そして思いだそう。
あの時の勇気を。
「ミコトがまだ帰ってない…?」
クエストから帰っきてから三日ぐらい経った日のことだった。辺りは既に夕方から夜へと姿を変え始めていて、雲からちょっぴり体を出している月がアステラの松明やランプの次にアステラ全体を照らす光源となっていた。
報告を終えた後に調査班リーダーに呼ばれて話を聞けば私と同じ日にクエストに出た筈のミコトがまだ戻ってないというのだ。
その話を聞いたときは私は酷く混乱してしまった。調査班リーダーの肩を揺らしてしったり本当に動揺して頭の中も心の奥もぐちゃぐちゃになっていた。
明日の早朝に私は龍結晶の地に向かうことになり今はそれに備える為、マイハウスで休んでいた。
ベッドの上に寝そべってても中々寝付けなかった。きっとミコトのことをずっと考えてるからだろう。
今の私は誰にも頼ることは出来なかった。
いつもなら先頭に立って私にどうすればいいか教えてくれて導いてくれたサシャもクエストに出向いた為、いないし、カムイだって師匠だっていない。
あまりにも寝付けないので私はベッドから体を起こして窓から外を覗くとつい先程まで雲に一部隠れていた月が全体を露見させていて、それはうっとりしてしまう程美しいので私は気分転換の為にも月を見るため外に出た。
外に出た瞬間、肌に触れた風が鳥肌を立たせるくらいに冷たかったため一度部屋の中に戻って何か羽織る物を探して外に出た。ちょうどベッドの上に乱暴に置かれていた黒のカーディガンを見つけ、それを羽織った。
内側のドアノブは大して変わりなかったが、外側のドアノブは凍っているように冷たくて情けない声を出してしまった。
『ご、ごめんなさい…大丈夫ですか…?』
声が聞こえた。若い女性の声だ。
何処からともなく聞こえ、私は周囲を見渡すが何処にも声の主は居らず、そもそも夜のアステラは静寂な姿をずっと維持したままだった。
だから空耳なんて絶対にないと思うが私はそうやって受け入れた。
少し歩いてるといつの間にか私は月が映し出されている海面広がる港に着いていて私はくつろぐように足を伸ばして座った。
変わらない風景の筈なのに綺麗に見えるのが不思議だった。
此処でずっとこうして風景を眺めるのは初めてなのに懐かしく感じるのは何故だろう。一度だけこうしたことがあったのだろうか。
するとずっと考え込んでいた私に突然、潮風が吹いて私の髪をなびかせ脳内に何かを流し込んだ。
『いつもミーナは何処を見てるんだ?』
男性の声…いや、これは……。
「カムイ……?」
少し女性のよう高くて私より年上の男性の声とは思えないけれど、それでも優しくて温かく、安心させてくれた声だ。忘れる訳がない。
そうだ、此処にはずっと前にカムイと私の二人きりで来たことがあったんだった。
思い出に浸かろうとすると冷たい夜風と潮風が混じり合い、また私の脳内に直接ねじ込むように思い出させた。
『何時の話…』
この声の主は私なのだろう。
『モンスターを狩ってる時さ』
『そんなのモンスターを見てるに決まってるでしょ…?』
『本当に?』
口数が少ないのは会って間もない頃だったからこの会話はそんな時期のものなのだろう。
『モンスターの目って見たことあるかい?』
『………?どうかしら…』
『怖いのか?モンスターのことが』
『まさか!そんなことあるわけ無いじゃない!アイツらは私から大切な人を奪っていったのよ!…憎いのよ!』
少しずつ私の声の大きさに頭痛がしてくるが痛みに我慢することにした。
『けれど君はモンスターの目を見てないじゃないか。それどころかモンスターから攻撃を受けそうになっても何処か遠くを見つめてる。まるで何かを受け入れるのを拒んでいるみたいだ』
『なんなのよ…!何を言いたいのよ…!』
『モンスターに大切なものを奪われた人は沢山いる。俺だってその一人さ。偉そうに言えたもんじゃないだろ?守れなかったんだからな』
その時の感情が蘇る。
どうすればいいか分からなかったんだ。彼も私と同じような境遇で胸が痛くなったんだ。
『けれど時々、モンスターの目を見ると彼らは必死に光の薄れていく目で睨むんだ。何かを守るためにね。それが自分の
『それでも…それでも…!アイツら…私からかけがえのない人を…奪ったのよ!そんなの関係ない!私は復讐の為にモンスターを狩ってるの!』
