<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~ 作:夜神 鯨
□【蛮族王】ジョニー・ハワード
<エンブリオ>の必殺スキルである《遥かなる蹂躙制覇》を発動させた俺は一気に踏み込んで開いた間合いを一気に詰めた。
「!?」
瞬間的に加速した攻撃に一瞬反応が遅れた
しかし、攻撃は掠めただけで、ヤツに大したダメージは与えられていない。
「チッ」
確実に殺れると思った攻撃を紙一重で回避された事で、更に苛立ちが増す。
急上昇したステータスに感覚がついて行かなかったんだろうが、それでも攻撃を外すとは思わなかった。
俺は、舌打ちをしつつもヤツに隙を与えない為に次の攻撃を繰りだす。
横なぎ、突き上げ、振り下ろし、連続で繰りだされる攻撃がヤツの肌を掠っていく。
浅く素早く。自分の感覚を合わせながらヤツに手傷を負わせる。少しずつ少しずつ、焦らずに上昇したステータスを自分のものにしていく。
初めの一撃を外した時点で奇襲は失敗。
となれば思い切った攻撃をして反撃をくらうよりも堅実にヤツの体力を削り確実な一撃をくらわせるべきだ。
しかし、ヤツに攻撃が当たらないのは、上昇したステータスに俺が未だ慣れていないからなのか。それともヤツが上手なのか、あるいはその両方か。
未だにヤツの手の内は全て見切った訳では無い。浮遊する複数の金属板、それと両手に持った銃、明らかに遠距離職だと言うのにこちらの槍を捌く技量。
先ほどまで気にならなかった雨のように降り注ぐ弾丸も、こちらの攻撃が避けられ続けると次第に気になりだしてくる。残念ながら金属板から放たれる攻撃はこちらに届かない。
おそらくはガードナーとしての性質を持つであろうあの武装では俺とのレベル差がありすぎる。
だから警戒する必要も無い。何発当たろうともダメージが通らないのだから。
警戒すべきは両手に持った銃とヤツ自身が仕掛けてくる接近攻撃。両手に持った銃は形こそ浮遊している金属板と似ているが、あれは武器として判定されてる。だから、両手に持った銃での攻撃は俺とヤツとのレベル差で軽減率が変わる訳だが、俺とヤツとの間には残念ながら軽減される程のレベル差が無い。
だからこそ銃での攻撃は致命傷を与えられる可能性がある。
「鬱陶しい攻撃だぜ!!そんな攻撃に意味なんてねぇのによ!」
「それはどうかしらね?」
苛立つ俺を横目にヤツは涼しい顔で攻撃をかわす。だがそれでも、さっきまで拮抗していた戦闘は今こちらが主導権を握る形で展開できている。
確実にこちらが有利なはずだ。ステータスの差にもだいぶ慣れた。それに細かい傷だがヤツに攻撃を当て続けている。しかし、だから言って遊んでいる時間はない。
今は優位に立っていても時間が経ち過ぎれば不利になるのはこちらだ。
俺の<エンブリオ>が持つ必殺スキル《遥かなる蹂躙制覇》は自身が奪ってきた能力の所有権を破棄することで、破棄した能力やステータスをその数値分、一時的に上昇させることが出来る。
更にそれに加え破棄したステータスの数に応じて上昇させるステータスの倍率を上げることで一時的に驚異的な能力を得る事ができる。
つまり今まで奪ってきた能力を捨てれば捨てる程、上限無く強くなることができる。
しかし、発動するには最低100個の能力を破棄する必要があり、発動時間も5分間と短い。
それに加え能力の効果が終わった後は破棄した分の能力が下がり、著しく弱体化してしまう。諸刃の剣だがそれでもヤツさえ倒してしまえば失った能力分くらいこの街で回収できる。
今回選んだのはAGIとSTRのステータス。
ゆうに50万を超すAGIと30万を超えたSTRを得たことで、まともに当たりさえすれば大抵の敵は一撃でHPを全損させることができる。
