<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~   作:夜神 鯨

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動乱 急

「さてと、困りましたね」

 

 ビットに引きつられながら道を進むマリーは子声でそう呟いた。自身の声がビットに聞こえてないだろうか?それ以前にあのビットは音を拾うのだろうかそんなことを考えながら先ほどの事を思い出す。

 

 しかし、まさか“PK殺し”がこの場にやってきているとは思いませんでした。私の事はバレていないでしょうか?うーん、心配です。

 

 白金の髪を後ろで結び、蛇のような琥珀色の瞳をもち無数のビットを扱う女性。顔を見たのは初めてでしたが、加奈という名前といい彼女がかの有名な“PK殺し”なのでしょう。

 

 なにせ彼女の情報は噂の広がりに反するように異常に少ない。そのことさえ、彼女の事を知る人物はみな消されてしまった、情報を得たものは消されるなど、半ば都市伝説のような噂が出回る始末です。

 

 そんな彼女を前にしたら頭が真っ白になってしまったので、一体どんな受け答えをしたかも覚えてません。変な受け答えはしてなかったでしょうか....やはり心配です。

 

 しかし、私とほぼ互角だったベルドルベルをまるで赤子をひねるように倒してしまうとは流石は<超級>の中でも上位に位置していただけの事はあります。しばらくのブランクがあるはずなのにあのランクにいるとそんなものは関係ないのでしょうか。

 

 “不可視狙撃”に“PK殺し”の通り名を持つ狙撃手。今回の事件を起こしたフランクリンもかなりヤバいやつですが加奈、彼女はそんなものの比ではありません。なにせフランクリンが一人をこのゲームから排除したのに対して彼女は1つのクラン、しかも大規模なPKクランをこのゲームから排除してしまったのですから。

 

 こう思うとフランクリンもかわいそうなものです。フランクリンもかなり危険な奴ですが、加奈の前だと霞んでしまいますね。

 

「おっとどうやらついたようですね」

 

 先導をしていたビットが止まり銃口がある一点を指す。私も《隠蔽感知》を発動させると、そこにはジュエルが埋め込まれた機械のようなものが存在した。

 

「これを壊して...っと」

 

 壊した機械を大きな袋の中に入れていく。袋は既にかなり膨らんでおり、中には先ほどと同じ機械が大量に入っている。

 

「これで212個目ですか...まだまだ先は長そうです」

 

 私が機械を回収したのを確認するとビットは次の場所へ向かって移動を始めました。あのビットは自動で動いているのでしょうかそれともすべて動かしている?

 

 そんなささやかな疑問を抱きながらマリーはビットの後を追って走り出した。

 

 ☆☆

 

『マリー様は212個目の装置を回収しました』

 

「あちらも順調のようね」

 

 加奈は320個目となるジュエルが埋め込まれた機械を回収しながらヴァルキリアの報告を聞く。合計で500個以上の装置を回収できたが、まだまだ先は長い、新たに発見した装置を含めると合計で1500個ほどの装置が確認できている。

 

「早めに動き出して良かったわ、1500体ものモンスターが暴れ始めたらどうしようもなかったもの」

 

 ここが街でなかったらいくらでもやりようはあった。最悪シュウが暴れればすべてが無に還るが問題は解決できるのだ。しかし、“決闘都市”とも呼ばれる発展した都市を無に還すことはアルター王国にとっても大打撃になってしまう。

 

『しかし、尋常ではない程の量ですね既に出ているモンスターも合わせれば2000個ほどの装置が隠されていたのではないでしょうか』

 

「でしょうね、これだけ倒してもまだモンスターが出続けているのを考えるともっとある感じもするわね」

 

 倒したモンスターの数は500体を優に超している。それでもなお増え続けているモンスターを見ると2000個以上の装置があっても不思議ではなかった。

 

「それに時間が来るか、大闘技場の結界を攻撃しない限りモンスターが出ないって言うのも嘘みたいね」

 

『それでなければ結界を攻撃し続けている<マスター>がいるか、ですかね』

 

 そんな馬鹿なと加奈は思うが、誰が何をするかなど完全に予測することは出来ない。もしかしたらなどとも考えるが、すぐにそんな考えを打ち切る。

 

「まあ、そんな奴がいたとしてもフランクリンが約束を守っていないと考えても同じようなものよ」

 

『フフフ、確かに私たちの状況が変わるわけでもないですものね』

 

