<Infinite Dendrogram>~魔弾の射手~   作:夜神 鯨

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決闘都市ギデオン

 馬車に乗り込んだ2人は順調に旅路を進んでいた。加奈たちが目指すのは決闘都市ギデオン。そこにある拠点で一先ず物資の供給をする予定だ。

 

 そもそも回復アイテムや復活・身代わりアイテムを使えない加奈は物資の補給など必要ないようにも感じるが、加奈が使う装備の中には火薬式の銃や使い切りの装備品も多い。それに加奈自身が使用しなくとも他のティアンとうに使用することはある。事実アルター王国に向かう道中にもいくつか消耗品を使用している。

 

「のどかですねマスターこんなにユックリ流れる気色は久々に見た気がします」

 

『そうね、移動に時間をかけたのなんて最初の頃以来じゃないかしら』

 

 荷車で揺られながら、加奈は昔を思い出す。まだレベルも上がってなく、AGIも低かった頃はよく行商人の護衛をこなしつつ街から街へ移動した。トラックの荷台や強風のヘリなど様々な乗り物にのった加奈だったが、<Infinite Dendrogram>を始めるまで馬車というものには乗ったことがなかった。車両にくらべるとゆっくりとした移動速度にあまり乗り心地の良いとは呼べない荷車、しかし、現実では機会のない経験に心を躍らせていたものだ。

 

 しかし、移動手段が確立されてくると、各国を回ることや、攻略を優先したことで、馬車などの移動手段を使わなくなっていった。

 

 荷馬車のホロから外を眺めると、戦っている<マスター>の姿がちらほらと見える。ここ<サウダ山道>は初心者狩場の一つでも初心者狩場の一つでもある。モンスターが大量の群れで襲ってくることもなく、初心者でも冷静に対処すれば勝つことは容易い。

 

「しかし、申し訳ない気もしますね、護衛もせずに乗っているだけというのは」

 

 加奈たちは現在、行商人の馬車に相乗りしている状態だ。戦闘もすることなく他の荷物と共に揺られている。護衛として雇われている者達がいるので、加奈たちが護衛をする必要もない。その為により多くのリルを払っているのだ。

 

『ヴァル、貴女が行きたいなら行ってもいいのよ』

 

「しかし....」

 

『私ばかりが戦闘をしてるから少し動き足りないんじゃない?』

 

 ヴァルキリアは同レベルのメイデンと比べると、ステータスの値が高い、その代わり加奈に対するステータス補正は無しとなっている。

 

 加奈直伝の戦闘技術も合わせれば<超級>の戦闘職<マスター>と十分に渡り合う程の戦闘力も持っている。しかし、加奈が最高のパフォーマンスを発揮する為にはヴァルキリアを装備する必要があるため、彼女単体で戦闘する機会は少ない。

 

「今回は遠慮しておきます。彼らが対処できなかったときにでも...」

 

「【ゴブリン】だ【ゴブリン】の大群だぞ!!」

 

「この前、【ガルドランダ】が倒されたばかりだぞ!なのに何でこんなにモンスターが沸いているんだ!」

 

 ヴァルキリアが会話を終える直前で、外が騒がしくなる。加奈たちが外を見てみると、丘の先から100を超すゴブリンたちが向かってきているのが見える。

 

『出番みたいよヴァル』

 

「....【月光】と【陽光】を借りても?」

 

『ええ、MPは大丈夫かしら?』

 

「問題ありません。私はMPを使ってませんから」

 

【半騎器官 グレイテスト・ハート】の効果は<エンブリオ>であるヴァルキリアにも適応される。その為MPの消耗が激しい【月光】と【陽光】も短時間ならば使うことができる。

 

『無理はしないでよ私は助けにいけないんだからね、無理だと思ったら逃げなさい』

 

 加奈はヴァルキリアにそう忠告すると【月光】と【陽光】を手渡す。

 

「行ってきます」

 

「おい!嬢ちゃん無茶な真似はよせ」

 

 そう言って荷車から飛び出したヴァルキリアは【ゴブリン】の群れへと突撃していく。何名かの護衛がヴァルキリアを止めようとするが、蛇のようになめらかに動くヴァルキリアを誰一人として捕まえることが出来ない。

 

「なんだい、あの嬢ちゃんは」

 

 護衛たちを尻目に、群れへと突っ込んだヴァルキリアは懐から取り出したグレネードを周囲へとまき散らす。すぐさま群れのいたるところで爆発が起き、何体かのゴブリンが爆発に巻き込まれる。

 

 爆発により群れが混乱している間に【月光】と【陽光】を使い、ゴブリンを1体ずつ処理していく。見れば【ゴブリンウォーリア】や【ゴブリンアーチャー】なども散見されるが第七形態へと至っているヴァルキリアを止めることはできない。

 

「こんなものですか!?」

 

 戦闘をしながらヴァルキリアは高らかと笑う。敵を撃ち抜き、爆破し巻き上がった血しぶきを浴びながら嬉しそうに笑う。まるで舞でも舞っているかのように鮮やかに敵を駆逐していく。

