<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~   作:夜神 鯨

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動乱 破

「あら、案外早いご到着ね」

 

【MGF】を倒した後クマの着ぐるみを発見した加奈は声が届きやすいように大闘技場へと近づく。

 

「おいおい、嫌みはやめてくれクマ、こっちにも対応すべき案件があったんだクマよ」

 

 ゆっくりと近づいて来る加奈にシュウは苦笑いをしながら答える。

 

「それは、貴方が外に出ない事にも関係するのかしら?」

 

「勿論クマ。“物理最強”と“魔法最強”が闘技場内にいるクマ。理由までは分からないけど、もし、万が一にも暴れ始めたときに止める者が必要クマ」

 

「なるほどね、ちなみに<超級激突>で戦ってた2人は?」

 

 シュウの話を聞いて加奈はシュウが大闘技場を警戒する理由を理解する。通りで大闘技場内からとてつもない気配を感じたわけだ。シュウが異常時につき力を開放していると考えていた加奈だったが、<超級>が複数人いればとてつもない気配を感じるわけだと納得した。

 

 しかし、大闘技場内には<超級激突>で戦っていた迅羽とフィガロが居るはずだ。迅羽は分からないが、フィガロがいれば最悪彼に任せる事もできたはずだ。

 

「フィガロはどうしたの? 彼であれば勝つことは出来なくても時間稼ぎくらいできるでしょ」

 

「あぁ、フィガ公は闘技場の中にある結界に捕らわれているクマ。もちろん助ける事も出来るが、そうするとフランクリンにバレそうだからな、今はまだ大きく動けないクマ」

 

 柱に寄りかかりながら話すシュウからは怒りの感情が伝わる。あまり感情を表に出さない彼からここまで強く気配が伝わるのは相当悔しいのだろう。

 

「それと、弟がこの問題を解決しに仲間たちと向かった。方角的には西に向かったと思う、すまないが動けない俺の代りに助けてやってくれ」

 

「OK、いいけど、彼を優先することは出来ないわ。この街には助けなければならない子たちもいるかね」

 

「それでいいクマ、余裕があれば助けてやってくれ」

 

「わかったわ。もう少し話したい事もあるけど今はこれだけ聞ければいい」

 

 本当は【呼び出し札】の話やこの事件が起こった経緯などを詳しく聞きたかった加奈だが、残念なことに今は時間が無い。多少の情報交換と、対処しなければならない事の情報を軽く聞いただけで加奈は話を終わらせた。

 

 それに、どうやら加奈が【MGF】と戦っている間にもフランクリンの方にもひと悶着あったようであった。監視用のビットを1機しか残さなかったので情報の収集を正確には出来なかったが、第二王女が何者かに一度攫われそれを無事に取り戻したみたいだ。フランクリン自体も一度倒されたが、現在もギデオン上空を飛行していることからなんとか無事だったのだろう。

 

「ヴァル、一番大きな戦闘が起きているところから介入していくわよ」

 

『それですと、第二王女様を攫った人物が現在ギデオン九番街の付近で戦闘をしています。かなりの強者みたいですので、助けることが出来れば戦力にはなるかと』

 

「分かったわ、そこから行きましょう」

 

「頼んだクマよ」

 

 シュウに手を振りながら加奈は九番街へと走る。全力を出せばほんの1、3分で到着する距離だ。道中見つけたモンスターは追従するビットで容赦なく撃ち抜き、1匹残らず殺しつくす。

 

 屋根の上を走り、九番街に到着した加奈の眼下では戦闘が開始されていた。加奈と同じようにスーツを着たサングラスの女性。それと相対するのは鳥の顔を模した帽子を被って指揮棒を振る男性。その彼を囲むように弦楽器を弾き鳴らすケンタウロス。管楽器を吹き鳴らすケットシー。打楽器を打ち鳴らすコボルド。鍵盤楽器を奏でるハーピー。がそれぞれの楽器を奏でている。

 

 彼らは目まぐるしく動きながらそれぞれの攻撃を繰り出す。スーツの女性は手に持ったリボルバーから爆発する生物の様なものを撃ち出し、付近の建物を爆発させている。避難が終わって無ければ被害は甚大だろう。

 

 相対する指揮者の格好をした男性は迫りくる弾丸生物を手前ですべて砕き、お返しとばかりに超音波による斬撃をお見舞いする。

 

「強いわね、2人とも超級職、エンブリオも第六形態の<上級エンブリオ>ってところかしらね」

 

