<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~   作:夜神 鯨

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<ノズ森林>

<ノズ森林>を駆け巡る無数のビット、第7形態《ブリュンヒルデ》にて編み出される攻撃は化け物共を駆逐し<マスター>達を<ノズ森林>の外へと避難させる。

 

「ようやく人が減ってきたわね」

 

 外へと逃げた<マスター>が被害を報告してくれたのか、<ノズ森林>に入ってくるマスターの数は少なくなってきている。

 

『しかしMPが...』

 

 ビットの連続稼働によって加奈のMPは残り1割を切ってしまっている。

 

「いいわ、ヴァル【十束指輪 エーテリア】を使うわよ」

 

 加奈の宣言と同時に手に付けた指輪の一つが光り輝き、同時に加奈のMPが全快する。

 

「このまま、数で押し切るわよ」

 

『マスター! 前』

 

 ビットの操作と【十束指輪 エーテリア】の効果での瞬間的な硬直は前進していた体を制御できず、一瞬の不注意が一人の<マスター>との正面衝突を引き起こしてしまう

 

『ッ! 《カウンターアブソープション》!』

 

 突如目の前の<マスター>から光の壁が張られるが、ダメージの許容量を超えたのか、効果時間が切れたのか壁はひび割れて最終的には割れてしまう。しかしその間に加奈はビットを足場にして後方へ飛ぶことで勢いを殺す。その甲斐もあってなんとか体同士の正面衝突は回避される。

 

「なっ!」

 

 しかし急に現れた加奈を敵だと思ったのだろう金髪の少年は華奢な体系に不釣り合いな黒色の大剣を構えて戦闘態勢をとる。

 

「ごめんなさいね、大丈夫だったかしら?」

 

 すぐさま両手を上に上げ敵ではないことを伝える。少年も分かってくれたのか一先ず武器を下げる。

 

「...あんたはいったい何者だ?」

 

「そうね、名前も分からなければ自己紹介のしようも無いわよね。私は加奈そしてこの子が私の<エンブリオ>であるヴァルキリア」

 

『こんな姿で申し訳ございませんTYPE:メイデンのヴァルキリアですお気軽にヴァルとでも及びください』

 

 現在進行で敵の化け物を退けているヴァルキリアを元の姿に戻すわけにもいかず武器状態のままでの挨拶になってしまう。

 

「あんたもメイデンのマスターなのか、俺はレイ・スターリング。でこっちが<エンブリオ>のネメシスだ」

 

『うむ、TYPE:メイデンwithアームズのネメシスだ!』

 

 ネメシスと名乗る<エンブリオ>は勢いよく挨拶をする、いまだ弾丸の化け物に襲われている状態なので大剣状態での挨拶だが、それはお互い様のため加奈は気にしないことにする。

 

「あなた達まだ初心者でしょ?」

 

「ああ、<Infinite Dendrogram>は昨日始めたところだ」

 

 レイ少年の言っている事が真実だとすると、どれだけ頑張ったとしても未だ下級職のレベル10に届かないくらいだろう。そんな彼が化け物で満ちたこの森林にいるのは危険だ。

 

「君も遭遇したかもしれないけれど、この森林では今PKが行われているわ」

 

「黒い化け物を迎撃しながら逃げてる最中にあんたとぶつかったんだがな」

 

 それを聞いて加奈は少しばつの悪そうな顔をする。忠告しておいて逃げる邪魔をしているのでは意味がない。

 

「それはごめんなさいね、ともかくここを真っ直ぐ走れば街に着くわ。お詫びと言ってはなんだけど援護してあげるから街まで走りなさい」

 

『それは良いが...』

 

「あんたは大丈夫なのか?」

 

 まさか自分が心配されると思っていなかった加奈はつい吹き出してしまう。

 

「アハハハ..あぁいやすまないね、まさか心配されるとは思っていなかったから。でも心配はいらないわよ、私こう見えても<超級>なんだから」

 

「<超級>がなんでこんなところに?」

 

 レイ少年の素朴な疑問に加奈は少し頬を赤らめながら

 

「久しぶりのINだからリハビリにきてたのよ」

 

『<超級>でも随分と人間らしいのじゃな』

 

「あら、<超級>だって中身は人間よ。それより早く逃げなさい。急がないと手遅れになるわよ」

 

 レイ少年はうなずくとお礼を言って街の方角へと足り出す。

 

『面白い少年でしたねマスター』

 

「ええ、だからこそ、守りたいわね」

 

 既に<ノズ森林>には加奈とレイ少年、それとPKを起こしている張本人の3人しか残っていない。

 

