<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~ 作:夜神 鯨
加奈と別れたヴァルキリアはレイを支援するために西門へ向かていた。普段は加奈の肉体に意識を宿しているヴァルキリアだが、ビットに意識を移すことも可能だ。今はビットに意識を移して西門へと向かっている。
『....やはりこうなりましたか』
加奈の行動を残したビットで確認したヴァルキリアは加奈の行動を見てため息をつく。
『私も多少狂っている自覚はありますけど、マスターも大概ですよね』
(そもそも、マスター精神から私が生まれたので、私が狂っているならマスターが狂っていないわけがないのです)
加奈に対して失礼なことを考えながら、ヴァルキリアは進んでいく。1分もかからずヴァルキリア率いる15機のビットが、西門に到着するが一息つく暇もなくヴァルキリア率いるビット群は戦闘に参加した。
フランクリンを監視していた、または西門付近にいたビットの数は5機、そしてヴァルキリアと共に到着したビットは15機。計20のビットが空中に展開する
「やっぱり、着ましたねぇ...」
ビットが来たことを確認したフランクリンは手元で端末を操作する。
「....ですが邪魔はさせませんよ」
するとレイと近衛騎士団の2人が戦っている醜悪な姿をしたモンスター以外にも、周囲を取り囲むようにガーゴイルの様な姿をしたモンスターがレイ達を取り囲むように現れる。
『させません!』
すかさず、新たに現れたモンスターに攻撃を仕掛けるヴァルキリアだが、ガーゴイルは大したダメージを受けず、少しずつレイたち3人を包囲しようとし始める。
「ハハッどうだい?本当はここで使うつもりなんてなかったんだけどね、射撃ダメージに耐性を持つモンスター達だよ」
フランクリンの言う通り新たに出現したモンスターは一撃で倒されることは無い。それどころか20発ほど当ててやっと一体を倒すことができる。
『厄介ですね』
(レイ少年を援護するどころではありません。私1人ではここを抑えるので精一杯です)
ヴァルキリアは必死に迫りくるガーゴイルを抑えるべく戦闘を開始する。ヴァルキリアは縦横無尽に空中を舞い、絶え間ない射撃をガーゴイルへと与える。
レイ達を包囲しようとしていたガーゴイルはヴァルキリアの攻撃によって散開するも今度はビットにも劣らぬ速さで縦横無尽に空を駆け、ヴァルキリアを苦しめた。
ヴァルキリアが上空で戦闘を始めた頃、レイも醜悪な姿をしたモンスターへと攻撃を加えるべく行動を開始する。レイは自身の愛馬である【シルバー】腹を蹴ると同時に手綱を引く、するとシルバーはそれに応え、【RSK】目掛けて一気に駆け出す。
無数の光弾の雨を掻い潜り、レイと【RSK】の彼我の距離が零となる。そして自身の<エンブリオ>である【黒大剣】を振るった。
「『──《復讐するは我にあり》!!』」
【ゴゥズメイズ】をも滅ぼした破壊の奔流、おそらくレイが持つ最強の攻撃は【RSK】に“僅かな傷も与えることはなかった”。
【黒大剣】は【RSK】の体表を滑るだけで何の破壊ももたらさなかった。直後に【RSK】の亀裂から放たれた光弾が、無防備な体勢だったレイに直撃する。更に続くように数発が着弾しレイの身体を吹き飛ばす
「どうして……」
「──ああ、イイ顔だねぇ」
そんな、陶酔するようなすべてを見下すような声音がその場にいるすべての者に届く
「フランクリン……!」
レイたちを見下ろすフランクリンのその表情。それはまたも笑みだったが……先刻までの貼りついたニヤニヤ笑いではなく、心底愉快で仕方ないという嗤い方だ。
「あはは、呆然としているねぇ。訳が分からないだろう? 「何で? どうして? 俺達の《復讐》は効かぬ者なしの必殺技じゃなかったのかネメえもーん!」ってところかい? メガネを理由にの○太くん役になったレイくぅん?」
「……ッ!」
心底人を馬鹿にしたような表情で笑うフランクリン。
「ああ、また驚いている。いいねぇ。いいねぇ」
「……お前、あの薬に耳を生やす以外にも何か仕込みやがったな」
「正解だねぇ」
フランクリンはそう言って懐から一本の薬瓶を取り出す。それは、ギデオンであったペンギンの着ぐるみが差し出した薬瓶と酷似していた。
「君に飲ませたあの薬。あれは【劣化万能霊薬レッサーエリクシル】と【ケモミミ薬】のカクテルだったわけだけれど」
フランクリンはそれの蓋を開けると、自分の手のひらにビシャビシャと
すると……。
「──実は薬以外にも盛っていたんだ」
手のひらに、ビー玉ほどのサイズのゲル状の物体が残った。
「この子は【PSSピーピングスパイスライム】。液状で戦闘力はなく、人の胃の消化力でも二十四時間ほどで消えてしまう。ただし、存在している限りは服用した相手のステータスやスキル情報、それに発声した音声情報を私の元に送り続ける」
レイは思わず口元を押さえる。
仕込むにしてももっとマシなものを仕込め……そう思いながら口元を押えながら必死に耐える。今になって【スライム】を飲んだという気持ち悪さが湧いてきているのだ。
「君の手の内はもう全部把握している。
<エンブリオ>ネメシスの三つのスキル。
【瘴焔手甲 ガルドランダ】。
【紫怨走甲 ゴゥズメイズ】。
本物の煌玉馬。
