「はぁ…はぁ…くそッ」
脇腹がじんじんと痛み、触れると溢れるくらいの血がべったりと手に付いて気持ち悪い。この血を触るって感覚が手袋越しにも伝わって嫌いだった。この生暖かさなんて一番嫌い。
目の前に映るのは私よりもよっぽど傷付いた(私が傷付けたのだが)瀕死のオドガロンとそれを守るように私を睨み付け、オドガロンの周りを彷徨くオドガロン亜種。この二体には奇妙すぎる生存関係があるように見えた。
相容れない存在が共存している。まるでミコトとソラみたいだ。
けれどコイツらはミコト達と違っていて話なんて通じない。殺すしかないから、私は再び太刀を握って前を睨む。
今までで一番、死の恐怖を肌で感じているんだろう。直接見なくても鳥肌が立ってるのは手に取るように分かるし、吐きそうになるが吐くのはきっと血反吐とこの現状に対しての愚痴だろう。
手は少しばかり震えていて汗が酷い。雨にでも濡らされたみたいで柄をうっかり滑らしそうになる。けれどこの巻かれている布のお掛けで少しは持ちそうだ。
周りを見渡す。私の後ろは見なくても分かるが、さっき衝突した壁で退くことは不可能だし、前は二体のモンスターが牛耳っていてうかつに進めもしない。
にらみ合い、互いに次はどのように動くかの探り合いの連鎖は絶えない。狂気を宿したようなおぞましいオドガロン亜種の目は見続けられるものではなく、つい逸らしたくなる。
「最悪ッ……夢なら覚めてほしいわ…」
これが悪夢なら幸せだったがこの痛みが夢を見ようとしている私に現実を叩きつける。
視界は決してぼやけることはなく、全てが鮮明に見えオドガロン亜種のことを追い続けていた。もはや考えてなどいなかった。ただ次の次の行動を読み、それに対応できる技で対処する。先に動くのは脳ではなくて身体だった。遅れて考えが来てそこでようやく私の中のモノ全てが一つとなる。
これは確かカムイに教えてもらった気がする。それか師匠か。しかし二人とも闘い方が似ていて区別はつきそうにない。彼らは「考えはそのうち追い付いてくる。だから今は生きるために身体を動かせ」と言っていた。これはカムイが言っていた。よく覚えている。
私は血で濡れてしまった手に精一杯、力を籠めて握る。フラフラとして、震えているのは身体のせい。私の心はもうすっかり覚悟は出来てる。決して揺らぐことのない覚悟だ。
───ごめんなさい。カムイ、師匠。
私ってば意志が一番に来るみたい。
~~~~~~~
息は荒いが決して倒れはしない。
手は震えて、力を籠めても太刀を落としてしまいそうだが決してこの覚悟だけは離さない。
目の前の光景は目を閉じたくなるが決して後ろは向かず一生懸命、前だけを見続けけよう。
この精神の細い覚悟の糸が束になり一つの丈夫な意志を作り出す。
オドガロン亜種は前足にぐっと力を入れると、瞬きの間に神隠しにあったかのようにその場から消え去っていた。本当に瞬きの間だった。音もなく、痕跡もなく風のようだ。
はっと驚いて後退りをしてしまうがこれが命を救い元いた場所に尖った岩が矢のようにザザザと複数個、突き刺さる。
「危なっ───」
肌にまとわりつく恐怖という空気はずっしりと重くなり背後に信じられない殺気を感じる。言葉じゃ説明出来ないような恐ろしいモノだった。
すぐに後ろを振り返って太刀を音速の領域まで持ち込んで振るう。
あと一歩の所まで物凄いスピードで飛び掛かって来ていたオドガロン亜種の鋭利な爪に刃は当たり、火花が飛び散り腕には相当な負荷が掛かった。
何とか太刀を持つ腕を支えるがオドガロン亜種はまるで曲芸師のように前足を一瞬だけ刃に乗せると、空中で回転し、私の傷付いた腹に尻尾を当てて凪ぎ払う。
「おぇッ!!」
吹っ飛ばされ壁に衝突し、また血反吐を吐いた私にオドガロン亜種は容赦せず襲い掛かり、力一杯腕を振るい私を叩き潰そうとしてくる。
私は地面に手を置き、指先まで力を入れて勢いよく地面を手のひらで蹴ると私は一瞬にしてその場を離れた。
