<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~ 作:夜神 鯨
決闘都市ギデオン、混乱に包まれた街では、至る所で炎が上り、いまだに戦闘音が響いている。
決闘都市ギデオン西部<ジャンド草原>
ヴァルキリアが援護へと向かったこの場所では、この騒動を引き起こした張本人であるフランクリンとそれに相対するレイ及び近衛騎士団の3人の戦いが繰り広げられていた。
フランクリンが出した【RSK】とレイ達との戦いは【RSK】の有利に進んでいた。レイの必殺スキルである『──《復讐するは我にあり》!!』は効果が無く、攻撃が通りにくい【RSK】に対してレイ達3人は不利な戦闘を強いられていた。
そして援護に来たはずのヴァルキリアも同じく同じ戦場で思わぬ苦戦を強いられていた。
レイ達と違い上空で戦っているヴァルキリアはフランクリンの出すガーゴイル型のモンスターに苦戦していた。
ヴァルキリアが苦戦しているのはガーゴイルに対し射撃ダメージが通りにくい事とガーゴイル自体の速度が速く攻撃が当てにくい、以外にも理由があった。
それはヴァルキリアが加奈から独立して動いている事に原因があった。普段ヴァルキリアは加奈の中に入り一心同体となってビットの操作を行っている。
しかし今はモンスター開放装置とフランクリンへの対処を同時に行う為に加奈と分離してビットの中に自身の意識を移している。その為、ヴァルキリアは加奈との連絡が取れず、それに加えて加奈が就いている職業のスキルを使用することが出来ない。
これがガーゴイルに苦戦している大きな理由だった。普段使用している《弱点看破》や《行動予測》といったスキルも使用できず、《魔弾》による攻撃の変化も使用できない。その為普段なら手こずらないような相手にさえ不覚を取ってしまっている。
高速で飛び回るガーゴイルの口から光線が放たれる。普段ならば回避するような攻撃だが、ヴァルキリアはビットに当てて光線を遮る。普段なら自らの身体を傷つけるような行為は絶対にしないが、今は仕方がない。
援護に来たのに支援を吸うことすらできず、あまつさえレイ達を邪魔する様な事だけは絶対に避けなければならなかった。その為、ヴァルキリアは地上に向かう攻撃をすべてその身で受けてめていた。
多くの攻撃は外装が頑強でシールドとしても使用できるホルスタービットで防がれるが、数が10機しかない為、ホルスタービットが間に合わないものはライフルビットやピストルビットが攻撃を防ぐ。しかし、ホルスタービットほど強度が無いライフルビットとピストルビットは攻撃を受けるたびに傷つきひび割れていく。
既に半数近くのビットが多くの傷を負い、その性能を低下させていた。このままではマズイと感じたヴァルキリアが地上に目を向けると同時に膨大な魔力が地上から解放される。
「……おいおい」
その膨大すぎる魔力の量にフランクリンも僅かに後ずさる。
MPとすれば数十万、カンストした上級魔法職数十人分もの莫大な値。
「あのスキル、か?」
フランクリンはレイを調べていたから【紫怨走甲】の《怨念変換》も知っている。
ゆえに、今理解不能だったのは、あの莫大な魔力の元になったものだ
「そんな量の怨念なんて一体どこから…………畜生ッ」
言葉を発しながらフランクリンは気づき、吐き捨てた。
気づいてしまった。
「私か……!」
その怨念が、負の想念が、“フランクリンの引き起こしたゲームによって発生した”ことに。
数多の改造モンスターやPKが跳梁跋扈し、現在も中継でモンスターが街中に解放されると煽っている。
そうして生じたギデオンにいる数万人の人々の“恐怖”。
それが街中を駆けている内にあの【紫怨走甲】によって貯蔵され、今まさに魔力へと変換されているのだ。
【ゴゥズメイズ】の性質からして死者の怨念が最も良いエネルギー源であり、生者から発散される恐怖の想念はそれには幾分劣る。