『そのようです。女性の方は速度に特化したタイプ、<エンブリオ>はアームズかレギオンでしょうか。それに対して男性の方は支援系でしょうか? <エンブリオ>はレギオンみたいですけど』

 

「おそらく女性の方が暗殺系の職なのでしょう。立ち回りと速度特化しているところから分かるわ。男の方は職と<エンブリオ>の相性がいいのね、それにおそらく音を使った目に見えにくい攻撃。広範囲に広がる攻撃では速度を活かすのは難しいわね」

 

 2人のせわしなく動く戦闘を観察した加奈たちは2人の力量を正確に測っていく。

 

「それで、ヴァル何方が味方かしら?」

 

「第二王女様を攫ったのは女性の方です。フランクリンに一撃入れてましたのでこちら側で間違いないかと」

 

 観測している間にも戦闘は進んでいく。男性の放つ音の結界を破れない女性は攻撃を放ち続けてはいるがいまいち攻めあぐねている。おそらくこの後の戦闘を考えての温存だろうが、どちらにせよ倒すためには奥の手を出さざるおえないだろう。

 

「戦闘を楽しんでいるところ申し訳ないけど速攻で沈めましょう」

 

『分りました』

 

 指揮棒を振っていた男が指揮棒を止め演奏が停止する。おそらく攻撃方法の変更。スーツの女性は警戒して攻撃に出れていない。ならば今が好機とヴァルキリアは集めた20機のビットを操り男へ向けて雨のように光線を放ち続ける。

 

「なっ!」

 

 上空からの奇襲、音の結界を貫通してくる攻撃に男は回避するしか選択肢がなかった。

 

「面白い戦術ね」

 

 男の戦術は面白いものだった。自身が鳥の帽子を被ることによってハーピーの存在を隠し、時間がかかる大技の発動を上空で待機していたハーピーが行う。スーツの女性がハーピーに気付いていなかった様子からそれ以外にも仕込みを行っていたのだろう。

 

 しかし加奈には関係ない。この指揮者の男ベルドルベルがギデオンの中央広場で、ここ数日の間ずっと演奏をしていたことも。上空のハーピーを巧みに隠し、目の前の女性マリーに気付かれないようにしていたことも。

 

「お前は....!!」

 

 加奈の声に気が付いて振り向いた時にはすでに遅い。彼を守る音の壁ごと殴られた彼は建物の方へと吹っ飛んでいく。なんとか受け身を取ろうとベルドルベルが近づいている壁の方を見ると、そこには先ほど自分をふきとばした女が構えて待っている。

 

「ごめんなさいね」

 

 そう言うと加奈は飛んできたベルドルベルを上空に蹴り上げる。上空に打ち上がったベルドルベルはヴァルキリアの操作するビットの一斉掃射を受ける。ヴァルキリアの放つ光線はベルドルベルを守る振動結界を無視して彼にダメージを与え続ける。途中【救命のブローチ】などの身代わりアイテムが何度も発動するが、それは破壊の嵐とも呼べる攻撃の前では一瞬、刹那の延命でしかない。

 

 自信を守る音楽隊は存在せず、空中で体のバランスを整える事も出来ず、ベルドルベルは光の粒となって消えてしまう。

 

「あなたは、一体?」

 

 突然の乱入者によって救われた形となったマリーだが、乱入者が何者なのかも分らないのでは警戒を解除する事も出来ない。彼女は何者なのか? なぜ自分を助けたのか、その理由を得られずにいた。

 

「私は加奈、浮いているこの板みたいなのが私の<エンブリオ>よ。第二王女をフランクリンから奪い返したのは貴女でしょ?」

 

「そうですが、また奪われてしまいましたが....」

 

「ああ、いいのよ、気にしないで。そう言えば貴女名前は?」

 

「私はマリー・アドラー、一応は王国側の人間です」

 

 マリーの名前も確認しニコニコと笑う加奈だが、マリーとベルドルベルの戦闘を邪魔したことを申し負けなく思っていた。実力も拮抗している。さらにこの世界にかける願いも同じ部類のものだろう。最後まで戦えば互いに良い成長が望めた戦いだった。

 

 そんな戦いを邪魔してしまったことに若干の罪悪感を持っていた。しかし、早期に介入した甲斐もあってマリーの損害はそんなに大きくない、多少の疲労感はあるだろうがまだまだ戦闘をこなすことは出来るだろう。

 

「戦闘を終えた後に悪いのだけど少し頼まれごとをしてくれないかしら」

 

「頼まれごとですか?」

 

「そう、簡単に言えばモンスターの処理をお願いしたいのよ」

 