オドガロン亜種の渾身の一撃は私のしなやかな身体の動きと頭の回転の早さのお陰で難なくと避けれたが、他のモンスターよりもか弱そうな前足から生み出されたとは想像も出来ない程の衝撃は私の元いた場所をえぐり、小石を四方八方へと弾き飛ばした。その内のいくつかは私の背中を突き痛みを感じない物から激痛を走らせる物と様々な影響を与えた。
「~~~~!?」
声は出さなかったが苦痛の表情を浮かべてしまう。
ジンジンと背中が痛いのだが尻尾を撒いて逃げるつもりはないし、狂気に満ちているこの魔物が私を逃がしてくれる訳がない。
私は後ろに振り返り太刀を再びオドガロン亜種に向けて構える。刀身はいつもよりも格段に重く感じ、本当に振れるのか心配になってきた。
ちらりと視線を刀身の先端に向ける。先端は赤い血が固まっていて結晶という程の物ではないが苔みたいにこびりついていた。不覚にもあのディノバルド亜種の尻尾に似ていると思ってしまった。まだこんな事を考えて、反省している余裕があったみたいだ。
私は呼吸を整え真っ直ぐオドガロン亜種の目を凝視した。
~~~~~~~~~~
駄目みたいだ。私は悟ってしまう。
目の前には少しばかり傷付いたオドガロン亜種が口からよだれと龍気エネルギーを漏らしながらボロボロの私に近寄ってくる。
オドガロン亜種の横に視線を向けてやれば私の太刀がオドガロン達の血ではなく、私の血で染まっていて真っ赤になった状態で放置されている。
いつもならあれだけ汚れていればモンスターを狩り終えて手入れくらいしてあげるくらい汚れてた。
あの太刀は誰かが拾ってくれるのだろうか、私のいや、カムイの形見として大切に扱ってくれるのだろうか、死ぬ前だというのに随分と余計なことを考えれるらしい。
あれから私はオドガロン亜種と対等に張り合えていたのだが、死にかけていたオドガロンの不意打ちを喰らってしまって今は壁に持たれて死ぬらしい瞬間を待つだけとなった。
私はどんな風に殺されるのだろうか。やはりあの小さな口で頭からパックリといかれるのだろうか。それともあの前足で叩き潰されるのだろうか、いやその可能性は低いな、どうせ瘴気の谷で見たオドガロンのように部位ごとに引きちぎって何処かで食べるのだろう。その時、コイツらが取り合いになってお互いに殺し合うのを願うばかりだ。
後悔してることは一杯ある。
この前だってサシャにお酒を飲みに行こうと誘われまた今度にしようと断ってしまった。私はまだお酒を飲んだことがないのでどんな味か気になっていたのだが分からぬまま死んでしまうのだろう。
私は土だらけで汚れてしまった両手で顔を覆ってしまう。
嫌だ死にたくない。なんて考えはしなかった、今考えていることはコイツらをどうにか殺せないかばかり考えてしまっている。やっぱり私はちょっぴり性格が悪いみたいだ。
「あぁ……くそッ」
もう大声も出せない。私の夢……何て無かったと思うがあったなら叶わず死んでしまったとあの世でうんとドでかい後悔の海に溺れてしまうだろう。
そして溺死し、私は二度死ぬ。面白い話じゃないか。誰かに話してやりたいくらいだ。
私はノロノロと近付いてくるオドガロンと亜種を最後に瞼を閉じた。
『もう死ぬのか?』
『早すぎるだろう?不様だな』
『お前はそこでじっとしていろ、後は──』
『───私が終わらす』
その声が聞こえた瞬間、さっきまでの私の意志とは違う何かが心の穴を昇って行き、私の意志は深い穴へと落とされた。
この時の私はもうすっかり個ではなかった。
~~~~~~
二体の似た姿をしたオドガロン達はミーナを食らおうと歩み寄り、どの部位を誰が食うかを目線だけで相談していた。
瞼を閉じて、動かなくなってしまったミーナはもう死んでしまったと判断しオドガロンが右腕を食らおうと口を大きく開け、牙が肌に触れれるぐらいまで近付いた時だった。
オドガロンは痺れたように口を開けたまま硬直してしまってその次の瞬間にはバタリと白目をむいて倒れてしまっていた。
その大きく開いたままになってしまった口からは紫色の蒸気が出ていた。
