あたしの名前は津幡路。通ってるバド教室の先生や姉ちゃん、お母さんからは「みっちゃん」と呼ばれてる。
今日はバドの全国大会があったんだけど、そこでカッコいい男の子に会ってちょっと話しかけづらかったけど勇気出して話しかけてみたら女の子だった。しかも準決勝で当たるし。
名前は益子泪ちゃん。元気で明るくて、次試合なのに話してたらあっという間に時間が来た。
試合はあたしの負け。もうそれはボコボコにされた。けど打ってて楽しかった。また一緒にバドしたなぁ。
試合終わって泪ちゃんとまたお話しようと思って、泪ちゃんのところに行ってみたら、泪ちゃんのお母さんっぽい人が泪ちゃんに怒ってた。
泪ちゃんは下向いてて顔がわからなかったけど、ちょっと震えてた。気付かれないように聴いてたら、泪ちゃんは他の子に遠慮がないとか嫌味ったらしいとか、酷いこと言われてた。
気付いたら隠れてたとこから飛び出して泪ちゃんの手握って言い返してた。大人に勝てるはずないのに、ちょっと会って話しただけのあたしが、泪ちゃんのお母さんとその向こうにいるお父さん相手に何してるんだろ。
家族の中に勝手に入ってきて失礼な子ねって言われたけどそんなこと知らないし、家族なら尚更泪ちゃんの味方になってあげないアンタたちの方がよっぽど意地悪だよって言ってやった。
それでも泪ちゃんのこと悪く言ってくるから、なんか悲しくなってあたしは泣き出してしまった。こんな酷いところにいたくなくて、泪ちゃんと手繋いでいることも忘れて会場の方に走って戻った。
ほぼ泣き止んだあたしは、思わず引っ張ってきた泪ちゃんとまたお話をし始めた。泪ちゃんはちょっと変だった。どこか上の空というか、あたしを見る目が不思議そうな感じ。
とりあえずあたしを会場に連れてきてくれたお母さんと、練習を手伝ってくれる姉ちゃんのところに泪ちゃんを連れて戻ったらめちゃくちゃ怒られた。ここでも泣きそうになったけど、泪ちゃんのこと思ったら泣いてられないから我慢した。
泪ちゃんのことをお母さんに正直に話したら、お母さんは泪ちゃんのこと抱きしめて慰めてた。泪ちゃんもこれには我慢できなかったみたいで、大声で泣きながらお母さんのこと抱き返してた。
姉ちゃんを見ると、なんか無言で頭を撫でられた。普段あたしよりうるさいって言われてる姉ちゃんが無言なのは怖い。そう言ったらゲンコツ落とされた。痛い。
◆ ◆ ◆
今日は変な奴に会った。向こうから遠慮がちに話しかけられて、返事をしたらめちゃくちゃ驚いてて「女の子だったの?!」だって。失礼すぎだろ。そいつの名前は津幡路って言って、なんか全体的に丸っこかった。
あだ名は「みっちゃん」らしいけど、心の中ではみっちゃんじゃなくてミカンと呼ぼう。決して男の子と間違えられた腹いせではない。
肝心のバドミントンは私の圧勝だった。でも打ち合いはこれまでより断然楽しかった。ミカンはいい筋してると思う。飛んでくるシャトルは重いし、速いしで対応するまで少し時間がかかった。
ミカンがこれより強くなるにはもっと厳しいコースに打てるようになるための技術と選球眼を養えば、たぶん私と対等に戦えるんじゃないかって思った。まぁ、それは直接教えることはないだろうけど。
なんで私はバドミントンしてるんだろうってお
推兄ちゃんだけが私のことを慰めてくれる。お義母さんの文句が終わったら推兄ちゃんにまた慰めてもらおうなんて頭の片隅で考えてたら、いきなり横から手を握られた。なんだろうって見てみたらミカンが立ってた。
なんか結構怒ってるみたい。ちょっと呆然としてミカンを見てたらお義母さんとミカンが喧嘩し始めた。なんだこれ。しまいにはお父さんも混ざってミカンVSお義母さん&お父さんで言い争ってるし。
どうすればいいのかわからなくて推兄ちゃんの方見たら、なんか悟りを開いたような変な顔して私の事見てる。これは当てにならないなと思って、もう一回ミカンの方見たら泣き出してた。どうしようなんて思ってたら、ミカンのやつ、私のこと引っ張って走り出してた。
後ろから聞こえてたお義母さんの怒鳴り声が遠くなって、はっとしてミカンに呼びかけてみたけど返事はないし、そのまま大会の会場に戻ってきてしまった。どこまでいくんだろうと思ってたら観客席のある一角で立ち止まった。
どうやらミカンのお母さんとお姉さんみたいだ。ミカンはやっと私と握ってた手を放して、ミカンのお母さんに私を紹介していた。ミカンのやつ、私とお義母さんのやり取りを陰から盗み聞きしてたらしい。余計なお世話だっつうの。
流石に盗聴はやりすぎだったみたい、ミカンのお母さん、烈火のごとく怒りだしてミカンはまた泣きそうになってた。一通りミカンが怒られた後、今度は私にミカンのお母さんが向き直ったと思ったら抱きしめられた。
それで撫でられながら、よく頑張ったねって、優勝おめでとうって、初めて褒められた。なんか声が出なくなって、息苦しくて、なんでだろうと思ってたら涙がポロポロ落ちてきてた。
止めようと思ったけど、どんどんそれは量が増えて、気付いたらミカンのお母さん抱きしめ返して大泣きしてる自分がいた。
不思議な感じだった。守られてるみたいな感じ。どうしようもなく暖かくて居心地が良かった。
そのあと、流石にバツが悪かったのか、お義母さんが私の事探しに来て、私たちのところに来た。親同士、何か話し合ってた。私はミカンとミカンのお姉さんと一緒にいたけど、ミカンに手を握られ、後ろからミカンのお姉さんに抱きしめられてた。私はペットか。
でもこのときもやっぱり居心地が良かった。
◆ ◆ ◆
決勝で益子泪って子に負けた。私は背が小さいから、どうしても強力な球が打てない。その分を技術や考えて打つようにして勝ってきたけど、今回の相手はそれが通じなかった。
次戦う時にどうやれば勝てるか考えておこうって思って、母や幼馴染のさきのところに戻ってきたら、向こう側の観客席でわんわん泣いている子がいた。何だろうと思って見てると、決勝で当たった益子泪だった。その近くには準決勝で敗退した子もいる。
優勝したのに泣いてるなんて、何かあったのだろうか?どうも悔し泣きのようじゃないし、なんでだろうってちょっと考え込んでたら、どこからともなく現れた女の人が益子泪を抱きしめてた人と話し合い始めてた。
ここからじゃ何もわからないし、あの子とはまた会う機会があるだろうと思って、私は気にしないことにして母やさきと一緒に会場を後にした。
帰ってきたのはもう真夜中に近い時間。ヘトヘトでシャワーを浴びた後はすぐに寝てしまった。翌朝、朝食を取った後に宿題をしている間、考えているのは昨日の益子さん。試合を思い出して表彰式、そして彼女の泣いているところを繰り返し思い出していた。
もっとも、今はどうしようもできない。私にできることは練習に練習を重ねて、次の大きな大会でもう一度彼女と試合をすること。そのときに、なぜあのとき泣いていたのか聞いてみよう。面白・・・良い話が聞けるかもしれない。