<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~   作:夜神 鯨

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2人の<超級>

 <ジャンド草原>

 

 

 <Infinite Dendrogram>において、戦力を表す単位として亜竜クラス、純竜クラスという言葉が用いられることは多い。

 

 亜竜クラスは下級戦闘職一パーティ六人分、あるいは上級戦闘職一人分の戦力。

 

 純竜クラスは上級戦闘職一パーティ六人分の戦力。

 

 端的に言って純竜クラスは亜竜クラスの六倍以上の戦力と言える。

 

 もっとも、上級戦闘職の戦力は下級職六つと上級職二つのレベルをどの程度まで上げているかで大きく異なる。

 

 上級の<マスター>ならば<エンブリオ>の補正や固有能力により、単騎で純竜を相手取ることもできるだろう。

 

 しかしそれでも概算戦力としてはその程度ということだ。

 

 フランクリンが先駆けとして投入した5000体の“スーサイド”シリーズはいずれも亜竜クラス。

 

 つまりは上級職五千人分の戦力。

 

 対して防衛する<マスター>は上級下級職混合で21人。

 

 1名だけ超級職がいる更に<超級エンブリオ>を加えても、たかが23人。

 

<エンブリオ>の能力を大まかに加算して、一人あたりの戦力を純竜クラスと高めに見積もってみても、戦力比較は5000対133。

 

 本来ならば比較するのがバカらしいほどの戦力差。

 

 5000体だけではない。倒されるたびに追加されるモンスター達、常に強いられる5000対133の戦力差、あまりにも絶像的すぎる、本来ならば蹂躙されるはずだが、それでも、戦闘開始から三分経っても……未だ<マスター>は一人も欠けていなかった。

 

『……よく保つねぇ』

 

 フランクリンは呆れたように言葉を漏らす。

 

 5000のモンスターをけしかけたフランクリンにしても、彼ら23人がここまで保つとは想定していなかった。

 

 ここまで均衡が保たれているのはここの集まった<エンブリオ>の能力が要因の1つだった。

 

 23人。フランクリンにとって既知の者達を除いても20人弱の<マスター>が……<エンブリオ>がいる。

 

 それらの中には味方を大幅に強化する者もいるし、壁になるものもいる。大軍を足止めする者もいる。

 

<エンブリオ>の多種多様さ、能力のバリエーション。

 

 彼らは各々の力を発揮することで、未だ5000のモンスターをこの場に留め、街に踏み込ませてはいなかった。

 

「それにしても恐ろしい」

 

 しかし、それ以上に驚異的なのはこの場にいる私以外の<超級エンブリオ>【魔弾姫】である加奈の<エンブリオ>ヴァルキリアの活躍だ。

 

 ヴァルキリアは未だに最前線で“スーサイド”シリーズを駆逐し続けている。

 

 “スーサイド”シリーズも広範囲に拡散させているのにも関わらずそれでもヴァルキリアはそれに対応している。結局後方で防衛している<マスター>達には半分以下の“スーサイド”シリーズしかたどり着けていない。

 

『…………』

 

 いくら、亜竜クラスと言えども、“スーサイド”は前進して殺して死ぬことのみをプログラムされた生物兵器。

 

 種族こそ多様ではあるが、相手に合わせて連携し、多様性を発揮する能力などない。

 

 それゆえに圧倒的戦力差でありながら押し込めていない。

 

『…………さて』

 

 実を言えば、ここでモンスターを足止めされていても別段フランクリンに問題はない。

 

 今もパンデモニウムは続々とモンスターを吐き出している最中。

 

 フランクリンの計算では、仮にいま少しの時間を彼らが稼ぎ、中央闘技場に閉じ込められていた<マスター>が集合しても街に被害を及ぼすことは出来る。

 

 イレギュラーはあれどここにいる22人で5000のモンスターを抑えているといっても、それは決死の時間稼ぎ。

 

 モンスターはまだいる、時間が経てば<マスター>は潰されて消えるのは確定している。

 

 その後方にはその10倍のモンスターが控え、フランクリンの傍に侍る【DGD】や【KOS】のように戦闘系超級職相当の性能を持つモンスターも複数いる。

 

 中央闘技場の<マスター>は1000人弱だったとフランクリンは記憶している。

 

 その程度ならば、フランクリンが用意した戦力でギデオンは殲滅可能なのだ。

 

