<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~   作:夜神 鯨

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すいません、【DGF】と【MGF】などの関係性を少し修正しました。


絶望

 □<ジャンド草原>

 

『いやだなぁ、本当に参っちゃうよねぇ。プランAもプランBもダメなんて……。もうすぐ闘技場からこわーい脳筋共が出てくるだろうし。もうこうなっちゃったらプランC……をやるしかないよねぇ?』

 

「……………………え?」

 

『プランC(クライシス)……56826体の改造モンスターによるギデオン殲滅作戦を開始しますねぇ』

 

 フランクリンの発した言葉に、周囲の空気は凍りついた。

 

「5万……え?」

 

「500体では……」

 

 ネメシスも、リリアーナも、リンドス卿も、他の近衛騎士団員も1人を除いてこの場にいる誰もが……フランクリンの言っていることを理解しきれなかった。

 

「56826体の、改造モンスター? ふ、ん、ハッタリにしても桁を間違えていやしないか、のぅ」

 

 言っていることは分かる、だが実現可能とは到底思えなかった。否、嘘だと思いたかったのだ、この場に居る殆どの者が疲労困憊でボロボロだ、これ以上戦うことは難しいとすら思える。

 

「街中に、500体のモンスターをばら撒く計画を立てていたのに、急に100倍以上に増えるものか、のぅ」

 

 それは嘘だと思いたいネメシスの言葉に、あるいは街中から発せられた同様の疑問にフンフンと頷きながら……フランクリンは笑みを深めた。

 

『街中の3500体は“<マスター>や建物以外攻撃しない”なんて無駄……な設定をしたからですねぇ。まあ、急な追加をしたのも併せて大分コストも掛かりましたけど』

 

 逆に言えば、“<マスター>以外の人間も攻撃する”モンスターならばより大量に……5万体以上用意できていたのだ。

 

 街中の解放装置に封じられた3500体のモンスターは、言ってしまえば身内への……ユーゴーへの義理に他ならない。イレギュラーに対応して計画が崩されないようにする処置。

 

 それでも計画は崩されてしまったが。

 

『でもプランAもプランBも駄目になったらこっちもなりふり構っていられないんですよねぇ』

 

 プランA、B、C。

 

 フランクリンが失敗すればするほど、王国側が計画を防げば防ぐほど、よりギデオンを苛烈に破壊する計画へとシフトしていく。

 

 フランクリン自身はプランAもプランBも成功させるつもりだった。負ける気はなかった。

 

 だからこそ、モンスターの増設をおこなったのだ

 

 しかしそれでも敗北の可能性を組み込んだ上で全ての計画を立てていた。

 

 全ては一つの目的のため

 

『あーあー、さっさと諦めておけばこんなことにはならなかったでしょうにねぇ』

 

 全てはそう、心を折るために。

 

 無駄な抵抗をした結果、より甚大な被害を生むという結果を王国の民衆に刻み込むために。

 

 あえてこのような……失敗することも想定した計画を仕組んだのだ。

 

「フランクリン本人を探せ!! モンスターをジュエルから呼び出す前にあの狼藉者を誅するのだ!!」

 

『フフフフ、ジュエルから呼び出す前に? やだなぁ、私がいちいち《喚起》《喚起》で呼び出していたら一万も出す前に夜が明けちゃうよ』

 

 フランクリンは不敵な笑みを浮かべ、それから指を鳴らしてこう宣言した。

 

『《光学偽装》解除』

 

 瞬間、世界が鱗の如く剥がれ落ちた。

 

 夜闇の一角がバラバラと崩れ、その影に隠していたものを露わにする。

 

 そうして現れたそれは──現れた後ではどうやって隠れていたかを思い出せないほどに巨大なものだった。

 

 それは端的にいえば箱と竜と蜘蛛を混ぜたようなシルエットだった。

 

 それは縦横の一辺が一キロはあろうかという巨大な立方体に無数の煙突が伸びていた。

 

 それは無機質な立方体に精巧かつ巨大な竜の頭部を備えていた。

 

 それは蜘蛛の如き脚を左右に四脚ずつ生やしていた。

 

『<超級エンブリオ>、TYPE:プラントフォートレス──魔獣工場パンデモニウム』

 

<超級エンブリオ>。

 

 第七形態への進化を遂げた<エンブリオ>の総称であり、数多の<エンブリオ>の頂点。

 

 先の戦いでフィガロや迅羽が見せた<超級エンブリオ>とは、余りにも違っていた。

 

『先の戦争ではまだ進化していなかったけれど、これが私の<超級エンブリオ>さ。固有能力は既に皆さんご存知のモンスター生産、そして……“モンスター運搬能力”』

 

 そうして巨大な魔城が口を開ける。

 

 内部には無数の仄暗い光があった。

 

 それは眼光。

 

 内部にひしめく何千何万というモンスターが放つ禍々しき視線。

 

『さて、まずは“スーサイド”シリーズ五千体から逝ってみようかねぇ』

 

 フランクリンが気軽な口調でそう言うと、竜の口からスロープが降りる。

 