しかしそれが数万人分ともなれば、空気中に発散されるものを吸収しただけでも莫大な量に、数十万というMPに変じる。
《怨念変換》のMPを《煉獄火炎》や《地獄瘴気》、《逆転は翻る旗の如く》に回すことはフランクリンも想定していた。
問題は、それらが無意味な現状で、莫大な魔力を何ゆえに解放したのかということ。
そして、その答えはすぐに示された。
【紫怨走甲】から解放された魔力が、【シルバー】へと吸収されたのだから。
──直後に猛烈な風が吹いた。
それは北から、南から、西から、東から、遍く全ての方角から吹き寄せる。
否、それは風ではない。
周囲一帯の空気が【シルバー】を中心に吸い寄せられているのだ。
──“搭乗者のMP……を注ぎ込むことで圧縮空気の防壁を展開する”
《風蹄》というスキルの真価を発揮するために。
数十万のMPを使用して、周囲の空気を圧縮し続けた。
やがて、レイの姿が【シルバー】ごと見えなくなる。
そこには漆黒の球体が──圧縮の果てに外界の光を透過しなくなった圧縮空気のバリアがあった。
「……ッ!」
その球体を見た瞬間、フランクリンは全てを察した。
あの莫大なMPによって作られた圧縮空気のバリアが……バリアなどではないということも。
「【RSK】、動け! 移動だ!」
あの球体は光を通さない。
ならば、内部からも外部は見えてはいない。
移動さえしてしまえば、レイに【RSK】を捉える術はない。
「そうはさせぬ!!」
だが、【RSK】の動きを封じるように、一人の【聖騎士】──リンドス卿が行動していた。
「《グランドクロス》!!」
リンドス卿は全力の牽制を放つ。
その聖なる光は眼前の【RSK】に何の痛痒も与えない。
だが、それでいい。
ダメージは受けなくとも聖なる光の圧力によって、動きは鈍る。
全ては、レイの放つ一撃を当てるために。
「チィ!! 《喚……!」
『させません!!』
フランクリンは危機を打破するため、咄嗟に新たな改造モンスターを出そうとしたが、咄嗟にヴァルキリアが放った弾丸に胸を射抜かれ、フランクリンは言葉を最後まで紡ぐことが出来なかった。
ガーゴイルに囲まれ、傷つきながらもヴァルキリアが放った一発、《ライフリンク》が発動したことでフランクリンの命を奪うことは出来なかったが、時間を稼ぐことは出来た。
たった数秒、刹那のような時間だったがこの瞬間では十分過ぎる時間だった。
漆黒の風が【RSK】へと駆ける。リンドス卿は咄嗟に軌道から飛び退き、そのまま距離をとる。
自由になった【RSK】は身を退こうとするがそれはあまりに遅く、漆黒の球体は【RSK】へと激突する。
しかし、漆黒の球体は【RSK】の身には触れていない。【RSK】の展開した《マテリアルバリア》によって阻まれている。そう、どれほどの圧縮密度であろうが所詮はバリア。攻撃力が増加するわけではない。
そのことを、【RSK】は微小の思考力で理解と共に安堵し、
「チッ」
【RSK】の作成者は“避けられなかった”と舌打ちした。
「──《風蹄》、解除……」
その声は、圧縮空気のバリアの中で生じ、その中にしか聞こえない。しかしその言葉が成したことは、誰の目にも見えた。
黒い球体が消えて──直後に大爆発……が起きた。
その爆発は《マテリアルバリア》など紙のように破り、【RSK】に直撃した。
激しい爆発に吹き荒れる爆風、そして、巻き上げられた土煙が周囲を覆うように舞い散る。
「ゴホッゴホッ……」
土煙を吸い込んだレイはむせるような咳をするが視線は【RSK】から逸らさない
「……どうやら、あいつのバリアをぶち破るだけの威力は出せたらしいな」
煙が少しずつ晴れ、視界が確保される。
レイの眼前で【RSK】は地に伏し、球体の上半分が消失し、内臓が露出していた。
被害は【RSK】に留まらない。周囲の地面は捲り上がり、もはや<草原>とは言えない有様になっている。
レイの想定を二回りは上回る威力。しかし、十分な効果はあった。