 フランクリンは<超級>の中で“戦闘”に秀でた方ではない。

 

「よーいどん」で戦闘を始めれば下級にも倒される恐れがある。

 

 だが、“戦略”には秀でている。

 

 王国との戦争より<Infinite Dendrogram>の時間で半年。

 

 時間と資金をかけて戦力を溜め込んだ現状ならば、フランクリンは単騎で1000の<マスター>を屠れる。

 

『…………さてさて』

 

 唯一の問題は、<超級激突>に水を差し、結界の停止状態に閉じ込めた件で敵に回したであろう2人の<超級>、そして街で徘徊しているはずのもう1人の<超級>。

 

 彼らが出てくれば、十中八九フランクリンはデスペナルティになる。

 

 ソロ主義のフィガロは手を出さないかもしれない。

 

 しかし迅羽の場合は、今この瞬間にフランクリンの胸から黄金の鉤爪が飛び出しても不思議ではない。

 

 加奈は分らない、なぜ自身の<エンブリオ>だけを差し向けているのか。

 

 だがしかし、フランクリンはそれでも構わない。

 

 既に排出された万を超える。戦線もモンスターに対応しきれず次第に下がってきている。もうすぐモンスターはギデオンを襲う。

 

 今から出て来ても、もうすでに遅い。

 

 それに……まだ切っていない札もある。

 

 フランクリンのモンスターによる攻勢は、フランクリンが死しても波濤の如くギデオンを蹂躙する。

 

 土台、人の堤で守りきれるわけがない。

 

 そうして<マスター>に守られたギデオンが大打撃を受ければ、王国は折れる。

 

 目的は達成されるのだから。

 

『…………さてさてさてさて』

 

 ここはどうしようともフランクリンの勝利であり、何もしなくとも続けるだけで勝てる盤面。

 

『やっぱり腹が立つから殺そうかねぇ』

 

 だからこそ──フランクリンは動いた。

 

『【DGF】、あの目障りな連中を轢き潰してくれるかねぇ』

 

 フランクリンがパンデモニウムの足元でヴァルキリアの操る人形と戦いを続けていた──【DGF】に命じる。

 

 レイが“スーサイド”を止めに向かったときはフランクリンによって手出し無用とされていたが、その逆を命じられた今このときからは違う。

 

『VAAALUGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

『マズイ!!』

 

【DGD】は天地を揺らす咆哮を上げ、それ以上の振動で大地を揺らしながら猛進した。

 

 目指すは5000のモンスターと22人の戦いの最前線。

 

 広い戦線を支えていたヴァルキリアは突如として進撃を始めた【DGF】に対応ができない。

 

 広場で戦った【MGF】と比べればブレスも吐かず空も飛ばない。しかし、【DGF】に対応をするには戦力を分散させすぎていた。

 

『戦うな!!逃げるんだ!!』

 

 咄嗟の勧告に言葉が荒くなるヴァルキリア。【DGF】の対応をしていた人形も“スーサイド”に阻まれて【DGF】の後を追えない。

 

「邪魔だぁぁ!!」

 

 しかし、ヴァルキリアの咆哮も、そんなことはお構いなしといった【DGF】はパンデモニウムの足元から22人の<マスター>が戦うその場所まで瞬く間に距離を詰めた。

 

 ──まず、二十人になった。

 

 赤いオーラを纏って突撃した【DGF】によって、前衛を務めていた上級前衛職が二人踏み潰されて塵になった。

 

 同時に、ダメージを肩代わりする<エンブリオ>が限界を迎えて砕け散った。

 

 ──次に、十九人になった。

 

 攻撃魔法を放った上級魔法職が、赤いオーラに魔法をかき消された。

 

 ついで振るわれた尾で上半身と下半身が断裂して塵になった。

 

 ──そして、十六人になった。

 

 三人の<マスター>が同時に必殺スキルによる攻撃を仕掛けた。

 

 しかしその発動よりも早く、残像が生じる速さで動いた【DGF】に三人とも噛み殺された。

 

 瞬く間に、これまで欠けていなかった二十二人から六人が欠けた。

 

『間に合え!』

 

「チィッ!」

 

 この場で唯一の超級職であるマリーが動き、貫通弾を【DGF】の頭部に撃ち込む。

 

 同時にやっと【DGF】に追いついたヴァルキリアも残ったなけなしのMPを込めて銃撃を加える。

 