 五千体のモンスターが群れを成して、そのスロープを下ってゆっくりと歩き始める。

 

『いいねぇ、いいねぇ、浪費するって気持ちがいいねぇ』

 

 フランクリンの愉悦を匂わせる声に乗せて、パンデモニウムからは無数のモンスターが吐き出される。

 パンデモニウムの竜口から地に下ろされたスロープをゾロゾロと駆け下りる様は、大昔のアニメにも似て滑稽でもある。

 

 しかしそれら全てがほんの数キロ先のギデオンの街を破壊しようとしているとすれば、笑い事でもなんでもない。

 

「あの<エンブリオ>を! フランクリンを討つ! 今ならばまだ間に合う!!」

 

 リンドス卿が号令を発し、それに応じて近衛騎士団も動く。

 

 その判断は正しい。

 

 吐き出されたモンスター全てを止めることはできない。

 

 だが、今ならば、街を襲う前の今ならばまだフランクリンを倒すことで被害を食い止めることが出来る。

 

 そうして騎士団は乾坤一擲の突撃をかける。

 

『間に合うって? それは無理だねぇ』

 

 だが、それに冷や水を浴びせるようにフランクリンが告げる。

 

『私のプランを二度潰してくれた王国の皆様に免じて教えてあげよう』

 

 それは眼前の騎士団だけでなく、今ギデオンで動き出している全ての<マスター>に向けた言葉でもあった。

 

『このモンスターは私が死んでも止まらない。そして、私にこれは止められない…………』

 

 フランクリンの言葉を多くの者は意味不明と受け取った。

 

 今まさにモンスターでギデオンを攻めている下手人が何を言っているのか、と。

 

「何を言っているのですか? このモンスターは、あなたの仕業でしょう?」

 

 その場に居合わせたリリアーナの言葉は多くの者の代弁でもあった。

 

 彼女の言葉を受けてフランクリンは少し笑みを深めて、

 

『そうだよ? 私がパンデモニウムで創ったモンスターだ。けどもう、私のものじゃない』

 

 次の言葉を述べた。

 

『──逃がしちゃった…………からねぇ』

 

 それを聞いたものは最初、フランクリンが何を言っているか理解できなかった。

 

 そして何を言っているか理解できたとき、真に理解不能に陥った。

 

「あなたは、あなたは何を言っているのです?」

 

『ほら、従属キャパシティってあるじゃない? いくら私が超級職の【大教授】でもあんな数のモンスターはキャパに収まらないよ。パーティでも五枠しかないしね』

 

 従魔師系統や騎士系統、研究者系統、それに【女衒】などは自身の従属キャパシティを消費し、モンスターを自身の戦力の一部として用いている。

 

 当然、キャパシティに収められる力や数には限りがあり、それをオーバーすれば使役不可能や強制的なパワーダウンに繋がる。

 

 ゆえにフランクリンは……それらに縛られない手を打った。

 

『だからあの数のモンスターを全力で戦わせようと思ったら、もう逃がすしかないんだよね』

 

 逃がしてしまえば、使役しないのだからキャパシティに囚われないという発想の転換。

 

 否、制御の放棄を実行したのだ。

 

『ああ、安心して。ちゃんとプログラムはしてあるからこっちには来ないよ。あいつらは『死ぬまで前に進む』ことと、『私のクランのメンバーや私が創った生物以外を皆殺しにする』ことがちゃんと頭に入ってるんだ。だからその名も“自殺スーサイド”シリーズ!』

 

 フランクリンは「えへん」と胸を張るが、それは吐き気を催す発想だった。

 

 ただ生み出され、ただ前進し、指定されたもの以外の全てを殺して前に進む命の群れ。

 

<Infinite Dendrogram>を遊戯ゲームだと捉えていたとしても、唾棄すべき行い。

 

<Infinite Dendrogram>を世界ワールドだと捉えているのなら……最早狂気などという段にない。

 

『そもそも何で私が西に逃げたと思う? あいつらを使ったときにうちの国や第三国のレジェンダリアに被害を出さないためだよ。総勢数万のモンスターの死の行軍、国境なんて楽に越えちゃうだろうからね。ああ、東にはカルディナがあるけどあれは別にいいんだ。王国と同じで敵だしね』

 

 フランクリンの「どうせカルディナに入っても【地神】や【殲滅王】に始末されるだろうけど」という呟きは口中からは漏れなかった。

 

『そういう訳で、もう逃がしてしまったモンスターをどうこうする手段が私にはない。そして私を殺しても逃がしてしまったモンスターは私とは無関係だから止まらない。Tu ascompris?(ご理解いただけました)

 

 吐き出されたモンスターは全て倒さなければならない。

 

 モンスターを吐き出すパンデモニウムとフランクリンも倒さなければならない。

 

 可能ならばこの初動の段階でパンデモニウムを撃破し、後続のモンスターを断たねばならない。

 

 だが、今此処にある戦力では、致命的に足りない。

 

 リリアーナやリンドス卿他動ける数名の近衛騎士団だけではパンデモニウムを倒すことは困難であり、かと言ってあれだけのモンスターを相手に時間を稼ぐこともできない。

 

