「───お前の兄貴ってまさか“英雄カムイ”か?」
この一言でお店の中の雰囲気はガラリと変わった気がした。
さっきまでカチャカチャと音を立て濡れたコップや皿を拭いていた店長さんも目を見開いて聞いていた。
「…どうなんだミコト…答えてくれないか?」
「……」
サシャさんの問にゆっくりと頷く。
「…悪い…」
「サシャさんは悪くありませんよ…兄もハンターという命を失ってもおかしくない仕事をしていたんです。遅かれ早かれ人は死ぬ。兄はそれが少し早かっただけです。」
頑張って笑顔を作ってみせた。本当は叫びたいくらい悲しい、辛い、苦しい。けれどサシャさんやミーナも苦しい筈。けれど悲しいなんて誰も口に出さない。だから僕もこうやって堪えてれば大丈夫。
「……そうか。大事な人を失う気持ちはよく分かる。辛かったよな。」
サシャさんはさっきよりも明るく、暖かい笑みを浮かべていた。止めてくれ、そんな優しくしないでくれ。
目が潤んで来た。どうやらまだ雨に濡れた髪から水滴が垂れ目に入ってしまったようだ。だからそう、決して泣いている訳じゃない。
「…マスターハンカチを貸してくれないか?ミコトの顔がまだ雨で濡れてるからよ。」
「あぁ…これでいいか?」
そう言って店長さんは僕に水色のハンカチを渡してくれる。僕は「ありがとうございます。」とお礼を言いそれを受け取った。
ハンカチを目の少し下に当て水分を吸収させる。さっきよりハンカチは重くなった。
「なぁミコト、後でミーナの所に行ってやってくれないか?きっとアイツいろいろ抱え込んでるだろうからさ。」
サシャさんワインを飲みながらお願いしてきた。
「えぇ全然構いませんが…帰りにミーナの家に寄ろうと思ってましたし…」
「それならいい。…アイツの傍にいてやれ。人は一人の時が一番苦しいんだ。痛みなんかよりずっと、私はそうだった。」
そう言いながらサシャさんは自分の赤い髪をどかし首を見せてくる。
「え…それ……」
サシャさんの首には模様のような火傷の跡があった。くっきりと跡が残っており、それはうなじの部分まで拡がっており、焦げたような痛々しい跡だった。
「こんなにも跡は残ったけど…もう痛くはない。けど心は今もずっと痛いままだ。…人間ってのは身体は進化しても心は変わらないままなんだな。」
サシャさんの言葉には共感出来るような気がした。いつも心の何処かで寂しがっているような自分がいる気がす
る。
「まぁ、さっさとミーナの所に行ってやるんだな。お前はアイツのパートナーなんだろ?お代は私が払ってやるから。」
「いや悪いですよ…」
さすがに奢ってもらう訳にはいけない。
「十八のお姉さんとして十三のガキに金を払わすつもりはねーよ。」
「けど……分かりました。けど今度は僕に奢らせてくださいよ?とびきり良い店に行きましょう!」
僕はサシャさんにとびきりの笑顔を見せた。お互い大自然と命懸けで闘う、だから次は無いかもしれない。けれどサシャさんには生きて、前に突き進む覚悟が、僕にはミーナやソラという頼もしい仲間がいる。だからお互いに簡単には死なない、必死に生しがみつくだろうから。
僕はミーナの所へ向かう為に席を立つ。
「ご馳走さまでした。アップルジュース、美味しかったです。」
「じゃぁな。ミコト君。」
僕は両開きのドアを開ける。入ってきた時と同じようにベルが音を奏でるがあの時よりも心地のよく感じ、ドアはとても軽かった。
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最悪の目覚めだ。夢はあんなのを見るし、外の天気も最悪だ。
ベッドから身体を起こすと着ていた寝服を乱暴に脱ぎ捨て、インナーだけの姿になる。それはもう真っ裸と差ほど変わらない姿だったが私以外の誰かが居るわけでもないから恥ずかしがることなくそのまま茶色のズボンを履き、白色のシャツを着て窓から外を覗いた。
窓越しの外は嘘みたいに暗くて、クシャルダオラが現れたみたいな大雨だ。
外はどしゃ降りの雨の音でうるさく、部屋の中は湿気が溜まって暑苦しかった。けれどこの汗は暑苦しさだけのせいじゃないだろう。きっとあの悪夢の仕業だ。
身体はとても重くて、腕には力が入りにくい。歩こうと思っても足がふらついて、なかなか歩けない現状だ。
やはり外が暗いのでマイハウスも似て薄暗いから私はベッドの横のサイドテーブルに置いてある蝋燭にマッチで火を着ける。
さっきよりは部屋も明るくなったが未だに陰が多く、不気味さが残る。家具達の影が背伸びをしているように見え、余計怖く感じる。
蝋燭を別の所にやれば今より明るくなるだろうか。
何故か分からないが私はこの暗い不気味さに恐怖を覚えてしまっている。なんとしても部屋を明るくしたい。
「あちっ」
私は別の場所に置いてやろうと燭台に手を掛けると、蝋燭が揺れてしまって溶けて、溶岩みたいな液体になった蝋が右手の甲に少量、飛び跳ねてしまう。
私の手は何かに動揺もしくは怯えているように震えており、このまま燭台を持てば次に手に当たるのは蝋燭本体かもしれない。