それに加えヤツのHPはそこまで多くない。当たりさえすれば確実に勝つことが出来る…のに。
「何故当たらない!!」
思わず思っていたことが口から出る。繰りだしている攻撃は俺がステータスに慣れるにつれて速度、鋭さが増している。だからこそ、さっきまで避けるのに精いっぱいだったヤツは俺の攻撃についてこれる訳が無い…のに。
確かに俺の攻撃はヤツに傷を与えてはいる。しかしそれは、致命傷ではない。それどころか皮一枚の所で攻撃をさけられているせいで【制覇槍】の攻撃は切り傷を与える事しかできていない。
すでに《遥かなる蹂躙制覇》の発動から2分。まだ焦るような時間では無い。しかし、加速したことで止まったようにすら感じるこの世界でもう既に2分が経過してしまっている。焦るわけではない、ではないが、このままいけば5分なんてあっという間に経ってしまう。
ならばと、【制覇槍】を大きく突き出す。その攻撃を読んでいたかのように大きく後退するヤツに合わせてこちらも大きく距離を取る。
そしてヤツが大地に着地する瞬間。地面を力一杯に踏み締め、ヤツに向かって突進をする。
踏み込んだ衝撃で地面が割れ、砕けた地面が大小の塊となって宙を浮く。
普段の10倍にもなるAGIを活かした突撃、自分自身を一本の槍として繰り出すこの技はAGIを最大限に生かした一撃離脱の攻撃。
今までに多くのものを屠ってきた一撃、ただただ早い突撃、単純ゆえに回避がほぼ不可能な一撃。傍から見たら一筋の光が地面を巻き上げながらヤツへと接近していく光景が見えただろう。
俺は確実に殺ったと思った。なにせこの技を回避した奴はいない。速度と力にものを言わせた一撃。しかも今までこの一撃を放った中で今回が一番ステータス値も高い。
敵も強いが、しかしそれでも、勝利を確信した俺の目の前に、信じられない光景が映る。
それはヤツが繰り出していた金属の板、それが俺とヤツの間に入り、僅かに穂先を逸らしている。
「クソッ!!」
金属版は一撃で大きくへこみ、瞬間、砕け散った。
今度こそはと、再び距離を取り二度目の突撃を繰り出すが今度は、当たる前に躱されてしまう。
まるで未来でも予知しているかのような行動。その後、何度も突撃を繰り返すが結界は同じ、ヤツに俺の攻撃が当たることは無かった。
既にスキル発動から3分経過している。このままではヤツを殺すことは出来ない。
それならばと、俺は直進的だった突撃に変化を加える。速度に緩急をつけ、それに加え急な方向転換を織り交ぜた不規則な攻撃、それに加えてAGIの能力を更に破棄して速度を上げる。
追加の能力破棄によって制限時間は伸びない。その為、これで増えた分のステータスも
しかし、それでいい。ここでヤツを一度でも倒せればヤツの能力を奪える。俺のHPは未だ全快。この状態で倒せれば今回だけでヤツの能力を半分か最低でも1/3ほどは奪える。
そうすればまた仲間たちと楽しくこの世界で過ごせるはずだ。俺も仲間たちもこの世界しかない。この世界にしか逃げる場所がないんだ。其れなのにこんなところで、俺たちの自由が、俺の覇道が終わっていいはずがない。
確実にヤツを仕留められる一撃を、手足でも胴体でもどこでもいい、まともに攻撃さえ当たればヤツの命を削ることができる。
致命的な一撃を与える為、俺はヤツの周囲を取り囲むように走る
ヤツを中心とした円を描くように走り出した俺は不規則な加減速などをつけながら隙を伺う。
雷のようにジグザクと動く俺の円はずいぶんと汚く見えることだろう。
だが、そんなことはどうでもいい。
俺の足止めする為か、金属板からの攻撃が放たれているが、俺にには効かない。
ヤツの隙を作る為、割れた地面から浮き上がるように出た岩のような塊を【制覇槍】で打ち付ける
塊自体はヤツに届く前に砕かれてしまうが、意識には一瞬の隙が生まれる。