 既に中央闘技場を封じる結界は意味を成さず、<マスター>の手により破壊されるだろう。

 

 西門を封じていたコキュートスの《地獄門》も敗れ去っている。

 

 あと数分もすれば、<マスター>達も応援に駆けつけるはずだ。

 

 だが、それよりも早く“スーサイド”シリーズはギデオンの街を蹂躙し、パンデモニウムは残る数万の悪意を吐き出すだろう。

 

 数分があまりに遠い。

 

『フフフ、もう間に合わな……』

 

 誰もがそう思っている中で、

 

「──時間を稼ぐ」

 

 フランクリンの嘲笑を遮るように言葉を発したのは、ある意味ではその場で最も想定外の人物だった。

 

 なぜならその人物の戦いはもう終わったはずだったから。

 

 左腕を犠牲に、全身に傷を負って、精も根も尽き果てて眠っていたはずだったから。

 

 けれど、彼は立ち上がっていた。

 

 彼、レイ・スターリングは立ち上がっていた。

 

 意識はまだ朦朧としているだろう。

 

 戦闘による疲労で、アバターを動かすプレイヤーの精神も万全ではないだろう。

 

 状況を完全に把握できているかすらも分からない。

 

 それでも、彼の両の目はギデオンに迫る5000超のモンスターを見据えていた。

 

「レイ!」

 

「レイさん!?」

 

 レイが全身に負った傷痍系状態異常は未だ治らず、左腕は動かず、HP上限は半分もない。

 

 それでも、彼は立っていた。

 

「往くぞ、ネメシス、シルバー」

 

『いいえ、ここは私が抑えましょう』

 

 このギデオンを余裕で殲滅できる戦力がフランクリンにはあった。立ち向かう戦力は微々たるもの。

 

 だからこそ、見過ごしていたのだ。この場にも<超級エンブリオ>と呼ばれる存在が居ることを。

 

 ギデオンを滅ぼすために大地を踏みしめたモンスター群は、突如放たれた極光によりその半分が消滅した。

 

『なッ……』

 

『私は忠告をいたしました』

 

 金属の体を持つ人形の周りでは同じ形をした人形が宙を浮き、その形を大きな砲へと変えながら巨大なビームを放っている。

 

『5万体如きのモンスターで足りますか?』

 

 放熱で大量の煙を放ちながら、再び人形の形となったそれは淡く発光しながらも地を駆け、迫りくるモンスターへと肉薄をする。

 

 戦闘を行くモンスターの頭を潰し脚を砕く。先頭が止まったことで動きが鈍くなったモンスターをまとめてビームが焼き払う。

 

『私が数を削りますので、撃ち漏らしをお願いします。』

 

「ちょッ……」

 

 それだけを言い残すとヴァルキリアは自身も前線へと身を投じる。

 

 フランクリンには見栄を張ったが、先程のビームでMPの半分以上を消費していた。

 

 だがしかし、レイを前線に立たせるわけにはいかない。ここで彼を失うことだけはしてはならない。

 

 彼の勇気をただの蛮勇にしてはいけない。

 

 だからこそヴァルキリアにできることは一心不乱に数を削ること、主の登場まで時間を繋ぐのだ。

 

 

 ☆☆☆☆

 

 

 やるべきことを終わらせた加奈は空を駆ける。今まで散々駆け巡ったギデオンの街と同じように闘技場へ向かって一心不乱に駆けた。

 

 誰も彼女の姿を見ない。絶望や幽かな希望と共に中継映像を見ていたから。暗闇を駆ける彼女を気にも留めない。

 

 闘技場へに着いた彼女は周囲を浮遊していたビットを足に集め、落下を始める。

 

 フィガロと迅羽を閉じ込めていた結界、何人もの<マスター>が破ろうと挑戦したが破れなかった強固な結界。

 

 その結界に足の先端が触れる瞬間、結界が崩れた。

 

「あら?」

 

 間抜けな声を上げながら闘技場の中央へと突き刺さった加奈はその場にいた人物へ声をかけた。

 

「あら、貴方が動くのね」

 

「まあな、あいつが掴んだ可能性を繋げにいくのさ」

 

 中継映像の先ではレイが20人程の冒険者と共に迫りくるモンスターを倒している。

 

 ヴァルキリアが最前線で数を減らしても<エンブリオ>である彼女だけでは限界がある。

 

 いくら数を減らしても、100体を超すモンスターはレイ達に押し寄せている。

 

「ここは任せた。地下の奴や、観客席の二人が何かやりそうだったら止めといてくれ」

 

「ごめんなさいね、美味しいところは貰うわよ」

 

 笑いながら言う加奈だが、目は笑っていない。

 

「大丈夫なのか?」

 

「もちろん、誰に言ってるのよ」

 

「そうか、ならいい」

 

 男が突き出した拳に加奈も拳を合わせる。

 

「やるぞ」

 

「ええ」

 

 出口へと向かう2つの影、彼らは5万の敵が待つ戦場へと歩みを進めた

 

 

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