あまりにも異常な事態にオドガロン亜種は咄嗟に後ろに跳んで下がり、安堵の息を漏らすと空気が通っている最中の喉に短い刃が突き刺さった。
『─────!?』
唐突さと痛さにオドガロン亜種はその場で野田れうちまわり、喉から血がベットリと付いた刃を振り払うとそれは地面に転がり、姿を確認出来た。
ナイフだ、よくハンターが剥ぎ取りなどに使うナイフだった。
オドガロン亜種の視線はミーナへと向く。
そこには死んだと思っていたミーナが左腕をピンと伸ばしてオドガロン亜種に指差ししてるミーナの姿があった。
オドガロン亜種は冷静に現状を理解すると尻尾で地面を二回叩くと、尖ったり丸かったりしている小石が宙に浮いてオドガロン亜種の周りに浮くとそれを尻尾を鞭のように扱い、小石をミーナ目掛けて尻尾で弾き飛ばしたのだった。
小石達は弾丸の如くミーナへ飛ばされたがミーナは背を低くして走りだすと、近くを横切った今まで見てきた中で一番尖っている小石をキャッチするとスリンガーにセットしオドガロン亜種にお返しした。
一つだけオドガロン亜種の命令を逆らった小石は特攻しなんとオドガロン亜種の右目に突き刺さる。
『────!?────!?』
再び身体中を巡る激痛は獰猛に襲い掛かり、オドガロン亜種の精神を蝕んだ。
精神を蝕ませた張本人でもあるミーナは落ちていた太刀を拾い上げるとクラッチクローに柄を掴ませて発射する。
金属のワイヤーはみるみる伸びていき、伸びるのが止まったかと思えば今度は逆に縮んでいきミーナを引っ張った。これはクラッチクローいや、太刀がオドガロン亜種の腕に突き刺さりミーナを引っ張っていた。
オドガロン亜種は引っ張られるミーナを迎撃しようと凝視し身構えたいたが、ミーナはスリンガーを付けた方とは反対側の手に持っていた尖った石を思い切りオドガロン亜種の脳天に突き刺す。
怯んだオドガロン亜種は休む暇をも与えられずミーナを食い殺そうと牙を剥けるが口の中に入ってきたのは旨い肉ではなくて、不味い金属の刀身だった。そしてもう一つ団子のような物が口に入った途端、身体が言うことを聞かなくなり硬直してしまう。
オドガロン亜種は理解した。これは毒けむり玉だ。きっとさっきのオドガロンのけむりはこれによるものだんだと今さら理解して倒れてしまう。
オドガロン亜種は最後はミーナに目をやると首に刃を当てたかと思えば神速の如く刃を振るい、オドガロン亜種の息の根を止めた。
ミーナは空を仰いで両腕をバッと拡げ地面に倒れる。
「いでっ!?」
その後ミーナはベースキャンプで一日、傷の手当てをして身体を休めた後、アステラへと戻ったという。
読了ありがとうございました‼️
いやーミーナの戦闘シーン久し振りな感じやなぁ。
それとなんと投票ではカムイとミコトに一票ずつ入ってっるんです❗ミーナだけかと思ってたけど嬉しい♪(サシャはいないんすか?)
まぁその内サシャの活躍が見れますが、次はミコトです。
ではまた‼️
導きの青い星が輝かんことを…
第二回 人気投票
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ミーナ
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ミコト
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サシャ
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カムイ
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メイリン
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フユメ
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フーカ
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ロジエ