刻一刻と能力の制限時間が近づく中、ヤツが視線を逸らした隙を見逃さない。
俺は《瞬間装備》を使い、空いている左手に投擲に特化した小さな槍を握り、そしてヤツに向かって投げる。
奴も迎撃しようと槍に攻撃をするが、先ほどまでの塊とは違い槍は簡単に壊れない。
先ほどの塊に引き続き、飛来する槍にヤツの意識が更に割かれる。
ここしかない。
俺はフランクリンから受け取っていたアイテムをヤツに向かって投げる。
物は大したものではない煙を出す【煙玉】の強化版、
従来のものとは違い接触した瞬間、四方八方に煙をまき散らすただそれだけ。
だが、今はそれで十分。
俺は背後からヤツに向かって走り出す。
もっと早く。
ヤツの意識が槍に割かれている内に。
もっと早く。
既に俺とヤツとの距離は1mも無い。
今更気づいた所で俺の勝利は揺るがない。
勝った。
「取ったぞッ!!」
あまりの歓喜に叫びながら繰りだした攻撃は……しかしヤツに届くことは無かった。
煙にまみれながらも確実にヤツを捉え、【制覇槍】の穂先が触れるか触れないかの瞬間、俺は地面へと倒れ込んだ。
そして、トップスピードを出しながら地面へと激突した俺は、土煙を上げながら2転3転と無様に地面を転がり岩にぶつかって動きを止めた。
なにが起こったかは分らないが、幸いにも戦闘不能ではない。HPを見ればまだ半分以上も残っている。
上下左右に入れ替わった視界のせいで多少の気持ち悪さを覚えながらも、俺は急いで姿勢を整えて立とうとする。
しかし、素直に立つことが出来ない。
平衡感覚の狂いかと疑ったが、視線の先では【麻痺】の表示が出ている。
それと同時に脚に痺れるような感覚があって力が入らないことが理解できた。
急いで視線を太股に落とすと、右太股に穴が開き血が流れていた。
「なッ!」
ヤツの攻撃は俺にダメージ現れないはず。ヤツの両手に持つ銃は槍の迎撃の為、俺とは反対方向へ向けられていたはずだ。
それなに俺の足には穴が空いている。痛覚をoffにしているせいで気が付かなかった。
そしてその一瞬が致命的な隙を産んでしまった。
「それが最後の言葉ですか?」
そして、ヤツの言葉が聞こえた直後、俺の胸を弾丸が貫いた。
「クッ……」
同時に装備していた【救命のブローチ】が砕ける。
俺の運が無いのか、はたまたブローチの許容量を遥かに超える攻撃だったのか。
それは分からないが、ブローチは砕け散り、俺はなんとか一命を取り留めることが出来た。
『【救命のブローチ】が砕けましたね』
「良かったわ、ENDまで馬鹿みたいに上がってなくて」
やれやれと言った表情で軽口を叩くヤツは、俺が死んでいないことを確認すると次の瞬間には攻撃を再開し始める。
先程以上の攻撃が飛び交い、まるで蜘蛛の巣のように張り巡らされた弾丸が俺に迫る。
弾丸と言っても見た目はまるで光線だ、さっきまでの俺ならともかく ステータスの落ちた今では弾道を追うのすら難しい。
それでもなんとか迫り来る弾丸を槍で弾き退ける。
さっき、何故ダメージを受けたのか、その理由が分からない限り攻撃を受ける訳には行かない。
四方八方から迫り来る弾丸に包囲されないように、槍で弾丸を払い、道を開きながらゆっくりと前へ、決して止まらないよう、ひたすらに足を動かし続ける。
幸運な事に、先程感じた【麻痺】は既に効果を失っている。
念のために装備していた【救命のブローチ】は砕かれ、ほかの救命アイテムを装備する暇すらない。足を停めれば即座に補足され蜂の巣にされる。
それでも何とか活路を見出そうとヤツの動きを観測する。
よく見れば無作為にばら撒かれたように見えたビットの弾丸は空中でぶつかり跳弾をする。
そしてその跳弾した弾丸に新たな弾丸が当たり再び跳弾をする。それを繰り返し、まるで蜘蛛の巣のように広がった弾丸に加奈自身が放った弾丸が跳弾し俺へと向かってくる。