 ギデオンの街中にモンスターをばらまいているのは街中に設置されたモンスター解放装置が原因であった。狙撃手系の派生職を極めている加奈は《隠蔽感知》も持ち、《隠蔽》の施されたものを得意としていた。その甲斐もあって街中に設置されたモンスター解放装置を発見する事に成功していた。

 

 しかし、それらすべてを破戒し回収する為には1人では手が足りない、現在発見できているだけでも1000個以上の装置がばら撒かれており、街中に出現しつつあるモンスターの数を考えると総数はもっと多いかもしれない。

 

 シュウから聞いた話ではフランクリンが予告した刻限になるとモンスターが街中に放たれるらしい。そうなってしまえばどれほどビットを駆使しようが、必殺スキルを使おうが1000体を超すモンスターを被害なしで抑える事は出来ない。

 

「街中に散りばめられたモンスター開放装置、それを私と一緒に破壊回収して回って欲しいの」

 

「なるほど...それならば協力はできそうです」

 

 加奈の提案にマリーは即座に了承をする。

 

「助かるわ、戦闘を見ていた限り貴女もかなりAGI特化みたいだったから2人でやれば予告された時刻までには終わるはずよ」

 

 モンスター開放装置を回収するのはもし仮に予告した刻限までに対処が出来ずにモンスターが開放されてしまった時に対応し易くするためともう一つ理由があった。

 

 それはフランクリンが約束を破ってモンスターを開放する可能性があるからだ。第一にギデオンに壮大な下準備をして時期を狙った用意周到な大規模テロを仕掛けた相手が、時刻までにクリアできたからハイ終わりとなるなんて加奈は考えられなかったのである。

 

 街中に設置された1000体を超すモンスター、<マスター>の裏切りを手引き、大闘技場の小細工に、その地下に感じた生体反応。大闘技場に偶然居合わせた2人の<超級>、さらにギデオンの外で待機している何か、ここまで策を巡らせている奴を相手にして、その場凌ぎの対応をしていれば必ずこちら側が後手に回ってしまう。そうなればフランクリンに勝つことは出来てもギデオンが滅びかねない。

 

 そうなってしまえば王国は間違いなく衰退の道を辿ることになる。だからこそここで革新的な一手を打たなければならない。幸いにもフランクリンは西門の外で最終フェイズに入ろうとしている。さらに彼を止めようと騎士団とレイ君と仲間たちが向かっている。それに加え街中を監視していたモンスターもその大半を始末済みだ。こちらに割くリソースは多くないだろう。

 

「とにかく、一個でも多くの装置を破戒回収して、近くの装置まではこのビットが案内するわ」

 

 加奈が言い終わるとマリーの横に一機のビットが付く。

 

「わかりました。それではまた後で」

 

「ええ、お願いね」

 

 ビットに引き連れてマリーがその場から消える。それと同時に【十束指輪 エーテリア】の内1つが淡く輝き、加奈のMPが回復する。

 

『指輪も残り3つですか』

 

 全力で動かし続けた《ブリュンヒルデ》は加奈のMPを尋常ではない速度で消費し10分ごとにMPを消費しつくしてた。

 

「形態を《ラーズグリード》に戻しましょう。モンスターの数も減ってきた今なら《ブリュンヒルデ》でなくても対応できるでしょう」

 

『分りました』

 

 ヴァルキリアは第七形態《ブリュンヒルデ》から第六形態《ラーズグリード》へと姿を変える。それに合わせてゴリゴリと削れていた加奈のMPは多少減少が収まる。

 

『ギデオンの街中を監視することは出来なくなってしまいましたが、ビットの配分はどうしますか?』

 

 ヴァルキリアに問われて加奈は少し考える。街の中心から東のエリアに関してはほぼ索敵が終わりモンスター解放装置もかなりの数発見する事が出来ている。見逃したものもあるかもしれないが、見返す時間は無い。幸いにもマリーが東のエリアから順に潰してくれているので後は彼女に任せるしかない。なのでビットの配備が重点的に必要なのは西側となる。しかしビットの数も3分の1となってしまっている。

 

「フランクリンの監視及びマリーの案内は継続。後は私の周りに3機を残して、それ以外は西側の探索に当てなさい」

 

『分りました』

 

 加奈が指示を出すと、加奈の周りで待機していたビットも3機を残して西の方へと飛んでいく。

 

「後は時間が勝負よ」

 

『わかりました』

 

 加奈はビットを足場の代わりとして建物の屋根へと上る。そして眼下に広がるギデオンの惨状を一瞥すると、西へと走り始めたのだった。

 

 

 

 

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