 

『まったくあの子は戦闘になると人が変わるんだから』

 

 そういいながら加奈は荷車から降りてアイテムボックスから火薬式の大型狙撃銃を取り出す。あながち人が変わるという表現は間違いではなく、実際に代わっているのだろう。しかしそんなことは関係ない。加奈は近くの丘へと寝そべると狙撃銃を構えた。

 

 そして普段と同じように、大きく息を吸い込むと少しだけ息を吐き、一瞬呼吸を止めて、引き金を引く。

 

 加奈が放った弾丸は大きな発砲音を立てながらヴァルキリアを後ろから襲おうとしていた【ゴブリン】を貫く。表記を見れば【ゴブリンアサシン】となっている。レベル50のこのモンスターをこの狩り場で見たことはなかったが、時間の移り変わりで今は出るのかもしれない。

 

 ヴァルキリアは一瞬、加奈を見てにっこり笑うと、再び狩りへと戻っていく。

 

『本当にしょうがない子だわ』

 

 その後も加奈はヴァルキリアの援護を続ける。ヴァルキリアが戦闘を開始してから20分が経つ頃には、【ゴブリン】の群れもほぼ壊滅し、残るは数体といった所まできていた。

 

「【ゴブリンチャンピオン】ですか、アルター王国の周辺ではあまり見ませんが、目の前にいる以上は倒すしかありませんね」

 

【ゴブリンチャンピオン】、【ゴブリンキング】には劣るが、かなりの強敵である。巨大な図体と大きな鉈の様な大剣から繰り出される一撃は強力で、上級職を得られていない<マスター>ではSTRかENDにそうとう振っていないと一撃で死亡まで持っていかれてしまうだろう。

 

『ヴァル、雑魚は私が片付けるから、ボスを屠りなさい』

 

「わかりました」

 

 ペロっと口の周りについていた血を舐めるとヴァルキリアは【ゴブリンチャンピオン】へと前進する。対する【ゴブリンチャンピオン】は持っている大剣を横薙ぎに振るう。

 

 迫りくる大剣の下に滑り込むことでかわし、両足へと銃撃を食らわせる。何発もの魔弾を足に受けた【ゴブリンチャンピオン】は体勢を崩して跪いてしまう。

 

「これで終わりね」

 

 跪いた【ゴブリンチャンピオン】の頭に2発、そして立て続けに胸へ3発の魔弾を撃ち込む。動かなくなった【ゴブリンチャンピオン】から距離を置き確実に死んだことを確認するとヴァルキリアは馬車の所へと戻る。

 

「援護ありがとうございます。無事に完了しました」

 

『お帰りなさいヴァル、血が死体と一緒に消える判定で良かったわね、じゃななきゃもう馬車には乗れない所だった』

 

「あはは....申し訳ありません。戦闘になるとどうしても」

 

『まあ、いいわ、しょうがないことだもの、それより馬車に乗りましょう出発するわよ』

 

 馬車に乗り込む途中、加奈たちは護衛と行商人からお礼を言われたが、『気にしないでください。お金なども結構ですので』言ってお礼を断った。そもそも、ヴァルキリアがやりたくて行った行動であるためお礼を言われる立場でもない。

 

 加奈たちが乗り込むと馬車はギデオンに向かって再び進み始めるのだった。

 

 ☆☆

 

【ゴブリン】の襲撃以外は特に異常もなく加奈たちは無事にギデオンへとたどり着くことが出来た。

 

「この後はどうしますか?」

 

 馬車から降りた加奈とヴァルキリアはギデオンの中心街から外れ、外壁付近まで歩いてきている。

 

『...そうね、拠点で情報の整合をとったあとレイ少年を探しましょ』

 

「分かりました。それにしてもこの拠点に帰ってくるのも久しぶりですね、皆元気にしてるといいんですが」

 

『どうかしらね、資金はあるから元気にやってるとは思うけれど』

 

「あっ、見えてきましたよマスター」

 

 ヴァルキリアが指を指す先には少し大きめの建物が見える。周りに建っている建物と大きな違いは無いが、その建物の前では子供たちが元気よく遊んでいた。

 

『丁度いい時間に来たようね』

 

「あーきつねさんだー」

 

「もふもふ」

 

 建物に近づくと、きつねの着ぐるみに気づいた小さな子供たちが寄ってくる。加奈はすぐに周りを囲まれ子供たちに遊ばれる。

 

『うっ....まあ元気がいいのはいい事ね...』

 

 普段ならば問題は無いが、少し早くギデオンに着いたことによって、加奈は未だ状態異常にかかった弱体化中である。その為、子供たちの戯れであっても体に響いてしまう。

 

「コラコラ、止めなさい」

 

 子供たちに囲まれてしばらくすると、建物から20歳くらいの少女が駆け寄ってくる。

 

「あ、カノンおねーちゃん」

 