 しかし、貫通弾は赤いオーラに触れた瞬間に速度と威力を減衰され、【DGF】自身の甲殻によって弾かれた。

 

「攻防一体の赤いオーラ、《竜王気》! さてはどこかの【竜王】を素材に……!」

 

『さっきまでは使用すらしていなかったのに?』

 

【DGF】は本来【MGF】と対になるはずだったモンスター、【MGF】を強くしすぎたおかげで、存在感は薄いが、それでも【竜王】を素材として作製されたモンスター。

 

 ゆえに、その力は純竜クラスをも楽々と超え、元となった<UBM>に準ずる戦闘力を獲得している。

 

『VAIGAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!』

 

「ク……!」

 

 超級職のマリーにしても、【DGF】の相手はまともにやれば万全で五分。

 

 ヴァルキリアに関しては前線に戦力を分散させているせいで【DGF】とやり合うだけの戦力もMPも足りていない。

 

『マリー様、こいつを頼んでもよろしいですか?』

 

 すでに前線は崩壊しかけている。このままではレイや騎士団のいるこの場所に今まで以上のモンスターが押し寄せてしまう。

 

 そのうえ【DGF】の相手もするとなれば前線どころか戦線の維持すらできなくなってしまう。

 

「え?あ、はい。分かりました」

 

 やっぱり、姿が完全にばれてしまっている。ヴァルキリアとの会話でそんなことを考えていたマリーは間抜けな返事を返してしまう。

 

 しかし、任されたからにはそんなことを考えている余裕はない。

 

 今、ヴァルキリアが前線から抜けて【DGF】の対処に回ればそれこそ戦線が瓦解する。私がやるしかない。

 

 それくらいの事は瞬時に判断が出来た。それに【DGF】が暴れまわらせてもいけない、私がその対応に手間取ることも許されない、もし【DGF】がこの場で暴れれば、瞬く間に戦線は瓦解し、ギデオンにモンスターが雪崩れ込む。

 

 長期戦は出来ない。

 

 マリーは覚悟を決め、必殺スキル用の特殊弾頭を装填する。

 

虹幻(アルカンシェ)……!?」

 

だが、それよりも早く、【DGF】は動いた。

 

 先刻と同じ、残像を残すほどの速さで。

 

 ――少し離れた場所にいた“レイ”に向かって。

 

「レイ!?」

 

「レイさん!」

 

 マリーとルークが声を発する間も、【DGF】は凄まじい速度でレイに向かっている。

 

 考えてみれば、当然だった。

 

 今この場にいる者の中で、フランクリンが誰を一番潰したがっているか。

 

 配下である【DGF】がその意に沿って動くことも十分にありえた。

 

『ここからでは間に合わない』

 

既に前線の立て直しを行っていたヴァルキュリアも反応が遅れてしまう。一番近くに居る人形を使っても間に合わない。

 

更に畳みかける様に“スーサイド”の攻撃が激しさを増す。

 

「待ッ、くっ!」

 

 マリーが【DGF】を追おうとしたのを、マリーを狙ってきたAGI特化の“スーサイド”に阻まれる。

 

「…………」

 

 赤い光の尾を引きながら、猛然と迫ってくる【DGF】に対して、レイに言葉はなかった。

 

 未だ幽かな意識の朦朧を引きずっているゆえか、それともすることを決めているゆえか。

 

「……フゥ」

 

『レイ……?』

 

 レイは黒大剣のネメシスを構える。

 

 逃げられないことを、レイは悟っていた。

 

 今はシルバーに乗っていないし、仮にシルバーを駆けさせても逃げ切れない。

 

 自分がここでの……<Infinite Dendrogram>での二度目の死を迎えることをレイは悟っていた。

 

 だが、その前にできるかもしれないことはあった。

 

 “攻撃を受けた瞬間に、カウンターを叩き返す”。

 

 そのダメージで自分が死ぬとしても、一撃分だけ倍返しで与えられるのではないか、と。

 

 そうすれば、少しでも事態が好転する手助けになる。

 

 レイはそう考えた。

 

『……任せるがいい』

 

 ネメシスもまた、レイの心を悟った。

 

 ゆえに自身に出来ることを、間違いないスキルの発動を果たそうと覚悟を決めた。

 

