<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~ 作:夜神 鯨
□■<ジャンド草原>
フランクリンの創ったモンスターである“スーサイド”と【破壊王】が戦うこの草原でもう一つ別の戦いが行われていた。
1対1の戦い、【蛮族王】と【魔弾姫】互いに超級職。
更に互いに<超級エンブリオ>をもつ<超級>でもある。
奇しくもギデオンで行われていたメインイベントの再来。
結界や制限のない真の〈超級激突〉が始まろうとしていた。
☆☆☆☆
口上を述べた後向き合った二人は動くことなく緊張した空気が辺りを支配する。【破壊王】が繰り出す攻撃で騒がしいはずの周囲もここだけは別空間に隔離れているかの様や静寂で満たされていた。
先に動いたの加奈であった。先ほどの倍以上の数、第七形態《ブリュンヒルデ》となったビットが瞬時に展開されジョニーを一斉に攻撃する。
しかし、ジョニーはその攻撃をものともせず加奈との間合いを詰める。
そして振るわれるジョニーの槍を加奈は次の攻撃に移るために回避ではなくビットで防ごうと槍の軌道上にビットを設置し、自身はジョニーとの距離を詰めようと前に出る。
「ッツ!?」
『いッ!!』
だが、加奈の予想は外れ、ジョニーの振るった槍はビットを切り裂き加奈の目前まで迫っていた。
前に出ていた事で槍先ではなく柄の部分まで手を伸ばすことが成功した加奈は手の甲で槍を受け流し、ジョニーを投げ飛ばす。
投げ飛ばされたジョニーは空中で一回転をすると姿勢を安定させ何事も無かったかのように着地した。
「へへ、驚いたかい、あのタイミングで槍の軌道に置くってことは自慢の防御手段だったんだろうが、俺には意味が無い」
「へぇ戦いの最中に教えてくれるなんてずいぶんお優しいのね」
『ヴァル、大丈夫?』
ジョニーを挑発しながら加奈はビットが破壊されたことで痛みに苦しむヴァルキリアの心配をする。
『問題ありません。ビットが破損するのが随分と久しぶりでしたから…しかし、もう問題ありません』
ヴァルキリアの分身でもあるビットは攻撃はもちろん防御においても優秀だ、加奈の魔力を多く消費はするが、そこにさえ目を瞑れば、相手を蹂躙する矛であり、壊れる事のない盾でもある。
事実ヴァルキリアがダメージを完全に与えることの出来なかった相手は今まで存在せず、ヴァルキリアを壊した相手など【一騎当千 グレイテスト・ワン】を始め数える数しかいない。
そんなヴァルキリアをいとも簡単に破壊されたことが加奈には理解できなかった。
「それと俺をちまちま攻撃してるこの金属板、これも意味が無いから引っ込めたほうがいいんじゃない」
そんな加奈の視線を感じたのかジョニーは見せつける様に槍を一薙ぎすると周囲に展開していたビットを次々と破壊していく。
「第二形態《ヴェルダンディ》」
たまらず加奈は無事なビットを集め、ヴァルキリアを二丁の大型拳銃の姿へと変える。
しかし、かなりの数のビットを破壊されてしまったせいもあって、大型拳銃へと変化したヴァルキリアの身体には無数の細かい亀裂が入っていた。
「おいおい、俺たちを容赦なく殺していくからお前には心が無いと思っていたんだが、案外仲間は大切にするのな」
「無差別にティアンを殺して回る貴方に言われたくないわね」
加奈はジョニーに向かって2発の弾丸を放つとジョニーは再び槍の柄で弾丸を弾く。
「ふん、お前の影に脅えるのも今日で最後かもな」
☆☆☆☆
□決闘都市ギデオン 中央大闘技場
「なんだァ加奈の姐さんは散々殺してきた相手の情報を知らねーのカ?」
「まあ無理もないと思うよ、<CCC>のメンバーが殺された場面に出くわしたことがあるけど、視覚外からそれも気配すら感じさせない超長距離からの狙撃、あれでは接近する必要もないからね」
「あア、そうかあの人攻略とか掲示板とか見ねェもんナ」
今宵のメインイベントだったはずの<超級激突>が行われた中央大闘技場。
その舞台の上では二人の<マスター>が肩を並べ、中継映像を眺めていた。
一人は【超闘士】フィガロ。
もう一人は【尸解仙】迅羽。
<超級激突>で戦った二人であり、フランクリンの策略で時間停止した結界に閉じ込められ、解放された今は本日二度目の<超級激突>を眺めているだけの二人だ。
もちろん闘技場にいた他の<マスター>、特に彼らを救出しようとしていた者達には「二人にあの戦場への増援に向かってほしい」という心算があった。
が、フィガロには既に開いた戦端に参加する意思がなく、迅羽も完全に観戦モードとなって参加する気はなかった。
こうなると、言っても聞かない。
<超級>という……最上位プレイヤーにして変わり者達の厄介なところだ。
舞台付近にいた<マスター>らは渋々二人の助力を諦めて戦場に向かった。
内心で「闘技場に何かあったときには動いてくれるだろう」という心算と「闘技場にいるティアンの安全は確保された」という思いがあり、それは事実であった。
今の二人は世間話に興じているだけだが。
「しかシ、そうなると【蛮族王】の相手は厳しいだろうなァ」
「どうしてだい?」
映像の先でジョニーと互角に接近戦を繰り広げる加奈。フィガロの眼には加奈の方が優勢に事を運んでいるようにも見えた。
「いヤ、加奈の姐さんが攻防で使ってる金属板あるダロ?」