「いきなり抱きついたらご迷惑でしょ、申し訳ありません」

 

 カノンと呼ばれた女性は子供たちを引き離すと、一緒に頭を下げる。

 

『カノンか...随分と立派に成長したものね』

 

「え?」

 

 不思議そうな顔をしている子供たち。それを見た加奈は着ぐるみを脱ぎ去って素顔を見せる。

 

「久しぶりね、シスターはいるかしら?」

 

「加奈様!?少々お待ちください」

 

「おかしのおねーちゃんだ」

 

 カノンは急いで建物へと戻っていく。それを見た加奈もキツネの着ぐるみを着直して後を追う。

 

『ヴァル、子供たちと遊んであげてね』

 

「..かしこまりました」

 

 加奈に続いて着いていこうとしたヴァルキリアだったが、加奈に子供たちの事をお願いされ、面倒を見ることになった。正直彼女はあまり子供が得意ではないが、<マスター>である加奈の願いであれば<エンブリオ>の誇りにかけて遂行するのみであった。

 

「さあ、みんな仲良く並んでください。お菓子は沢山ありますよ」

 

 ヴァルキリアは何処からか取り出した机の上にお菓子を並べ子供たちへと配り始めた。子供たちは喜びながらも小さい子から順に並んでいく。

 

『あっちは大丈夫そうね』

 

「わざわざすいません、子供たちの面倒まで見ていただいて」

 

 建物の方から女性の声がする、カノンとは違いもう少し落ち着いた声だ、声に反応した加奈が後ろをむ振り向くと、建物の戸口からシンプルな服装を身に纏った30代半ば程に見える女性がこちらへ向かって歩いてくるのが見える。

 

『良い教育が施されているのね、このまま育ってくれれば、いい子たちに育ちそう』

 

 子供たちを見る加奈の眼は自然と緩み、柔らかな表情になっている。着ぐるみを着たままでは第三者にはわからないが、こころなしか、雰囲気もいつもより暖かい。

 

『貴女様が、援助をしてくださるおかげです、子供たちの着る服が一般家庭で育つ子供たちと遜色なくいられるのも、子供たちに無理な仕事をさせずに教育させることが出来ているのも貴方様のおかげなのです』

 

 その言葉を聞いた加奈は緩んだ身を引き締め女性を見つめる。

 

『やあ、シスターグレース、久しぶりね』

 

「いえいえ、こちらこそお久しぶりですね、加奈様。外ではなんですから中へどうぞ」

 

『そうね、それでは行こうかしら』

 

 ヴァルキリアに子どもたちを任せ、3人は建物の中へと入っていく。建物の中にはまだ外で遊ぶことのできない子供たちが何人か残っており、その面倒を14、15歳の子供たちが見ている。

 

『少しずつ子供たちが増えているようね』

 

「ええ、前の戦争の影響孤児になった子供たちが多かったものですから...なるべく多くは受け入れてはいるのですが、これ以上となると人手が足らず...」

 

『成長した子供たちは?』

 

「16歳になった子供たちは、近くのお店で働いたり冒険者となって、少しずつ独立を始めています」

 

 この孤児院を設立した当初のも目的通り、子供たちの独立は上手くいっているようだ。カノンなどをはじめとする成長した子供たちも無事自身の道を歩んでいる。しかし、想定外だったのは、やはり、戦争の影響だ。ただでさえ少なくない孤児たちに加えて戦争孤児による孤児全体の増加はあまり芳しく無い。

 

『ほかの拠点と連携しても賄えないかしら?資金はまだあるでしょう』

 

「それについてなのですが、1つ問題が」

 

『問題?』

 

「はい、近頃ゴゥズメイズ山賊団という山賊たちが<クルエラ山岳地帯>を拠点として暴れていまして、奴らは…子供たちを攫い身代金を要求してきます」

 

 そこまででは普通の盗賊と何ら変わりはない、根城にしているのがカルディナ領土と隣接している以外は特段問題もない。

 

「奴らは攫った子供たちの身代金が届かないと…子供たちを…食うのです。私たちが保護をしている子供たちにはまだ被害がないのですが、それでも孤児となった子供たちは攫われ、孤児たちに身代金を払う者もなく、食われてしまうのです」

 

『なるほど、そんなやつらが活動しているのに子供たちを乗せた馬車を出すことなど出来ないわけね』

 

 加奈の言葉にシスターは強くうなずく。

 

「こちらがゴゥズメイズ山賊団の情報です、奴らの中でもゴゥズと呼ばれる牛頭鬼、及びメイズと呼ばれるアンデッドが強く生半可な力では<マスター>でさえも敵いません」

 

【クエスト【殲滅──ゴゥズメイズ山賊団 難易度:八】が発生しました】

 

【クエスト詳細はクエスト画面をご確認ください】

 

 カノンからゴゥズメイズ山賊団の情報を得られると同時に加奈の脳内に直截イベントクエスト発生を告げるアナウンスが流れた。

 

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