<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~ 作:夜神 鯨
加奈は燃え盛るギデオンの街を中心に向かってひたすらに駆ける。道中なるべく騒動を鎮圧するために街中にビットを展開し、蔓延るモンスターや武装した<マスター>を展開したビットで無力化する。
しかしモンスターはともかく<マスター>に関しては、どちらが敵か味方かも分からず、ビット越しでは問いかける手段も無い為、仕方なしに武装している者を問答無用で無力化していた。何割かは味方も混ざっているだろうが、後手に回るよりはマシと加奈は考えたのだった。
逃げ惑う人々の間を縫うように進み、加奈がギデオンの中心、大闘技場に到着するまでにそこまで多くの時間は掛からなかった。
大闘技場に到着するまで僅かな時間だったが、街中で暴れていた多くの<マスター>はそのほとんどを無力化することに成功している。
しかし、<マスター>の数が減少するにつれて、それを補うように数多くのモンスターが街の至る所から出現していた。加奈もヴァルキリアと分担して対応をしているが、不意急襲的に現れるモンスターから街のすべてをカバーするには72機のビットだけでは不足していた。
『マスター、首謀者らしき人物を発見しました』
シュウに会う前に少しでも状況を打開しようと頭を悩ませていた加奈にヴァルキリアから朗報が入る。
「殺れそうかしら?」
加奈は簡潔にそう聞いた。
それに対してヴァルキリアは少し黙ると、申し訳なさそうに呟く。
『....難しそうです』
そう言ったヴァルキリアは加奈が質問する前にその理由も話す。
『フランクリンと思われる人物の隣には情報提供のあった第二王女と思われる人物もいます。攻撃すれば第二王女に当たる可能性も0%ではありません』
ヴァルキリアと視点を共有し、首謀者がいると思われる地点を加奈は覗く。ギデオンの上空、西に向かって飛行する飛行モンスターの上にそれはいた。白髪とメガネと白衣を身につけているくらいしか特徴がない男、そしてその横には加奈が知っているより少し大人になった第二王女が座っていた。
「確かに危ないわね、流石に私もエリザベートちゃんを殺して“監獄”行きになるのは嫌よ」
王族殺しは重罪だ、どれだけ功績をあげ、アルター王国に尽くしても王族殺しをしてしまえば確実に罪に問われる。
『《魔弾》を使えばフランクリンだけを殺すことはできますが、身代わり系のアイテムがあれば無意味になってしまいますね』
【魔弾姫】の奥義を使えばフランクリンだけを確実に仕留めることができるが、最後の魔弾でなければ確実に殺しきることはできないだろう。
「今はまだやめましょう、監視だけつけて放置でいいわ」
『分かりました』
ヴァルキリアが言うと飛行モンスター【ナイトラウンジ】の周りに5機のビットが張り付く。これで少しは牽制できただろうと考えながら加奈は大闘技場へ向かった。
大闘技場に着くと大闘技場には内外を遮りるような結界が張られていて、大闘技場内では何人かの<マスター>が無力さを嘆くように項垂れていた。
「なるほどね、闘技場の結界と同じようなものか、これなら破れないこともないと思うけど」
闘技場の中にはシュウがいる。彼ならこれくらいの結界を破るくらい造作もないだろう。しかし、結界はいまだ破られず、<マスター>達が抵抗をしているようすもない。
『となると、この結界を攻撃、または破った場合に何かしらのペナルティーが発生する可能性が高いですね』
恐らくは、<マスター>ではなくティアンやギデオンの街に仕掛けられた仕掛けが発動するのだろう。なんとも陰湿な作戦だ。
「考察はここまでにしましょう。正確な情報を集めて適切に動かなければこちらが負けてしまうわ」
『そうですね。まずはシュウ様に会わなくてはなりません』
加奈は「ええ」と返事をすると。壁の近くに立っている冒険者に声をかけた。
「すこし、よろしいかしら?」
「あんた、俺に話しかけてるのか?」
袴を履いて、刀を腰に下げた侍の様な男は壁の外から話しかけられたことに驚きながらも、加奈の問いかけに応じる。
「驚いたな、あんた<マスター>だろ?こんなところで何をしているんだ?」
こんな非常時に戦闘もせずにふらついているように見える加奈を男は怪しむような眼で見る。
「怪しいものじゃないわ。ギデオンから爆発音が聞こえたから駆け付けたのよ。何体かのモンスターと<マスター>は倒したけど状況が分からなくてね、情報が欲しいのよ」