 そうして覚悟を決めた二人のほんの数メートル先に、【DGF】が到達した。

 

 巨大な顎を開き、自身の創造主の大敵を抹殺しようとしている。

 

 その瞬間を、全員が見ていた。

 

 

 

 マリーが見ていた。

 

 ルークが見ていた。

 

 ヴァルキリアが見ていた

 

 霞が、イオが、ふじのんが見ていた。

 

 生き残った十人の<マスター>が見ていた。

 

 

 リリアーナが見ていた。

 

 リンドス卿が見ていた。

 

 近衛騎士団が見ていた。

 

 

 ギデオンの住民が見ていた。

 

 王都の住民が見ていた。

 

 結界から解放されたフィガロと迅羽が見ていた。

 

 

 フランクリンが見ていた。

 

 

 ――そして、“誰にも見えなかった”。

 

「そういうイチバチのカウンターは、もうちょっと格好良い場面でやるクマー」

 

「そうよ、ここで死んだら意味がないじゃない」

 

 “その2人”がレイの前に立つ瞬間が、誰にも見えなかった。

 

「え?」

 

 それはレイが漏らした呟きであり、同時にそれを見ていた多くの者の呟きだった。

 

 まるでコマ落としのように、そこにいるのが当然のように、“その男”は立っていた。

 

 奇妙な風体だった。

 

 一言で言うならば、“毛皮の男”。

 

 頭の上半分を覆うように熊の頭部の皮を被り、背中には頭部から繋がる毛皮がマントのように流れている。

 

 長身であり、上半身は裸だが……鋼を引き絞ったような筋肉に覆われている。

 

 下半身には頭に被った毛皮と同質の黒い袴にも似たズボンを履いていた。

 

 そしてその右足は、なぜか天へと一直線に蹴り上げられていた。

 

 鍛えているのか、そのような姿勢でありながら体幹は微塵も揺れることはない。

 

 そしてもう1人マリーと同じようにスーツを着た女はさも当然化の様に空中に浮き“毛皮の男”に寄り添っている

 

 

「そういうのはさ、賭けに勝ったら生き残った上に相手を倒せるって場面でやるもんだ。勝っても負けても死んで、相手は手傷負うだけってちょっと弱いクマー……っと、今はいらねーなこの口調」

 

 突如現れた毛皮の男は右足を頭上に高く掲げたままそう言った。

 

 その男の風体も言葉も明らかにおかしいが、光景はさらに輪を掛けておかしいことに人々は気づく。

 

 あの恐竜がいない、と。

 

 ほんの数秒前までレイに食らいつこうとしていた【DGF】の姿がどこにもない。

 

 毛皮の男が現れると同時に、消えてしまっていた。

 

「……うっそだー」

 

 しかし<マスター>の中には、マリーを含めて少数ながら見えていたものもいた。

 

 彼女らは一様に、空を見上げている。

 

 彼らの視線の先に……数百メートル上空に【DGF】がいた。

 

「後は任せてもいいか?」

 

「えぇ、いいわよ」

 

 女が呟くと何処に仕舞ってあったのか無数にある鉄の板が一斉に空へと上がる。

 

 視力に優れたものならばその頭部が原形を留めずに砕かれ、既に光の塵になりかけていることも観察できただろう。

 

 【DGF】の有様と右足を高く掲げた――蹴り上げた男の体勢から想定される答えは二つ。

 

 この男は、十数トンはあろうかという怪物を空の彼方に蹴り飛ばしたのだ。

 

 この男は、攻防一体の《竜王気》を放ち莫大なHPを持つ大怪物をただ一撃の蹴りで破壊したのだ。

 

 そして、男の蹴りによって頭部が原形を留めずに砕かれ、既に光の塵になりかけている【DGF】を止めとばかりに無数の光線が貫いた。

 

 【DGF】は地上に降りる事すら許されず、上空で灰になって消えた。

 

「……あ」

 

 毛皮の男がスッと右足を地に下ろす動作を見て、毛皮に覆われていない顔の下半分を見て、レイは気づく。

 

 それが、“自分のよく知る人物”である、と。

 

「ま、案の定無理したみたいだが……死なずに待ってたのは良しだ」

 

 毛皮の男はそう言って、ポンとレイの頭に手のひらを置いた。

 

「待たせたな」

 

「……来てくれたんだな」

 

「言ったろ? 必ずそこに行くってよ」

 