「なるほど、跳弾を繰り返して、金属板からの攻撃に自身の攻撃を混ぜたのか」
「ご名答。しかし、残念気付くのが遅かった。」
「なめるなよ!!」
俺は迫りくる弾丸を全て【制覇槍】で弾き返す。
来るとわかっていれば対処この程度の攻撃は対処できる。
「見通しが甘かったな」
「いいえ、チェックメイトですよ」
「なにを言っ…て?…」
言葉は最後まで出ず、俺はその場に倒れ込む。
何が起こったのか分らない。
身体が上手く動かず、HPは目に見えて減っていく。
自動回復効果がある防具が効果を発揮し始めたのかHPの減りは抑えられたもののそれも気休めでしかない。
なんとか原因を探ろうと身体を捩らせると胸から大量の血が出ていることに気付く。
恐らく原因はこれだ。いつ、どんな風に食らったかは分らないが俺の胸には今小さな穴が1つ空いている。
恐らく心臓にも風穴を開けているであろうこの穴を塞ぐ手段を俺は持ち合わせていなかった。
「あら、まだ生きているのね。確実に心臓を貫いたのに、しぶといこと」
「……なぜ…どう…やって…」
意地の悪いこの女が答えるとも思えなかったが、それでも聞かずにはいられなかった。
俺はヤツの攻撃を完全に防いだはずだ。弾き漏らしはなかった。
「…敵に情報を与えるのは嫌でけど、最後だろうから教えてあげるわ。私の【魔弾姫】には相手に命中したという結果を作り出してから弾丸を放つ奥義がある。それを使用してあげたのよ」
やはりこいつは異常だ。インチキだ、チートでも使ってるんじゃないかと思うくらい理不尽だ。
こちらが使用した必殺スキルは意味をなさず、結局ヤツに致命傷を追わせることなく敗れた。
「…なぜ…俺たち…狙う…もういいじゃないか!……俺たちだって…この世界で…」
「貴方達が、最初の契約を守りさえすれば私は干渉しないわ。だけど、守らなかったじゃない貴方達」
「あんなの…無理に決まってる……だろ…」
1つの村を蹂躙し壊滅させた俺たちを、ものの3日で最初の全滅に追い込んだヤツが俺たちに突き付けた条件は3つ。1つ奴隷として売り払った村人の捜索と保護。1つ略奪した物品、財産のすべてを返却、既に紛失、喪失してしまった物に関しては同等品を返却。1つ死亡した村人1人につき遺族への謝罪として1億リル、生き残った村人についても2000万リルの補償金を払う事。
なお以下の条件を達成する上で略奪及びPK等の一切を禁じる。といったものだった。まず1つめの条件は<ヴァルハラ>という組織の協力もあって解決済み。2つ目の条件もクリアできる。だが3つ目の条件はクリアできない。
俺たちがあの村で殺したティアンの数は1000人を超す、生き残ったティアンも2000人以上がいる。それだけで1400億リルもの大金が必要になってくる。それだけの大金を略奪なしで集めるにはゲームを楽しむのを目的に過ごすのではなく贖罪を目的に過ごす羽目になる。そんな苦痛を自ら楽しむやつなんてそう居ない。
案の定仲間たちは皆この世界から離れて行ってしまった。
「別にできるか否かなんて事は問題じゃないのよ」
「じゃあなにが…」
「やるか、やらないか。これは私が貴方達に与える罰なのだからそのどちらしかないの。そして貴方達はやらなかった、だから私は貴方達を更に罰しただけのこと。」
「そんな…理不尽なことがあるか!」
「あるわよ、だって本質的には貴方達がティアンにやってきた事と変わらないもの」
時間を稼げは事態が好転すると思ったが、そう甘くはならしい。HPは増減を繰り返しながら徐々に0へと近付いている。それに増援が来る様子もない。
「ここまでか……」
「えぇ、そうね。サヨナラ」
ヤツは無慈悲にそう告げると俺の頭に突き付けた銃の引き金を引いた。