耳を塞いでしまった。脳内に直接入ってきているのに、
無駄だと分かっているのにしてしまう。
これ以上聞きたくない、思い出したくない。
それなのに風は無理矢理ねじ込んでくる。
『ミーナはさ、多分強がってるんだよ。頑張って強いフリをして逃げてるんだよ』
『違う……違う…違う!違う!!』
『…ミーナ』
私は声を出してしまった。
「やめて……お願い…」
それでも止まらなかった。止まれと何度も願ったのに止まらないのだ。
思い出そうとせずに考えるのを止めても誰かに話されてるみたいに頭の中に入ってくる。
『俺さ故郷の村に弟を一人で置いてきたんだ。情けないだろ?あれから仕送りとかはしてるんだけど帰るのが、アイツと会うのが怖くてしかたなくてね一度も帰ってないんだよ』
『弟さんはいくつなの?』
『それがな、恥ずかしい話アイツが何歳なのか分かんなくてな…もう十は越えてるだろけどな…』
『…弟の歳も分かんないの?』
『そう言ったじゃないか』
今思えば不思議な話だ。
彼は色々と変なところがあった。
『君も俺と似てるのかもな…まぁ、けど君にはまだチャンスがある。そのチャンスを絶対に逃すなよ』
『アンタは?』
『俺には無いさ。だからミーナには俺の分も頼みたいんだ。何だか君と俺の弟は何処かで会いそうな気がするからね。…あー信じてないだろ?俺の勘は結構当たるんだぞ?会ったら言ってくれよ?』
『…そう』
『それと、モンスターの目を絶対に見るんだ。そうすれば彼らの考えても分かるし、なによりも“本当の君”に出会える筈だから』
『“本当の私”?何を言ってるの?』
『うーん中々に表現するのは難しいな…強がるフリはもうおしまいにして素直な自分でいてくれって感じかな』
『強がってなんか…』
『ありのままの自分でいいんだぞミーナ。君は君以外の何者でもないんだ。素直に生きよう、意思だけでもいい、言葉だけでもいい、態度だけでもいいんだ。他人の、命の温かさを知ろう』
思い浮かんだのは彼の優しい笑顔だった。
けれど、それっきりどれだけ風を浴びても思い出に浸ることは出来なくなってしまった。
その前もその先も思い出せない。
「なんで忘れてたんだろ……」
この言葉の意味は後悔。
こんな大切な思い出を消して、私は自己満足程度に強く生きようとしてたみたいだ。なんて自分勝手なんだろう。
月光が海を照らして何百、もしかしたら何千メートルもあるかもしれない海底を明るくさせようとしていて、一部の光が海面を反射して私を照らした。
覗き込めば私の顔がプクプクと海中から浮いてきたように海面に映し出され、その顔は涙を流していた。
「ごめんねカムイ、私…あなたに話せなくって」
聞こえる筈もない彼に必死に謝って謝って謝り続けた。
自分でも何故、謝ってるのかは分からないがそれでも私は無意識の内に握っていた拳をゆっくりと開かせて、海面に涙で幾つかの波紋を作る。
「ミコトを助けに行くよ。大丈夫、もう大丈夫だから。私決めたの。彼の目を見て話したいこと全部話すって、これからは命の温かさを覚えていくよ」
ミコトは私にとっての大切な相棒、もう失いたくない。
腕を伸ばし夜空へ掲げる。その背景には自分のありのまま姿を躊躇なく晒し出している勇気の月が浮かんだいた。
──少し私にもその勇気、分けてください。
私はその後、マイハウスに戻ると手入れをしたばかりの装備を身に付けて太刀を手に取ると私は覚悟を決めてアステラを夜の内に発つことにした。
夜中に翼竜に掴まって移動するのはリスクが伴うが今出ればもっと早い時間帯からミコトを捜し始めることが出来るだろう。
私は翼竜に付けてあるロープに掴まり今、アステラから発った。
~~~~~~~~
瘴気の霧が濃くなってきていて、雨が降って濃霧が発生した時よりも遥かに目の前の光景は阿鼻叫喚な状態だった。
次第に汗も酷くなっているが残念ながらこの汗は気温の影響で発生したもではなく、ずっとこの異様な気配を感じつつけて発生した冷や汗だったのだ。普通の汗ならどれ程良かっただろうか。
ヴァルハザクを追いかけて深層へ潜って行くにつれてこの気配も比例して強くなっている。もはやこれは肌が気配を察知しているというには耳元で誰かに「此処から先は危ないぞ」と囁かれてるみたいだ。気持ち悪い。
