数分後、俺たちは校舎裏で向かい合っていた。
人はいない。聞けばDゲーム中は人払いがされ監視カメラにも映らないらしい。
「それじゃあ行くぜ!」
「あぁ、俺も危なくない範囲で色々やってみる」
俺は腰を下げて攻撃に備える。
だが、気づくと佐藤は目にも止まらぬ速さで俺を殴っていた。もちろん防御はできていない。
しかし佐藤の拳は俺をすり抜けている。霧化したのだ。
特に痛いという感覚はない。だが霧となった部位が太陽光に晒され徐々に蒸発していくのが感覚で分かった。
これ、部位を霧化したまま霧が全部蒸発したらどうなるんだ? いや……何となく他の部位を霧化すれば補えるような気がする。そして限界までは体内の水分を代償に再生できそうだ。
とりあえず霧を自分の身体を動かすように操作し、佐藤の頭に纏わせる。
「おわっ」
霧の濃度はかなり濃い。佐藤の視界は真っ白と言っていいだろう。
現に身体を霧化して少し移動したら佐藤は霧から離れるために悪戦苦闘している。
(あー、俺の身体が食べられていく……何となく分かっていたけど体温で霧が蒸発しているみたいだ。この濃度でダメとなると死ぬ覚悟で突っ込まないと体内攻撃は無理か)
「はぁっ!」
そう考えていると佐藤が大ジャンプで霧から逃げた。
霧の動かす速さは大体自分と同じぐらいで、それ以上だと追いかけられない。常人並みなら優位を取れるが身体強化系には速度面で不利か。
……そう、さっきから試しているけどヴァンパイアの怪力とかそういうのはないみたいだ。
まぁ霧化と水で回復の時点で十分チートだと思うけど。それに、必勝法も思いついた。
「次はこっちから行くぞ」
俺は佐藤に向かって走っていく。
佐藤がシギルを使うが、俺は無視して突っ込んだ。
「オラオラオラオラオラオラ!」
佐藤が高速連続パンチで霧になった俺を散らそうとするが、空気の流れ的に俺を止めることはできない。そして背後に回った俺は実体化し、佐藤を地面に押し倒す。そして、いつの間に伸びていた牙を首に突き付けた。
「……勝負あったな」
「あー、俺の負けだ。結構強いつもりだったけどシギルの相性が最悪。というかお前ヌケニンかよ、物理攻撃効かないってずりーぜ」
「いや別に物理が効かない訳じゃない。霧だから普通に温度が高い場所だと蒸発するし、攻撃力もない。火は論外として風系統にも流される。それに蒸発した分喉が渇いた」
「血か?」
「いや水だ」
◆
佐藤と別れて家に帰る。
あの後、俺はダーウィンズゲームの基本的な知識を教えてもらい、シェルターというアイテムをポイントで買った。
シェルターはクラスマッチに一週間名前が表示されなくなるアイテム。目の前にいる人にバトルを申し込むエンカウントバトルは防げない。
たったそれだけで10ポイント。つまり100万だ。
だがシギルの使い方を覚えるまでの猶予は必要だ。
水分不足の時にバトルが発生したら抵抗すらできないかもしれない。
佐藤に勝ったおかげで30ポイントもらえて、そこから10ポイント使ったから残り30ポイント。後2回までならリタイアできる。ある程度シギルを使えこなせれば大抵の相手は敵じゃないし、恐らく大丈夫だろう。
「霧の有効射程は2kmぐらい。そして夜ならば霧の蒸発は無視できる。全身を霧化して一帯を覆えば半径1kmは霧に包めるかもしれない」
そして俺は、トマトジュースを飲みながらシギルの検証を行っていた。
判明した中で重要な情報は2つ。
霧化を使った上で水分を取れば、霧をそのままに霧化した部位を復元できる。
霧の物理干渉力が低いが、紙や木の棘ぐらいなら持つことができること。
一つ目は、辺りに霧があれば無制限に再生でき、霧という第三の手を行使することができるということだ。水分を取り続けなければ普通に消えていくという欠点があるが、戦闘前には霧を発生させておくのが定石になる。
ちなみに霧化していて体積の回復はできる。さっき風呂で確認した。水中で霧化すると水に溶けるが、水に入らなければ問題ないだろう。
二つ目は奥の手だ。
唐辛子を常備しておけば目潰しができる。カッコ悪いので積極的に使う気にはならないが、準備しておくに越したことはない。
「まぁ、こんなものか……」
差し当たって問題は日中でのエンカウントバトルだ。
夜なら霧の中で戦闘できる。負けは有り得ない。
だが昼間は太陽光で蒸発する。
解決策としては、周囲の湿度を上げ湯気と同じ原理で蒸発しなくさせることぐらいだが……密閉空間でもなければ風で折角の湿度も散らされる。
一時的に霧化するにしても日中というだけで危険だ。
今日の戦闘的に、何の準備もなく戦闘を始めたら一分も持たずに水分不足で倒れる。
つまり、シギル的に日中は無能。
日陰に隠れてコソコソと逃げ回るという形になるのか……
「まあ別にそれも吸血鬼っぽいし、緊張感があっていいかもな……」
とにかく、当面の目標は、霧化と実体化の高速化、霧の操作性の向上だ。
霧の中で霧化し離れたところで実体化すれば実質テレポート。
そして霧を広げ過ぎると、ごく一部か大雑把にしか操れなかったのだ。
折角の異能、最大限使いこなさないと勿体ない。
異能バトルにワクワクしている、恐らく一般的なDゲームプレイヤー。