Dゲームを初めて3日が経った。
俺は、佐藤ともう一人で集まり、廃ビルでシギルの特訓をしていた。この廃ビルは俺のシギルによる広範囲索敵で見つけたものだ。夜という条件が必要だが、霧化すれば誰にもバレず何処へでも侵入することができる。通気口さえあれば密室であろうと例外じゃない。流石に無菌室みたいな場所は無理だが、俺のシギルの長所の一つだ。
室内なら湿度を上げれば霧を維持できる。
そのため誰かが扉を開ければ分かり、佐藤たちもビルジャンプができるから俺たちはここを拠点にすることにした。
「それでそっちの成果はどうだ?」
「あぁ、限界チャージ時間が一秒伸びたぜ! それに二箇所にチャージして交互にバーストさせることもできたぞ!」
そう言って佐藤は右手で正拳突きした後に、左手で正拳突きをする。
衝撃は同じぐらいでちゃんと二回に分割されていた。
「これで相手が二人でも対応できるぜ!」
「黒野は?」
「まずは煙で試してみたんだけど、停止するものの形を把握していればシギルを使えたよ。強度も変わらずだった」
新しくDゲームを始めた佐藤の友達がライターを付けて火を止めた。火を消したという意味じゃない。文字通り火が止まっていた。
シギルの名前は『一時停止(タイムフリーズ)』。
手に触れたものの時間を止めるシギルだ。停止できる時間はそれに触れていた時間に比例し、停止している間は一切の外部干渉を受け付けない。
そして解除後に停止している間に受けるはずだったものを一瞬で受けたことになる。
簡単に言えば紙で銃弾を受け止められるが、解除すると紙が吹き飛ぶ。
「……なるほど、空間認識能力を上げれば座標指定できるようになるかもしれないな。ただの糸を固定化して罠として使うより空気のカッターとか盾の方が遥かに便利だ。不可視だし、銃弾を防ぐ時に服を犠牲にしなくてよくなる。それに自分を囲むように停止させれば最強のシェルターだ」
「それ、僕も考えてみたんだけど解除した時酷いことになるんだよ」
「……俺、お前らと戦いたくねぇわ」
「まぁ攻撃力は佐藤が一番あるし、もしもの時は頼りにしてるから」
そんな時だった。一階に侵入者が現れたのは。
片耳を霧化して一階で再構築する。霧化しても身体が繋がっていることを利用した身体分割だ。
「なんだ? 侵入者か?」
「あぁ、とりあえず撤退準備を」
目と閉じて一階での会話に集中する。
「……ワンさん。多分この霧シギルですよ。毒ガスかもしれないですし、迂闊に入らないほうが……」
「そうみてぇだな……扉を開けたのに外に出ていかねぇ。直接挨拶しに行くか」
(挨拶? 空を飛べるシギルか? 不味い。黒野は俺が運ばないといけないから、間に合わ――)
「こんにちは~、エイスの
その男は唐突にそこに現れた。
ここは5階。つまり、ついさっきまで一階にいたのに10秒も経たずに5階に来たことになる。
「テレポート……!」
「さて、君たちには2つの選択肢がありま~す。俺の下に付くか死ぬかで~す」
「わ、分かった! ここは出ていく――ッ!!!」
佐藤の手が斬り飛ばされた。
「あれ~? 聞こえなかったかな~? この
「ああああああ!!!」
「ひぃぃぃ!」
佐藤が手を抑えて蹲り、黒野が怯えて後ずさった。
ヤバい。
行動がはやすぎる。
何か、とにかく霧を――!!
「あ? 一階の霧はお前か」
「俺が時間を稼ぐ! 二人とも早く逃げろ!」
右手を使って視界を遮れる濃度の霧を
「悠斗、後ろ!」
「くっ!」
霧化で恐らく空間切断だろう斬撃を受け流し、回し蹴りを喰らわせる。
しかしそれは片手で軽く防がれた。
「ああ? 分身か? いや実体はある。身体を霧に変える身体変化系かよ……俺様の攻撃が効かないなんて……ムカつくなぁ」
「ふ、ふふ……相性が悪かったな。仇は取らせてもらう」
俺は息を整えるために一旦距離を取った。
……決して怖かった訳ではないはずだ。
「だが、これはどうだ?」
俺は咄嗟に佐藤を庇う。
――ドンッ!!!
「悠斗!!」
爆発は俺の体積の8割を吹き飛ばし、反射的に霧化してしまったせいで後ろの佐藤は全身血塗れになっていた。痛いと思うと反射的に霧化する癖が憎く思えたのは初めてだ。
幸いにして血という水分が近くに溢れていたため、それを吸収して体積を回復する。
霧化というシギルの特殊性から霧化した部位はなくても行動に支障はない。全身を再構築ができなくなるだけで、筋肉はシギルで代用できる。
だから、俺は骨格と目と鼓膜を再構築して立ち上がった。
「おいおいスケルトンかよ……」
「黒野! 早く逃げろ! いつまでも腰を抜かしているな!」
「む、無理だよ!」
「ホイっと」
一時的に声帯を構築して叫ぶと黒野が怯えた。
そうしているうちに最後のチャンスはなくなり、
――ドンッ!!
何気に遠く、俺が近づく前にその手榴弾は爆発する。
しかし俺からは黒野の前に透明があるように爆発が遮られたのが見えた。
「あ~あ、お前が助けに行かないからあの子も死んじゃったよ」
「いや――」
「……いや、お前に僕は殺せない。僕のシギル『時間凍結(タイムストップ)』は触れている限り効果が続く。そしてこの空気の壁はどんなものであろうと通さな――あれ?」
いや空間切断なら障害物なんて関係ない、そんなことを言う前に黒野はバラバラになった。
「全く、君たちは俺様をムカつかせるのが得意なフレンズですね~」
「黒野はちょっと恐怖でハイになっていたんだ。許してあげてくれよ」
はぁ……とうとうみんな死んで俺一人になってしまった。
何となくこうなることは予想していた。俺のシギルが生存特化していて、こいつみたいな敵に遭遇したら高い確率でこうなるだろうな、と。
そう思っていたからか怒りはあまり湧いてこない。
現状は最悪だ。
手榴弾の影響で室内の温度が上昇している。佐藤と黒野の血のおかげで何とか形を保てているが、それでも徐々に体積が減り、骨があぶられている感覚がする。
こんな状態で危ないと思えば転移できてしまう
逃げるか。