天気は優れていなかった。太陽の光も拝めない程の黒い雲に覆われた。どしゃ降りの雨は僕達の傷を癒すことなくもっと深くえぐった。
「…ミコトか?…此処は濡れるぞ?」
屋根の無い場所で突っ立っていた僕にサシャさんが声を掛けてくれた。
サシャさんは黒のフリルに白いロングスカートを履いていた。なんやかんやでサシャさんの私服を見るのは初めてだった。
「サシャさんの方こそ…ずぶ濡れじゃないですか…」
サシャの赤い綺麗な髪は濡れて服はびしょびしょ…
「んッ……」
僕はおもいっきり顔を背けてサシャさんから目をそらす。
「あぁ?ミコト…どうした?」
だって…
「……スカート…透けてます…」
恥ずかしいから自分で気づいて欲しかったがどうやら無理みたいなので言うことにした。
「えっ………あー、そうか…まぁいい。」
サシャさんは自分の身体を見下ろすように確認した。
「まぁいいって…恥じらいとかそういうのは?」
「…無いね…これインナーだし…」
そういう問題ではないと思うが。
「まぁそれより飯食いに行かねぇか?少し一杯やりたい気分でな。」
いきなりすぎる。
「それなら一人でも出来るんじゃ…」
「馬鹿野郎、聞いてもらいたい愚痴だってあるんだぜ?」
つまりは愚痴を聞いてほしいと。
「行きつきの店があるんだぜ。そこに行こう。」
「ハァ……分かりました。そこに行きましょう。」
しかしずぶ濡れの客を入れてくれるのだろうか。もし入れてくれたのならそこは変わったお店なのだろう。
「乾くかな…?」
「…雨に晒しておいて乾くかなはないでしょう?一度着替えてきたらどうです?」
この後も店に着くまで似た会話は続いた。
~~~~~~~
そのお店は想像していたのと違っていた。こう少し年期のはいった居酒屋みたいな所ではなく、お洒落なバーのようで僕にはまだ少し早いように思えた。けれどすぐ中には入れなかった。
「やっぱりびしょびしょですね…スカートも…まだ透けてますし…」
この調子じゃぁ迷惑を掛けそうで入店するには結構な勇気が必要だ。
「濡れてるからな…迷惑は掛かりそうだがもうスカートの件はいいだろ?」
「貴方はいいのかもしれませんがお客さんが困りますよ…あっそうだ…」
いいことを思い付いた。
僕は緑色の濡れているコートを脱いで少し乱暴だが濡れた雑巾を絞るかのようにして水を出すとサシャさんに渡す。
「お前…女にそんなの渡して何がしたいんだ…?」
恐る恐るサシャさんが訊いてくる。
「勘違いしないで下さい…それで隠せって事ですよ…」
「ほへぇ……そういうことね。サンキュ。」
あのディノバルド亜種との闘いで猛威を奮った人物とは思えないような間抜けな声を漏らす。
「長い間話してたせいで服もさっきよりはマシになりましたね。」
サシャさんは隠すのに苦戦していたが何とか袖の部分を鉢巻きを結ぶようにして隠しきれていた。
「さっさと入るか。」
ドアは両開きで少し高級感があってここでもお洒落だなと思ってしまう。
サシャさんがドアを開けると上に付いていたベルがチリンチリンと鳴り出迎えてくれる。
中は想像通りの素敵なバーといった感じで棚に並べられた数々のワイン、綺麗に手入れされているグラス。下を見れば真紅のカーペットが敷かれており歩みを進めることを拒んで来る。
「いらっしゃ……何でそんな濡れてんだ。」
カウンターの奥から一人の若い男の人が出てくる。
背が高く金髪で前髪を上げておりびっしっと白いシャツを着こなしていた。ここの店長さんなのだろう。
やっぱりこうなる。幾らなんでも迷惑すぎるだろうずぶ濡れの客が二人入って来たのだから。
「ほれっ。」
急に目の前に現れて顔に触れる白いモフモフの物体。頬を垂れていた水が一瞬にして消える感覚。
「えっ…これって…タオル…?」
タオルを手に取ると店長さんを見る。
「それで頭でも拭いとけ。マシにはなるだろ。」
「ありがとうございます。」
しかしこのタオル…顔を沈めたくなるくらいフワフワだ。吸水性にも優れていて綺麗なタオルだ。きっと新品なんだろう。
いいのだろうか?こんな物を使ってしまって。
「ありがとうな…あーいつもの貰っていいか?コイツにはアップルジュースでも出してやってくれ。」
「いいのか?そちらの子にはアップルジュースなんかで?君がこの前甘ったる過ぎて飲めなかったワインでも出そうか?」
いやワインは飲めないから勘弁してほしいのだが。