手の甲に付いた蝋を拭く為、そこに落ちている脱ぎっぱなしの寝服を拾って拭いてしまう。私自身、そこまで自分の服の、それも他人には見せないような寝服の汚れなんて気にしない人種の人間なので、何の躊躇いもなく一連の決まった動作のようにやってのけた。
長い後ろ髪がパサパサ、と首に当たり鬱陶しく感じてくる。今まで自分の後ろ髪を鬱陶しく感じた事はあまりなかった。
確かヘアゴムなら目の前にある黒色の小物入れに入ってた筈だ。私は髪を結ぶ為、ヘアゴムを探しに小物入れの方に向かい引き出しを上から順に開けていく。
「あった。」
ヘアゴムは三つ引き出しがある内の一番下、つまり三番目の引き出しに入っていた。三番目の引き出しは中に色んな物が散乱していたが、探していたヘアゴムより一際目立つ、異様な物も入っていた。それに関しては何も分からなかったがその“分からなさ”がより一層、違和感を醸し出した。
「布…?けっこう清潔そうな…新品かしら。買った覚えはないし…けど裏、この赤色って…血?」
清潔そうな真っ白な長い包帯ような布に染みてる赤…いや薄いくなってオレンジ、それよりも汚い感じで薄い。多分これは血だろう。なんとも清潔そうで血のような物が染みてる矛盾した布だった。
「使った覚えも買った覚えもないし…誰かから貰ったのだろうかかしら…」
けれど私は血の染みた布を欲しがる程、悪趣味な女じゃない。何だかだんだん気味が悪くなってきた。
「…しまっとこう。」
こんな物が私の家の小物入れの中に入ってたなんて考えたくない。しかし次の瞬間─
「いたっ…!」
頭を押さえる。急な頭痛が私を襲った。ズキンズキン、と何かで頭を殴られたような、いや頭の中に何かが直接入り込んできたみたいな感覚。
「うぅ…あ”っ…」
堪らず獣のようなうめき声が出てしまう。
『ミーナ、こっちにおいで。ほら、■■■が待ってるわよー』
『■■■■、そうミーナを急かしてやるなよ、アイツにはアイツのペースがあるんだから。』
脳内に語りかけてくるみたいな、いや思い出してるのか。聞いたことのある声が聞こえてくる。それも二人。
「うっ…お”ぇぇぇ…」
駄目だ気持ち悪い。油断してしまえば吐いてしまいそうだ。痛い、気持ち悪い。
「うっ…うぅ…」
床の赤色のカーペットに一つ、二つと水滴、私の目から流れる涙がこぼれ落ちて吸収されていく。
嘘、私泣いてるの?自分でも驚いてしまった痛みと気持ち悪いだけで泣いているなんて信じがたい。
私は力の入らないフラフラした足取りで洋風タンスに近寄ると、ふっ──と息を漏らしもたれ掛かる。
ここに来るだけでも限界がきていた。一体、私の身体に何があったのだろうか。
タンスの扉がキィィ─と音を立てながら開いている。きっともたれ掛かった時の衝動で開いてしまったのだろう。
部屋の中は蝋燭一本の明るくしているので、あまり服を収納していないタンスの中は真っ暗で、もっと奥に続いてそうだった。
この暗さに怖さを懐かしさを感じたのは──
キィィィ──
此処とは真逆の方向で音がなる。この時私の心臓は鷲掴みにされたように絞まって、息が荒くなる。
何かがドアの方に居る。それだけが分かる。いやそれだけしか分からないがから尚更怖い。
人だと決まっている筈だがどうしても別の、ありえない可能性を考えてしまう。
あの時みたいになってしまうのだろうか。だとしたら今度は私の番だろう。
私はただ、ドアの方向を睨み付け、立て掛けて置いた、一本の太刀握る。蒼火竜の素材で作られた
────英雄の太刀を
読了ありがとうございました‼️
「もう分かってた。」っていう人もいると思いますが、ミーナの元相棒カムイはミコトの兄でした。
本来はもっと後になったら分かってくるつもりでしたがこの段階で出しちゃいました。
それとアンケートの方もやってるので、是非投票お願いします。
意外とミーナが人気なので驚いています。もしよかったら感想の方で理由の方を書いてみてください❗(露骨な感想稼ぎ)
ではまた‼️
導きの青い星が輝かんことを…
第二回 人気投票
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ミーナ
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ミコト
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サシャ
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カムイ
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メイリン
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フユメ
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フーカ
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ロジエ