この気持ち悪さに気を取られて私はすっかり足元に注意するのを忘れていた。
「うわっ──こりゃ……ヴァルハザクの翼か?」
血だらけの地面をカモフラージュしているつもりなのかは知らないが明らか逆効果なグロテスクな翼がシートのように敷かれていた。
ヴァルハザクの翼を踏んだ時の感覚なんて初めてで、というか古龍の翼を踏むなんて体験はまず経験したことはない。だからこの感覚には驚かされた。まるで枝みたいだが、踏んだ程度じゃ何処も破損なんかはせず、やはりこんな脆そうな翼でも古龍の一部位なんだと実感させられる。
「報告にあったな…ディノバルド亜種に翼を斬られたって…調査団もよくまぁこんな深層、いやまだ結構浅い所か…」
ヴァルハザクを相手するのは大抵この谷の深層だから勘違いしてしまうが私とアイツが対峙したのはオドガロンやらドスギルオスが通るエリアだ。調査団も此処までなら楽勝だったろう。
歩みを止めず、そのまま進み続けると少し瘴気の霧が晴れた場所に出て、そこにはヴァルハザクが居たのだった。それも骸となって。
「死んでるのか……?惨いな…肉を食われてやがる。この痕跡とかはコイツのじゃねぇ…」
私はとにかく落ち着いて周りを調べ始めて此処でヴァルハザクの身に何があったのかを考え始めた。
そして目に留まったのは爪痕にしては長い痕跡。ヴァルハザクのものではないから私は導虫に頼ってヒントを貰うことにした。
導虫達は痕跡に群がってしばらく経つと更に奥へと進み始めた。
私はそれに導かれ進んで行くとそこには息を飲む光景があったのだ。
そこはもう谷の中腹の位置だというのに光が差し込んでいたのだ。つまりこの事からこの先からは空が見えることを指していて、こんなエリアは今までに報告されたことのない未知の土地。
そしてその先に導虫達は躊躇うことを忘れて進んでいく。
私も一旦、心から恐怖を消してこの先へ足を踏み入れる。
外へ続く所はアーチ状に大きく穴を空けていて、そこには目を疑いたくなるような
ただその深緑と群青色を足したような甲殻を自慢気に飾り付けて何処を見つめてるのかその目は私に焦点を合わせず何処か虚ろを見ているようだった。
「ディノバルド亜種…!」
声が震えてしまうほど恐いのだ。この竜はどれとも違う雰囲気を身に纏っているのだヴァルハザクが瘴気を纏うように。
コイツがあのヴァルハザクに止めをさ刺した犯人で間違いなかった。
まだヤツの尻尾には生暖かそうな黒い液体がポタポタと露のように垂れていて、導虫は先程からそれに反応してか緑色に発行し続けている。まるで太陽に照らされたドラグライト鉱石みたいだ。
私は納刀した双剣を抜刀し、刃をディノバルド亜種に向けて投げ振るおうとした途端、アーチ状を保っていた出入口が突然、崩れ始め、土埃を舞い上がらせた。
土埃が消えるとアーチ状の出入口は積み上げられた岩達に塞がれてしまい、ディノバルド亜種はこの奥へと閉じ込められてしまった。
「クソ!びくともしねぇ!」
足で思い切り蹴ったり双剣で斬ったりしているが変化は見られず、この様子なら大タル爆弾Gでも爆発させない限り、これを突破することは出来ないだろう。
ただ私は嘲笑うかの如く私を見下ろす岩に憎しみの感情を覚えることしか出来なかった。
そして感じた。異様さを。この奥に居座ってるディノバルド亜種の存在感を。
ふと思い付く。これはチャンスではないのかと。
此処にヤツを閉じ込めてる間に準備を整え此処で討伐する。やはりこれは絶好のチャンスだ。
私は拳を握り締めて復讐のチャンスを手に入れたことを心の底から喜んでいた。
───きっとこれがヤツとの最終決戦になる。
読了ありがとうございました❗
ミーナとカムイの会話はこれで二回目かな?
これから一つの物語が終わりに走っていきます。
安心してください。まだ一つの物語だけです一杯この世には物語があります。
けれど彼らは因縁の物語をどのように終わらすのでしょうかね?復讐か、ハンターとして闘うのか、
この長い闘いもいよいよ佳境に入りました。
終わりをどうかその目で見届けてはくれませんか?
大丈夫です。彼らも一緒ですから。
導きの青い星が輝かんことを……
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