 そんなことを話しながらも加奈たちが回収した装置の数は500個を超えている。<Infinite Dendrogram>の中でも最高峰と呼べるAGIを持つ加奈のは雷のようにギデオンの街中を駆け抜けモンスター解放装置を回収していく。

 

「先が見えないわね、街の状況にもあまり注目できない」

 

 モンスター解放装置の索敵、破壊、回収を最優先して自身の身体とビットを操作している加奈は外の様子を気にしている余裕が無い。情報収取と状況の対処をヴァルキリアへと丸投げし、自身は装置の回収に集中してる。

 

『フランクリンが予告した時刻まで後10分ほどです』

 

「現在の個数は!?」

 

『現在合わせて1500個以上の装置を回収しています』

 

「そう、なら間に合うわね」

 

 集まった装置の個数に加奈が安心をしていると突如、空中に映像が映し出される。

 

『この映像をご覧の決闘都市の皆様、そして王国の皆様! 先ほどぶり、あるいはハジメマシテ! 【大教授】Mr.フランクリンでぇす。今宵これより、私のゲームのクライマックスをお見せいたしまぁす!』

 

 映像に映し出されるのはフランクリン。録画かと疑う加奈だったが、フランクリンを監視しているヴァルキリアがリアルタイムの映像だと肯定する。

 

 

『ここにありますは、ある装置のスイッチ! その装置とは、決闘都市全域に仕掛けられたモンスター解放装置に他なりません!』

 

「不味いわ、まだ回収し終わってない」

 

 モンスター解放装置をちらつかせるフランクリン。加奈の焦りを感じ取ってか、フランクリンは監視をしているビットへ目線を向けてニヤリと笑った。

 

『このスイッチにはタイマー機能がついておりまして、あと652秒後に全てのモンスターを解放する電波を発信する仕組みになっておりまぁす! ……と言っても、何匹かは乱入者のおかげでフライングして解放せざるをえなかったですけどねぇ』

 

 フランクリンの言う乱入者とは十中八九、加奈の事だろう。

 

『全モンスターの解放!? 待ってください、それでは……!』

 

 画面の先で近衛騎士団の副団長リリアーナが切迫した表情で叫ぶ、それを見たフランクリンは笑みを強めて答えた。

 

『そう、およそ3000の装置から湧き出る、亜竜クラス以上のモンスター3000体。それが一斉に決闘都市を襲いますねぇ。一応は<マスター>以外の人間は襲わないように設定しているけど、<マスター>は襲うし建築物にも躊躇しませんねぇ。この街、どれくらい壊れるんでしょうねぇ?』

 

「その情報も信用できるか分からないわね!」

 

『全くです。ここで正確な数を必要がありませんからね』

 

 装置を回収していると分かっているからブラフとして数を言ったのか、それは分らないが、しかし少なく見積もっても装置は3000個以上あることだけを加奈たちは理解できた。

 

 なぜならば、わざわざ誇張する必要がないからだ。少なく数を言うことで加奈たちの油断を誘う可能性はあるが、数を誇張する必要はない。なぜなら時間が来ることで結果は出てしまうからである。

 

 加奈たちをギデオンに足止めするならば時間制限を設ける必要がないのだ。そうすればいつどこから現れるかわからないモンスターに対処するため街に残り監視をする必要が出てくる。そうなれば、大闘技場の中にいるマスターも牽制できるうえ、加奈かマリーを街の警護に残すことが出来る。

 

「まあ、時間で全モンスターが開放されるっていうのがデマだったら、もう対応できないわね」

 

『初動で後手に回てしまいましたからね、予期出来ていれば人員を集められたのですが』

 

 ヴァルキリアの言葉に加奈は息を飲んだ。

 

『どうかしましたか?マスター』

 

「いえ、完全に予期できなかった訳ではないわ。ゴゥズメイズ山賊団を壊滅させる前にであったドクターフラミンゴ....しっかり調べておけばこんなことには....」

 

 あの着ぐるみの中に入っている人間の名前までは分からなかった。ただ、悪だくみをしている事と、知ったような気配がしただけだった。しかし、あの着ぐるみの中身は間違いなくフランクリンだったのだろう。おそらくモンスターが開放装置を設置している最中だったのだろう。後悔しか残らないと加奈は思った。あの時もっと注意をしておけば...。

 

「しかし、今更後悔しても遅いわね。残りを早く集めましょう」

 