 恐らく張本人も近くにいるのだろう、今までの比ではない程まとまった数の化け物が襲い掛かってくるのが感知できる。しかしビットは<ノズ森林>中に拡散させてしまっている為、この周囲にあるピストルビット6機、ライフルビット2機とライフル型のホルスタービット4機の計12でしばらくは凌がなければならない。

 

『マスター、一番近くのビット群8機が帰投するまでも1分かかります』

 

「なら1分凌げば反撃に移れるわね」

 

 加奈はホルスタービットを2機ずつ連結させ盾のようにして浮かせる。自分だけが戦うのであれば速度にものを言わせて撹乱すればいいが、後ろのレイ少年を守る為には迫りくる敵を迎撃し続けるしかない。

 

『敵来ます!』

 

 ヴァルキリアの合図とともに先程までとは比較にならない視界を埋め尽くさん程の化け物が襲い掛かる。

 

「なめて貰っちゃ困るわね」

 

 加奈は周囲に散ったビットの回収をヴァルキリアにすべて投げ、ここにある10機のビット操作に集中する。迫りくる敵を一匹ずつ丁寧にそして素早く撃ち抜いていく。攻撃力に優れたライフルビットが照射ビームで敵を薙ぎ払い、連射力に優れたピストルビットが撃ち漏らしを正確に潰していく。

 

 まるでそこに壁があるかのように化け物の進撃は加奈の2歩手前で完全に止まっている。あまりの集中に1分という時間が1時間のように感じる。永遠にも感じられる時間の中でヴァルキリアの声が響く

 

『マスター! ライフルビット4機ピストルビット4機帰投しました』

 

 これで反撃に移れると加奈が態勢の切り替えを行おうとした時後ろから声が聞こえる

 

『逃げろ!! マスター!』

 

 その声に反応して声のする方向にビットの1機を向けると、そこには5匹の化け物がレイ少年に襲い掛かる寸前だった。瞬間、加奈は防衛に隙は無かったはずだと思考するが、化け物の角度から恐らく正面から大きく迂回した個体であろうことまで推測できる。

 

 急いで対応しようとするが、態勢変更と追加のビット操作がヴァルキリアから加奈に切り替わるタイミングも重なりレイ少年まで手が届かない。

 

「逃げてくれ!! レイ君!」

 

 特化したAGIが生み出す超音速の世界で瞬間的に思考の切り替えと正面の防御、更にレイ少年を助ける為にライフルビットを2機向かわせるが、遠い。この身が向かえば間に合うだろうが、武器も手に持たない状態で向かったところで、肉壁にしかならない。それに自身が消えてしまえば敵の猛攻を受けとめる役がいなくなる。

 

「ヴァル《ニーベルンゲンの歌》を発動させなさい!」

 

 加奈の言葉に反応し黒色をしていたビットが紫色へ輝きはじめる。《ニーベルンゲンの歌》はMPの消費を10倍にする代わり、速度を<マスター>のAGIと同じ値にし、攻撃力を大きく引き上げる。

 

 紫に輝くビットがレイ少年を救おうと超音速で向かうが、一歩届かず、ビットが攻撃を開始する直前に化け物がレイ少年を粉砕した。HPを超えた攻撃を受けたレイ少年は光の粒となり、空気中に散っていく。

 

「クソッ!!」

 

 心からの叫び。

 守るといった存在を守れなかった悔しみ。

 目の前で命が失われていく喪失感。

 任務でいつも味わいそして味わう度に自分の無力さを嘆いてきた。

 

 この世界(<Infinite Dendrogram>)ならば届くと思った手さえも届かない。

 

 コレデハ...ツヨクナッタ...イミガナイ

 

終末の日来たれり(ヴァルキリア)

 

『マスター! いえ! 加奈様そのスキルは!!』

 

 ヴァルキリアが叫ぶがもう遅い。加奈が唱えたスキル。ヴァルキリアの名を冠する必殺スキルが発動する。

 

 加奈がスキル名を唱えた瞬間<ノズ森林>が光で包まれ散っていたビットが消失し、代わりに12体の人形が降臨した。人形達は加奈を中心に円を描くように広がり頭を垂れた。

 

「壊しなさい」

 

 静かに加奈がそう命令すると、12体の人形はゆっくりと頷いた。そして人形たちがその場から消えると同時に<ノズ森林>に殺戮の嵐が吹き荒れた。嵐は加奈が必殺スキルの効果で死亡するまで続いた。加奈がゲームからログアウトすると同時に12体の人形は消失し破壊の嵐は終わりを迎えたのだった。嵐は約5分ほど続き、<ノズ森林>はその姿が見る影も残らないほど破壊しつくされたのだった。

【致死ダメージ】

 

【パーティ全滅】

 

【蘇生可能時間経過】

 

【デスペナルティ:ログイン制限48h】

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