 2人が会話をしているとシュウの身体に寄りかかる人影がある。

 

「やあ、元気だったかい少年」

 

「貴女はゴゥズメイズの時の」

 

「覚えていてくれたのね嬉しいわ」

 

「おい、加奈鬱陶しいぞ」

 

自身の肩に寄りかかりながら手をひらひらと振っている加奈を鬱陶しそうにシュウは追い払う。

 

「あら、私は虫じゃないのよ」

 

「うるせー、それよりも頼んだぞ」

 

「終わったら私にも時間を頂戴ね」

 

「あぁ、分ってるよ」

 

 その言葉に加奈はにっこりと笑うとその場から消え去る。

 

 それと同時にパンデモニウムの近く、最前線だった場所からは無数の光が放たれ<ジャンド草原>を埋め尽くさんばかりにいた“スーサイド”が一瞬で壊滅する。

 

「……すげぇ」

 

 自分たちを追い詰めていた“スーサイド”が一瞬で壊滅する姿目撃した人々はそのあまりの光景に言葉を失った。

 

「さてと、こっちもちゃっちゃとやることをやらねーと加奈がうるさいからな」

 

シュウはレイの頭から手のひらを下ろし、腰に下げた袋――アイテムボックスから何かを取り出す。

 

それは指輪であり、アイテム名を【拡声の指輪】といった。

 

『あー、テステス。聞こえるかー、フランクリン』

 

『……ああ、聞こえているねぇ』

 

『そっかー。良かった良かった。じゃあ宣言するわー』

 

『…………宣言?』

 

『今夜お前が開いたゲームで、お前は最大のミスを犯した』

 

 毛皮の男はそこで一度言葉を切り、

 

『――それは“弟”と“俺”を敵に回したことだ』

 

 ほんの数人にしか意味が分からないことを言った。

 

 だが、その言葉に込められた戦意の激しさは、この場にいるものだけでなく中継を見る者にすら届いていた。

 

『だから、宣言するぜ……フランクリン』

 

 そして、

 

『お前自慢のモンスターは――この【破壊王】がまとめて“破壊”してやる』

 

 毛皮の男は――“シュウ・スターリング”はそう宣言した。

 

 

☆☆☆☆

 

 

「マスター!!」

 

「待たせて悪かったわねヴァル」

 

最前線、未だ戦い続けていたヴァルキリアに“スーサイド”を駆逐して回っていた加奈が合流した。

 

「街はもうよろしいのですか?」

 

「えぇ、モンスターの駆逐は終わったし、ヴァルが時間を稼いでくれたおかげで全ての準備が整ったわ」

 

加奈はにっこりと笑いながらヴァルキリアの頭を撫でる。

 

「その姿を見るのは久しぶりね」

 

『そうですね、ビット(分身体)の形状を変化させるのはマスターに負荷がかかりますから』

 

申し訳なさそうにヴァルキリアは俯く。自身がもっと優れた<エンブリオ>だったならばマスターに負担を強いる事なんて無かったのだ。

 

しまいにはレイすらロクに守ることが出来なかった。

 

欠陥品である自分に嫌気がさす。もっと自分が優れていればマスターは強くなれるのに……。

 

「貴女はよくやったわよ」

 

俯いているヴァルキリアを加奈は優しく抱きしめる。

 

俯き、拳を握り締めるヴァルキリアが何を考えているか加奈は想像できた。

 

ヴァルキリアは多機能すぎる故にステータス補正などは殆どない。

 

それに加え、持っている能力のほとんどが何かしらのデメリットを持っているか、MPなどのエネルギーを大量に消費するなど欠点が少ないわけではない。

 

それに、<エンブリオ>であるヴァルキリアの精神が安定しないのは、加奈自身の問題でもある。

 

「あまり自分を責めないで、私まで悲しくなるわ」

 

『……マスター』

 

「ほら、まだ戦闘は終わってないわ。私の中に戻ってきなさい」

 

『はい』

 

ヴァルキリアは憑依していた入れ物を捨て加奈の身体に溶け込むように入っていく。

 

「さあ、行きましょうか」

 

『はい!』

 

今宵最後の戦いが始まろうとしている。

 

 <超級>達の殺し合い

 

 これより始まるは、奇しくも今宵のメインイベントと同じもの。

 

 

 それ即ち――<超級激突>。

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