『さて、このスイッチですが……ぽーい』

 

 映像の中ではフランクリンがスイッチを自身のモンスターに食べさせている。

 

『あと600秒程でスイッチは信号を発信しますが……発信を止めるにはこの【RSK】を倒すしかありません』

 

 フランクリンはそこで言葉を切り……オーバーモーションでリリアーナを指差した。

 

『戦いを挑むのは近衛騎士団副団長【聖騎士】グランドリア卿! 近衛騎士団第三位【聖騎士】リンドス卿!』

 

 二人を指した後、

 

『そして! この場に唯一辿り着けた<マスター>……【聖騎士】レイ・スターリング君でぇす!』

 

 レイ・スターリングを指差した。

 

『さぁ! 三人の【聖騎士】は決闘都市を守れるのか! 全てはこの三人の肩に掛かっております!』

 

 

『ですので』

 

 そこで一度区切ったフランクリンはまがまがしい笑顔で

 

『──街がなくなったときはこの三人を怨んでくださいねぇ?』

 

 と言い放ったのだった。

 

『目くらまし!?』

 

『レイさん! この光に乗じて攻撃が来ます!』

 

 画面を覆いつくす程の閃光の中、映像の先では戦闘が開始されている。

 

「ヴァル、援護できそうかしら?」

 

『どうやら厳しいみたいです。フランクリンを監視しているビットにも他のモンスターが集まってきました。しかも、相手かなり早いです!』

 

「あくまで邪魔はさせないつもりね」

 

 集めた装置は2000個を超えた。フランクリンを信じたくはないが、彼が言った言葉が真実ならば残り1000個となる。しかし、討伐しているモンスターも含めるなら残りは500個以下だ。

 

「ごめんねシュウ、レイ君のピンチだけど助けに行けそうにないわ...」

 

『マスター』

 

 悲しく呟いた加奈だったが次の瞬間には俯いた顔を上げヴァルキリアへ指示をだす。

 

「ヴァル、今貴女が行っている役割は私が持つわ。だからレイ君に助力してあげなさい」

 

『しかし、ビットの数が足りませんよ』

 

 加奈は自身のステータスを確認する。MPはまだ6割ほど残っている。【十束指輪 エーテリア】もまだ3つ残っている。これなら全力を出しても大丈夫なはずだ

 

「第七形態《ブリュンヒルデ》へ再度移行。ヴァルは好きなのを15機連れて行きなさい」

 

『平行作業をそんなに行って負担は大丈夫ですか?』

 

 自身の身体を超々音速で操りながら、マリーの案内をしつつ、モンスター開放装置を探す。同時に暴れている<マスター>やモンスターが出ればその対処に当たり、またそれを見逃さない様に街を監視する。

 

 フランクリンの監視を除けば、加奈とヴァルキリアで行っていた作業を一人で行うのだヴァルキリアが心配するのも当たり前だろう。

 

「大丈夫よ、知ってるでしょう?私は複数の事象を並列的に処理するのは得意なのよ。それより行きなさい、こっちが終われば私も合流するわ」

 

『分りましたご武運を』

 

 第六形態《ラーズグリード》が第七形態《ブリュンヒルデ》へと変わり、まるで舞い散る羽根のように飛び散ったビットは各地へと舞い始める。

 

「ぐッ!!」

 

 途端先ほどでとは比にならない程の操作量、情報量が脳へとなだれ込み、加奈は鼻から血を垂らす。

 

「フフフ、まだまだ余裕よ」

 

 鼻から垂れた血を拭い加奈は不敵に笑う。

 

 自身の身体を限界まで酷使し今にも手放しそうになる意識を意志の力で無理矢理繋ぎとめる。

 

 頭がおかしくなりそうな程の痛み。

 

 其れだけの苦痛を味わってもなお加奈は笑った。

 

「これよ!これが、この痛みこの苦しみこそが最高に良いわ!!」

 

 現実では決して味わえない痛みに苦しみ。

 

 久しく忘れていた自身の限界が更新されていく感覚。

 

 全身全霊で魂をも燃やすような感覚。

 

 本当の自分を曝け出しているような感覚に加奈は歓喜した。

 

「アハハ!ホンットに!最高ね!!」

 

 これではヴァルの事をあんまり言えないわね、そんなことを思いながら加奈は更に加速する。目的はモンスター開放装置の回収。ギデオンを救うために全力で街を駆けるのだった。

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