが、ゲーム開始当初は遅すぎる弾速に足りない威力のせいでロクにモンスターを狩れなかったものだ。

 

『なにか失礼なことを考えてませんか?』

 

「いや気のせいよ」

 

 そんな会話をしながらも加奈は立ち並ぶ木々の一本へと軽々昇り、細かく枝分かれしている枝の内頑丈な一本を見繕うと、足で体を保持し、頭が下になるようにぶら下がる。

 

 ぶら下がったまま体が揺れないように力を入れ、姿勢をコントロールして地面を見れば、狼型のモンスターである【ティールウルフ】が4匹程群れで動いているのが分かる。

 

 加奈は両手に保持した狙撃銃のスコープを覗き【ティールウルフ】へと標準を合わせる。そして大きく息を吸い込むと少しだけ息を吐き、一瞬呼吸を止めて、引き金を引く。狙撃銃からは連続して3発の弾丸が発射された。発射された弾丸は【ティールウルフ】の頭部へと吸い込まれるように侵入しその命を散らせる。

 

 弾丸が直撃した3匹【ティールウルフ】は即座に倒れ光となって散っていく。残された1匹は事態の異常性に気付きすぐさま逃げ出す。

 

 木々の間を縫うように逃走する【ティールウルフ】だが加奈はそれを逃がさず、再びの放った弾丸がコアを正確に貫いた。コアを貫かれた【ティールウルフ】は激しく地面へ倒れこみ、光となって散っていく。

 

『流石はマスター、時間を空けてもその腕前はお変わりない様で』

 

「うーん、リアルでも狙撃銃(コイツ)は触ってたしね、こっちのほうが(<Infinite Dendrogram>)当てやすくていいわ」

 

 加奈はそう言いながら狙撃銃へと変化しているヴァルキリアを撫でる。ヴァルキリアが変化している銃は【DSR-1】リアルだと約40年前のドイツで作られた銃だが、何回もの改修が行われ今でもなお名銃と名高い狙撃銃の一つだ。そして加奈がリアルでよく使う銃でもある。

 

「さてと、場所を変えながら何匹か狩りましょうか」

 

『了解しました』

 

 加奈は体を起こすと枝から枝へと飛び移り、空中で、枝の上で、木を垂直に上りながらなど様々なパターンで狙撃を繰り返す。狙う個所も頭や胴体、足先など様々な個所を狙い、動き回るモンスターを正確に撃ち抜いていく。

 

「さてと、これくらいでいいかしらね」

 

 加奈が満足する頃には日も落ち始め、きれいな夕焼けが森を照らしている。さっきまでの間で優に100体を超えるモンスターを狩っているが、動作の確認としてはまだ物足りない。

 

「次は何処に行こうかし....」

 

『マスター』

 

「...大丈夫、分かってるわ」

 

 ヴァルキリアからの警告にそう返すと加奈はヴァルキリアを2丁の拳銃へと変化させ、こちらへと高速で向かってきていたモンスターを迎撃する。3体飛んできていたモンスターを3発の弾丸で撃破した加奈は、即座に移動を開始、木々を飛び回りながら外套のスロットに装備した【喪失戦衣 ミスト】の効果を発動させる。

 

【喪失戦衣 ミスト】の効果は180秒間の光学迷彩効果及びまで気配の遮断。両方とも発動中はMPを消費し続けるためMPが少ないとすぐに効果が切れてしまうが加奈にとっては問題ない。

 

「さてと、相手はこちらを見失ったかしらね」

 

『おそらくは、追撃がくる気配もありませんね』

 

 先程のモンスターは名前が表示されなかった為、<マスター>の攻撃である可能性が高かった。その為、加奈は真っ先に退避行動を優先したのだった。彼女の職業である【魔弾姫】は遠距離のほうが効力を発揮する。その為、正体不明の敵を相手にして、同じ場所に居続けるのはよろしくない。

 

『先程から聞こえる悲鳴はほかのマスターでしょうか?』

 

 ヴァルキリアの指摘する通り、先程から段々と悲鳴が聞こえてくるようになっていた。スキルのおかげで被害者達の場所は概ね絞れるが、1人ずつ助けに行くと彼らがもたないだろう。

 

「おそらくそうでしょうね...しかし、PKを狩るために訓練していたのにまさかPKの現場に出くわすとは....」

 

『しかし放って置くこともできないでしょう? マスター』

 

 加奈はPKが好きではない<マスター>相手はもちろんの事、ティアンを殺すなんてもってのほかだ、相手が犯罪者や戦争なら話が変わってくるが、それ以外であればPKをしたくは無かった。そんな中行われるPK。加奈からすれば許しがたい光景だった。

 

「もちろんよ...ヴァル、第6形態起動、ホルスターは6機だけ残して残りは攻撃に当てていいわ」

 

 放って置く気はさらさらないのだろう、早々に返事を返した加奈は少し考えて素早くヴァルキリアへと指示を出す。

 

『分かりました、第6形態《ラーズグリード》起動します』

 

 ヴァルキリアの声と共に加奈が握っていた2丁の拳銃が光に包まれ現れたのは12機の金属板。長方形の形をした板は加奈の腰にスカート状にマウントされる。

 

「いつも通りビットの方は私が見るからホルスターの方を頼むわね」

 

 ヴァルキリアが了解と言うのと同時に、スカート状にマウントされていた金属板がパージされる。パージされた金属板は宙に浮いている。

 

 宙に浮く金属板の上方がハッチのように開きそこから一回り小さい金属板が出てくる。小さい金属板は長方形の金属板と形状が少し異なり、拳銃のような形をしているが持ち手が無い。

 