《聖別の銀光》を始めとした君自身のスキル。
採りえる戦術についても【大死霊】メイズや【ゴゥズメイズ】との戦いで知っているよ」
ニヤニヤと笑いながら勝ち誇ったように、そう宣言する。
「そして、この【RSK】は君の持つあらゆる能力に対応している」
「対、応……?」
フランクリンのその言葉にレイは驚いた声をあげて呆然としている。
「《復讐するは我にあり》は効かない。
状態異常なんて与えない。
《煉獄火炎》は効かない。
《地獄瘴気》は効かない。
《聖別の銀光》も効かない。
もし仮に《グランドクロス》が使えるようになっても効かない。
君レベルがやるただの攻撃も効かない。
君に対して【RSK】は無敵で最強だ。そう、なぜなら……」
フランクリンはそこで言葉を切り、輝くような笑みで宣言する。
「【RSK】は──【レイスターリングキラー】は君を倒すため“だけ”に用意したモンスターだもの」
「…………俺を倒す、ため?」
レイは心底訳の分からない様な顔をして、聞き返す。
「だから、どうしたって君は絶対に負けるんだよ。この【RSK】の製作には一億リル掛かったけどねぇ。でも仕方ないよねぇ。金銭は勝利のために使うものだから」
「何でだ……?」
「何で? うん、不思議だね。何で<超級>の私が遥か格下の君相手に、巨費を投じてこんな対策まで打っているのか不思議だろうね」
フランクリンは、そこで笑みを止めた。
そして、言う。
「それはね、私が君に一度負けているからさ」
その目は、恐ろしいほど真剣で、レイを貫かんばかりだった。
「お前が、俺に?」
それは……いつのことだ?レイの疑問が最大になろうとしていたとき、フランクリンは眼下を……【RSK】に攻撃を仕掛けているリリアーナを指差した。
「そこにいるリリアーナ・グランドリアの暗殺計画。私の立てたあの計画を粉砕してくれた君だから、対策を立てたんだよねぇ」
リリアーナの暗殺計画?
俺が粉砕?
レイはフランクリンが何を言っているのか心底分らないと言った表情をしている。それは会話が進むにつれて深刻になっていく。
「君さえいなければあの熊男もあそこにはいなかっただろうし、五十匹の【デミドラグワーム】は確実にリリアーナを仕留めていた。その計画を崩し、私を敗北させたのは君だ、レイ・スターリング」
先ほどまでの愉悦に満ちた表情ではなく今のフランクリンにあるのは怒りの表情。
「私は、私を負かす奴を許さない……。私を曲げる奴を許さない……。だから、二度目は徹底的に対策を練って完膚なきまでに無様に負かすわ。二度と私の前に立てないようにするの。君もそうなる。ここで負けて、王国中の晒し者になってねぇぇぇえ?」
狂気さえ匂わせる表情と声音で、フランクリンは言い放った。
「お前が俺への対策を立てた理由はわかった」
そう言う、レイの顔からは疑問や恐怖を感じられない。
「ハハハ、ご理解いただけたようだねぇぇ?」
「ああ。それに……お前を殴らなきゃならないってこともな」
「……何?」
フランクリンが不思議そうな顔でレイを見る。
「俺さ、子供が……ミリアーヌが巻き込まれたあの件で、一つ思っていたことがあるんだよ」
レイの顔には怒りと決意の表情が浮かぶ。
「“子供をこんな目に遭わせた奴は一発ブン殴ってやる”って」
その表情、その決意は初心者の、またゲームとしてこの世界に生きている者の表情ではない。
「だから、あれの下手人がアンタだと分かった以上……落とし前はつけさせてもらうぜ、フランクリン」
「…………」
「もう一度言ってやる」
手甲を嵌めた手で指差しながら、俺はフランクリンに宣言する。
「──俺は、アンタを、ブン殴る。首を洗えよ
「やってみろ……
レイとフランクリンの間に立ち塞がるように【RSK】が動き出し──レイは自身の天敵へと向かって駆け出した。
『フフフ、いい啖呵です。マスターが気にいるのもわかりますね』
ヴァルキリアはレイとフランクリンの会話を聞いて心の中で微笑む。
『きつい状況ですが、もう少し頑張りましょう』
レイに呼応するようにヴァルキリアも攻撃の激しさを増す。状況は変わらず劣勢であるが、レイがあの醜悪な化け物を倒すまでか、加奈が来るまでの時間を稼ぐだけでいい。
それならば気が楽だとヴァルキリアは奮闘するのだった。
☆☆
モニターでレイの啖呵を見ていた加奈は更に行動を加速させた。
「彼は本当に面白いわね」
“子供をこんな目に遭わせた奴は一発ブン殴ってやる”ね。この世界にいる<マスター>でも彼ほどの決意を持つ者は何人いるのだろう。
現実に戻って、<Infinite Dendrogram>から離れてしまえばすべてを関係ないことだった、所詮ゲームの事だと割り切る事も出来る。
実際多くの<マスター>はそう言いながら<Infinite Dendrogram>から離れていった。
現実と比べて死が近くにありすぎるこの世界では、普段の生活が死から遠のいた今の人々が真に受け止めるには辛すぎるものがあるだろう。
「だからこそ、彼はどんな選択を選ぶのだろう。この世界を去る道を選ぶのか、それとも......」
しかし、それは今考える事ではないか、と加奈は考えるのを辞めた。今はただ装置を集めるのみ、彼に良い選択しを与えられるようにするためにも。
「さて、あと少し、頑張りましょうか」