「なるほど、フランクリン側の手勢じゃないってことか....いいだろう。俺はムサシ、一応は【武将】っていう上級職だあんたは?」
「私は加奈、【魔弾姫】の超級職よ」
加奈の職を聞いたムサシの眼にわずかな輝きが戻る。
「超級職ならありがたい。この結界は闘技場の結界が流用されててな、そのおかげでレベル50以下の
ムサシの語る情報は、加奈たちが想定したものとほとんど変わらなかった。
「そのせいで今ギデオンの騒動に対処しているのは50以下の初心者たちか、<超級激突>を見に来ていない僅かな者達だけだ」
その対処に当たっている者達を倒してしまったかもしれないと加奈は思ったがその思いは決して口にしない。
「OK、大体わかったわ、外の状況には私が対処するから1つお願いがあるの」
「なんだ?」
変な要求でもされるのではないかと男は息をのむ。
「クマの着ぐるみを着た人物を見つけて連れて来て欲しいの。名前はシュウ・スターリング。加奈が呼んでいるって言えば来ると思うわ」
「なんだそれぐらいだったらいいぜ」
「よろしくね」
男は仲間を何人か連れて奥の方へと走っていった。少しふれまわるだけでシュウは反応するだろう。そう考えながら加奈がシュウを待っていると、上空から巨大な気配が接近してくる事に気付く。
「フランクリン...ではないみたいね」
『真っ直ぐこちらに向かってきます。接敵まで5秒』
ヴァルキリアの読むカウントが進むにつれて敵の姿が大きくなる高速で接近してきたのは金属の骨格に身を包んだドラゴン。
赤いオーラを纏ったドラゴンは速度を一切緩めることなく、加奈へと突撃した。
「……無茶苦茶ね」
『全くです』
「しかもあのオーラは《竜王気》ね少し面倒だわ」
この世界にいる竜種、ドラゴン達の中には【竜王】という者達が存在する。
純竜の中の一種族の王であると共に、当代唯一無二の強大な存在であるためにいずれもUBMとも認定される。
彼らが持つスキルの1つが《竜王気》物理攻撃も魔法も大幅に減衰する攻防一体のオーラを纏う。
高速で突撃したドラゴンは加奈に当たる直前、金属の板に阻まれた。加奈とドラゴンの間に入ったビットは3枚で1つの盾となり、ドラゴンの突撃を完全に防ぐ。
突撃が防がれたドラゴンは、間髪入れず口からブレスを吐く。放たれたブレスは余熱で地面を溶かしながら加奈へと進む。ブレスは大闘技場の壁まで防がれることなく進み周囲一帯を炎と高熱で満たす。近くにあった石像は溶けて原型が完全に無くなり、闘技場を囲むように建っていた家屋も徐々に融解していく。
「なかなかやるわね、物理攻撃が防がれたら、次は広範囲に広がる属性攻撃なんて」
燃え盛る炎の中から加奈の声がすると同時に炎をかき分けてビットが飛び出す。
飛び出したビットは【MGF】の周りを囲むように飛び交い、次々とビームを放つ。
次々と飛来する光線が【MGF】の身体を貫く。攻防一体の赤いオーラ《竜王気》によって減衰しているはずの攻撃は、少しずつしかし確実に【MGF】へダメージを与えていく。
たまらずブレスを中断し距離を取る【MGF】しかし距離を取っても追従するように飛翔するビットは四方八方から攻撃を加える。
「耐久力も上々、それに防御力も高いみたいね」
『惜しいものです、こんな状況でなければ良い戦いができたでしょう』
【MGF】が放ったブレス、燃え盛る炎の中を加奈は何事も無かったかのように歩いている。
加奈の周りには彼女を中心にするようにビットが展開し、周囲の炎を抑え込んでいた。
「グゥゥ....」
分が悪いと踏んだのか【MGF】は上空へ逃げようと翼を広げようとする。
しかし、上手く翼は広がらない。【MGF】が慌てて自身の翼を見れば、翼は凍り付き広げることが出来なくなっている。
ならばと後ろに飛び退こうとするが、急に体重が鉛のように重くなり尻餅をつくように後ろへと転んでしまう。
「ごめんなさいね、今は遊んでる時間が無いのよ」
無慈悲に加奈が言い放つと同時に数機で合体したビットが【MGF】へ向かって極太の光線を放った。
光線に当たった先から【MGF】は分解されて数秒で影も形も無くなってしまう。
「さすがクマね」
【MGF】との戦闘が終わり大闘技場へ戻ろうとした加奈に聞きなれた声がかけられる。声がした方向を見ればつい数日前に別れたばかりのクマがそこにいた。