「駄目だ駄目。コイツはまだ十三だぞ?ガキにぁアップルジュースがお似合いだ。」
「…ガキで悪かったですね…ですがまぁお酒は飲めないのでアップルジュースを頂きます。」
「分かった。」
店長さんがそう言うとコトッっと目の前にコップを出され不透明な液体が注がれる。
「わぁ……美味しそう…」
思わず言葉が出る程魅力的なジュースだ。早く喉に流し込みたい。
しかし店長さんは焦らすかのようにジュースの入ったコップを手前に戻す。
「あぁっ。」
店長さんはこの状況を楽しんでるようだった。
キュッポっと気持ちのいい音がなる。空中にはクッキーのような色をしたコルクが飛んでいて、コルクの抜かれた瓶からは真紅のワインがグラスに注がれる。
「さぁどうぞ。」
そしてようやく飲み物が僕達に渡される。
とても冷たいコップを両手で持つと少しずつ冷えたアップルジュースを喉に流し込んでいく。
「ぷはッ美味しい!微かな酸味があってもっと甘さを引き立たせてる!本当に飽きない味…幾らでも飲めそう…」
「よかったなマスターこんなチビッ子はアップルジュースで喜んでくれてるぜ。」
サシャさんはワインを少しずつ喉に流し込みながら言う。本当に一言余計だと思う。
「…!サシャさん、その指輪って…」
ふと気が付く。サシャさんがグラスを持っている右手の人差し指に填められた指輪の存在に。
その銀色の指輪には竜の首に短剣が刺さっている絵が彫られており、その絵に僕は見覚えがあった。
「二つ名のあるハンター、つまりギルド直属のハンターが階級を示す為に渡されるアクセサリーですよね…三つある内、指輪の階級は確か…」
「よく知ってるじゃねぇか…指輪の階級は二級、正式名称は“ハンターズギルド公認資格第二級”って堅苦しい名前だ。そして私の二つ名は
「灼刃と聞けばあのテオ・テスカトルをたった一人で撃退した偉業を成し遂げた事で有名じゃないですか。それに、試験のモンスター達も驚きの早さで討伐していますよね?」
「…なんかお前やけに詳しくねーか?」
僕が二つ名のハンターに対して詳し事に疑問に思ったらしくサシャさんが聞いてくる。
「…兄が二つ名だったんですよ…」
「お前の兄貴が?だってお前ライダーじゃねぇかよ?てっきりお前の村の奴ら皆ライダーかと思ってた…それで兄貴の階級は?」
相当驚いた様子でグイグイ聞いてくる。
「第一級ですよ…」
「なっ!?第一級だって!?お前、第一級って言えば十人もいない精鋭達だぞ?もしかしたら私も知ってるかもな。」
駄目だ。どんどん興奮している。
「…兄の話はもういいでしょう?それよりもサシャさんは何故二つ名のハンターになったんですか?数々の特権が目当てですか?」
二つ名のハンターには数々の特権が渡される。名も売れ、大金が手に入る。これに目が眩むハンターが多い。
「うん?あぁ夢があってな…かつての友人との約束を果たす為に私は二つ名になった。」
「夢の為に人々から“生物兵器”と罵られるんですか…?」
二つ名ハンターの別名それは“生物兵器”と言われ罵られていた。誰が言い出したかも分からず、いつの間にか定着していた不名誉な名前だ。
「私はなアイツとの約束を果たす為なら命を捨てる覚悟は出来ている。私は選んだ道に正解も不正解も無いと思う。ただ楽か苦しいかその違いだけ。きっと私の道は棘だらけで泥水を啜ることにもなるだろう。」
「けど後悔はしてない。私は後悔なんてこれからもしない。進むなら後悔している時間なんて無い。」
「…それが罵られてもいい理由になるんですか?」
きっと自分なら耐えきれない。
「ならなかった勇気の無い奴らに勇気のある彼らを侮辱する事は出来ない。アイツらの言うことは嫉妬だ。なれなかい自分と比べて羨ましがってるだけだ。」
「強い方ですよ…貴方は本当に…」
彼女をいつの間にか尊敬してしまいそうだ。
「なぁ…ミコト…私考えてたんだお前の兄貴の事を…一人思い当たる奴がいるんんだよ。第一級で凄腕の知り合いのハンターを。」
「────お前の兄貴ってまさか“英雄カムイ”か?」
読了ありがとうございました‼️
まぁ冒頭の方にちょっッッとアレな部分もありましたけど、この回が一番好きです。
ミコト君の回答は次回です。
それと投票をおこなっているので是非、そちらの方もよろしくお願いします。
ではまた‼️
導きの青い星が輝かんことを…
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