 ヴァルキリア第6形態《ラーズグリード》12機の格納誘導兵器(ホルスタービット)とその中に収納されていたもう12機の小型誘導兵器(ピストルビット)の計24機のビット群からなるこの武装は加奈の周囲を不規則に動き回っていた。そして加奈の操作によって6機のホルスターだけを残し、残りのビットは<ノズ森林>へと散っていく。

 

 ☆☆

 

 同時刻の<ノズ森林>内。今日<Infinite Dendrogram>を始めて一週間の初心者<マスター>リディア・スミスは混乱していた。

 

「クソッ、なんだよこの化け物は!!」

 

 あまりゲームが得意でない彼は【狩人】のレベルも20になったばかりで、ようやくこの<ノズ森林>でを一人で安定して出来るようになってきた。今日も狩りを終え、町に帰ろうとした途端見たことのない化け物に襲われたのだ。

 

「一体ずつなら、対処できるけど...数が多すぎる!」

 

 自身の<エンブリオ>である弓を使いながら迫りくる黒い化け物を対処していく。1体ずつなら対処できるが複数の敵が来たら対処できない。

 

 先程から聞こて来ていた悲鳴の数が少なくなってきている。みんな殺されたのだろうか。

 

「しまっ....」

 

 気を散らしてしまった一瞬で3体の化け物に囲まれてしまう。三方向から襲われれば対処できない、HPの低い自分ではやられてしまう。

 

 もうだめだ、そう思い恐怖から目をつむり手で顔を覆う。

 

「.....?」

 

 いつまでたっても攻撃は来ない。恐る恐る目を開けると目の前では短剣サイズの金属の板が2つ浮遊していた。

 

「うわ、まだ来る!」

 

 先程よりも多い化け物が迫りくるが、金属の板は先端から光を放ち化け物を殲滅していく。

 

「なんだか分からないけど助かった」

 

 リディアはお礼をいうと即座に反転し<ノズ森林>から脱出したのだった。

 

 ☆☆

 

「今ので12人か、少し行動するのが遅かったわね」

 

『しかし、PKは確実に防げています』

 

 加奈は両手に変形させたビットを握り森を駆ける。途中出くわした<マスター>達を救いながら、それと並行して同時に稼働している10機のピストルビットを操り、化け物を殲滅し続けている。既に12人の<マスター>を森から脱出さえているが、PKを知らないマスター達が新しく入ってきているのか<ノズ森林>にはまだ相当数の<マスター>がいるようだ。

 

「16機では手数が足りないか...」

 

 自身の防御に回している6機のホルスタービット、さらに両手に持った2機のピストルビットを除いた16機のビットでは広範囲に散ったマスター達を救助できない。しかしこのまま続けてもビット操作との並行処理で集中力が足りなくなってしまう。

 

『本体を叩いた方が早そうですが...』

 

「スキルを使った探知ができないのよね...私が探知できないとなると、恐らくは隠密系の超級職か特典武具の効果ね」

 

 先程から使用している探知系のスキルと合わせてビットによる捜索も行っているが、この事件を行っている敵の姿が見つからない。加奈はこれだけ邪魔をしているのだから、逃げるか向かってくるかをすると踏んでいたがその読みは見事に外れる。

 

「しかしこのままだと、じり貧ね」

 

 なるべく被害者を減らしたい加奈としてはこれ以上時間をかけて、被害者が増えるのは避けたかった。

 

「しょうがないわね、久しぶりだけれどいいわ、第7形態も使いましょう」

 

『よろしいのですか? 使いすぎればいくら【十束指輪 エーテリア】があるとはいってもMPがもちませんよ。ただでさえ【半騎器官 グレイテスト・ハート】の影響で自動回復以外の回復手段が絶たれているのですから...』

 

【十束指輪 エーテリア】は自身の最大MPを貯めることができる<神話級武具>しかも装備している指輪の数だけ効果が発揮される。加奈はスキルで増やしたアクセサリー枠も含めて合計10個の指輪をはめている。

 

 そして【半騎器官 グレイテスト・ハート】は<超級武具>ドライフ皇国へと移動中に出会った<SUBM>【一騎当千 グレイテスト・ワン】 との戦闘で入手した特典武具、当時は【獣王】【冥王】と協力して倒すことができた。

 

 効果はMPの自動回復、HPの自動回復、SPの自動回復、MP消費の軽減、周囲のMPを吸収し貯蓄する。そして自身のMPを10倍する。対価として、この装備の着脱不可、デスペナルティー常時2倍、回復アイテム等を用いた回復が不可能となり自動回復以外で回復できなくなる。というものだ、強力な反面対価も大きい。

 

「大丈夫よ、【十束指輪 エーテリア】も全て充填し終わっているし、今のMPでも最大稼働しなければ10分間は起動できるわ」

 

 第7形態《ブリュンヒルデ》は24機の小型誘導兵器(ピストルビット)及び格納誘導兵器(ホルスタービット)並びに、12機の狙撃大型誘導兵器(ライフルビット)及び格納誘導兵器(ホルスタービット)の計72機による広範囲殲滅を得意とする武装、強力な反面、膨大なMPが必要となる最大稼働すれば毎秒約10万ものMPを消費する。最大ではなく通常稼働でさえ5万ものMPを消費してしまうのだ。

 

 更にビットの操作は全て自動操作では無い。72機もの機体を加奈とヴァルキリアの2人で動かす必要がある。それに加え加奈は自身の移動や手足を使った攻撃、スキルの使用など一人の<マスター>が行うには多すぎる作業をこなさなければならない。

 

『了解しました、第7形態《ブリュンヒルデ》起動します』

 

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