「ああ、あの厄介な武装だね、前戦った時は8個だったけど戦いにくかったのを覚えてるよ」
フィガロが苦い顔をしながら返事をする。戦ったのは大分昔のことだがあの武装にはあまりいい思い出が無かった。
「これは姐さん本人から聞いた事なんだガ、あの武装ナ、性質的にガードナーの特性を持ているらしイ」
「なるほどね、テイムモンスターの扱いなのか」
「あア、だから【蛮族王】との相性が悪い、ヤツの“自身とのレベル差に比例して戦闘力が上がる”って能力とはナ」
<CCC>という残虐非道なPKクランが加奈に潰されるまで残っていたのにはいくつか理由がある。
まずそもそも<CCC>に所属するメンバーの戦闘力が高いこと、
そしてリーダーが<超級>だということ。
そしてリーダーである【蛮族王】と同じレベルでなければ相手に有利な状態で戦うことになること。
ほかにも様々な理由はあるがこの3点の理由が非常に大きい。
【蛮族王】の能力はレベル差が開けば開くほど攻撃が通りにくくなり、そして【蛮族王】の攻撃は通りやすくなる。これはモンスターには適応されず、基本的に<マスター>とティアンにしか適応されない。しかし例外的にテイムモンスターにはこのルールが適応される。
そのため、ガードナーや従属キャパシティ内のモンスターを使う相手には滅法強い。
「なるほどね、だから【蛮族王】がこのタイミングで襲撃に加わったのか」
「そうだろうナ、何の問題も無くフランクリンがこの街を襲撃出来たら、その後にジョニーが再びこの街を襲い<エンブリオ>の能力で戦闘力を上げられル」
「それにもしイレギュラーな敵が出て来ても彼なら大抵の敵は倒せるだろうしね」
「そして姐さんが出てきた今、真正面から勝利できれば<エンブリオ>の能力で姐さんを恒久的に弱体化させられる」
「まあ、それで彼女が<CCC>の存在を許すとは思えないけど」
「だガ、一度倒せれば次も勝てるダロ、後は姐さんがボロボロになるまで決闘し続ければいい」
もう1つ、<超級>達が【蛮族王】に挑まなかったのは理由は、彼が持つ<超級エンブリオ>の能力、敗北者の能力を奪う力が彼への挑戦を躊躇させた。
「しっかシ、姉さんのところも面白そうだが、あのクマもなかなか愉快だな」
「“相手が十倍早いなら、十倍先読みすればいい”」
「なんだそりャ」
「何でも、相手の動きを読んで、相手が軌道を変えられないだろうポイントに予め攻撃を置いているらしいよ」
「うへァ……なんだそりャ」
そう、話す様子は友人同士であり、話している内容はほぼゲーマーのそれであった。
が、それを遠巻きに眺める観客達からしてみれば、<超級>の二人がギデオンを襲う災禍への対策を相談しているように見えていた。
そのため、現在の中央闘技場の観客は、緊張と興奮と共に中継を眺める者と祈るような気持ちで二人を見る者が半々といった具合だ。
もっとも祈られる二人が話す内容の大半は世間話なのが困りどころだ。
「はァ、こっちじゃなくてあっちに行けばよかったゼ」
「まあ、こっちもどうにかしないといけないしね」
「ところでサ」
「何かな」
だが……
「あのクソ白衣、“下の奴”をいつごろ動かすつもりだろうナ」
「多分、戦術級の自爆型モンスターだろうから、このプランCとやらで負けてからだろう。そう遠くはないと思うけどね」
――世間話が全てでもない。
「じゃア、“下の奴”はオレが必殺スキルで始末すル。フィガロの方ハ」
「観客席にいる最強・・のどちらかが敵対行動を始めたら止めるよ。“下”も気になるけど、生憎ソロ専門だからね」
「ゲハッ、そっちの方が厄介だろうニ!」
「けど、楽しそうだろう?」
「同意ダ」
中継映像で暴れる同類を眺めながら、二人の【超闘士】<超級>と【尸解仙】も牙を研いでいた。
☆☆☆☆
□■<ジャンド草原>
一方的な“破壊”をばら撒く【破壊王】によって、さらに千のモンスターが撃破された。
また、【破壊王】の活躍によって態勢を立て直した十数人の<マスター>が、【破壊王】の蹂躙劇からあぶれたモンスターへの迎撃を行っている。
加えて、西門からは続々と中央闘技場に閉じ込められていた<マスター>が駆けつけている。
時間稼ぎは成り、状況はギデオンを守る王国の<マスター>に傾いた。
「あちらは我々の側が優勢みたいね、貴方はいいのかしら」
突き出された槍先が加奈の放つ弾丸で弾かれる。そして突き出された槍先を踏み地面へ突き刺すと、加奈は槍の上に乗りジョニーへと蹴りを放つ。
加奈の蹴りが当たる前にジョニーは槍を振り上げる。
加奈は蹴りを中断し振り上げられた槍を蹴り上げて空高く舞う。
空中に浮く加奈をジョニーの槍が貫こうと幾度も突き出されるが、そのすべてが弾丸によって逸らされ加奈に当たることは無い。
空痛で姿勢を整え無事に着地した加奈は再び間合いを取ってジョニーと向き合う。
数度の手を合わせを経て、加奈とジョニーの戦いは拮抗している。
互いに手を読み合いぎりぎりのところで攻撃を避けてる。
しかし、互いに決定的な一撃が足りない。かと言って焦れば敵に隙を与えてしまう。
「仕方がない。あまり使いたい手ではないが使うしかないだろう」
「
赤い稲妻がジョニーの周りを奔り赤いオーラが彼を包む。
「これが成せなければすべてが無意味とかす、だからこそ俺はすべてをかけよう」