「……やっぱり近衛騎士団の人達が倒れている状態じゃ使えないスキルだったな」
リリアーナやリンドス卿、近衛騎士団の人達は大丈夫だろうかとレイが視線をめぐらせると、舞い上がる土煙にむせながらも無事な姿を確認することが出来た。
「さて」
レイは一息を入れると【RSK】へと向き返す。【RSK】は地に伏し、球体の上半分が消失し、内臓が露出してはいるが、まだ塵になってはいない。まだ戦闘は終わってないのだ。
そもそも、レイは《風蹄》の解除が引き起こす爆破だけで【RSK】を倒せるとは考えていなかった。
「そりゃ、できるよな」
その証拠に【RSK】は少しずつ自己再生を始めていた。肉が少しずつ盛り上がり欠けた体を再構築していく。
しかし、それくらいの事はレイも想定していた。 ゆえに、レイはここで詰めにいく。
「……行くか」
レイが最後の攻撃に移る中、上空でも変化が起きていた。
「まったく、やかましいよ……ここで君が私の邪魔をするのかい?」
『えぇ、もちろん最後まで彼の邪魔はさせません』
ヴァルキリアはビットを合体させて自身の身体となるように変化させる。
5機のビットが集まり1つの塊のようになる。そして、徐々にその形を人型へと変化させる。
TYPE:メイデンwithワルキューレ、ガードナー派生でアームズとのハイブリッド&ハイエンドカテゴリーであるヴァルキリア、彼女の本質は自己の分裂。TYPE:レギオンとTYPE:ガーディアンの側面をもつオンリーワンカテゴリー。
ビット1機1機がヴァルキリアの身体とも呼べる。だからこそビットを合体させることで自身の身体を作り出すことができる。しかし、加奈と情報を共有している普段ならば絶対に行わない。
そもそも、ライフルビットピストルビットに分けて使用をしているのもある程度の均一化を図ることで操作をしやすくする為だ。本来ならば72機すべての分身体をそれぞれ違う形にする事も出来る。しかし、それは出来ない。何故なら、それを行うにはヴァルキリアの処理能力が足りていないからだ。
現段階ですら自身の分身体であるビットを操るのにヴァルキリアだけの処理能力では足らず、加奈の処理能力に依存してしまっている。
しかし、加奈から離れて独立している今なら出来る。今ヴァルキリアが操っているビットは20機、更に纏めてしまえば今のヴァルキリアでも十分に操作ができる。
最初の5機に倣うように他のビットも5機で1つの人形となる。
「忌々しい……」
『それはこちらも同じですよ』
人型になったヴァルキリアは先ほどまで苦戦していたガーゴイルを瞬殺し、フランクリンへじりじりと近付いていく。
「はぁ……やめだ、ここで君と戦うのは得策ではない引かせてもらうよ」
『待ちなさい!!』
ヴァルキリアの言葉を聞きもせずフランクリンは《キャスリング》を使いこの場から立ち去る。
『逃げましたか』
ヴァルキリアはフランクリンを逃がしたことを後悔したが、彼が消えたことでレイの邪魔をするものは居なくなった。
これで加奈から与えられた指示は完遂している。後はレイが【RSK】にとどめを刺すだけだった。
それも、もう終わる。
【RSK】へ自身の左腕を突っ込んだレイは【RSK】の内部から炎で炙る。自身の腕を犠牲にすることも厭わない攻撃。
【RSK】口のない体で声無き悲鳴をあげ絶叫する。
レイを振り落とそうと、全身を震わせ、触腕を振り回し、払い落とそうとする。
しかし、レイは右手に握った【黒大剣】のネメシスを【RSK】の目蓋の一つに突き立ててそれに耐える。
永遠にも感じられるその戦いは【RSK】が光の塵となり消失することで勝負がつく。
しかし、その勝負を挑んだレイも無事ではなく。炭化した左腕、ボロボロの身体に原型の残っていない装備品の数々。
しかし、彼の眼には未だ光が残っていた。
右手には彼の身体を支える様に黒の大剣が握られている。
そして彼は勝利を叫ぶように右拳を掲げる。
そうして次の瞬間……ギデオンは歓声に包まれていた。